「ぼっち」が結ばれるわけがない!

前田 隆裕

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12話~打ち上げのお誘い~

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12話~打ち上げのお誘い~
 いろいろあった定期テストの最後の科目が終わった。

 初っぱなのテストは、予想したほどの難易度はなく、80、90は余裕で狙えるだろう。

 これでまた、忌々しい勉強会とはおさらばできる上に、時間に追われるような勉強ともしばらく距離を置くことができる。

 さらに、テスト終了当日の授業、部活、委員会はない。その日は午前中で帰ることができるという最高の日。生徒は皆、友達とどこへ遊びに行こうか打ち合わせをしている。
 ぼっちたる僕は、そんなものどこ吹く風。
 テスト期間中に発売された漫画の新刊や録りためていたアニメを一気に消化できると思うと心が弾ませた。

「は~い。皆さんテストお疲れ様でした!しっかり体を休めて来週に備えてください」

 おお、言われずともしっかり休みますとも。早く帰らせてください。

「あっそうそう、先生、みんなの初めての高校のテスト終了の打ち上げを開こうかと思っているのだけど、みんなどうかな?」

 ・・・・・・また余計なことを。聞かなかったことにして帰るか。
「お!いいですね」

「私も賛成です。みんなで行きましょうよ」

「それなら今日の夜で予約取っておきます」

 トントン拍子で話が進み、クラスの全体意思はもう打ち上げ決定ムードだ。

 だが、断固たる意思で僕は教室の扉へ手をかける。帰宅への足取りは軽い。さぁ脱出の時だ。

「前田君?どこに行こうとしているのかな?」

 花崎さんが僕の手をつかみ、脱出を阻む。ちょっと目が怖いのだが。他の生徒は先生と今晩の打ち上げの場所を決めるのに夢中で、こっちに注意が向いていないのは幸いだ。
 例外的に雪本さんだけがこちらを注視しているのが少し気になる。

「いや、なに、ただ帰ろうと」

「打ち上げあるのよ。前田君も行こっ!」

 最近?かどうかわからないが、どうも高校に入ってから"ケハイヲケス" が上手く働かない。空気として扱ってもらってかまわないのに、どうも困ったものだ。

「せっかくのお誘いありがたいですが、今回“は”ご遠慮させていただきます。またのご利用をお待ちしております」

「またのご利用ってATMか!?・・・・・・あ」

 圧倒的社交辞令的、機械的、マニュアル的言葉。本当は,今回“も”これから“も”ご遠慮したいのだがそこは言葉のアヤだ。今回“は”も連続で使えば同等の意味になる。さらに、そこに嫌です、拒絶します、の表情を添える。さぁつかんでいる手を離し、そこをどきなさい。
 
 丁重な(?)実力行使も辞さないですぞ。

「先生、前田君も行きますって!」

 花崎さんが大きな声で叫ぶ。・・・・・・問答無用で来いということか。クラスの注意がこちらに向く。先生がグッジョブのサイン。花崎さんもグッジョブのサインで返す。逃げ場を塞いでいく。なにか言い訳がないか。そうだ。

「でもいきなり40人の予約なんて取れる店があるんですか?」

 そんな店はない、からの、もっと予約は先になる、からの、フェードアウトを狙う。

「たしかにそうだな。調べてみた結果どうなった?」

 クラスのリーダー的存在男子が予約を調べている女子に声をかける。

「うーん、ないですね。打ち上げは金曜の夜ってこともあって、どこもいっぱいみたい」

 フフフ、いい流れだ。これはおじゃんになる。さて僕は帰るとしよう。

「あ~、みんな心配しないで。先生、いいお店知ってるから」

 先生が電話をかけ、『今日、40人お願いできる?あ、うんうん、ありがとう、じゃあ今晩、はい、はい』なんて言った後にOKのポーズ。クラス全員はガッツポーズで歓喜する。対比的に僕は落ち込む。

 テスト明けの開放感が嘘のようにしぼんでいく。

「そんなに行きたくねぇなら、行かなきゃいいじゃん」

 ふと、そんな大きな声が上がる。タロウだ。

「そうだそうだ、前田抜きで39人で予約しよう。先生!一人キャンセル」

 ヤジも飛ぶ。仲間はずれにしたいようだが、むしろありがとう!みんな。本音を聞けて僕もすっきりしたところだ。先生!一人キャンセル!

