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5話 出動要請
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神獣の召喚から数日後、俺は冒険者になるべく必要なものを揃えようと準備していた。
冒険者の生業としては様々な業種が存在する。
薬品や武器や防具を作成するために必要な素材を収集する者。
居住区や郊外に出現する魔物を狩る仕事をする者。
秘宝が眠るダンジョンや未開の地を踏破し、開拓の先駆けを作る者。
この他にもいくつか冒険者と呼ばれる業種があるが、そのどれもが確定した身分を持つわけではない。
冒険者と呼ばれることはあるが、定職として冒険者という身分が存在するわけではないのだ。
その代わりとして冒険者は登録行為などの手順は存在せず、誰でも自由に行うことができるのが利点である。
それを管理しているのは国によって様々だが、ここアトラス王国及び管轄の周辺町村では派遣型傭兵団『ディスパーズ』が依頼の仲介を管理している。
ここへ行けば素材や秘宝といったものの取り引きも行なってもらえるというわけだ。
そしてこの国にいる冒険者の多くは傭兵団に所属しているケースが多い。
今でこそ戦争はあまり起きていないが、少し前には近隣諸国との領土問題で幾度か小競り合いが起きていた。
その際に駆り出されるのは国の治安を維持するための憲兵と選りすぐりのエリート集団である騎士団は当然だが、それだけでは人が足りない。
本国の守りや治安を維持するためにも必要最低限の人数は残して置かなければならない。
そこで必要とされたのが傭兵の存在だ。
国からの要請で支援を受け、登録している傭兵に募集を掛けて戦地に赴かせるというものである。
国としても本国の守りを手厚くし、裏切る恐れのある傭兵を戦地で戦わせることで寝首を掻かれる心配もない。
さらに傭兵は冒険者と違い身分がしっかりとしている。仕事の無い人はとりあえず傭兵に登録しておき、戦争が無い時には冒険者として稼ぎをする。
なのでこの国にいるいわゆる冒険者と呼ばれる人の多くは傭兵団に所属している人が多いのだ。
しかしながらもちろんデメリットはある。
傭兵団から招集がかかった時は必ず参加しなければならない。
もしも招集に応じなかった場合は傭兵としての身分を剥奪され、それどころか傭兵団の管理する建物の出入りを禁止される。
つまり事実上この国での冒険者活動も出来なくなるということだ。
万が一、長期間国から離れる場合は事前に申請をしておかなければならない。
中々に面倒くさいのである。
そんなわけで俺は冒険者として活動はするが、傭兵として登録するつもりはない。
生活できるかどうかは自分次第になるが自分の選んだ道だ、後悔はするまい。
買い出しで露店街を散策していると偶然にもリオナに出会った。
それに嫌な奴も。
「おや?おやおやおや?そこにいるのは落ちこぼれが確定してしまったトリガー君じゃないか!調子はどうだい!?」
「お前に会うまでは最高だったよ」
ウザさに拍車が掛かったエルロンドだ。
正直会いたくはなかったな。
「アルも買い物?」
「まぁな。そっちは二人で何を……」
「僕達はホラ、騎士団入団前だからぁ?色々揃えるものがあるんだよなぁ。セオフィリオ学園からは僕達しか入団しないわけだし、せっかくということで」
そう言ってリオナの肩を引き寄せるエルロンドを見て、心の底からムカムカとした感情が上がってくるようだった。
「やめてよエルロンド。あなたが勝手に付いてきただけでしょ」
そう言ってリオナは肩に置かれていたエルロンドの手をはたいた。
「ふっ、照れ隠しする必要なんかないのにな」
「はぁ……。アルはいつ頃出て行く予定なの?」
「早くても来週には」
「行く前、必ず私に連絡してね。お見送りしたいから」
「ああ」
「お前に行くところなんてあるのか?トリガー。家畜小屋とかがお似合いなんじゃないか?」
「そういうことならお前の屋敷に行かせてもらうよ」
「どういう意味だ!!」
どういう意味も何もそういう意味だ。
「僕は騎士団で神獣を最強になるまでレベルアップさせてやる。いくらトリガーが僕より剣術が出来るからといっても、神獣一つで状況は一変するんだよ」
「はいはい、分かった分かった」
「適当に流してんじゃねーよ!!」
とはいえエルロンドの言うことは正しい。
この世界では神獣が全て。
その点で言えば騎士団は神獣を育てるのに最も適した環境だ。
憲兵も騎士団と同じ国に仕える兵士という区分だが、国内の治安を守るために活動するため神獣の出番はさほど多くはない。
その点騎士団は神獣に選ばれしエリート集団で、国の最強の矛でもあり盾でもある。
なので有事の際に備えて普段から神獣をレベルアップさせるための活動を行う。
時には魔物狩りに、時には団員同士での模擬戦、時には遠征。
神獣を主軸に置いた生活が始まる。
「エルロンド、お前も騎士の一員になったならそれに見合った言動をしろよ」
「それはお前もだろトリガー。騎士の僕にタメ口か?」
「はいはいすいませんでしたー」
そう言って俺はこれ以上絡まれるのも面倒なので引き返すことにした。
「絶対連絡してねアル!」
リオナの声にひらひらと手を振りながら俺は家へと帰ることにした。
本来であれば、隣に立っていたのは俺のはずなのに。
あんな奴に隣を取られるなんて、見てらんないよ。
家に帰った俺は来訪している人がいることに気が付いた。
きっと父さんに用事があって来たのだろう。
なにやら深刻な声色で話をしている。
俺は聞き耳を立てるようにそっと部屋に近づいた。
部屋の中を覗くと全身を黒ずくめに着込んでいる男の姿が見えた。
「───という事情のため国王陛下から出動要請が発令されました。現在、事態は急を要する状況となっています」
国王陛下から直接父さんに要請?
