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第四章その2 ~大活躍!~ 関東からの助っ人編
人の愚者には底がない
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同じ頃。
例の岩壁に囲まれた空間に、土蜘蛛達は集まっていた。
魔族である彼らだったが、普段の姿は人とそう変わらない。やや体型が細身であり、やたらと手足が長い程度だ。
恐らく土蜘蛛でも選りすぐりの精鋭達であろう彼らは、今は項垂れて膝をついている。
彼らのすぐ傍、苔むした巨岩に注連縄が巻かれた台座には、1人の青年が座していた。
直衣姿に烏帽子をかぶり、手元にはたたんだ扇子。
例えるなら源氏物語の主人公、平安の世の美青年のような姿であったが、その身を覆う膨大な邪気は、彼が土蜘蛛どもの祖霊神・夜祖大神である事を如実に示していた。
夜祖は涼やかな表情で、目の前に浮かんだ映像を眺めている。
映像には白い光の半球、つまりディアヌスが足止めを食らっている様子が映っていた。
「よもやここで時忘れの秘呪まで使うとはな。一度使えば100年使えぬ奥の手を…………常夜命様までとっておくかと思ったが、予想より追い詰められているようだな」
夜祖は面白そうに言い、白い指を振って映像を掻き消した。
「……しかし夜祖様。あのような誘いに意味があるのでしょうか?」
「!」
一同は少しざわめいた。
遅れてその場に現れた、やや縮れた髪を足元まで伸ばした女が、座りもせずに偉大な邪神に問いかけているのだ。
「ディアヌス様……いえ、肥河之大神様も間もなく動き出されるはず。さすれば人の軍勢など、容易く蹴散らせるのでは?」
土蜘蛛達の先頭にいた青年……髪を肩ほどに伸ばした男が、たまりかねて声をかけた。
「纏葉、来たならすぐ座れ! そしてお前は、夜祖様のお考えに口を挟むのか……!」
だが夜祖大神は、淡々と女の問いに答えた。
「高天原の神々が、よからぬ知恵を授けるやも知れぬ。そのための布石だ」
「布石……でございますか。あの脅しで、人がその知恵を漏らすと?」
纏葉の言葉に夜祖は頷く。
「……お前達には分からぬだろうが、人の愚者には底が無い。味方に居れば殺すしかないが、敵にいるなら最上の手札だ。天上の神が慈悲を与えても、それすらも寄越すだろう。騙されているとも知らず……ただ我が身可愛さでな」
夜祖の答えに、女はさも嬉しそうに頷いた。
「……確かに、楽に勝てるに越した事はありませんものねえ」
「ええい纏葉っ、いい加減座らんかっ!」
青年が女の襟首を掴み、無理に跪かせる。
「あれえ兄様、痛うございます」
女は少し嬉しそうに兄に抗議している。
夜祖はそのじゃれ合いに目を細め、それから先頭の青年に声をかけた。
「……それはそうと笹鐘。我が地下にいた間に、鬼どもが消えている。何か目論んでいるのか」
笹鐘は妹の首から手を離し、頭を下げる。
「……はっ、里からの報せがしきりに届いているようです。戦場の鬼どもは極めて単細胞ですが……やはり里が老獪なようで。一族にも容赦せぬ古鬼ですから、今後も動きが激しくなると思われます」
「あさましい。勝った後の領地分割狙い……最後の手柄稼ぎか」
夜祖は口元を歪め、涼やかな顔に笑みを浮かべた。
「命様のお出ましは近い。元より退くは許されぬ戦いだが……こちらにも馬鹿は居る。文字通り、鬼が出るか蛇が出るかだな」
例の岩壁に囲まれた空間に、土蜘蛛達は集まっていた。
魔族である彼らだったが、普段の姿は人とそう変わらない。やや体型が細身であり、やたらと手足が長い程度だ。
恐らく土蜘蛛でも選りすぐりの精鋭達であろう彼らは、今は項垂れて膝をついている。
彼らのすぐ傍、苔むした巨岩に注連縄が巻かれた台座には、1人の青年が座していた。
直衣姿に烏帽子をかぶり、手元にはたたんだ扇子。
例えるなら源氏物語の主人公、平安の世の美青年のような姿であったが、その身を覆う膨大な邪気は、彼が土蜘蛛どもの祖霊神・夜祖大神である事を如実に示していた。
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映像には白い光の半球、つまりディアヌスが足止めを食らっている様子が映っていた。
「よもやここで時忘れの秘呪まで使うとはな。一度使えば100年使えぬ奥の手を…………常夜命様までとっておくかと思ったが、予想より追い詰められているようだな」
夜祖は面白そうに言い、白い指を振って映像を掻き消した。
「……しかし夜祖様。あのような誘いに意味があるのでしょうか?」
「!」
一同は少しざわめいた。
遅れてその場に現れた、やや縮れた髪を足元まで伸ばした女が、座りもせずに偉大な邪神に問いかけているのだ。
「ディアヌス様……いえ、肥河之大神様も間もなく動き出されるはず。さすれば人の軍勢など、容易く蹴散らせるのでは?」
土蜘蛛達の先頭にいた青年……髪を肩ほどに伸ばした男が、たまりかねて声をかけた。
「纏葉、来たならすぐ座れ! そしてお前は、夜祖様のお考えに口を挟むのか……!」
だが夜祖大神は、淡々と女の問いに答えた。
「高天原の神々が、よからぬ知恵を授けるやも知れぬ。そのための布石だ」
「布石……でございますか。あの脅しで、人がその知恵を漏らすと?」
纏葉の言葉に夜祖は頷く。
「……お前達には分からぬだろうが、人の愚者には底が無い。味方に居れば殺すしかないが、敵にいるなら最上の手札だ。天上の神が慈悲を与えても、それすらも寄越すだろう。騙されているとも知らず……ただ我が身可愛さでな」
夜祖の答えに、女はさも嬉しそうに頷いた。
「……確かに、楽に勝てるに越した事はありませんものねえ」
「ええい纏葉っ、いい加減座らんかっ!」
青年が女の襟首を掴み、無理に跪かせる。
「あれえ兄様、痛うございます」
女は少し嬉しそうに兄に抗議している。
夜祖はそのじゃれ合いに目を細め、それから先頭の青年に声をかけた。
「……それはそうと笹鐘。我が地下にいた間に、鬼どもが消えている。何か目論んでいるのか」
笹鐘は妹の首から手を離し、頭を下げる。
「……はっ、里からの報せがしきりに届いているようです。戦場の鬼どもは極めて単細胞ですが……やはり里が老獪なようで。一族にも容赦せぬ古鬼ですから、今後も動きが激しくなると思われます」
「あさましい。勝った後の領地分割狙い……最後の手柄稼ぎか」
夜祖は口元を歪め、涼やかな顔に笑みを浮かべた。
「命様のお出ましは近い。元より退くは許されぬ戦いだが……こちらにも馬鹿は居る。文字通り、鬼が出るか蛇が出るかだな」
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