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14話~言葉は紡ぐ人によって意味が変わる~
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14話~言葉は紡ぐ人によって意味が変わる~
ぼっちがよく行く店として、必ずと言っていいほどランキング上位に位置するものは本屋だと思う。
本はいい。文庫本やライトノベル、マンガはたった500円~700円程度で笑い、感動、怒り、悲しみ、喜びを何度も提供してくれる。本を読んでいるとき、人は外界から切り離され、別世界へ入り込める。他人のジャマは入らない。ぼっち究極の娯楽だ。
そんな僕の憩いの場に、余計な付属物が片腕にひっついている。僕が立ち読みにふけっているときに、隣で同じ本を読み始め、どんな本かと手に取れば、「前田君ってそんな本が好きなんだ~」「うわ、物理学?難しそー」とかコメントを挟んでくる付属物だ。
「花崎さんは本、読まないんですか?」
読むと言えば、普段読んでいる本のコーナーへ追っ払えばいい。読んでいないと言えば、ここに居てもつまらないだろうからと追っ払えばいい。さぁなんて答える。
「うーん、本っていうより、読むのは雑誌くらいかな~」
「ああ!それなら雑誌のコーナーはあっちですよ!」
「どうしてそんなにうれしそうなのかは置いといて・・・・・・今は前田君が読んでいる本が見たい気分かな。その・・・・・・気になるし」
いやいやいや、気になられても困る。僕はぼっちだ。本の紹介経験など皆無だ。誰かに本を薦めるようなレビュアーを求めるなら、アマゾンなりラクテンなりの星の数でも数えていればいい。まったくよくわからん。立ち読みに集中できない。
そうこうしているうちに蛍の光が流れ始めた。
「もう今日は閉店みたいだから、帰りましょうか」
「一緒に帰ろうーってそんなに嫌そうな顔しない!」
また腕をがっちり捕まれて、逃亡防止を図る花崎さん。雌伏の富んだ体が僕の腕にぴったりとくっつく。柔らかい重しってとこか。外野からは「チッ、イチャイチャしやがって、このカップルが」と舌打ちまで受ける。今日は踏んだり蹴ったりだ。
「ねぇ~私たちカップルだって~ニヤニヤ」
「はいはいcouple。意味は一組」
「そうだけど!別の意味もあるでしょ」
「一対の存在、二人」
「それもそうだけども!ほら、恋人同士ってこと。わたしから言わせないでよ」
しばらく間が空く。花崎さんは気まずそうに顔を赤らめてもじもじしている。
「なんで?」
「なんで!?新鮮な反応なんだけど。それに普通ならもっとデレてくれるんだけどおかしいな。あっ、前田君はもうこのときからピュアな心は失われてしまったのね、悲しいわ、ヨヨヨ」
さっきの顔を真っ赤にした表情は、遙か彼方に消え去っていた。顔を真っ赤にする花崎さんは、いつもすました顔で八方美人の様子からすればずいぶんなレア表情だ。写真に撮ってクラスの男子に売れば狂喜乱舞しただろうに。もったいない。
「花崎さん百面相なんて、売れると思うんですがね」
「え!?」
しまった。つい言葉が漏れた。
「あっいや、なんでもないです」
「・・・・・・」
圧倒的社交辞令的会話を信条とする僕として痛恨のミスだ。この発言は気持ち悪すぎる。イケてる系男子が言えば絵にもなる。ラブコメにもなる。だがコミュ障ぼっちの僕が言えば気持ち悪いだけだ。政治家のお得意技「先日の発言は撤回させていただきます」は通用しないのが日常会話。これは嫌われたな。いや、別に嫌われてもかまうことはないが、この事実はクラス全員に広まり、安定のぼっち生活3年間が害されるのが問題だ。
「前田君は私の百面相、買ってくれる?」
「買いません!絶対買わないので!」
全否定だ。僕は興味ない。それは事実だ。そのことを前面にアピールしよう。百面相が売れるほど花崎さんはみんなの人気者だといいたかったと伝えよう。
「そ、そう・・・・・・」
「百面相が売れると思うくらい、花崎さんはみんなの人気者だと思っただけです」
「それくらい私が可愛いと思ったってこと?」
「そうですね」
「雪本さんよりも?」
なぜそこで雪本さんが出てくるのかわからないが、それよりもぐいぐい来るのはどうしてだろうか。ぼっちの僕を殺す気か。
「そういうのは比べる物ではないです」
どちらを選んでも火種を撒く未来しか見えない。それなら正解は比較をしないこと、そもそも答えないことだ。
「それもそうだね。ごめん、ちょっと熱くなり過ぎちゃった」
よかった。引き下がってくれたようだ。
「あっでも、私のこと可愛いと思ってくれたことはずっと覚えておくから」
「好きにしてください」
「ふふふ、じゃあ、帰ろっ!」
