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第四章その5 ~さあ反撃だ!~ やる気満々、決戦準備編
この国の未来をかけた決戦準備
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いよいよ決戦準備が始まった。
祭神を乗せた各船団の旗艦は、敵に悟られぬよう遠回りしながら、最終的には相模湾に……旧静岡県・熱海市の沖合いに集結する事になっている。
陸上では、既に愛鷹山山頂に砲座が築かれ、巨大な属性添加機の『京』、そして長距離砲の『摩州』が設置されていた。
そこから熱海までエネルギー伝導ケーブルが引かれ、相模湾に来た各船団の旗艦へと接続されるのである。
もちろん全てが突貫工事のため、全国から大勢の技術者が駆けつけ、懸命に作業に取り組んでくれていた。
それはかつて幾度もこの国を襲った大災害において、日本中が協力してきた姿と似ている。
人々のヘルメットは泥に塗れ、油の付いた頬を作業服でぬぐう。皆が己の使命に燃えて、迅速に作業をこなしていく。
普段は銃後の支えに徹する作業員達だったが、今は彼らこそが頼りだ。軟弱地盤や崩落部の対処など、現場で発生するあらゆる想定外の問題を、知恵と経験で解決してくれている。
全てはあの魔王を倒すために、そしてこの10年に及ぶ絶望を終わらせるために。物言わぬ多くの人々の情熱が、列島そのものを熱く燃え上がらせるようだった。
各種作業を見守っていた船団長の伊能は、手で帽子の位置を直しながら笑みを浮かべた。
「……皮肉なもんじゃねえか。あの魔王のおかげで、いがみ合ってた船団同士が1つになっ
てる。こうなった時の日本は強えぜ?」
震天の調整作業につきっきりの誠も、身が引き締まる思いだった。
格納庫に横たわる震天……全長100メートルに及ぶ超巨大な人型重機は、特殊な人工筋肉、そして高性能な属性添加機を多数備えた怪物である。
更に機体の中枢には、各船団の祭神が力を凝縮して生み出した分身とも言える、濃縮結晶細胞が納められている。
結晶を環状細胞装填庫に収め、回転・通電して共鳴させると、相乗効果で特殊な電磁エネルギーが発生。
それを人工筋肉に流す事で、まるで雷を帯びた雷神のように、爆発的な筋力強化が可能だった…………が、現時点で無視出来ない問題もあった。
各結晶からのエネルギーを調律する際、バランスが乱れて頻繁に機能停止に陥る事と、消滅した祭神・テンペストの細胞が欠けているため、魔王の力に及ばない可能性がある事だ。
現時点では7つ目の環状細胞装填庫に、人工的な結晶細胞を収めているものの、無理やり作り上げた『擬似結晶テンペスト』は出力が安定せず、すぐにパワーダウンしてしまう。
「やはりいかん……擬似結晶のテンペストは使わず、6つでバランスを取るしかないか。安定を求めるなら、最初から7個目の装填庫は取った方がいいかもな」
筑波は画面の出力変遷図を見ながら呟くが、誠はそこで口を挟んだ。
「筑波さん、まだ残しておきませんか。相手はディアヌス……実際に戦って思いましたが、とんでもない格上です。最初から安定を狙って勝てるとは思えません」
「……そうか、そうだな。つい弱気になっちまった、俺らしくもない」
筑波は頭をくしゃくしゃと掻いて、白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「二風谷氏の娘さんがいたら、チョップされる所だった。名前は何だったかな」
「ひよりちゃんとなぎさちゃんです。てか、その件いい加減忘れて下さいよ」
誠は苦笑しながら答える。
第5船団に勤めるひよりとなぎさ姉妹は、北海道を管轄する第1船団の長の娘である。
かなり昔、神武勲章隊と誠達が北海道遠征した際に顔見知りになり、関東にまでついて来た。更に誠達が第5船団に移動すると、なぜか2人もやって来たわけだ。
理由は分からないが、そう言えば彼女達は雪菜によく懐いていた。
誠が弱気になったりすると、チョップをちらつかせて元気付けてくれる姉妹は、今この場にはいない。いないはずなのだが……油断した筑波氏の後頭部に、そっと手刀が添えられる。
誠達が振り返ると、パイロットスーツ姿の海老名が立っていた。
「こりゃー海老名くん。今日はいつもより手加減してるな」
「それは……今日は真面目に頑張ってるからです」
海老名は赤い顔で呟いた。
「また弱音を吐いたら強めにいきますから、いつでもどうぞ?」
「……そうか。それじゃ怖気づいたら頼むわ」
筑波は微笑んで海老名の頭をポンポン叩いたが、そこで格納庫内に注意喚起の放送が響いた。
どうやら付近の離着陸場に、航空機が降下してくるようだ。
それも一機だけではない。各地の船団から、続々と増援勢力が降り立っているのだ。
航空機の傾斜路扉が開くと、中から数体の人型重機が降りてくる。
1機は長い槍を持ち、次の1機はやや小柄で2刀流。最後の1機は、他の2機よりもかなり大きく、巨大な砲を携えていた。
「あれって……もしかしなくても小牧隊か?」
誠が呟いた途端、傍のモニターに気の強そうな少女が映った。
長い髪をオールバックにした小牧千春は、嬉しそうに語りかけてくる。
「よっ、久しぶりだね、鳴瀬の大将。四国じゃ世話になったけど、こっちはあたしらのホームグラウンドだから。何でも任せてよ」
「やっほー、あたしと玄太も来てるよ~!」
「やめろこころっ、俺の機体ぶら下げるなって! うわ、振り回すな!」
