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~グランドフィナーレ~ もう一度、何度でも!

冷蔵庫、何台買うの?

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「いよっ、色男っ!」

「スケールがデカいっ!」

「大家族っ! 冷蔵庫、何台買うのっ!」

 周囲の人々は酔っ払って拍手したし、皆がやんやとはやし立てている。

 掛け声は段々ボディービル大会のようになり、神使の龍がつられて筋肉ポーズをとり始めた。

「な、なんなんだよ、このさらし者感は……」

 誠は真っ赤になって震えていたが、そこで難波がヘッドロックをかけてきた。

「観念しいや鳴っち。何でも言う事聞いてくれる約束やろ?」

「あーっ……あったな、そういうの」

 誠はされるがままで頷いた。

 白無垢姿の花嫁にヘッドロックされる……一体どんな絵面なんだ、と考える誠だったが、そこであの北海道の倉庫の事を思い出した。

(んっ……!!?)

 誠は急激に青ざめる。

 もしかして……もしかしなくてもだ。あの時難波も思いを告げようとしていたのではないか?

「うわっ! ごっ、ごめん難波、俺、てっきり難波は違うかと思って」

「……あかん。一生許さへん」

 難波は誠を解放し、少し潤んだ目で微笑む。

「覚えときや。こういう娘っ子が、いちばん嫁にええんやで?」

 難波はそっと誠の頬にキスしてきた。

 最後まで気持ちを隠し続けた、照れ屋な彼女らしい口付けである。



 次に声をかけてきたのは鳳である。

「く、黒鷹様っ……!」

 彼女は指を組み合わせ、おずおずと、祈るようにこちらを見つめる。

「あ、あの……実は黒鷹様に、嘘をついておりまして。本当の事を言わねばと」

「ええっ……!?」

 誠は正直警戒したが、鳳は消え入るような声で言う。

「あっ、あのですね……ほんとは私、ぜんぜん今風ナウくないですし……干し柿とか大好きなんですっ……!」

「…………………………」

 誠はしばし固まったが、何とか言葉を搾り出す。

「そっ、それは……予想外ですね」

「ごめんなさい。お詫びにめはり寿司、いっぱい作りますから……!」

 鳳は顔を赤らめて微笑んだ。



「えっと、鳴瀬……くん?」

「は、はいっ……!」

 恐る恐る呼びかける雪菜に、誠も慌てて振り返った。

 彼女の花嫁姿は……ああ、本当に女神様のように綺麗だった。ずっとこの人のこんな姿が見たくて、生きてきたような気がするのだ。

 雪菜は赤い顔で、遠慮がちに尋ねてくる。

「驚いた……?」

「驚きました」

 誠は素直に頷いた。

「でもその、安心しました。やっぱりその……罪悪感が凄かったので」

「まあ、お姉さんを泣かせたんだもの。それぐらいはね?」

 雪菜は満足げに微笑むと、片手の人差し指を立てる。

「こら少年? これからも師弟だから、ビシバシ指導するわよ?」

「はいっ、先生」

 そう言って、誠も雪菜も笑うのだった。



 そこで横手から、ピヨピヨと鳥のさえずりが聞こえた。

 振り返ると、もじもじと遠慮がちな天草が、肩にアマビエを乗せて俯いているのだ。

「え、えっと……その、私もなぜかいるわけだけど」

 天草はもじもじしていた。もじもじもじもじ、もじもじしていた。

 鉄血の才女だとか、鎮西のジャンヌダルクとか呼ばれていたが、結局この人が一番恥ずかしがりなのだ。

 だからアマビエが代わりに呼びかけてきたというわけだ。

「その、お邪魔だったかな……?」

 恐る恐る尋ねる天草に、誠は首を振った。

「大歓迎ですよ、天草さんも、アマビエも」

「……良かった。ちゃんと確かめないとね」

 天草は安堵して微笑み、アマビエは嬉しそうに飛び回り始めた。

 平和になって霊力が回復し、エネルギーも満タンなのだ。

 彼?は天草の肩にとまり、キューティクル、とさえずった。
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