僕は結局、花崎さんに引きずれられるようにしながら、二人で帰るはめになった。本屋から離れると、段々と街灯は途切れ途切れになり、月明かりが際立つ。今日は満月、星はない。
「ねぇ、『月がきれいですね』って言わないの?」
「そうですね、確かにきれいですね」
「それって!?」
「断っておきますが、夏目漱石的意味は皆無です」
「知ってたか・・・・・・大将は変わらないね」
花崎さんは時々僕がわからない遠い視線で物を語るときがある。そもそもぼっちの僕に絡むこと自体がまずおかしい。
「前から思っていましたけど、大将ってなんですか?」
「ナイショ!」
「前に言ってた、未来から来たってのはなんですか?」
「それもナイショ!秘密があった方が、私のこと気になっちゃうでしょ?」
「いや」
「え~」
追及しても、何も答えてはくれない。まぁ知ろうが知りまいが僕にとってはどっちでもいいことだ。なによりも安定のぼっち生活が害されなければそれでいい。いや、もう高校に入ってからというもの害されまくりだが、いつか時間が解決してくれるだろう。
きっと花崎さんは物好きなのだ。いつか飽きて、離れていく。雪本さんも同様だ。今は雪本さんに友達がおらず、消極的に僕を選択しているだけで、いつか他に友達ができれば必ず離れていくだろう。それまでの辛抱だ。
駅に着いた。ようやく離れられると思ったら同じ電車同じ方向だと言うので肩を落としながら二人でホームに並んだ。通勤ラッシュはもう終わり、ホームは閑散としている。この無言の間が続くぐらいなら、二人で並ぶ前に、車両を別々にした方がよかったと思い後悔した。
そしてつい、本音が漏れた。
「つまらないですよね」
「前田君?急にどうしたの?」
「花崎さんはみんなの人気者です。僕は違います」
「いや、前田君だって」
「花崎さんは、みんなで仲良くと思っているのかもしれません。それは大事なことだと思います。ですが、それは余計なお世話です。僕は一人でいたい。これまでも、これからもずっと。だからそんな気遣いはいらない。そんな『仕事』はする必要はない。僕にとらわれず、自由にやったらいい。正直・・・・・・うっとうしい」
最後の言葉は少し詰まった。だが、今も残るこれまでの軌跡、ずっと昔の記憶がそれを押し出した。
「全部がうっとうしい」
花崎さんは黙ってうつむいている。しかし、その手は固く握りしめワナワナと震えていた。僕はさらに言葉をたたみかけた。この関係は今日で終わりだ。
「そんな・・・・・・そんな寂しいことを言わないでよ。気遣いとか、仕事とか、私は・・・・・・そんなつもりじゃない。どうして伝わらないの!」
その時、ふいに金髪の男がパチパチパチと手をたたきながらこちらに向かってきた。ホームに上がったとき、こんな目立つような男はいなかった。どうしてか、この世の者ではないかのような違和感を感じた。
「いやー修羅場ってるね~、ハハッ、いい感じだ」
その時、花崎さんの顔がさーっと青くなっていくのがわかった。いかにもチャラそうな、しかし男子から見ても相当な金髪イケメン男だ。
「・・・・・・っ、なんであんたがここにいんのよ!」
「偶然、かな?」
キラッキラの笑顔を浮かべる彼の姿は、ホームに上がってきた女子高生達からキャーという黄色い声援を発生させるには十分であった。
僕のようなコミュ障ぼっちが「偶然」と言えば黄色い声援ではなくパトカーのサイレンが鳴る。
他人事のように考える僕とはよそに、花崎さんは恐怖に陥っていた。呼吸は乱れ、ガタガタ震えている。あまりにも異常だ。
「待って!私がちゃんとやるから!」
「君じゃ力不足だったようだね。時間切れ。じゃあね~」
ひょうひょうとした雰囲気がほんの一瞬殺気に満ちた。そしてその瞬間、花崎さんの足を蹴り飛ばし、踏みつけ、ホームから蹴落とした。人間としてはあり得ないくらいのスピードである。
「顔は勘弁しといてやるよ。君、顔はいいからな。かわいい顔のままで死ねてよかったな。・・・・・・あっ、あとお前も死んどけ」
そう言うと僕の方にナイフを持って突っ込んできた。
「うつぶせ」
金髪イケメン男の頭を地面にたたきつけるように力を行使した。どんなに素早くても常時防御態勢であれば何の問題はない。さぁ警察だな。お縄に付きやがれ。
辺りを見回すと、さっきまで黄色い声援を送っていたビクビク震えている女子高生二人組しかない。あの調子では通報は無理そうだ。力を緩めるわけにはいかない。どうしたものか。
「俺にかまってていいのか?あいつ、死ぬぞ?」
『まもなく、電車が参ります』という音声がこれほどまでに恐怖を感じさせた事はない。
「そこの女子高生二人!はやく緊急停止ボタン!」
ダメだ。あいつら二人はもう動けない。間に合わない!