画面が分割され、おっとりした巨体の少女・清水こころと、彼女に振り回される武田玄太が映し出される。
だが助っ人は、彼女達だけではなかったのだ。
祭神を乗せた各船団の旗艦は、敵に悟られぬよう遠回りしながら、最終的には相模湾に……旧静岡県・熱海市の沖合いに集結する事になっている。
陸上では、既に愛鷹山山頂に砲座が築かれ、巨大な属性添加機の『京』、そして長距離砲の『摩州』が設置されていた。
そこから熱海までエネルギー伝導ケーブルが引かれ、相模湾に来た各船団の旗艦へと接続されるのである。
もちろん全てが突貫工事のため、全国から大勢の技術者が駆けつけ、懸命に作業に取り組んでくれていた。
それはかつて幾度もこの国を襲った大災害において、日本中が協力してきた姿と似ている。
人々のヘルメットは泥に塗れ、油の付いた頬を作業服でぬぐう。皆が己の使命に燃えて、迅速に作業をこなしていく。
普段は銃後の支えに徹する作業員達だったが、今は彼らこそが頼りだ。軟弱地盤や崩落部の対処など、現場で発生するあらゆる想定外の問題を、知恵と経験で解決してくれている。
全てはあの魔王を倒すために、そしてこの10年に及ぶ絶望を終わらせるために。物言わぬ多くの人々の情熱が、列島そのものを熱く燃え上がらせるようだった。
各種作業を見守っていた船団長の伊能は、手で帽子の位置を直しながら笑みを浮かべた。
「……皮肉なもんじゃねえか。あの魔王のおかげで、いがみ合ってた船団同士が1つになっ
てる。こうなった時の日本は強えぜ?」
震天の調整作業につきっきりの誠も、身が引き締まる思いだった。
格納庫に横たわる震天……全長100メートルに及ぶ超巨大な人型重機は、特殊な人工筋肉、そして高性能な属性添加機を多数備えた怪物である。
更に機体の中枢には、各船団の祭神が力を凝縮して生み出した分身とも言える、濃縮結晶細胞が納められている。
結晶を環状細胞装填庫に収め、回転・通電して共鳴させると、相乗効果で特殊な電磁エネルギーが発生。
それを人工筋肉に流す事で、まるで雷を帯びた雷神のように、爆発的な筋力強化が可能だった…………が、現時点で無視出来ない問題もあった。
各結晶からのエネルギーを調律する際、バランスが乱れて頻繁に機能停止に陥る事と、消滅した祭神・テンペストの細胞が欠けているため、魔王の力に及ばない可能性がある事だ。
現時点では7つ目の環状細胞装填庫に、人工的な結晶細胞を収めているものの、無理やり作り上げた『擬似結晶テンペスト』は出力が安定せず、すぐにパワーダウンしてしまう。
「やはりいかん……擬似結晶のテンペストは使わず、6つでバランスを取るしかないか。安定を求めるなら、最初から7個目の装填庫は取った方がいいかもな」
筑波は画面の出力変遷図を見ながら呟くが、誠はそこで口を挟んだ。
「筑波さん、まだ残しておきませんか。相手はディアヌス……実際に戦って思いましたが、とんでもない格上です。最初から安定を狙って勝てるとは思えません」
「……そうか、そうだな。つい弱気になっちまった、俺らしくもない」
筑波は頭をくしゃくしゃと掻いて、白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「二風谷氏の娘さんがいたら、チョップされる所だった。名前は何だったかな」
「ひよりちゃんとなぎさちゃんです。てか、その件いい加減忘れて下さいよ」
誠は苦笑しながら答える。
第5船団に勤めるひよりとなぎさ姉妹は、北海道を管轄する第1船団の長の娘である。
かなり昔、神武勲章隊と誠達が北海道遠征した際に顔見知りになり、関東にまでついて来た。更に誠達が第5船団に移動すると、なぜか2人もやって来たわけだ。
理由は分からないが、そう言えば彼女達は雪菜によく懐いていた。
誠が弱気になったりすると、チョップをちらつかせて元気付けてくれる姉妹は、今この場にはいない。いないはずなのだが……油断した筑波氏の後頭部に、そっと手刀が添えられる。
誠達が振り返ると、パイロットスーツ姿の海老名が立っていた。
「こりゃー海老名くん。今日はいつもより手加減してるな」
「それは……今日は真面目に頑張ってるからです」
海老名は赤い顔で呟いた。
「また弱音を吐いたら強めにいきますから、いつでもどうぞ?」
「……そうか。それじゃ怖気づいたら頼むわ」
筑波は微笑んで海老名の頭をポンポン叩いたが、そこで格納庫内に注意喚起の放送が響いた。
どうやら付近の離着陸場に、航空機が降下してくるようだ。
それも一機だけではない。各地の船団から、続々と増援勢力が降り立っているのだ。
航空機の傾斜路扉が開くと、中から数体の人型重機が降りてくる。
1機は長い槍を持ち、次の1機はやや小柄で2刀流。最後の1機は、他の2機よりもかなり大きく、巨大な砲を携えていた。
「あれって……もしかしなくても小牧隊か?」
誠が呟いた途端、傍のモニターに気の強そうな少女が映った。
長い髪をオールバックにした小牧千春は、嬉しそうに語りかけてくる。
「よっ、久しぶりだね、鳴瀬の大将。四国じゃ世話になったけど、こっちはあたしらのホームグラウンドだから。何でも任せてよ」
「やっほー、あたしと玄太も来てるよ~!」
「やめろこころっ、俺の機体ぶら下げるなって! うわ、振り回すな!」
画面が分割され、おっとりした巨体の少女・清水こころと、彼女に振り回される武田玄太が映し出される。
だが助っ人は、彼女達だけではなかったのだ。
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