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第三章その4 ~手ごわいわ!~ ガンコ勇者の縁結び編
つるちゃんの大暴走2
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数時間後、コマ達は第2船団の応接室にいた。
長いお説教の甲斐あって、鶴は今のところ大人しく座っているが、念のため黒鷹が再確認していた。
「いいかヒメ子、第2船団も同じ内容で提案するから、今度は黙っててくれよ?」
「…………」
「今黙れって事じゃない、会談中に静かにしてろって事だよっ」
黒鷹がツッコミを入れると、鶴は長方形の厚紙に『任せて、こう見えて無口な性質よ』と書いて掲げた。よくクイズ番組で使われるフリップのようだ。
コマは内心ほんとかな、と怪しみつつ鶴を眺めるが、そこで大柄な青年が入室してきた。
「どうも、遅れてすみません。色々と長引いてしまって」
見上げるようながっしりした体躯で、日に焼けて精悍な顔立ち。名を船渡健児といい、嵐山と同じく神武勲章隊の創設期メンバーだった人物なのだ。
彼も体を傷めているのか、椅子に座る動作はかなりぎこちない。
「船渡さん、お久しぶりです。懐かしいですね」
「鳴瀬くんか。ずいぶんでかくなったなあ」
「それ船渡さんが言います?」
「確かに」
船渡は面白そうに歯を見せて、それから鶴に目を向けた。
「で、こちらが第5船団のお姫様ですか。四国や九州で凄い活躍をされたし、こっちでも敵の砦を撃破していただいて。何とお礼を申し上げればいいか」
鶴は無言のまま、優雅に頷いて紙を見せる。紙には『ホホホ、どういたしまして』と書いてあり、船渡氏は困って苦笑いした。
コマは鶴をフォローするべく船渡氏のひじ掛けに飛び移ると、前足を挙げて語りかけた。
「こんにちは船渡さん、僕は狛犬のコマ。鶴はちょっと喉が調子悪いみたいで」
「えっ、狛犬??? てか、犬が喋った!」
慌てる船渡に、黒鷹が慌てて付け足した。
「その、超かしこい犬種なんです!」
「えっ????? い、いや、それは凄いな。可愛いけど……」
船戸は少し戸惑っていたが、元々動物好きなのだろう。片手でコマを撫でてくれる。
船渡が和んだ表情を見せたので、コマは『今だ黒鷹!』とアイコンタクトを送った。
黒鷹も心得たもので『ヒメ子が暴走する前に勝負を決めるぞ!』とアイコンタクトを送り返す。
黒鷹は世間話もそこそこに、さっそく本題に取り掛かる。
「……というわけなんです。襲撃の原因が解決されるまで、第4船団と交流出来ない事は分かります。でもバラバラなままじゃディアヌスには勝てませんし、だからせめて決戦時だけでも、ご協力をお願いしたいんです。戦闘時の部隊配置も、第4船団とは離れた位置でお願い出来れば」
黒鷹の言葉に、船渡はゆっくり頷いた。
「……いや、君の言う通りだ。こちらとしても、君達がいれば士気がぐんと高まるだろうし。こちらでも決戦準備はしているが……対魔王の同盟は必要なんだろうな……たぶん」
黒鷹はぐっと片手で拳を握り、コマも前足を親指立てにして応えるが、そこでとんでもない事に気が付いた。
鶴が『嵐山さんは今でも好きですか?』と書いた紙を差し出したのだ。
船戸は思わず声を出した。
「うえっ!? あ、いや、何でも……ないんだが」
黒鷹が鶴の方を見ると、鶴はさっと紙を隠す。だが黒鷹が前を向くと、鶴は再び紙を差し出した。
今度は『嵐山さんはずっと待っていますよ』と書いてあり、船戸氏はうろたえてゴホゴホ咳き込み始めた。
黒鷹が鶴を見ると、鶴はまたさっと紙を降ろしてしまう。
船渡氏の様子がおかしいので、黒鷹は喋ると見せかけて再び鶴の方を向く。
今度は『嵐山さんを連れてきてもいいですか?』と書いてあり、黒鷹は驚いて目をむいた。
「こらヒメ子っ、さっきから何やってんだよ!」
「ええい、もうまどろっこしいのは苦手だわ!」
鶴は辛抱たまらん、とばかりに立ち上がると、腰に手を当てて船渡氏を指差す。