その瞬間、僕はホームに飛び出していた。電車の警笛が鼓膜を突き破る勢いで鳴り響く。電車が切る空気が僕の体を打ち付ける。背中に熱いものを感じた。熱い液体が流れ落ちているのを感じた。違和感から痛みに変わった。
「前田君!ダメ!」
鉄と鉄がすれる音が静かな夜をつんざき、摩擦による火花が散る。
制動距離を抑えろ。もう、僕のせいで、死なせたくない!
電車は花崎さんとの間人一人分の距離で止まった。電車の先頭部分は僕の手形でへこみ、異様な形をしていた。エネルギー不十分なまま力を行使した反動か、全身が折れそうだ。
「あはっ!あいつバケモンだろ」
僕は金髪男に線路の石に最後の力を出し切って、拳銃のごとく射出した。
「おお怖い怖い。でも俺も時間切れだわ」
金髪男はそう言葉を残すと、爆発し砂になった。石は空中を切った。
「前田君・・・・・・ごめん、ごめんなさいごめんなさい・・・・・・っ」
花崎さんは僕の側、線路の上で泣いていた。うっとうしい付属物だったはずだ。それを自分自身を傷つけてまで守った行動と言動の自己矛盾に苦しむ。あの日の後悔を二度と起こさないために、人との関係を捨てた。いつか失われるのを恐れて人との関係を捨てた。そしてぼっちになった。だが、今になってなぜこんなことをしたのか。うっとうしいものをどうしてわざわざ救った?
一番腑に落ちる言葉を探す。
「いいって。ただの人助け。ただの社交辞令だから」
「うっとうしいって・・・・・・それなのにどうして」
「だから社交辞令」
「本当にそう・・・・・・なの?」
ああ、そうだ。それが僕が出した答えだ。しかし僕は声に出して応ずる事ができなかった。
「・・・・・・ぅ・・・・・・ぅ、こわ・・・・・・っ、こわかった」
しゃくり上げながらむせび泣く花崎さんの様子は、八方美人の顔ではなく感情そのものをあらわにした、正直みっともない顔だ。それに僕の体をこれまでにないくらい強く抱きしめている。本屋でつかんだ腕の比ではない。まだ花崎さんの体は震えていた。それが過去の僕と重なった。
「え・・・・・・っ、前田君!?んっ!」
僕は抱き返していた。コミュ障ぼっちがやったらキモい!ウザい!からの110番。イケメン集団がやれば、マンガのコマに花畑が描かれる見せ場シーン。
「落ち着きな。もう大丈夫だから。ほら、電車は止まった、あいつもいない。オールグリーン」
「・・・・・・うん。ありがとう」
震えが止まったようだ。
二人組の女子高生は今になって我に返り、非常停止ボタンを押した。
「僕も疲れたな」
視界がすぅっと暗転していった。抱きしめていた腕の力が抜けていく。だらりと体が地面に吸い付くように力が抜けていく。重力にあらがえない。遠のく意識の中で、ようやく事の重大さに気付いた駅員が騒いでいる。
「前田君?前田君・・・・・・っ!?、ねぇ、起きてよ!目を開けてよ!ほらっ、月がきれいだよ。すごく月がきれいなんだよ・・・・・・だから、目を開けて。また、私を置いてかないでよ・・・・・・ぅ」
ああ、花崎さんもそんなに泣かないで。人気者じゃない、ただのぼっちが一人消えるだけだから。
・・・・・・何か温かいものが触れた。そして、完全に僕は闇にとらわれた。
ぼっちがよく行く店として、必ずと言っていいほどランキング上位に位置するものは本屋だと思う。
本はいい。文庫本やライトノベル、マンガはたった500円~700円程度で笑い、感動、怒り、悲しみ、喜びを何度も提供してくれる。本を読んでいるとき、人は外界から切り離され、別世界へ入り込める。他人のジャマは入らない。ぼっち究極の娯楽だ。
そんな僕の憩いの場に、余計な付属物が片腕にひっついている。僕が立ち読みにふけっているときに、隣で同じ本を読み始め、どんな本かと手に取れば、「前田君ってそんな本が好きなんだ~」「うわ、物理学?難しそー」とかコメントを挟んでくる付属物だ。
「花崎さんは本、読まないんですか?」
読むと言えば、普段読んでいる本のコーナーへ追っ払えばいい。読んでいないと言えば、ここに居てもつまらないだろうからと追っ払えばいい。さぁなんて答える。