一体なんのことだ?
「私は見ての通り、既に引退した身だ。数年前にヴァイパーが死んだと聞いたが、現職の魔獣掃除人はいるのだろう?」
「…………既に魔獣掃除人トウゴウは返り討ちに遭い、殺されました」
「馬鹿な」
……魔獣掃除人?
聞いたことのない名前だ。
それに殺されただって?なんて物騒な話をしているんだ。
「確認していた者の連絡によれば、かなりの善戦を繰り広げていたものの、あと一歩のところ及ばず神獣を殺され、使い手であるトウゴウ殿もその後…………」
「……魔獣のレアリティは?」
「二ツ星です。しかし、トウゴウ殿が殺されたことによりレベルが上がり、さらにステータスも脅威的な数値となっています」
父さんは唸るようにしてしばらく言葉を発さなかった。
これはきっと俺の知らない父さんの過去の仕事に影響していることだ。
俺が聞いていいような話ではないのかもしれない。
「魔獣相手に半端な数で対抗するのも愚策……それはルーカス殿も良く理解しているかと」
「ああ、良く分かっているよ」
「トウゴウ殿が亡くなった今、ロートル騎士団長が唯一勝てる見込みのある人物となります」
「だが国力の象徴とも言えるロートルは下手に動けず、万が一敗北した場合は……」
「国が滅びることを意味します」
国が……滅びる?
魔獣っていうのはそれほどまでに危険なものなのか?
なんでそんな大事なことをみんなに知らせないんだ?
「ルーカス殿の神獣がどんな状態であるかは聞き及んでいます。しかし、それでも国王陛下はルーカス殿の働きに期待しています。もしも今回の件を見事処理できたのであれば…………息子であるアルバス君の配属先にも一考すると」
「アルをダシにする気か?」
父さんの声に少し怒気が混ざった。
「まさか。正当な報酬としての話です。アルバス君の神獣の結果については、国王陛下の耳にも聞き及んでいるゆえ。もちろん希望するならば別の報酬でも構いません」
「…………」
俺の…………配属先?
それはつまり、俺が希望する騎士団への道ということか?
それを国王陛下が直々に話を通してくれると?
……なんだその都合のいい話は。
そりゃ騎士団に入れるなんて聞いたら、今までの俺なら跳んで喜んだだろうよ。
でも話を聞く限り、ロートルおじさんの次に強かった人を殺した相手を父さんがするってことだろ?
父さんにそんな危険なことをさせてまで、俺は騎士団に入りたいわけじゃない。
俺の相棒が0ツ星だからって馬鹿にするなよ。
「……父さん」
「っ!アル、帰っていたのか!?」
「おっと……良くない話を聞かれましたかね」
「俺のためなんかに危険を犯す必要は無いよ。俺は自分の意思で進路を決めたんだ」
黒服の男に一瞥をくれるようにして俺は父さんに話した。
「俺の神獣じゃ騎士団に入れてもらえたとしてもお荷物になるだけさ。みんながご存知の通りにね」
「騎士団とは言っていないのだがね。それに君は少し勘違いをしている。出動要請と言っているが、これは国王陛下からの実質的な勅命だ。ルーカス殿は既に組織の枠からは抜けているため要請という体を取ってはいるが。元々ルーカス殿に拒否権はないのさ」
「父さんの姿を見て本当にそんなこと言っているのか!?左目と左腕だけじゃなく、神獣も失っているんだぞ!?それなのにそんな危険な奴と戦わせるなんてどうかしている!!」
「君は事の重大さを認識していない。それにルーカス殿の神獣は──────」
「少し息子と話す時間をくれないか。ここまで知ってしまった以上、私の知っていることを話す必要がある」
父さんが黒服の話を遮った。
父さんの知っていることというのは昔の仕事のことだろうか。
「……あまり時間はありませんが、まだ連絡が来ないようですから大丈夫でしょう。万が一ということもありますからね、伝えることは伝えておいた方がいいと私も思います。しかしアルバス君、一度話を聞いてしまった以上、後には引けなくなるよ」
言っていることが分からないが、とりあえず俺は頷いておいた。
黒服の男は家から一度出て行った。
残された俺は父さんと目が合い、促されるようにして父さんの前に座った。
父さんは一息つくと、重々しく口を開いた。
「まず…………アルには謝っておかなければならないことがある」
「謝ること?」
「ああ。父さんはアルに秘密にしていたこと、それに嘘をついていたことがある」
秘密……にしていたことはなんとなく分かる。
だけど嘘をついていたことというのはどういうことだろうか。
「一つずつ順を追って話していく。まず魔人と魔獣の存在についてだ。これらは重要秘匿事項として隠匿され続けているものになる」
