3 / 110
第四章その1 ~大ピンチ!?~ 無敵の魔王と堕ちた聖者編
相手にもされない
しおりを挟む
ディアヌスの猛攻を目の当たりにし、誠達も混乱していた。
恐ろしいほど広範囲、かつ強力な術が、味方部隊を玩具のように薙ぎ払っていく。
凍り、焼かれ、吹き飛ばされ、苦悶のままに息絶える人々。
頑強な装甲車が、そして人型重機が、もうもうと蒸気を上げる黒こげの塊になって崩れ落ちていく。
魔王の発した魔法の1つ1つが恐ろしく強力で、大災害のようである。
あたかも愚かな人間に天罰を下す、破壊神そのものだった。
誠の人型重機の後部座席で、鎧姿の姫君・鶴は懸命に意識を集中していた。
巨大な雷が何度も機体を叩く度、機体の周囲に輝く光……鶴が発した霊力のバリアが、何とかそれを受け止めている。
「これ、重たい……!! とても何回も防げないわね……!」
鶴はそう苦しげに言った。
「みんなはどうなってるのかしら。これじゃ探す余裕もないわ……!」
八百万の神の指示を受け、地上を守りに来た神人・鶴の力をもってしても、自機とごく近くの人々を守るので精一杯のようだ。
「守れないなら、攻撃するしかない……!!」
誠は人型重機を操作し、そそり立つ魔王の方へと走らせる。
「ヒメ子、いつものいけるか!?」
「頑張るわ! 全力でいくわよ!」
鶴が胸の前で手を合わせると、機体の持つ強化刀に眩い光が宿った。
「おおおおおおっっっ!!!!!!」
誠は機体を跳躍させ、魔王の眼前に刀を振り下ろす。
だがそれも効果が無い!!!
鶴と機体の全ての力を注ぎこんだ一撃は、魔王の光の障壁に阻まれた。
激しい火花が立ち昇ったが、防御の魔法は全く揺るがず、魔王はゆっくりと視線を動かす。
「…………っっっ!!!」
その巨大な目に見据えられた時、あの日の記憶が思い起こされた。
当時まだ幼かった誠は、恩人であり尊敬するパイロットでもある明日馬達と共に、魔王ディアヌスと対峙したのだ。
まるでゴミを見るような目で一瞥され、薙ぎ払われたあの日の屈辱。
それを払拭すべく鍛えてきたつもりだったが、眼前の魔王の表情は、当時と何一つ変わらなかった。
ただ飛び交う羽虫を眺めるように、こちらに目を向けただけだ。
「ぐっ、うっ、うううううっっっ!!!」
誠は機体の操作レバーを押し込み、相手の結界を破ろうと試みる。
だが次の瞬間、機体は猛烈な力を受けて吹き飛ばされていた。
!!!!!!!!!!!!!?????????????
滅茶苦茶に振り回され、大地に叩きつけられるはずだったが、機体はぎりぎりで光に包まれて着地する。
恐らく鶴が、寸前で霊力によるブレーキをかけてくれたのだろう。
誠は内心鶴に感謝しながら、再び魔王を見上げた。
届かない、倒せない……!!!
10年積み重ねてきた技術も、苦難を耐え忍んできた人々の思いも、全てを嘲笑うかのような圧倒的な力だった。
それでも諦めるわけにはいかない。
あの怪物を倒せなければ、永遠にこの国の不幸は終わらないのだ。
この長きに渡った悲しみの物語は、目の前の魔王を屠らない限りは閉じられないのだから。
「ヒメ子、もう一度……」
だが誠が言いかけた時、鶴はその言葉を遮った。
「黒鷹、ここは一度退きましょう……!」
「……?」
誠が振り返ると、鶴は真剣な表情でこちらを見つめている。
いつもの明るくお茶らけた様子ではない、本気の顔だ。
「……さっきの戦いもあったし、私もコマも、黒鷹だってもう限界。悔しいけど、今は逃げて立て直しましょう。このままじゃ、助かる人も助からなくなるわ……!」
「ヒメ子………………分かった……!」
誠はすぐに覚悟を決めた。
鶴の言う通り、現時点であの魔王を倒す手段は見つからない。ならば生き延び、体勢を立て直すしかないだろう。
鶴は霊力を集中し、周辺の部隊に思念で呼びかけている。
「みんな、一旦退却しましょう! このまま戦っても全滅するわ!」
言葉と共に、鶴の思念が白い波動となって辺りに広がっていく。
そのおかげだろうか、魔王の精神攻撃で心を乱していた人々も、少しだけ正気を取り戻したようだ。それぞれ手近な人に呼びかけ、急ぎ撤退の手はずを取り始める。
魔王は逃げ惑う人々をよそに、北部湖岸から南東へ、内陸へと歩を踏み出した。
このまま旧名古屋方面へ、濃尾平野に向かうつもりだろうか。
やがて魔王の右手に赤い光が宿ると、黒く禍々しい肉厚の刀が姿を現す。あたかも黒曜石から削り出したかのように歪な、しかし恐るべき魔力を秘めた刀だ。
魔王は刀を握り締め、牙を剥き出しにして大きく咆えた。その視線は天に向いている。
(そうか、あの闘神を……永津彦を警戒してるんだ……! だとしたら、俺達なんて眼中に無いはず……!)