「うーん、本っていうより、読むのは雑誌くらいかな~」
「ああ!それなら雑誌のコーナーはあっちですよ!」
「どうしてそんなにうれしそうなのかは置いといて・・・・・・今は前田君が読んでいる本が見たい気分かな。その・・・・・・気になるし」
いやいやいや、気になられても困る。僕はぼっちだ。本の紹介経験など皆無だ。誰かに本を薦めるようなレビュアーを求めるなら、アマゾンなりラクテンなりの星の数でも数えていればいい。まったくよくわからん。立ち読みに集中できない。
そうこうしているうちに蛍の光が流れ始めた。
「もう今日は閉店みたいだから、帰りましょうか」
「一緒に帰ろうーってそんなに嫌そうな顔しない!」
また腕をがっちり捕まれて、逃亡防止を図る花崎さん。雌伏の富んだ体が僕の腕にぴったりとくっつく。柔らかい重しってとこか。外野からは「チッ、イチャイチャしやがって、このカップルが」と舌打ちまで受ける。今日は踏んだり蹴ったりだ。
「ねぇ~私たちカップルだって~ニヤニヤ」
「はいはいcouple。意味は一組」
「そうだけど!別の意味もあるでしょ」
「一対の存在、二人」
「それもそうだけども!ほら、恋人同士ってこと。わたしから言わせないでよ」
しばらく間が空く。花崎さんは気まずそうに顔を赤らめてもじもじしている。
「なんで?」
「なんで!?新鮮な反応なんだけど。それに普通ならもっとデレてくれるんだけどおかしいな。あっ、前田君はもうこのときからピュアな心は失われてしまったのね、悲しいわ、ヨヨヨ」
さっきの顔を真っ赤にした表情は、遙か彼方に消え去っていた。顔を真っ赤にする花崎さんは、いつもすました顔で八方美人の様子からすればずいぶんなレア表情だ。写真に撮ってクラスの男子に売れば狂喜乱舞しただろうに。もったいない。
「花崎さん百面相なんて、売れると思うんですがね」
「え!?」
しまった。つい言葉が漏れた。
「あっいや、なんでもないです」
「・・・・・・」
圧倒的社交辞令的会話を信条とする僕として痛恨のミスだ。この発言は気持ち悪すぎる。イケてる系男子が言えば絵にもなる。ラブコメにもなる。だがコミュ障ぼっちの僕が言えば気持ち悪いだけだ。政治家のお得意技「先日の発言は撤回させていただきます」は通用しないのが日常会話。これは嫌われたな。いや、別に嫌われてもかまうことはないが、この事実はクラス全員に広まり、安定のぼっち生活3年間が害されるのが問題だ。
「前田君は私の百面相、買ってくれる?」
「買いません!絶対買わないので!」
全否定だ。僕は興味ない。それは事実だ。そのことを前面にアピールしよう。百面相が売れるほど花崎さんはみんなの人気者だといいたかったと伝えよう。
「そ、そう・・・・・・」
「百面相が売れると思うくらい、花崎さんはみんなの人気者だと思っただけです」
「それくらい私が可愛いと思ったってこと?」
「そうですね」
「雪本さんよりも?」
なぜそこで雪本さんが出てくるのかわからないが、それよりもぐいぐい来るのはどうしてだろうか。ぼっちの僕を殺す気か。
「そういうのは比べる物ではないです」
どちらを選んでも火種を撒く未来しか見えない。それなら正解は比較をしないこと、そもそも答えないことだ。
「それもそうだね。ごめん、ちょっと熱くなり過ぎちゃった」
よかった。引き下がってくれたようだ。
「あっでも、私のこと可愛いと思ってくれたことはずっと覚えておくから」
「好きにしてください」
「ふふふ、じゃあ、帰ろっ!」
僕は結局、花崎さんに引きずれられるようにしながら、二人で帰るはめになった。本屋から離れると、段々と街灯は途切れ途切れになり、月明かりが際立つ。今日は満月、星はない。
「ねぇ、『月がきれいですね』って言わないの?」
「そうですね、確かにきれいですね」
「それって!?」
「断っておきますが、夏目漱石的意味は皆無です」
「知ってたか・・・・・・大将は変わらないね」
花崎さんは時々僕がわからない遠い視線で物を語るときがある。そもそもぼっちの僕に絡むこと自体がまずおかしい。
「前から思っていましたけど、大将ってなんですか?」
