新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第四章その8 ~ここでお別れです~ 望月カノンの恩返し編

その時が来たのだ

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「何これ……行き止まり?」

 カノンは前方を注視した。

 通路をふさぐようにそびえる巨岩は、時折強く光っては減光する事を繰り返し、それ自体生きているように感じられた。

「図面上はここが中央だから、エレベーターと階段があったはずだけど……」

 誠少年はそう言って機体を操作し、強化刀を抜き放った。

 刀身基部の属性添加機を作動させ、刃に青い光をまとわせると、そのまま岩に突き立てる。

 激しい火花が発生し、刀が岩に食い込んだ……かと思えたが、刃を動かすと、動いたそばから岩肌は再生していく。

「だめだ、普通の岩じゃないな。たぶん地下から伸びてきたんだ」

「修復できないぐらい、一気にダメージ与えちゃだめ?」

「一理ある。でもそれだと通路が崩れないかな」

 カノンの疑問に答えながら、彼は機体の手で岩盤を叩き始めた。

 あたかも大音量のノックであるが、音はどこを叩いても一定で、中に空洞がある様子もない。

 血がそうさせるのだろうか。こういう時の彼はやはり探求者であり、目の前の謎解きに夢中なのだ。

「特に空洞はなし……とすると……」

 彼がそう呟いた時だった。不意に岩盤の下部が生き物のようにうごめくと、人工的なドアが姿を現した。

 2人はしばしそのドアを見つめる。

「……ねえ、これって入れって事……?」

「そうみたいだな。そうか、ノックがうるさかったんだ」

 コクピットハッチを開け、2人は人型重機から飛び降りる。

 すると驚いた事に、岩盤は輝きながら形を変えて、機体をアメーバのように包み込んだ。心神はそのまま、ゆっくりと岩の中に吸い込まれていく。

「……預かりますって事か」

「土足厳禁なんじゃない?」

「それ、当たりかも……」

 カノンが言うと、誠は面白そうに笑みを見せたが、そこで彼は目を見開いた。

「カノン!!!」

 強い力で突き飛ばされ、カノンはその場に倒れ込んだ。

 !!!!!!!!!!!!!

 瞬間、凄まじい轟音が響き、少年は玩具おもちゃのように吹っ飛んでいた。

 岩に叩きつけられた少年は、腹を押さえてゆっくりと尻餅をつく。

 彼のそばには、仏具の輪宝りんぽう……つまり、船の操舵輪かじにも似た金属の輪が落下し、激しく回転しながらやかましい音を立てた。

 ただその輪宝はかなり巨大で、とても人力で投げられるような代物ではない。マンホールの蓋ほどもある巨大な鉄塊を、弾丸のように投擲とうてき出来る存在……それは鬼神族以外に無かったが、カノンはそこまで頭が働かなかった。

 無我夢中で少年に飛びつき、必死にその容態を探る。

 パイロットスーツは大きく破れ、腹には赤い傷が見えたが、出血は多くないようだ。内臓は損傷したかも知れないが、背骨も腰骨もなんとか無事である。

「はんっ、柘榴ざくろになるかと思ったが、人間にしては頑丈だな! あの女神の加護のせいか?」

 女はそう言って勝気な笑みを浮かべた。

 着物に虎の毛皮を羽織り、手には巨大な太刀を持つ。

 赤い頭髪からは2本の角が伸びて、人ならぬ彼女の素性をよく表していた。

 間違いなく鬼神族の刹鬼姫……そしてカノンの妹であった。

「鎧から降りるのを待ってたんだ。卑怯なようだが、ここで決着けりをつけさせてもらうぞ」

 刹鬼姫は抜き放った太刀で己の肩を叩いた。

 それが合図なのか、背後の鬼達は左右に広がり、それぞれの獲物を構える。金棒、斧、そして棍棒。どれも一撃で人を絶命せしめる鬼神族の武器である。

「逃げろ、カノン……!」

 少年は苦しげに顔を歪めながら、まだこちらの身を案じていた。

(そうか、高千穂ここの気のせいで気付かなかったんだ……!)

 カノンはようやく理解した。

 本来ならあの横須賀の時のように、一族の接近をカノンは気付いたはずである。

 それ以外に特技のない自分だったが、そのたった1つの取りさえ、満足に生かす事が出来なかった。

(どうしていつもあたしは、大事な時だけ無力なの……!?)

 カノンの頭に、何かがぐるぐる駆け巡った。

 圧倒的な数的不利。負傷した愛しい人の状況。

 全ての要素が絡み合い、ある現実を突きつけていた。

 他に道は無いのだと……とうとうその時が来たのだと。

 もう嫌だ。力を使わず、これ以上彼を傷つけさせたくない。もう後悔なんてしたくない。

「……………………」

 カノンはゆっくりと立ち上がった。

 不思議と静かな気持ちだった。

 ただ胸の奥に宿る激しい炎が、己の体を突き動かしていた。

 この人を守ろう。

 ここで死んでも、命に代えても……この人だけは守らなければ。

 もうその時が来てしまったのだから。
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