96 / 110
第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編
日の本一の兵(つわもの)
しおりを挟む
敵軍は完全に勢いに乗り、富士市一帯になだれ込んできた。
人の防衛線は総崩れとなり、最早逃げるしか手は無かっただろう。
だがそれすらも、追いすがる餓霊の軍勢は許そうとしなかった。
「おい、来るぞ、来るぞ!!」
一際巨体の餓霊が、砲撃をものともせずに迫って来た。
道を塞ぐ車両を軽々と跳ね飛ばし、餓霊は倒れた兵達を見下ろす。
絶体絶命。
若者達は喉を震わせ、末期の悲鳴を上げようとした。だがうまく言葉が出ない。
負傷した仲間を引きずっていた女性兵が、へなへなと座り込んだ。
餓霊は殺戮の喜びに満ち、唾液を滴らせながら、片手の爪を振り上げた。
やがて激しい衝撃が走った。その場の誰もが死を覚悟しただろう。
身を硬くし、1秒でも早く苦痛が終わるように祈りながら……皆がその場にうずくまっていた。
だがいつまで待っても、死はいっこうに訪れない。
「…………?」
彼らは恐る恐る顔を上げる。
餓霊はゆっくりと崩れ落ちていく。車両を押し潰しながら倒れた巨躯は、頭どころか上半身をもぎ取られていた。
一体何がこの怪物を倒した?
この巨大な餓霊の半身を吹き飛ばす攻撃とは何だ?
兵士達は周囲を見回し、そこで気付いた。駿河湾の沖合いから、陸を目指して猛進する輸送船にだ。
天蓋が開き、空母のような形となった船上には、青い光が輝いていた。
そして次の瞬間、光は上に舞い上がり、猛烈な速度で陸地に向かって来たのである。
光はそのまま海岸線に着地。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
凄まじい爆風、そして衝撃。
負傷者達まで飛ばされそうな勢いだったが、衝撃はみるみる緩和していった。慣性及び爆風緩和の電磁式を発し、被害を最小限に抑えてくれたのである。
粉塵がもうもうと舞い上がり、地響きがいつまでも辺りを揺らす。
…………いや、それは地響きではなかったのだ。
巨体から発せられるエネルギーの振動であり、幾多の属性添加機が共鳴しながら奏でる、武者震いのようなものだった。
少しずつ砂塵が薄れると、巨躯がゆっくりと身を起こした。
戦場に立ち上がるその勇姿は、100メートルに達するだろうか。人型重機にしてはあまりに大きい。
鎧のように頑強かつ、機動性を妨げぬ装甲。その隙間から漏れ出る、強力な属性添加機の輝き。
腰には巨大な太刀を挿し、腕にも肩にも背中にも、戦艦の巨砲に匹敵する武器を備えている。
どことなく心神に似たフォルムだったが、兜のような前頭部には、社の屋根を飾る千木……つまりV字に聳える飾り木を彷彿とさせるアンテナがあった。
やがて巨人はその身に力を漲らせた。
稲妻のような輝きが、全身の装甲を駆け巡る。
関節から覗く人工筋肉は光を帯びて、凄まじい圧縮音を響かせた。明らかに普通の人工筋肉ではない、人智を超えた筋出力の証だ。
そして巨人は咆えたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
もしかしたら、音ですら無かったのかもしれない。発散された膨大なエネルギーが人々の肌を叩き、それを音と認識しただけなのかもしれない。
けれどその雄叫びは、確かに魔除けの力を持っていた。一騎当千の勇者に気圧されたように、餓霊どもは次々に後ずさる。
そして巨人の勇姿は、人々の心に消えかけた思いを呼び起こした。それは希望だ。
絶望の地に立ち上がる鋼鉄の武士に……この国の勇気と力を結集した神代の英雄に、一同は最後の望みを託したのだ。
巨人の放つエネルギーはますます増して、属性添加機の稼動音は、猛禽の叫びのように辺りに木霊す。
やがて巨人の左肩のシールドに、虹色の光が輝いた。
機体の余剰エネルギーを利用した表示なのだろう。光の飛沫がシールドを駆け巡ると、識別名が表示されていく。
「震……天………?」
モニターに映る巨大な人型重機を見つめ、雪菜は呟いた。
全高はほぼ100メートル。通常の人型重機の10倍に達する勇姿は、もはや現実の光景とは思えない。
旗艦・武蔵に集う面々は言葉を失い、ただ船団長の伊能だけが、一同の沈黙を破った。
「筑波の野郎……間に合わせたのか……!」
雪菜達が振り向くが、伊能は誰とも目を合わさない。
ただ一点に画面を見据え、独り言のように呟いた。
「対ディアヌス最終決戦兵器『震天』…………この国の最後の希望……日の本一の兵だ……!!」
人の防衛線は総崩れとなり、最早逃げるしか手は無かっただろう。
だがそれすらも、追いすがる餓霊の軍勢は許そうとしなかった。
「おい、来るぞ、来るぞ!!」
一際巨体の餓霊が、砲撃をものともせずに迫って来た。
道を塞ぐ車両を軽々と跳ね飛ばし、餓霊は倒れた兵達を見下ろす。
絶体絶命。
若者達は喉を震わせ、末期の悲鳴を上げようとした。だがうまく言葉が出ない。
負傷した仲間を引きずっていた女性兵が、へなへなと座り込んだ。
餓霊は殺戮の喜びに満ち、唾液を滴らせながら、片手の爪を振り上げた。
やがて激しい衝撃が走った。その場の誰もが死を覚悟しただろう。
身を硬くし、1秒でも早く苦痛が終わるように祈りながら……皆がその場にうずくまっていた。
だがいつまで待っても、死はいっこうに訪れない。
「…………?」
彼らは恐る恐る顔を上げる。
餓霊はゆっくりと崩れ落ちていく。車両を押し潰しながら倒れた巨躯は、頭どころか上半身をもぎ取られていた。
一体何がこの怪物を倒した?