「ナイショ!」
「前に言ってた、未来から来たってのはなんですか?」
「それもナイショ!秘密があった方が、私のこと気になっちゃうでしょ?」
「いや」
「え~」
追及しても、何も答えてはくれない。まぁ知ろうが知りまいが僕にとってはどっちでもいいことだ。なによりも安定のぼっち生活が害されなければそれでいい。いや、もう高校に入ってからというもの害されまくりだが、いつか時間が解決してくれるだろう。
きっと花崎さんは物好きなのだ。いつか飽きて、離れていく。雪本さんも同様だ。今は雪本さんに友達がおらず、消極的に僕を選択しているだけで、いつか他に友達ができれば必ず離れていくだろう。それまでの辛抱だ。
駅に着いた。ようやく離れられると思ったら同じ電車同じ方向だと言うので肩を落としながら二人でホームに並んだ。通勤ラッシュはもう終わり、ホームは閑散としている。この無言の間が続くぐらいなら、二人で並ぶ前に、車両を別々にした方がよかったと思い後悔した。
そしてつい、本音が漏れた。
「つまらないですよね」
「前田君?急にどうしたの?」
「花崎さんはみんなの人気者です。僕は違います」
「いや、前田君だって」
「花崎さんは、みんなで仲良くと思っているのかもしれません。それは大事なことだと思います。ですが、それは余計なお世話です。僕は一人でいたい。これまでも、これからもずっと。だからそんな気遣いはいらない。そんな『仕事』はする必要はない。僕にとらわれず、自由にやったらいい。正直・・・・・・うっとうしい」
最後の言葉は少し詰まった。だが、今も残るこれまでの軌跡、ずっと昔の記憶がそれを押し出した。
「全部がうっとうしい」
花崎さんは黙ってうつむいている。しかし、その手は固く握りしめワナワナと震えていた。僕はさらに言葉をたたみかけた。この関係は今日で終わりだ。
「そんな・・・・・・そんな寂しいことを言わないでよ。気遣いとか、仕事とか、私は・・・・・・そんなつもりじゃない。どうして伝わらないの!」
その時、ふいに金髪の男がパチパチパチと手をたたきながらこちらに向かってきた。ホームに上がったとき、こんな目立つような男はいなかった。どうしてか、この世の者ではないかのような違和感を感じた。
「いやー修羅場ってるね~、ハハッ、いい感じだ」
その時、花崎さんの顔がさーっと青くなっていくのがわかった。いかにもチャラそうな、しかし男子から見ても相当な金髪イケメン男だ。
「・・・・・・っ、なんであんたがここにいんのよ!」
「偶然、かな?」
キラッキラの笑顔を浮かべる彼の姿は、ホームに上がってきた女子高生達からキャーという黄色い声援を発生させるには十分であった。
僕のようなコミュ障ぼっちが「偶然」と言えば黄色い声援ではなくパトカーのサイレンが鳴る。
他人事のように考える僕とはよそに、花崎さんは恐怖に陥っていた。呼吸は乱れ、ガタガタ震えている。あまりにも異常だ。
「待って!私がちゃんとやるから!」
「君じゃ力不足だったようだね。時間切れ。じゃあね~」
ひょうひょうとした雰囲気がほんの一瞬殺気に満ちた。そしてその瞬間、花崎さんの足を蹴り飛ばし、踏みつけ、ホームから蹴落とした。人間としてはあり得ないくらいのスピードである。
「顔は勘弁しといてやるよ。君、顔はいいからな。かわいい顔のままで死ねてよかったな。・・・・・・あっ、あとお前も死んどけ」
そう言うと僕の方にナイフを持って突っ込んできた。
「うつぶせ」
金髪イケメン男の頭を地面にたたきつけるように力を行使した。どんなに素早くても常時防御態勢であれば何の問題はない。さぁ警察だな。お縄に付きやがれ。
辺りを見回すと、さっきまで黄色い声援を送っていたビクビク震えている女子高生二人組しかない。あの調子では通報は無理そうだ。力を緩めるわけにはいかない。どうしたものか。
「俺にかまってていいのか?あいつ、死ぬぞ?」
『まもなく、電車が参ります』という音声がこれほどまでに恐怖を感じさせた事はない。
「そこの女子高生二人!はやく緊急停止ボタン!」
ダメだ。あいつら二人はもう動けない。間に合わない!
