新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第四章その2 ~大活躍!~ 関東からの助っ人編

ダルマ軍曹

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 ほとんど音も無く飛行する、第3船団の航空輸送機。

 医療の備えも潤沢じゅんたくで、助け出された少年達は、今は穏やかな寝顔を見せている。

 カノンは医療班の邪魔にならないよう、部屋の隅にたたずんでいた。

 治療の順番待ちでもなく、ただそこに居たかっただけなのだが、そんなカノンを心配し、海老名が様子を見に来てくれた。

「様子はどう? と言っても大丈夫そうだけどね」

 医療班にも慕われているのか、皆が彼女に一礼する。海老名は軽く手を上げると、肘を抱えて腕組みし、背を壁にもたせ掛けた。

「鳴瀬くんは、ほぼ外傷は無し。車両班は軽症だし……宮島くんと香川くん? 全身打撲で骨折もあるけど、あれで助かったのは奇跡だと思うわ」

「……ものすごく……運の強いお姫様がいて」

 カノンは途切れ途切れに呟いた。

「敵に取り込まれちゃったけど……その子が近くにいたから、みんな助かったんだと思います」

「……そう。立派なお姫様なのね」

「………………」

 カノンは返事が出来ず、ただ首を縦に振った。お腹の前で組んだ手を、強く強く握り締める。

 ……そう、助かったのは自分が何かしたからではない。いつもいつも、肝心な所で自分は何も貢献こうけん出来ないのだ。

「その……みんなを助けていただいて、本当にありがとうございます」

 カノンは再び頭を下げたが、海老名は口角を上げて微笑む。

「気にしないで、当たり前の事よ。それじゃ望月さんも食事にしましょ。鳳さんは、まず霊力?を整えなきゃとかで、後で食べるって言ってたけど」

 海老名はカノンの手を取り、少し強引に格納庫へ引っ張っていく。

 既に一同は車座になっており、難波も輪に加わっていた。

「じゃ~ん、これが第3船団の日光埋蔵金弁当~っ! ……とまではいかないけど、自慢の軍用携帯糧食レーションなんだ。これでも結構グルメなんだよ~ん♪」

 例の底抜けに明るい少女が、温まったレーションの弁当箱を配ると、難波が遠い記憶を辿っている。

「ああ、うち覚えとるわ。昔そういう駅弁あったなぁ」

「そうそう、予約制で豪華なんだよね。いつか復活させちゃうから!」

 確かひかるという名の彼女は、そう言って希望に胸を膨らませている。

「で、これが普段のレーションとは別のオプション、要するにおやつね。お肉が無いからオキアミだけど、元気出るよ~?」

 もう1つ配られた別箱を開けると、中身はなんとギョーザである。

 小麦は貴重なはずなので、皮は芋から抽出したでん粉だろうか?

 箸で割ってみると、中身はオキアミの殻をむき、軽く叩いて野菜と一緒に詰めてある。

 いわゆる海鮮エビ餃子のような印象で、一口食べると、貴重なニンニクの香りまで広がった。

「こ、これ、本当においしいわね……!」

 カノンが言うと、ひかるは嬉しそうにカノンの背中をバンバン叩いた。

「いやぁ味が分かるねえ、さすが美人のカノンちゃん。これが大好評でさあ、越中こしなかの姉ちゃんなんか、一度に10箱食べるんだから」

 後で聞いたところによると、越中とは元神武勲章レジェンド隊のパイロットであり、この第3船団の特別戦闘指揮官でもあるそうだ。

 とにかくお世辞抜きに美味しいギョーザであったが、難波は口を開けるのに苦労していた。

「……あいたた、うまそうやけど、ウチ口の中切ってるわ。あんま口あかへん」

「待ってこのみ、あたしが切ったげる」

 カノンは腰のサイドポーチから小刀を取り出し、難波の餃子を切ってやる。

「小ぶりだけど、いい刃物ね。量産品じゃないでしょう?」

 横から覗き込んでいた海老名が、感心したようにつぶやいた。彼女も料理をする性質たちなのだろうか。

「見た事無い形だけど、和包丁……ううん、守りの小刀? 普段から持ち歩いてるの?」

「……そ、そんな感じかな……」

 カノンは手を止め、難波に切ったギョーザを渡す。

「…………もし、もしも……またすごく悪いヤツが現れたら、これでやっつけようと思って……あ、後で水道借りて洗いますね」

 まさか真の用途を言えるはずもない。カノンは誤魔化すようにもごもご言って、さっと小刀を消毒用ペーパーで拭いた。

 難波は気にせずギョーザをぱくついている。

「サンキューカノっち。いやー、ギョーザもそうやし、こっちのレーションもほんま美味いわ。ほんでもってみんなよぉ食べるなあ」

「そりゃ腹が減っては戦が出来ないからよ」

 難波の感嘆に、あの学ランを来たワイルドな少年・翔馬しょうまが、レーションをかきこみながら答えた。

「むぐむぐ……どうせこの後戦い詰めだろーし、次いつ食えるか分からないしな。ひかる、お代わり」

「はいはいまいど~、つっても今日はサービスしとくよ♪」

 ひかるはみんながモリモリ食べるのが嬉しくてたまらないようだ。

「平和になったら絶対お店建て直して、みんなの胃を餃子で埋め尽くしてやるんだから。ちなみに蒸すタイプだけど、今は湯葉ゆば餃子を研究中なの」

「いやそれ、ギョーザになるのか?」

 翔馬少年は首を傾げるが、そこで学ランのポケットをまさぐる。

 彼はすぐに目当てのものを探り当て、小さな物体を床に置いた。

 ぐらぐら傾き、ターンしながらカノンの方を向いたそれは、紛れも無く赤いダルマである。

「だ、ダルマ……?」

 カノンが戸惑うと、翔馬は満足げに頷いた。

「そ、ダルマ。なあひかる、角ばった餃子ばっかじゃアレだから、たまにはダルマ型のを作ってくれよ」

「うーん、丸いと座りが悪いんだよね~」

 ひかるは顎に手を当てて考えている。

「鍋の中で転がるし~、あ、でも、干瓢かんぴょうでハチマキ巻けば、受験生にもいけるかな? 背中平たくして寝かせれば、蒸しても転がらないだろうし~」

「寝たらダルマの意味無いやん……って、なんでいきなりダルマが出るねん」

 難波が問うと、翔馬は嬉しそうに答える。

「そりゃ関東はダルマの本場だからさ。爺ちゃんは草津で旅館やってたんだけど、オヤジはダルマ屋で俺も手伝ってたんだ。だから俺の座右の銘は、絶対倒れない男なんだぜ?」

 翔馬はそう懐かしげに語り続ける。

「ぜんぶ手作業だったから、シーズン前とか大変でよ。段々腹が立ってきて、ウインク書き込んだらダルマでぶん殴られたぜ」

「ご当地あるある?なんやなあ。でも分かるわ、ウチも小さい頃、眼帯アイパッチにしてダルマ軍曹作っとったし」

「何を成就させたいのよあんたは」

 カノンがツッコミを入れると、難波は嬉しそうに笑い、それからもう一人の少年の方を向いた。
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