この巨大な餓霊の半身を吹き飛ばす攻撃とは何だ?
兵士達は周囲を見回し、そこで気付いた。駿河湾の沖合いから、陸を目指して猛進する輸送船にだ。
天蓋が開き、空母のような形となった船上には、青い光が輝いていた。
そして次の瞬間、光は上に舞い上がり、猛烈な速度で陸地に向かって来たのである。
光はそのまま海岸線に着地。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
凄まじい爆風、そして衝撃。
負傷者達まで飛ばされそうな勢いだったが、衝撃はみるみる緩和していった。慣性及び爆風緩和の電磁式を発し、被害を最小限に抑えてくれたのである。
粉塵がもうもうと舞い上がり、地響きがいつまでも辺りを揺らす。
…………いや、それは地響きではなかったのだ。
巨体から発せられるエネルギーの振動であり、幾多の属性添加機が共鳴しながら奏でる、武者震いのようなものだった。
少しずつ砂塵が薄れると、巨躯がゆっくりと身を起こした。
戦場に立ち上がるその勇姿は、100メートルに達するだろうか。人型重機にしてはあまりに大きい。
鎧のように頑強かつ、機動性を妨げぬ装甲。その隙間から漏れ出る、強力な属性添加機の輝き。
腰には巨大な太刀を挿し、腕にも肩にも背中にも、戦艦の巨砲に匹敵する武器を備えている。
どことなく心神に似たフォルムだったが、兜のような前頭部には、社の屋根を飾る千木……つまりV字に聳える飾り木を彷彿とさせるアンテナがあった。
やがて巨人はその身に力を漲らせた。
稲妻のような輝きが、全身の装甲を駆け巡る。
関節から覗く人工筋肉は光を帯びて、凄まじい圧縮音を響かせた。明らかに普通の人工筋肉ではない、人智を超えた筋出力の証だ。
そして巨人は咆えたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
もしかしたら、音ですら無かったのかもしれない。発散された膨大なエネルギーが人々の肌を叩き、それを音と認識しただけなのかもしれない。
けれどその雄叫びは、確かに魔除けの力を持っていた。一騎当千の勇者に気圧されたように、餓霊どもは次々に後ずさる。
そして巨人の勇姿は、人々の心に消えかけた思いを呼び起こした。それは希望だ。
絶望の地に立ち上がる鋼鉄の武士に……この国の勇気と力を結集した神代の英雄に、一同は最後の望みを託したのだ。
巨人の放つエネルギーはますます増して、属性添加機の稼動音は、猛禽の叫びのように辺りに木霊す。
やがて巨人の左肩のシールドに、虹色の光が輝いた。
機体の余剰エネルギーを利用した表示なのだろう。光の飛沫がシールドを駆け巡ると、識別名が表示されていく。
「震……天………?」
モニターに映る巨大な人型重機を見つめ、雪菜は呟いた。
全高はほぼ100メートル。通常の人型重機の10倍に達する勇姿は、もはや現実の光景とは思えない。
旗艦・武蔵に集う面々は言葉を失い、ただ船団長の伊能だけが、一同の沈黙を破った。
「筑波の野郎……間に合わせたのか……!」
雪菜達が振り向くが、伊能は誰とも目を合わさない。
ただ一点に画面を見据え、独り言のように呟いた。
「対ディアヌス最終決戦兵器『震天』…………この国の最後の希望……日の本一の兵だ……!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる