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第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編
凍てつく大地と灼熱の夜
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その光景を誠は見ていた。
背を向けて後ずさる鶴が、いきなり体勢を崩したのだ。
彼女の身を押したのは、全身を光に包まれた女性だった。
凛とした佇まい、憂いを秘めた……けれど優しいその表情。
鶴と同じ白拍子の衣を纏う彼女は、まさか静御前の霊なのだろうか?
ともかく誠は手を差し伸べ、よろめく鶴を支えていた。
静御前はしばしこちらを見つめていたが、やがて柔らかく微笑んだ。ひらひらと手を振って、そのまま消えていったのだ。
「静御前……か……?」
「多分そうだわ……あっ……!」
鶴はそこで我に返り、再び耳まで真っ赤になった。
「…………っ」
「…………っ」
また耐え難い沈黙が襲ったが、鶴は今度は逃げられなかった。彼女を支える誠の手が、鶴を放そうとしなかったのだ。
(もう……放したくない……!)
手の平が汗ばむのを感じながらも、誠は強くそう思った。
例えどんな事があっても、決してこの手を離さない。
今この手を開いたら、二度と同じ勇気が出せない気がするから。
かつてない長い時間視線を交わし、鶴も誠も、気恥ずかしさで目を伏せる。
それでも手だけは離さなかった。
やがて再び視線が絡み、誠は鶴に身を寄せる。
ずっと遠回りしてきたから、せめて今度は近道で。
たったこれだけの距離を消すため、500年もかけてきたのだ。
「…………んっ……!」
そっと唇が触れた時、鶴は微かに身を震わせた。
覚えのない感触に戸惑って……けれどその手は、誠の肩に添えられていた。
もう二度と離れないように、強く誠の衣服を握り締める。
息が続かず、吐息が互いの肌をくすぐっても、2人は離れる事は無かった。
求めても求めても、500年分の大好きが溢れ出した。
どうしてもっと早く、こんなふうにならなかったんだろう?
やがて2人の周囲に、思い出が走馬灯のように駆け巡った。
前世の事も、現世の事も……凄惨な戦の光景も多々あったが、誠達は目もくれなかった。
ただ互いの体温を頼りに、この恐ろしい世界に立ち向かおうとしたのだ。
手に触れる髪の香りが、抱き締めた体の熱さが。
待ち受ける命のやり取りにあらがう、無敵の勇気を与えてくれるのだ。
長い凍てつく夜の中、2人はじっと朝を待った。
ただ並んで床に座り、1枚の粗末な毛布を分け合って。
誠は毛布のタグを目にし、遠い記憶を思い出した。この10年に及ぶ災厄の始まりに、避難所で渡された防災毛布と同じだったからだ。
あの頃は何もかもが恐ろしかったが、今は何一つ怖くなかった。
鶴は静かに呼吸を整え、懸命に霊力を貯めていたし、誠も精神を研ぎ澄ましていた。
どんな困難があっても、決して揺らがないように……ありったけの勇気を溜め込んでいくのだ。
闇の力に覆われた空は、最早白む事すら無いのだったが、やがて端末のアラームが鳴った。
それが閉幕のベルなのか、それとも希望を告げる運命の鐘なのかは分からない。分からないが、ともかく全てが今日決まるのだ。
「………………」
誠はアラームを止めると、ゆっくりと立ち上がる。
それから鶴の手を取り、彼女の身を起こさせた。
この後2人は船に乗る。
500年前の和船とは違う、科学の粋を詰め込んだ鋼鉄の戦船だ。
……だけどやるべき事は変わらない。
ただ命と勇気を振り絞り、迫り来る邪悪な脅威を討ち払うだけ。
例え死んでも、命に代えても、この人と共に戦い抜くのだ。
今度ばかりは絶対に、この人のそばで果てるのだ……!
背を向けて後ずさる鶴が、いきなり体勢を崩したのだ。
彼女の身を押したのは、全身を光に包まれた女性だった。
凛とした佇まい、憂いを秘めた……けれど優しいその表情。
鶴と同じ白拍子の衣を纏う彼女は、まさか静御前の霊なのだろうか?
ともかく誠は手を差し伸べ、よろめく鶴を支えていた。
静御前はしばしこちらを見つめていたが、やがて柔らかく微笑んだ。ひらひらと手を振って、そのまま消えていったのだ。
「静御前……か……?」
「多分そうだわ……あっ……!」
鶴はそこで我に返り、再び耳まで真っ赤になった。
「…………っ」
「…………っ」
また耐え難い沈黙が襲ったが、鶴は今度は逃げられなかった。彼女を支える誠の手が、鶴を放そうとしなかったのだ。
(もう……放したくない……!)
手の平が汗ばむのを感じながらも、誠は強くそう思った。
例えどんな事があっても、決してこの手を離さない。
今この手を開いたら、二度と同じ勇気が出せない気がするから。
かつてない長い時間視線を交わし、鶴も誠も、気恥ずかしさで目を伏せる。
それでも手だけは離さなかった。
やがて再び視線が絡み、誠は鶴に身を寄せる。
ずっと遠回りしてきたから、せめて今度は近道で。
たったこれだけの距離を消すため、500年もかけてきたのだ。
「…………んっ……!」
そっと唇が触れた時、鶴は微かに身を震わせた。
覚えのない感触に戸惑って……けれどその手は、誠の肩に添えられていた。
もう二度と離れないように、強く誠の衣服を握り締める。
息が続かず、吐息が互いの肌をくすぐっても、2人は離れる事は無かった。
求めても求めても、500年分の大好きが溢れ出した。
どうしてもっと早く、こんなふうにならなかったんだろう?
やがて2人の周囲に、思い出が走馬灯のように駆け巡った。
前世の事も、現世の事も……凄惨な戦の光景も多々あったが、誠達は目もくれなかった。
ただ互いの体温を頼りに、この恐ろしい世界に立ち向かおうとしたのだ。
手に触れる髪の香りが、抱き締めた体の熱さが。
待ち受ける命のやり取りにあらがう、無敵の勇気を与えてくれるのだ。
長い凍てつく夜の中、2人はじっと朝を待った。
ただ並んで床に座り、1枚の粗末な毛布を分け合って。
誠は毛布のタグを目にし、遠い記憶を思い出した。この10年に及ぶ災厄の始まりに、避難所で渡された防災毛布と同じだったからだ。
あの頃は何もかもが恐ろしかったが、今は何一つ怖くなかった。
鶴は静かに呼吸を整え、懸命に霊力を貯めていたし、誠も精神を研ぎ澄ましていた。
どんな困難があっても、決して揺らがないように……ありったけの勇気を溜め込んでいくのだ。
闇の力に覆われた空は、最早白む事すら無いのだったが、やがて端末のアラームが鳴った。
それが閉幕のベルなのか、それとも希望を告げる運命の鐘なのかは分からない。分からないが、ともかく全てが今日決まるのだ。
「………………」
誠はアラームを止めると、ゆっくりと立ち上がる。
それから鶴の手を取り、彼女の身を起こさせた。
この後2人は船に乗る。
500年前の和船とは違う、科学の粋を詰め込んだ鋼鉄の戦船だ。
……だけどやるべき事は変わらない。
ただ命と勇気を振り絞り、迫り来る邪悪な脅威を討ち払うだけ。
例え死んでも、命に代えても、この人と共に戦い抜くのだ。
今度ばかりは絶対に、この人のそばで果てるのだ……!
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