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第六章その2 ~あきらめないわ!~ 不屈の本州脱出編

この筋肉にかけてあきらめない!

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「言われたとおり集まったけど、一体何の会議なのさ?」

 テーブルの上にちょこんと座り、コマは鶴の顔を見上げた。

 通信車の中には、誠や鶴に隊員達。そして音羽隊や鳳さん、神使達まで集まっている。

「みんなそろったな。それじゃ……」

 誠が言おうとした途端、鶴がいきなり大声で叫んだ。

「ファイットォーッ!! ファイトよみんなっ!!!」

 鶴はバンと机を叩き、拳を握って語りかける。

「とにかく元気を出すのよみんな、ここで負けてなるもんですか! ナギっぺとサクちゃんの弔い合戦だわ!」

 鶴はなおもバンバン机を叩き、お茶の湯のみが飛び上がってコマがキャッチした。

「勢いが凄いけど、具体的にどうするのさ? あんな強い相手なんだよ?」

「そうねコマ、それは黒鷹の出番よ!」

 鶴のパスを受け、誠はようやく話し始める。

「それじゃさっそく。単刀直入に言って、俺達、勝つ事にこだわり過ぎてたかもしれない。あいつらは確かに強くて、今の装備じゃ倒せない。でも思ったんだ。だったらこの混乱の始まりの時、大人はどうしたんだろうって」

「あの頃か……」

 香川達は、腕組みして宙を見上げる。

 まだ幼い自分達を助けてくれた人々の姿を、懸命に思い出しているのだろう。

「あの頃は、今よりもっと悲惨だった。武器の効果が薄いとかじゃなくて、そもそも効果ゼロだったんだから。でもなんとかかんとか頑張って、俺達を生き延びさせてくれたじゃんか」

 誠は必死に説明を続けた。

「今はこっちの武器が通じない……だったら撹乱かくらんとか足止めとか、出来る事があるかもしれない。その間に武器や技術が改良されて、勝てるようになるかもしれない。だから今出来る事をやろう。岩凪姫や佐久夜姫なら、きっとそう言うと思う」

「……そうよね。考えてみたら、このままやられるのもしゃくだものね」

 カノンが皆を代表して頷いてくれた。

「正直、この場を生き延びてどうなるかは分からない。でもこのまま死んだんじゃ、あんまり悔しいだろ。だからあいつらに一泡ふかせてやろうぜ」

「鳴瀬少尉のおっしゃる通り、まだ諦めるのは早いかもしれません」

 輸送班の音羽氏も頷き、一同は次第にざわめき始めた。ああしたら、こうしたらと口々にアイディアを出し始めたのだ。

 誠はそこで神使達を見つめた。

 眼帯アイパッチを付けた狛犬に、キツネ、牛、猿と龍。

 元気を取り戻してきた人々に比べ、彼らはまだしょぼくれている。

 それはそうだろう、相手は邪神とその配下なのだ。

 普段から神に仕える神使にとって、それがどれだけ絶望的な相手なのか、人である誠達よりよっぽど分かっているだろうから。

 それでも誠は、神使達に発破はっぱをかけた。

「なんだ、元気無いじゃんかお前ら。普段はあんな威勢がいいのに、いざとなると情けないんだな」

「そ、そうはモウしましても……」

 牛は悲しげなハの字眉毛で誠を見上げる。

「相手は邪神軍団です。モウどウシたらいいのか……」

「でも牛太郎。お前の主人なら、どんな時でも手を考えるんじゃないのか? 学問の神さんが、モウ分からないなんて言うわけないだろ」

「た、確かに、天神様ならそうなさるはずです……!」

 誠が言うと、牛はハッとして答えた。

「他の連中もそうだ。おいガンパチ、お前のボスは、簡単に白旗を上げるのか?」

「違うわい! 八幡様は源氏の守り神、何度も国を守った軍神なんじゃい! このぐらいで諦めたりされるか!」

 眼帯を付けた狛犬は、両の前足を上げて怒った。

 誠は今度は猿に言った。

「ウキ松、お前のあるじは厄除けで有名なんだろ? こんな災厄ぐらいで、降参して逃げ出すのか?」

「冗談じゃありやせんぜ! どんな厄でも、日吉様なら負けやせん! 災い去る、の日吉神社ですぜ!」

 猿はテーブルの上でジャンプし、とんぼ返りしてポーズを取った。

 誠はキツネの方を向く。

「コン三郎、お稲荷さんってのは、商売繁盛の偉大な神様なんだろ? それがこのぐらいで復興を諦めるのか?」

「なめんなやとうへんぼく! 稲荷大明神様はなあ、お前の考えてるよりずっと大変なんやぞ! 商売繁盛だけやない、災害で壊れた町の立て直しとか、必死で応援されてるんや! はようみんな元気になれ、はようみんなが腹いっぱい食べれるようになれって……ワイらもそれで、毎日走り回ってたんや!」

 キツネは何度も飛び上がり、手足を振り回してわめいている。

「辰之助、おま」

「この筋肉にかけてそれはありえんっ!」

 龍はもう最後まで言わせてくれなかった。

 誠の言葉をさえぎり、力強い筋肉ポーズをいくつも披露してくる。

「前にも言っただろう! 怒涛の開運パワーで、世の人を導くのが俺のお役目! 筋肉リュウリュウ、昇り竜だ!」

 誠は頷き、神使達を見渡して言った。

「それでいいんだよ。お前らがぐはっ!? お、お前らの協力が、ごほっ! い、いや、急に元気になりすぎだろ!?」

 一気にじゃれついてくる神使達に閉口しながら、誠は何とか話を続ける。

「と、とりあえず、敵がどのへんまで侵攻してるか、情報が欲しいよな……ぐはっ!」

「神器の鏡だって、これだけ邪気が強いと遠くまで見えないからね」

 コマも前足を腕組みして考えるが、そこで音羽氏が手を上げた。

「あ、あの、それならこの近くに観測所があったはずですよ」

「観測所?」

 誠が聞くと、音羽氏は頷いて続ける。

「ええ。自分は輸送班ですので、どこにどういう設備があるか、どこに新設されたかはチェックしてました。魔王ディアヌスを倒した後も、第3船団は念のため各地に観測施設を新設してて。震度計を始め、敵の行動を把握出来るものがあったはずです」

「ありがとう音ちゃん、さっそく私と黒鷹が行って来るわ!」

 鶴はそそくさと打ち出の小槌を取り出す。

 誠は鶴ともに小さくなり、コマの背に飛び乗った。

「ほな、うちらはその間に準備やな」

 難波は片手を力こぶのポーズにしてウインクする。

「機体とか車両の修理して、出来る事をやっとくさかい。安心して行ってきいや」

 難波の横で、元祖力こぶキャラの龍が腰に手を当てて仁王立ちしているので、一同も真似
してやってみる。

 真似してみると不思議なもので、意外と元気が出るポーズだった。

「それじゃあみんな、行動開始よ!」

 鶴の言葉に、一同はおお、と気合を入れた。
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