その瞬間、僕はホームに飛び出していた。電車の警笛が鼓膜を突き破る勢いで鳴り響く。電車が切る空気が僕の体を打ち付ける。背中に熱いものを感じた。熱い液体が流れ落ちているのを感じた。違和感から痛みに変わった。
「前田君!ダメ!」
鉄と鉄がすれる音が静かな夜をつんざき、摩擦による火花が散る。
制動距離を抑えろ。もう、僕のせいで、死なせたくない!
電車は花崎さんとの間人一人分の距離で止まった。電車の先頭部分は僕の手形でへこみ、異様な形をしていた。エネルギー不十分なまま力を行使した反動か、全身が折れそうだ。
「あはっ!あいつバケモンだろ」
僕は金髪男に線路の石に最後の力を出し切って、拳銃のごとく射出した。
「おお怖い怖い。でも俺も時間切れだわ」
金髪男はそう言葉を残すと、爆発し砂になった。石は空中を切った。
「前田君・・・・・・ごめん、ごめんなさいごめんなさい・・・・・・っ」
花崎さんは僕の側、線路の上で泣いていた。うっとうしい付属物だったはずだ。それを自分自身を傷つけてまで守った行動と言動の自己矛盾に苦しむ。あの日の後悔を二度と起こさないために、人との関係を捨てた。いつか失われるのを恐れて人との関係を捨てた。そしてぼっちになった。だが、今になってなぜこんなことをしたのか。うっとうしいものをどうしてわざわざ救った?
一番腑に落ちる言葉を探す。
「いいって。ただの人助け。ただの社交辞令だから」
「うっとうしいって・・・・・・それなのにどうして」
「だから社交辞令」
「本当にそう・・・・・・なの?」
ああ、そうだ。それが僕が出した答えだ。しかし僕は声に出して応ずる事ができなかった。
「・・・・・・ぅ・・・・・・ぅ、こわ・・・・・・っ、こわかった」
しゃくり上げながらむせび泣く花崎さんの様子は、八方美人の顔ではなく感情そのものをあらわにした、正直みっともない顔だ。それに僕の体をこれまでにないくらい強く抱きしめている。本屋でつかんだ腕の比ではない。まだ花崎さんの体は震えていた。それが過去の僕と重なった。
「え・・・・・・っ、前田君!?んっ!」
僕は抱き返していた。コミュ障ぼっちがやったらキモい!ウザい!からの110番。イケメン集団がやれば、マンガのコマに花畑が描かれる見せ場シーン。
「落ち着きな。もう大丈夫だから。ほら、電車は止まった、あいつもいない。オールグリーン」
「・・・・・・うん。ありがとう」
震えが止まったようだ。
二人組の女子高生は今になって我に返り、非常停止ボタンを押した。
「僕も疲れたな」
視界がすぅっと暗転していった。抱きしめていた腕の力が抜けていく。だらりと体が地面に吸い付くように力が抜けていく。重力にあらがえない。遠のく意識の中で、ようやく事の重大さに気付いた駅員が騒いでいる。
「前田君?前田君・・・・・・っ!?、ねぇ、起きてよ!目を開けてよ!ほらっ、月がきれいだよ。すごく月がきれいなんだよ・・・・・・だから、目を開けて。また、私を置いてかないでよ・・・・・・ぅ」
ああ、花崎さんもそんなに泣かないで。人気者じゃない、ただのぼっちが一人消えるだけだから。
・・・・・・何か温かいものが触れた。そして、完全に僕は闇にとらわれた。
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「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
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