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第四章その9 ~攻撃用意!~ 山上からの砲撃編
高砂
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「このボケっ! お見通しって言っただろうが!」
ヒカリの機体……機体というのも無残な姿を抱き抱え、つかさは思わず叫んでいた。
全力で飛ばしたせいで焼きついたブースターを切り離しつつ、コクピットハッチを開いてヒカリを中に引き込んだ。
ぐったりと力の抜けたヒカリは、いつものおふざけが嘘のように弱々しかった。
それでも微かに開けた目で、つかさに向かいこう言ったのだ。
「……まったく、こんなとこまで追いかけて……デートして欲しいなら、素直に言えば……いいじゃないか……」
「このっ……ほんっっとに、お前ってヤツは……!!!」
つかさは色んな思いがごちゃ混ぜになったが、とりあえずコクピットのハッチを閉じる。
この機体には補助席はないため、ヒカリを自分の前に座らせ、ベルトでしっかり固定したのだ。
何かが体の中を駆け巡っている。
大切な人を傷つけられた怒り? それとも彼女が助かった嬉しさ?
激しい激情が身の内に溢れ、しばし体の痛みを忘れさせてくれた。
「さあ来いや化け物どもよぉ、この俺が相手だ!!!」
つかさは機体の足を踏ん張り、怪物相手に口上を切った。
「痩せても枯れても神武勲章隊の4番機、赤穂士様のおでましだ!」
つかさは2本の槍をクロスさせて構えた。
かつて実験的に開発された長柄武器……実際にはほぼ使いこなせる者がおらず、また銃がある以上、リーチの有利もあまり意味を成さない。
市街地で柄が引っかかるデメリットもあり、次第に強化刀に取って代わられた装備であった……が、銃の性能が頼りなかった当時には、剣よりも長く、銃よりも安定したこの武器が、幾度も命を守ってくれた。だから戦友の槍から浮気出来ない。
機体の名前はそのままズバリ、故郷の高砂神社と縁起物の人形だ。
熊手と箒を持つ高砂人形のように、福を集め邪気を祓い、人々を守って欲しい。そんな願いを込めて登録した機体名であったが、ヒカリには「高砂ぉ? 何それ、爺むさいよ!」と一刀両断されたものだ。
(……ったく、昔っから好き放題言いやがって……!)
機体に乗ったせいか、次々かつての出来事を思い出しながら、つかさは戦闘を開始した。
迫る餓霊の眼前に左の槍をつきつけ、動きが止まった瞬間に踏み込み、右の槍で胸を突く。
横から攻撃してきた新手を、槍を抜きざま振り回して遠ざける。
それを強引にかいくぐりながら別の餓霊が近づくが、つかさは機体の右手を素早く引いた。
同時に槍を握る手をわずかに緩め、後ろにすっとんでいく右手の槍を、穂先近くで掴み直した。
懐に潜り込んだはずが、眼前に穂先があった餓霊は驚いて動きを止めた。
その隙につかさは機体を反転させ、槍の柄で餓霊の頭部をぶん殴った。
「ぐっ……!」
派手で急制動を伴う動作のため、機体と接続した全身の神経が悲鳴を上げている。一瞬、痛みで槍を取り落としそうになった。
「痛ぇ……けど……!」
つかさはそこで項垂れるひかりを見つめた。
「お前はもっと痛かったんだよな……!」
つかさは気力を振り絞り、迫る餓霊を渾身の気合いで薙ぎ払った。
「俺にはお荷物がいるんだよ……! 魔王だろうと何だろうと、簡単に負けてられるか……!」
だがつかさがそう呟いた時、凄まじい衝撃が機体を襲った。
上下の判別もつかぬほどに振り回され、ようやく機体が止まった時、モニターには損傷を示す警告表示が点滅していた。
表示された機体の模式図によると、槍は両方とも砕け、左腕と左の腰がごっそり持っていかれている。恐らくは、魔王が放った衝撃波であろう。
どろりと垂れる鮮血が片目を覆い、意識が段々薄れていく。
強い……自分の力ではどうしようもない。
それでも胸の前にいるヒカリが、最後の勇気を与えてくれた。
「……ふざけるなよ、このクソッタレ……!!」
つかさは外部拡声器で魔王に咆える。
「俺が死んでもお前は倒れる! 日本中から、四十七士が集まってるんだ。だからお前の負けだっ、ディアヌス!!!」
魔王はしばしこちらを見下ろしていた。
その目にどんな感情があるのか、つかさには分からない。
だが魔王が低く唸り声をもらすと、周囲の餓霊どもが後退した。
やがて魔王が右手をもたげると、その手の上に、白い光が現れた。光は瞬く間に巨大化していく。
もう相手にするのが面倒になって、そこら一帯の鬱陶しいものを丸ごと消し飛ばすつもりなのだろう。
光の中には複雑な電磁式が絡み合い、幾何学模様が描かれていく。人知を超えた巨大な魔法だったが、まるで雪の結晶のように冷酷な美しさも感じられた。
(……デートか。結局やってるじゃんか……)
薄れいく意識の中で、つかさはふと思い当たった。
12月には早いけど、随分豪華な電飾夜景だ。テレビで見て憧れた夜景にも、きっと劣っていないだろうさ。
(牛の世話も好きだけど……一回ぐらい、お前と見たかったんだ……)
震える手でヒカリの髪をかすかに撫で、つかさは意識を失った。
ヒカリの機体……機体というのも無残な姿を抱き抱え、つかさは思わず叫んでいた。
全力で飛ばしたせいで焼きついたブースターを切り離しつつ、コクピットハッチを開いてヒカリを中に引き込んだ。
ぐったりと力の抜けたヒカリは、いつものおふざけが嘘のように弱々しかった。
それでも微かに開けた目で、つかさに向かいこう言ったのだ。
「……まったく、こんなとこまで追いかけて……デートして欲しいなら、素直に言えば……いいじゃないか……」
「このっ……ほんっっとに、お前ってヤツは……!!!」
つかさは色んな思いがごちゃ混ぜになったが、とりあえずコクピットのハッチを閉じる。
この機体には補助席はないため、ヒカリを自分の前に座らせ、ベルトでしっかり固定したのだ。
何かが体の中を駆け巡っている。
大切な人を傷つけられた怒り? それとも彼女が助かった嬉しさ?