「え、ちょっとみんな待って!みんなで行こうよ。ほら、前田君も、せっかくの機会だしさ」

 花崎さんは必死にヤジに抵抗する。擁護しているようだが、いいよ、そんなに敵を作るような発言をしなくても。敵は僕一人で十分だ。

「花崎さんの気持ちもわかるけど、前田君、来てもつまんないだけだと思うよ」
 おお!よくぼっちの気持ちを分かっていらっしゃる。どなたか名前を覚えていないが、ナイスフォロー。
 
「そんなことないよ、きっとみんなと居れば」

「前田、ぼっちだしさ。一人が好きなんだろ。ほっとけよ」

「そんなこと言うなら、私も行かない!」

 周りがそれは嫌だという雰囲気に変わる。花崎さんはみんなの人気者だ。人当たりが良く、美人だと評判だ。きっと打ち上げでも盛り上げ役になるだろう。それが欠けたとなれば、メインディッシュのないフルコース料理だ。

「花崎さん、僕はいいから、行ってください」

「また、同じ事言うんだね」

「はい?」

「ううん、なんでもない。今度は私が守るから」

 まったくもって皆目見当が付かないが、花崎さんは賛成多数で打ち上げに参加、僕は反対多数で打ち上げ参加拒絶、僕本人も同意、それでいいじゃないか。民主主義、少数意見の尊重。万事よしではないか。

 そんな様子を見ていた先生は、呆れたように声を上げた。

「先生としても、みんなで行きたいですから、予約は40人。キャンセルはなし。キャンセルしたらキャンセル料は通常料金4000円の2倍!取りますからね!」

 学校は先生の独裁政権。鶴の一声で、その場の言い争いはひとまず終了。全員参加が決定した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 学校から帰ると、僕はキャンセルするか、出席するかで揺れていた。

 キャンセルしたとして2倍の料金だから、8000円を失う代わりに一人で過ごせる時間を得られる。出席したら食費代4000円と一人で過ごせる時間を失う。

 さらに過去の忌まわしい記憶もつきまとう。いや、そもそもただの食事になんで4000円も払わなければならないんだ。4000円もあれば3日から4日くらいの食費になるぞ。これは悩む。非っっ常に!悩む。

 そうこうしている間に、出発時間が刻々と迫ってきた。そして結論が出た。

「ぼっちの時間はお金より重い。というより場所も知らされてないし、いいや。さぁ悩んでいる時間がもったいない。マンガ、アニメ!マンガ、アニメ!」

 きっと場所はクラスラインとやらで流れているのだろう。相変わらずクラスラインに入っていない僕には情報はゼロ。鎖国状態だ。8,000円の出費は痛いが、まだ我慢できる。

 通販で買って、そのままになっていた大人買いマンガ一杯の段ボールを、もうそれはそれはワクワクしながら開けた。今日は夜までパーリーナイトだ。もちろん一人で。

 そんなとき、インターホンが鳴った。嫌な予感がした。

「あれ、雪本さん?」

「こんばんは、前田君。今日の打ち上げ、一緒に行きませんか?」

 モノトーンの服装でさりげないおしゃれ服で来た雪本さんに対し、僕は長袖長ズボンの超ゆったり完全自宅スタイル。というより外行きの服など持っていない。持っているのは最低限、買物や書店に出かけられる商店街特売服ぐらいだ。なんと上下併せて800円。しかも乾きやすくて丈夫。

「前田君!こんばんは、ありゃ?優月ちゃんもいる」

 花崎さんまで来た。これまた華やかな服で来たものだ。きっとクラスの注目の的になるだろう。

「なんで未来さんも来たんですか?」

「そっくりそのまま優月ちゃんに質問をお返しするよ」

「え!?その、私は・・・・・・っそう!先生に頼まれて!前田君と一緒にって」

「ふーん」

「なんですか。未来さんこそどうして」

「いやー私はね、ほっといたらキャンセルしそうだったからその予防と・・・・・・あと、やっぱり一緒に行きたかったからかな!」

 これ見よがしに僕・・・・・・というよりかは雪本さんに言葉をぶつけているようだ。雪本さんは白い肌をプクーっと膨らませて赤らめている。

「わっ、わたしも・・・・・・」

「んー?」

 なにか雪本さんがもごもごしているがいずれにせよ、もう僕の決心は付いている。

「せっかく来ていただいて申し訳ないですが、今回“は”欠席とさせていただきます。どうぞお二人で仲良くご出席いただければと思います」

 丁寧な敬語を並べ、丁重にお引き取り願おう。

「あれーそんなことしていいのかな?このままだと前田君のせいで二人とも欠席になっちゃって、二人のキャンセル料、前田君に請求しちゃうよ?当然だよね。だって前田君のせいだもの」

「理不尽だ!・・・・・・じゃない、理不尽です!」

「あの先生のことだから、きっと認めてくれるよ?」

「・・・・・・雪本さんもさすがにそんなことは・・・・・・?」

「私も前田君がいかないなら、キャンセルします」

「えぇ・・・・・・」

 頭の中でそろばんをはじく。キャンセル料一人当たり8000円。掛ける3人分だから24,000円。半月から一月分の食費が消し飛ぶ。一冊600円のマンガなら40冊分だ。これは看過できない。今後のぼっち生活を脅かしかねない出費だ。

「くっ・・・・・・わかりました。行きます。着替えます」

 二人でガッツポーズしている。花崎さん、なんだその作戦勝ちみたいな。雪本さんもそこまでほっとすることなのか?