誠はやっと気が付いた。
魔王は恐らく、10年前に引き分けた高天原の神・葦原永津彦の襲撃に備えているのだ。だったら生き延びる道はまだ残っている。
…………だがそこで、誠達の機体の前に、1人の女が舞い降りてきた。
長くたなびく髪、死人のように青白い肌。
全身を激しい邪気に覆われた『元聖者』は、嘲笑うように口元を歪めて言った。
「……そろそろ悪あがきは終わられましたか……?」
恐ろしいほど広範囲、かつ強力な術が、味方部隊を玩具のように薙ぎ払っていく。
凍り、焼かれ、吹き飛ばされ、苦悶のままに息絶える人々。
頑強な装甲車が、そして人型重機が、もうもうと蒸気を上げる黒こげの塊になって崩れ落ちていく。
魔王の発した魔法の1つ1つが恐ろしく強力で、大災害のようである。
あたかも愚かな人間に天罰を下す、破壊神そのものだった。
誠の人型重機の後部座席で、鎧姿の姫君・鶴は懸命に意識を集中していた。
巨大な雷が何度も機体を叩く度、機体の周囲に輝く光……鶴が発した霊力のバリアが、何とかそれを受け止めている。
「これ、重たい……!! とても何回も防げないわね……!」
鶴はそう苦しげに言った。
「みんなはどうなってるのかしら。これじゃ探す余裕もないわ……!」
八百万の神の指示を受け、地上を守りに来た神人・鶴の力をもってしても、自機とごく近くの人々を守るので精一杯のようだ。
「守れないなら、攻撃するしかない……!!」
誠は人型重機を操作し、そそり立つ魔王の方へと走らせる。
「ヒメ子、いつものいけるか!?」
「頑張るわ! 全力でいくわよ!」
鶴が胸の前で手を合わせると、機体の持つ強化刀に眩い光が宿った。
「おおおおおおっっっ!!!!!!」
誠は機体を跳躍させ、魔王の眼前に刀を振り下ろす。
だがそれも効果が無い!!!
鶴と機体の全ての力を注ぎこんだ一撃は、魔王の光の障壁に阻まれた。
激しい火花が立ち昇ったが、防御の魔法は全く揺るがず、魔王はゆっくりと視線を動かす。
「…………っっっ!!!」
その巨大な目に見据えられた時、あの日の記憶が思い起こされた。
当時まだ幼かった誠は、恩人であり尊敬するパイロットでもある明日馬達と共に、魔王ディアヌスと対峙したのだ。
まるでゴミを見るような目で一瞥され、薙ぎ払われたあの日の屈辱。
それを払拭すべく鍛えてきたつもりだったが、眼前の魔王の表情は、当時と何一つ変わらなかった。
ただ飛び交う羽虫を眺めるように、こちらに目を向けただけだ。
「ぐっ、うっ、うううううっっっ!!!」
誠は機体の操作レバーを押し込み、相手の結界を破ろうと試みる。
だが次の瞬間、機体は猛烈な力を受けて吹き飛ばされていた。
!!!!!!!!!!!!!?????????????
滅茶苦茶に振り回され、大地に叩きつけられるはずだったが、機体はぎりぎりで光に包まれて着地する。
恐らく鶴が、寸前で霊力によるブレーキをかけてくれたのだろう。
誠は内心鶴に感謝しながら、再び魔王を見上げた。
届かない、倒せない……!!!
10年積み重ねてきた技術も、苦難を耐え忍んできた人々の思いも、全てを嘲笑うかのような圧倒的な力だった。
それでも諦めるわけにはいかない。
あの怪物を倒せなければ、永遠にこの国の不幸は終わらないのだ。
この長きに渡った悲しみの物語は、目の前の魔王を屠らない限りは閉じられないのだから。
「ヒメ子、もう一度……」
だが誠が言いかけた時、鶴はその言葉を遮った。
「黒鷹、ここは一度退きましょう……!」
「……?」
誠が振り返ると、鶴は真剣な表情でこちらを見つめている。
いつもの明るくお茶らけた様子ではない、本気の顔だ。
「……さっきの戦いもあったし、私もコマも、黒鷹だってもう限界。悔しいけど、今は逃げて立て直しましょう。このままじゃ、助かる人も助からなくなるわ……!」
「ヒメ子………………分かった……!」
誠はすぐに覚悟を決めた。
鶴の言う通り、現時点であの魔王を倒す手段は見つからない。ならば生き延び、体勢を立て直すしかないだろう。
鶴は霊力を集中し、周辺の部隊に思念で呼びかけている。
「みんな、一旦退却しましょう! このまま戦っても全滅するわ!」
言葉と共に、鶴の思念が白い波動となって辺りに広がっていく。
そのおかげだろうか、魔王の精神攻撃で心を乱していた人々も、少しだけ正気を取り戻したようだ。それぞれ手近な人に呼びかけ、急ぎ撤退の手はずを取り始める。
魔王は逃げ惑う人々をよそに、北部湖岸から南東へ、内陸へと歩を踏み出した。
このまま旧名古屋方面へ、濃尾平野に向かうつもりだろうか。
やがて魔王の右手に赤い光が宿ると、黒く禍々しい肉厚の刀が姿を現す。あたかも黒曜石から削り出したかのように歪な、しかし恐るべき魔力を秘めた刀だ。
魔王は刀を握り締め、牙を剥き出しにして大きく咆えた。その視線は天に向いている。
(そうか、あの闘神を……永津彦を警戒してるんだ……! だとしたら、俺達なんて眼中に無いはず……!)
誠はやっと気が付いた。
魔王は恐らく、10年前に引き分けた高天原の神・葦原永津彦の襲撃に備えているのだ。だったら生き延びる道はまだ残っている。
…………だがそこで、誠達の機体の前に、1人の女が舞い降りてきた。
長くたなびく髪、死人のように青白い肌。
全身を激しい邪気に覆われた『元聖者』は、嘲笑うように口元を歪めて言った。
「……そろそろ悪あがきは終わられましたか……?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる