新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編

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 激しい押し合いの中、誠は懸命に目を凝らした。

 機体のパワーレベルが上昇、7近くまで達しようとしている。

 急ごしらえで埋め込み、調整が不完全だったテンペストの結晶細胞が、ようやくうまく共鳴し始めたのである。

 フルパワーを維持できるのは恐らく一瞬、だがそれでいい。

 機体の力が爆発的に上昇し、震天はディアヌスの刃を押し返した。

 誠は機体を踏み込ませ、全身全霊で太刀を振るう。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!!!!」

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 激しい力が駆け巡り、稲光が滅茶苦茶に跳ね回った。

 目を焼き、耳を叩くエネルギーの奔流ほんりゅうに、誠はしばらく状況を見失う。

 やがて少しずつ視力が戻った時。

 魔王は2歩、3歩と後ずさっていた。

 こちらの機体は身をかがめ、足を踏み込んで片膝をついていた。

 横に振りぬいた剣先は、剣道でいう抜き胴気味に薙ぎ払ったという事だろうか。正直あまり覚えていない。

 魔王は一見無傷に見えた。

 右手の刃をゆっくりと降ろし、口をわずかに開けて唸り声を漏らす。

(当たらなかったのか……?)

 渾身の一撃だったが、それでもダメージを与えられなかったのだろうか?

 誠の心に焦りが生まれた。

 もうこちらには、何の余力も残っていない。今攻撃を仕掛けられたら、為す術なく敗北するだろう。

 だが次の瞬間、魔王は予想外の言を発した。

「……………………名を」

 一瞬、意味が理解出来なかった。

 魔王は何を言ったのか。それが誰に向けた言葉なのか。

 誠の戸惑いを読み取ったのか、魔王は再び声を発する。

「……名を聞こう、人族の勇者よ」

「……鳴瀬です」

 考えるより先に、言葉が出ていた。

「ガレオンは、そう呼んでくれます」

「……そうか……」

 よく聞こえなかったが、見事だ、と言われたような気がした。

 次の瞬間、魔王の腹に亀裂が走った。

 最初は斜めの一本線、しかし亀裂はどんどん広がる。数を増し、範囲を広げて、魔王の外皮を覆い尽くしていく。

 同時に亀裂の隙間から、白い光が溢れ始めた。

 魔王はまた後ずさる。自らの意思というより、身の内から漏れる莫大なエネルギーのせいであろうか。

 更に数歩後ずさって、魔王はゆっくりと空を見上げる。

 天を挑発するように牙を剥くと、大音量の咆哮ほうこうを上げた。そして咆哮と共に、白い光が爆発的に広がっていく。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 激しい爆風が、富士の裾野を駆け巡った。

 倒壊した家屋が舞い上がり、千切れた木々が葉を撒き散らして吹き飛んでいく。

 海上に浮かぶ艦ですら、強風で横倒しになりそうだった。

 ……やがて爆風が力を弱めた時。黒き魔王はその姿を消していたのだ。

 暗雲はみるみる色を薄め、雲間から眩しい光が差し込んでくる。

 魔王の消滅を受け、餓霊どもは我先にと退却していく。

 だが差し込む日差しに追いつかれたせいか、それとも大将たる魔王が消えたせいか、餓霊どもはあっけなく溶けて蒸発していくのだ。

 やがて旧富士市一帯には、晴れやかな空が広がっていたのだ。

 目の前の光景を信じる事が出来ず、人々はしばらく声を出せないでいた。

 誠もそれは同様である。

 あれだけ幾度もこちらの力を跳ね返した無敵の魔王が、本当に消滅したというのか?

 まるで積雪の下、春の芽吹きのタイミングをうかがうように無言が続いていたのだが、そこで鶴が画面に映った。

「勝った、黒鷹、ほんとうに勝ったわ!!!」

 鶴のテンションに困惑し、誠は呆然と呟いた。

「勝った……のか……?」

 先ほど魔王に答えたまま、外部拡声器スピーカーモードになっていたので、声が周囲にだだ漏れになったのだ。

 そしてそれが引き金になった。

 避難していた兵士達が立ち上がった。負傷者も無理を押して立ち上がった。

 その連鎖は次々広がり、大地を揺るがす大歓声となったのだ。

 兵達は飛び上がって抱き合った。

 本来なら学校に行き、幸せな学生生活を送っていたはずの若者達である。

 彼らは感情を爆発させ、何度も何度も抱き合って、そして泣いた。

 画面には次々見知った人が映し出されていく。

 もう誰が何を言っているのか分からない。

 皆が必死で、皆が正気ではなかった。

 口々に喜びの声をあげ、泣いていた。

 誠も同じような顔をしていただろう。

 嬉しいのか悲しいのかよく分からない。分からないけれど、誠は力が抜けていくのを感じた。

 騒がしい皆の歓声を、子守唄のように心地よく感じながら、誠は辺りを見渡した。

 午後の陽光を受けて輝く富士山は、白い冠を誇らしげに輝かせている。

 抜けるような青空は、この10年の絶望の反動であるかのように美しい。

 きっとこの光景を、自分は生涯忘れないだろう。

 その日、11月某日。

 日本は恐るべき魔王を撃退し、新しい一歩を踏み出す事に成功したのだ。
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