「お互い大好きなんでしょう? 好きならどうして結婚しないの?」
「ちょ、ちょっと鶴、開口一番ド直球を!」
コマは鶴の肩に飛び乗り、前足で口を塞ごうとするが、鶴はなおも食ってかかった。
「ええい、しゃらくさいわコマ、ここは愛戦士こと鶴ちゃんに任せなさい! さあお兄さん、覚悟を決めて!」
鶴に詰め寄られ、船戸氏は可愛そうなぐらい戸惑ってしまう。
「……いっ、いや、大人はそう簡単にいかないんだよ。自分さえよければってわけじゃないし……ていうか何で君達が知ってるんだ!?」
「じゃあ相手がOKならいいのね。大丈夫、さっき会ってきたけどバッチリだと思うわ。今連れてくるから少し待ってて」
「いっいや、ちょっと待った! そそそうだっ、お金だっているんだよ! 船団長ったって楽じゃないんだ。みんな命がけで戦ってるし、俺だけそんな……!」
「お金がかからないようにすればいいのよ。料理だって手作りでいいし。私はこう見えて神職の家系だから、祝言ぐらいやれるわ」
鶴はたちまち巫女服……つまり小袖の上に純白の千早を羽織り、緋色の袴をはいた姿に変わった。
鶴はすかさず全神連に連絡を取る。
「もしもしみんな、祝言の準備よ。強引に船団長をくっつけちゃいましょう!」
船戸氏は茹でダコみたいな顔色になりながら、たまらず手を上げて抗議した。
「い、いやちょっと待ってくれっ! やっぱりダメだ、駄目なんだっ!」
コマと誠は飛び上がり、急いで鶴を引っ張っていく。
「すっすみません船渡さん、ヒメ子がヒートアップしちゃって。頭を冷やしてまた出直してきますっ!」
黒鷹がそう言うも、鶴はまだぐいぐい引っ張って抵抗している。
「あの人もきっと助けを待ってるわよ! 大事なものは無くなってからじゃ遅いのよ!」
「こら鶴、いい加減にしなよ!」
コマ達は散々に苦労しながら、なんとか鶴を退出させた。
「な……何なんだ、全く……」
1人残された応接室で、健児はしばし呆然としていた。何が何だか理解不能だ。
どうして誰にも言ってなかったはずの、嵐山との交際を知られていたのだろう。もしかして本人から聞いたのだろうか?
いやまさか、あいつに限ってそんな……先日の会議だって、あんなにケンカ別れしたのに。
『あの人もきっと助けを待ってるわよ!』
鎧姿の少女の言葉が、ズドンと健児の胸に刺さる。まるで腰の入ったボディーブローだ。
『大事なものは無くなってからじゃ遅いのよ!』
ズドン、ズドンと心臓を打ち抜くパンチに翻弄されながら、健児は思わず胸を押さえた。苦しい……どうしていいか分からない。
だが項垂れる健児の視界の隅に、白い四角い物が動いた。
「うっ、うわっ!?」
健児が顔を上げると、それは先ほどの厚紙である。
あの鎧姿の少女が残した厚紙に手足が生え、健児の座る応接椅子を取り囲んでいるのだ。
「なっ、何だこいつら!?」
紙は健児の周りをぐるぐる回っていたが、そこでドアが開き、先ほどのコマとかいう狛犬が飛び込んできた。
「ごめんね船渡さん。鶴の念が残ってるから、軽く神器みたいになってるけど。元は普通の紙だから気にしないで」
コマは紙達の手を引き、無理やりに引っ張っていく。紙はしばし抵抗していたが、やがて部屋の外に連れて行かれた。
散歩から帰りたがらない犬とその飼い主みたいだが、回収してるのは犬?なので、何が何だか分からない。
「こらっ、言う事を聞いてよ」
ドアの外で、なおもコマの声がする。
「つ……疲れてるのかな。あんな幻覚を見るなんて……」
健児は腰を降ろし、手で顔を押さえたが、そこで机上の通信端末が鳴り響いた。
端末を取ると、そこには一人の青年の顔が映し出される。
歳は20代の後半程か。整った顔立ちで、肩に届くほど髪が長い。
「船渡船団長、よろしいでしょうか。新型の人型重機の起動試験において、ご確認したい事がありまして……」
「こ、これはイミナ添機の笹本さん」
健児は慌てて背筋を伸ばした。
戦況が悪化し、資金繰りが逼迫している第2船団において、最近急激に台頭してきた兵器開発企業であり、船団に大口援助をしてくれている相手なのだ。