 とりあえず薄手のパーカーをはおり、出発する。パーカーはいい。ポケットが一杯付いていて機能的だ。

「では行きましょうか」

 花崎さんは僕の装いをじろじろと吟味するように見ている。

「花崎さん、どうかしましたか?」

「うーん、今度前田君、一緒に服買いに行く?」

「え!?それなら私も行きます!」

「なんでまたそう予定を埋めようとしてくるんですか・・・・・・」

「ちなみに前田君って服はどこで買っていますか?」

「えー、商店街の特売で・・・・・・」
 花崎さんはともかく、雪本さんまで「あー」と言う声を上げている。なんだ、そのあーは。商店街の特売、安くて丈夫で、シンプルな物が多くていいのに。よくわからない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 案内されるがままに、僕と2人は打ち合わせ場所に到着した。

 花崎さんと僕のセットが、他の男性陣からしたら気に食わないようで邪険な視線を向けられる。

 あっ、傷ついた!帰ろう!

 きびすを返そうとすると花崎さんと雪本さんががっちり左右の腕を組み、僕の帰宅をブロックする。
 先生は僕が来たことにたいそううれしそうにしている。

「さて、今何人来てないですか?」

「あと6人来てないですね、先生」

「ありがとう、じゃあ集合時間まで15分あるからもう少し待ちましょうか」

 15分も待つのか!?いや、普通の15分ならいくらでも待てる。一人なら何時間でも待てるくらいだ。しかしこの15分、人混みの中の15分だ。しかも一応顔見知りの集団のなかの15分。

 これはぼっちには地獄だ。

 辺りはもう男女それぞれお仲間グループが複数できている。
 おお、いい雰囲気の男女もいるな。それにわいわい盛り上がっている。
 ぼっちは・・・・・・言わずもがな一人ベンチに腰掛け、ボーッとする気まずい時間である。

 何度も味わってきたこの時間、だから嫌なのだ。花崎さんはいろんなグループからお誘いがかかり忙しそうに、楽しそうに会話をしている。相変わらずすごい能力だ。きっと僕も含めて全員仲良く、みたいなのがモットーなんだろう。素晴らしいことだ。

 はぁっとため息をつくと隣に雪本さんがちょこっと座った。

「どうしたんですか?雪本さん、女子グループはあっちですよ」

「ううん、図書部グループはこっちです」

「たしかに本店と支店ですが、今日は本店休業中です。集まらなくても大丈夫です」

 しばらく間を置いた後、雪本さんはぽつりと話した。

「・・・・・・私、実はこういうの苦手なんです」

「まったくもって同感です」

 だったら欠席すればいいのに、と思ったが野暮なことだと思いやめた。出席するのがあたかも正しいことであるような環境下、それを他人に勧奨するのはよろしくない。

「人付き合いって周りに合わせたり、嫌われたくなくて気をつかい過ぎちゃって、疲れてしまうんです。でもぼっちは嫌で、これって欲張りですよね」

「欲張り・・・・・・か。言われてみたら周りにも好かれて、自分も楽しくてってずいぶん贅沢なことなのかもしれないですね」

 いやそれが贅沢と感じるのはぼっちの僕くらいなのかもしれない。みんなは贅沢でも何でもなく、それが当たり前の日常なのかもしれない。

 それに、きっと雪本さんのような葛藤が普通なのだ。だれかとつながりたい、それはSNSの隆盛からも人間の根源的欲求であるのだろう。
 対して僕は人付き合いが嫌になりすぎて、ぼっちを貫く。嫌う者を好きになる必要はない。向こうが拒絶するならこちらも拒絶する。嫌いたければ嫌えばいい。

 そして、未来。嫌った者をあざ笑えるほどのパワーを・・・・・・なんて思っているが、おそらく少数派なのだろう。そんな世間一般で言うところの普通だったであろう頃は、もうとうに通り越し、ひねくれまくった僕はこんな打ち上げなどに参加している場合ではないのだ。

「でも私たちが欲張りだなーって思うことを簡単にやっちゃう未来さんってすごいですよね。社交的で、みんなと仲良くできて」

「同感です」

「前田君も、ああいうのがいいですか?」

「ああいうの?単純にすごいなーと思いますが・・・・・・」

「思いますが?」

「・・・・・・突っ込んできますね」

「はい、突っ込みます」

 目が本気だ。普段あまり目を合わさない雪本さんがしっかりこちらの目を見てくる。なんだろうとじっと見返していると、顔を赤くして目をそらしてしまった。僕の経験則辞典から「うわっキモッ」と次の言葉が推測されたが、顔を赤くしたままカチカチに固まってしまった。見たことない反応だな。

「みなさーん、全員そろいました!お店に向かいましょう!」

 先生の号令があり、ふと時計を見るともう15分たっていた。地獄の15分がこんなに早く終わるのは、ひさしぶりだった。
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