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第六章その5 ~恐怖の助っ人!?~ ディアヌスとの再会編

いいだろう、手を貸してやる

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「……………………………………」

 底なしの無言。痛い程の沈黙。

 北海道に戻った誠達は、輸送機の格納庫内で固まっていた。

 誰もが動けない。動きたくも無かったが、理由は単純明快だった。格納庫の最奥部に、魔王ディアヌスが座していたからだ。

 言葉を発せぬ誠達に対し、魔王の方も無言である。

 首から下を覆う、鎧のような黒い外皮。

 立ち上がれば4メートル近いであろう、均整の取れた巨体。

 長い黒髪を垂らし、一見して女性のような顔立ちだったが、頭からは幾本もの角が突き出し、口元には鋭い牙がのぞいている。

 頬から顎にかけて、古代の戦化粧のような線が描かれていたし、目はらんらんと輝きながら、油断なく誠達を見据えていた。

 さっきまで威勢の良かった神使達は、誠の影で震えている。

「お、お前らいつも元気なんだから、こういう時に隠れるなよっ……」

「アホ言うな、ワイらは意外とデリケートやぞ」

「モウ無理です、ウシろから見守っております」

 会話の橋渡しを期待していた鬼達も、今は正座して俯いていた。

『あたしらは』

『魔族を抜けたんで』

『気まずいんじゃ』

 それぞれこう書いた紙を持っているので、彼らは役に立たないだろう。

 だがこのまま無言を貫くわけにはいかない。

(話さなきゃ意味が無い……けどそもそも、みんなディアヌスを許せないだろうし)

 誠にとってもそうなのだ。あの混乱の始まりとなった存在であり、尊敬する明日馬さんを殺めた敵でもある。

 確かに富士の裾野の決闘を経て、ディアヌスへの思いは以前と変化していた。

 死力を尽くしてぶつかり合い、どこか相手を尊敬するような、奇妙な感覚が芽生えているのも事実だ。

 ……ただ、だからと言って『はいそうですか』と愛想良く出来るほど、誠は気持ちの整理がついていないのだ。

 だがそこで一同を代表し、鶴がおごそかに口を開いた。

「黒鷹、みんな、まずは話を聞きましょう。敵の敵は味方、今はそれしか手がないわ」

 段々調子が出てきたのか、鶴はしたり顔で続ける。

「どんな時でも、聞く耳は大事よ。きちんと話を聞いてこそ、道は開けるものだもの」

 コマが呆れて文句を言う。

「ほんとに君は、よくもまあそんな事を。そもそも君が人の話を……」

「とにかく!」

 鶴はさっとコマの口を手で塞いだ。

「話を……聞くだと……?」

 そこでディアヌスが言葉を発し、一同はびくっと身を震わせた。

 虎か何かの唸り声を、百億倍ぐらい恐ろしく加工したら、こういう感じになるかもしれない。

「我に話など無い。勝手に招いておいて話せだと? この無礼者どもが」

 全身に傷を負いながら、魔王は全くひるむ様子も無かった。

「恨みがあるならかかって来い。一匹残らず灰にしてやる……!」

 魔王はそう言って誠達を睨み付ける。再び神使が震え上がり、誠の後ろに隠れるのだが。

「……でも、腹は立ってるでしょう?」

 そこで鶴が口を挟んだ。

「確か整理券だったかしら? あなたを吹っ飛ばした憎いあんちきしょうに、リベンジして懲らしめたいでしょう?」

 千里眼だよ、とツッコミを入れるコマをよそに、鶴はなおも言葉を続けた。

「私もあいつにみんなを傷つけられて、正直頭にきているの。だからはっきり言えば、この鶴ちゃんと手を組みましょう」

「つっ、つつ鶴っっっ!?」

 コマが驚いて両の前足を上げる。隊員達や神使、鳳も青ざめていた。

「そ、それはまずいよ! 君はほんとに、ほんとにほんとに不真面目だけど、高天原がつかわした聖者だよ? それがよりにもよって魔王となんて」

「そこがコマの駄目なところよ! 綺麗事も時と場合をわきまえなければ、厳しい浮き世で人々を守れないわ」

「うわ、急に正論みたいな事をっ……!」

「そう、私はいつも正しいの。正論の鶴、正しさの私よ」

 たじろぐコマをよそに、鶴は適当にうなずいてディアヌスに向き直った。

「それにこの黒鷹は、あなたとマンツーマンで戦った人間の勇者よ。あれだけ殴り合ったんだから、バッチリ友情が芽生えてるはずだし、ここは一つ協力しましょう」

「ほう、貴様あの時の小僧か……!?」

 ディアヌスは目をぎらりと光らせ、誠の方を凝視した。

「ふはは……面白い、実に面白いぞ……!! 丁度いい、ここで再戦といくか……!!!」

 急に興味が出たようで、身を乗り出して語りかけてくる。

 ディアヌスが片手を握り締めると、何か巨岩を圧縮するような音が響き渡った。

 間違いなく、触れられただけで粉微塵こなみじんにされるだろう。

 人生最大のピンチを迎える誠だったが、やがてディアヌスは鶴に言った。

「……いいだろう。手を貸してやる」

『えええええっっっ!!!???』

 あまりの事態に飛び上がる一同だったが、ディアヌスは更に続けた。

「その代わりあの糞どもを打ち砕けば、再びこやつと再戦させろ」

「いいわ!」

「いやだめだろっ!!」

 即答する鶴に、誠は血相を変えてツッコミを入れる。

「平気よ黒鷹、また勝てば問題ないもの」

「勝てるかっ、どんだけ強いと思ってんだよ! 必死なんだよ、大変だったんだよ! あれこれみんな助けてくれて、やっとの事で倒したんだよ!」

「大丈夫、もう1度、やっとの事ればいいだけよ」

「は、話が通じない……」

 誠はそこで周囲の皆に助けを求めた。

「みんなもそう思うだろ!? 神使のお前ら、鳳さんも……」

『……………………』

 一同はすまなさそうな顔をして、ただ無言で俯いていた。

「お、鬼―ズ!」

 誠は焦って鬼達を見るが、彼らは『絶対、無理』の横断幕を掲げていた。

「あっ、あっ、ああああああっ……!!」

 絶望する誠をよそに、ディアヌスは満足げに言う。

「決まりだな、確かにそこな娘の言った通りよ。このまま黙っているほど、この我は甘くない。必ずや復讐し、奴らの魂を打ち砕いてくれる……!」

「そうと決まれば、さっそく教えて欲しいのよ。邪神の本拠地は、どういう陣容になってるのかしら?」

「決めるなヒメ子ぉっ!!!」

 絶叫する誠をよそに、事態は予想外の方向に転がり始めたのだった。
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