「すぐに参ります」
健児は立ち上がると、足を引きずるようにして室外に出て行くのだった。
長いお説教の甲斐あって、鶴は今のところ大人しく座っているが、念のため黒鷹が再確認していた。
「いいかヒメ子、第2船団も同じ内容で提案するから、今度は黙っててくれよ?」
「…………」
「今黙れって事じゃない、会談中に静かにしてろって事だよっ」
黒鷹がツッコミを入れると、鶴は長方形の厚紙に『任せて、こう見えて無口な性質よ』と書いて掲げた。よくクイズ番組で使われるフリップのようだ。
コマは内心ほんとかな、と怪しみつつ鶴を眺めるが、そこで大柄な青年が入室してきた。
「どうも、遅れてすみません。色々と長引いてしまって」
見上げるようながっしりした体躯で、日に焼けて精悍な顔立ち。名を船渡健児といい、嵐山と同じく神武勲章隊の創設期メンバーだった人物なのだ。
彼も体を傷めているのか、椅子に座る動作はかなりぎこちない。
「船渡さん、お久しぶりです。懐かしいですね」
「鳴瀬くんか。ずいぶんでかくなったなあ」
「それ船渡さんが言います?」
「確かに」
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「で、こちらが第5船団のお姫様ですか。四国や九州で凄い活躍をされたし、こっちでも敵の砦を撃破していただいて。何とお礼を申し上げればいいか」
鶴は無言のまま、優雅に頷いて紙を見せる。紙には『ホホホ、どういたしまして』と書いてあり、船渡氏は困って苦笑いした。
コマは鶴をフォローするべく船渡氏のひじ掛けに飛び移ると、前足を挙げて語りかけた。
「こんにちは船渡さん、僕は狛犬のコマ。鶴はちょっと喉が調子悪いみたいで」
「えっ、狛犬??? てか、犬が喋った!」
慌てる船渡に、黒鷹が慌てて付け足した。
「その、超かしこい犬種なんです!」
「えっ????? い、いや、それは凄いな。可愛いけど……」
船戸は少し戸惑っていたが、元々動物好きなのだろう。片手でコマを撫でてくれる。
船渡が和んだ表情を見せたので、コマは『今だ黒鷹!』とアイコンタクトを送った。
黒鷹も心得たもので『ヒメ子が暴走する前に勝負を決めるぞ!』とアイコンタクトを送り返す。
黒鷹は世間話もそこそこに、さっそく本題に取り掛かる。
「……というわけなんです。襲撃の原因が解決されるまで、第4船団と交流出来ない事は分かります。でもバラバラなままじゃディアヌスには勝てませんし、だからせめて決戦時だけでも、ご協力をお願いしたいんです。戦闘時の部隊配置も、第4船団とは離れた位置でお願い出来れば」
黒鷹の言葉に、船渡はゆっくり頷いた。
「……いや、君の言う通りだ。こちらとしても、君達がいれば士気がぐんと高まるだろうし。こちらでも決戦準備はしているが……対魔王の同盟は必要なんだろうな……たぶん」
黒鷹はぐっと片手で拳を握り、コマも前足を親指立てにして応えるが、そこでとんでもない事に気が付いた。
鶴が『嵐山さんは今でも好きですか?』と書いた紙を差し出したのだ。
船戸は思わず声を出した。
「うえっ!? あ、いや、何でも……ないんだが」
黒鷹が鶴の方を見ると、鶴はさっと紙を隠す。だが黒鷹が前を向くと、鶴は再び紙を差し出した。
今度は『嵐山さんはずっと待っていますよ』と書いてあり、船戸氏はうろたえてゴホゴホ咳き込み始めた。
黒鷹が鶴を見ると、鶴はまたさっと紙を降ろしてしまう。
船渡氏の様子がおかしいので、黒鷹は喋ると見せかけて再び鶴の方を向く。
今度は『嵐山さんを連れてきてもいいですか?』と書いてあり、黒鷹は驚いて目をむいた。
「こらヒメ子っ、さっきから何やってんだよ!」
「ええい、もうまどろっこしいのは苦手だわ!」
鶴は辛抱たまらん、とばかりに立ち上がると、腰に手を当てて船渡氏を指差す。
「お互い大好きなんでしょう? 好きならどうして結婚しないの?」
「ちょ、ちょっと鶴、開口一番ド直球を!」