激しい激情が身の内に溢れ、しばし体の痛みを忘れさせてくれた。
「さあ来いや化け物どもよぉ、この俺が相手だ!!!」
つかさは機体の足を踏ん張り、怪物相手に口上を切った。
「痩せても枯れても神武勲章隊の4番機、赤穂士様のおでましだ!」
つかさは2本の槍をクロスさせて構えた。
かつて実験的に開発された長柄武器……実際にはほぼ使いこなせる者がおらず、また銃がある以上、リーチの有利もあまり意味を成さない。
市街地で柄が引っかかるデメリットもあり、次第に強化刀に取って代わられた装備であった……が、銃の性能が頼りなかった当時には、剣よりも長く、銃よりも安定したこの武器が、幾度も命を守ってくれた。だから戦友の槍から浮気出来ない。
機体の名前はそのままズバリ、故郷の高砂神社と縁起物の人形だ。
熊手と箒を持つ高砂人形のように、福を集め邪気を祓い、人々を守って欲しい。そんな願いを込めて登録した機体名であったが、ヒカリには「高砂ぉ? 何それ、爺むさいよ!」と一刀両断されたものだ。
(……ったく、昔っから好き放題言いやがって……!)
機体に乗ったせいか、次々かつての出来事を思い出しながら、つかさは戦闘を開始した。
迫る餓霊の眼前に左の槍をつきつけ、動きが止まった瞬間に踏み込み、右の槍で胸を突く。
横から攻撃してきた新手を、槍を抜きざま振り回して遠ざける。
それを強引にかいくぐりながら別の餓霊が近づくが、つかさは機体の右手を素早く引いた。
同時に槍を握る手をわずかに緩め、後ろにすっとんでいく右手の槍を、穂先近くで掴み直した。
懐に潜り込んだはずが、眼前に穂先があった餓霊は驚いて動きを止めた。
その隙につかさは機体を反転させ、槍の柄で餓霊の頭部をぶん殴った。
「ぐっ……!」
派手で急制動を伴う動作のため、機体と接続した全身の神経が悲鳴を上げている。一瞬、痛みで槍を取り落としそうになった。
「痛ぇ……けど……!」
つかさはそこで項垂れるひかりを見つめた。
「お前はもっと痛かったんだよな……!」
つかさは気力を振り絞り、迫る餓霊を渾身の気合いで薙ぎ払った。
「俺にはお荷物がいるんだよ……! 魔王だろうと何だろうと、簡単に負けてられるか……!」
だがつかさがそう呟いた時、凄まじい衝撃が機体を襲った。
上下の判別もつかぬほどに振り回され、ようやく機体が止まった時、モニターには損傷を示す警告表示が点滅していた。
表示された機体の模式図によると、槍は両方とも砕け、左腕と左の腰がごっそり持っていかれている。恐らくは、魔王が放った衝撃波であろう。
どろりと垂れる鮮血が片目を覆い、意識が段々薄れていく。
強い……自分の力ではどうしようもない。
それでも胸の前にいるヒカリが、最後の勇気を与えてくれた。
「……ふざけるなよ、このクソッタレ……!!」
つかさは外部拡声器で魔王に咆える。
「俺が死んでもお前は倒れる! 日本中から、四十七士が集まってるんだ。だからお前の負けだっ、ディアヌス!!!」
魔王はしばしこちらを見下ろしていた。
その目にどんな感情があるのか、つかさには分からない。
だが魔王が低く唸り声をもらすと、周囲の餓霊どもが後退した。
やがて魔王が右手をもたげると、その手の上に、白い光が現れた。光は瞬く間に巨大化していく。
もう相手にするのが面倒になって、そこら一帯の鬱陶しいものを丸ごと消し飛ばすつもりなのだろう。
光の中には複雑な電磁式が絡み合い、幾何学模様が描かれていく。人知を超えた巨大な魔法だったが、まるで雪の結晶のように冷酷な美しさも感じられた。
(……デートか。結局やってるじゃんか……)
薄れいく意識の中で、つかさはふと思い当たった。
12月には早いけど、随分豪華な電飾夜景だ。テレビで見て憧れた夜景にも、きっと劣っていないだろうさ。
(牛の世話も好きだけど……一回ぐらい、お前と見たかったんだ……)
震える手でヒカリの髪をかすかに撫で、つかさは意識を失った。
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