コマは鶴の肩に飛び乗り、前足で口を塞ごうとするが、鶴はなおも食ってかかった。
「ええい、しゃらくさいわコマ、ここは愛戦士こと鶴ちゃんに任せなさい! さあお兄さん、覚悟を決めて!」
鶴に詰め寄られ、船戸氏は可愛そうなぐらい戸惑ってしまう。
「……いっ、いや、大人はそう簡単にいかないんだよ。自分さえよければってわけじゃないし……ていうか何で君達が知ってるんだ!?」
「じゃあ相手がOKならいいのね。大丈夫、さっき会ってきたけどバッチリだと思うわ。今連れてくるから少し待ってて」
「いっいや、ちょっと待った! そそそうだっ、お金だっているんだよ! 船団長ったって楽じゃないんだ。みんな命がけで戦ってるし、俺だけそんな……!」
「お金がかからないようにすればいいのよ。料理だって手作りでいいし。私はこう見えて神職の家系だから、祝言ぐらいやれるわ」
鶴はたちまち巫女服……つまり小袖の上に純白の千早を羽織り、緋色の袴をはいた姿に変わった。
鶴はすかさず全神連に連絡を取る。
「もしもしみんな、祝言の準備よ。強引に船団長をくっつけちゃいましょう!」
船戸氏は茹でダコみたいな顔色になりながら、たまらず手を上げて抗議した。
「い、いやちょっと待ってくれっ! やっぱりダメだ、駄目なんだっ!」
コマと誠は飛び上がり、急いで鶴を引っ張っていく。
「すっすみません船渡さん、ヒメ子がヒートアップしちゃって。頭を冷やしてまた出直してきますっ!」
黒鷹がそう言うも、鶴はまだぐいぐい引っ張って抵抗している。
「あの人もきっと助けを待ってるわよ! 大事なものは無くなってからじゃ遅いのよ!」
「こら鶴、いい加減にしなよ!」
コマ達は散々に苦労しながら、なんとか鶴を退出させた。
「な……何なんだ、全く……」
1人残された応接室で、健児はしばし呆然としていた。何が何だか理解不能だ。
どうして誰にも言ってなかったはずの、嵐山との交際を知られていたのだろう。もしかして本人から聞いたのだろうか?
いやまさか、あいつに限ってそんな……先日の会議だって、あんなにケンカ別れしたのに。
『あの人もきっと助けを待ってるわよ!』
鎧姿の少女の言葉が、ズドンと健児の胸に刺さる。まるで腰の入ったボディーブローだ。
『大事なものは無くなってからじゃ遅いのよ!』
ズドン、ズドンと心臓を打ち抜くパンチに翻弄されながら、健児は思わず胸を押さえた。苦しい……どうしていいか分からない。
だが項垂れる健児の視界の隅に、白い四角い物が動いた。
「うっ、うわっ!?」
健児が顔を上げると、それは先ほどの厚紙である。
あの鎧姿の少女が残した厚紙に手足が生え、健児の座る応接椅子を取り囲んでいるのだ。
「なっ、何だこいつら!?」
紙は健児の周りをぐるぐる回っていたが、そこでドアが開き、先ほどのコマとかいう狛犬が飛び込んできた。
「ごめんね船渡さん。鶴の念が残ってるから、軽く神器みたいになってるけど。元は普通の紙だから気にしないで」
コマは紙達の手を引き、無理やりに引っ張っていく。紙はしばし抵抗していたが、やがて部屋の外に連れて行かれた。
散歩から帰りたがらない犬とその飼い主みたいだが、回収してるのは犬?なので、何が何だか分からない。
「こらっ、言う事を聞いてよ」
ドアの外で、なおもコマの声がする。
「つ……疲れてるのかな。あんな幻覚を見るなんて……」
健児は腰を降ろし、手で顔を押さえたが、そこで机上の通信端末が鳴り響いた。
端末を取ると、そこには一人の青年の顔が映し出される。
歳は20代の後半程か。整った顔立ちで、肩に届くほど髪が長い。
「船渡船団長、よろしいでしょうか。新型の人型重機の起動試験において、ご確認したい事がありまして……」
「こ、これはイミナ添機の笹本さん」
健児は慌てて背筋を伸ばした。
戦況が悪化し、資金繰りが逼迫している第2船団において、最近急激に台頭してきた兵器開発企業であり、船団に大口援助をしてくれている相手なのだ。
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