「うん、俺も聞いたことがないよ」
「魔人の存在…………これは端的に話すと魔獣を使役する心の壊れた人間のことを指す。そして魔獣とは…………人の心が長期間に渡って負荷をかけられた結果、憎悪が神獣に流れ込み、神から授けられた獣が悪魔に憑かれた獣へと変わったものを差す」
悪魔に憑かれた獣……故に魔獣。
「どうしてそれが秘密にされるのさ」
「…………危険だからだよ。魔獣は通常の神獣よりも遥かにステータスが高く、そして魔人の命令通りに無作為に人を殺す。アルも聞いたことがあるんじゃないか?『突発的に発生した災害によって町一つが無くなった』話とか」
「あるよ。確か数年前に他国で発生したとかなんとか…………まさか」
「魔獣のせいだ」
嘘だろ……。
聞いた話だと約300人以上が死んだって聞いたけど、それがまさか人災だったって言うのか……。
「もしも魔獣の存在を世間に公表した場合のメリットデメリットを考えた場合、意図的に魔獣を生み出そうとする輩が出てこないとも限らない」
「そんなことができるの?」
「不可能ではないだろう。人の心を壊すほどの負荷を与え続ければ、生まれる確率は高くなる。だからこそ情報統制を取らなければならない」
「でも俺達の国だけでそんなことをしても意味ないじゃないか」
「信じ難いかもしれないが……これは100年近く前から続く全世界共通事項だ」
「うっそだぁ!」
そんな完璧に封じ込めるわけないじゃないか。
だって十数年前まで近隣諸国とも戦争を繰り広げていたんだぜ?
そんな戦争中の最中に魔獣が生まれでもしたら、相手国が助けてくれるわけがない。
「そもそも他の国が相手国に送り込むために魔獣を生み出そうとしててもおかしくないじゃんか!」
「そういう国も過去にはあっただろうな。しかし、結局のところ魔獣を制御することはできなかったのだろう。国一つが滅んだそうだ」
「そんな国一つ滅ぼすような奴をどうやって止めるっていうんだ」
「そこで父さんの過去の仕事に繋がる。神獣が神獣を殺すと大幅な経験値が手に入ることは知っているな」
当然。
そしてそれは殺人と同じぐらい厳罰化されている。
「魔獣を止めるために低レアリティ、低レベルの神獣をぶつけても魔獣の餌になるだけだ。そこで各国は国の最高戦力に近いものをそれぞれ〝魔獣掃除人〟として指定し、魔人と魔獣が出現した時には、連携してこれに対処すると条約にて締結している」
「裏切る国は出てこないの?」
「ほぼないだろう。万が一近隣諸国が魔獣に滅ぼされたとなれば、次に狙われるのは自分達の国だからな。それに国一つを滅ぼした魔獣のレベルは凄まじいものになるはず。だから早いうちに叩く必要がある」
なるほど…………。
他の国で発生した場合でも対岸の火事とは思えないということか。
野放しにすればするほど魔獣は人や神獣を殺し、レベルを上げて手が付けられなくなってしまう。
だから他国と連携してでも魔獣を殺す。
各国の最高戦力と言うと、ウチで言うとロートルおじさんのことか?
でもさっき話していたのはトウゴウという人だったよな。
そんな人、俺は聞いたことないけど。
というか父さんの過去の仕事って…………。
「もしかして父さんの仕事ってその…………」
「魔獣掃除人だ」
やっぱり。
つまり……父さんは国の最高戦力の一人だった……ということか?
冒険者と傭兵のような仕事、騎士団団長であるロートルおじさんと知り合い。
なるほど辻褄が合う。
そういうことだったのか……。
「これがアルに秘密にしていたことだ。魔獣掃除人という役職もまた秘匿事項だったから話すことができなかった」
「じゃあ父さんのその怪我は……」
「……15年前、魔獣との戦いで失ったものだ」
15年前……。
俺が戦争孤児として父さんに拾われた時。
嫌でも理解してしまう。
俺の本当の両親が死んだのは戦争のせいじゃない。
魔獣に殺されたんだ。
「嘘をついていたっていうのは、そのこと?」
「そのこともあるが、もう一つはコレだ」
父さんは手元にカードを召喚させた。
ありえない。
神獣が死んだらカードも召喚させることはできなくなるはずだ。
なのに父さんの手元にはカードがある。
それはつまり。
「私の神獣は死んではいない」
「…………そんなことまで秘密にする必要なんてあるの」
俺は自分でもビックリするぐらい冷たい声が出た。
父さんの神獣が生きていたことぐらい「へーそうなんだ」ぐらいで済ませることができるのに、ずっと嘘をつかれていたことが思った以上にショックだったみたいだ。
「いや……生きているといったが、実際には顕現することは難しい」
「それはどういう……?」
「15年前の戦いで父さんの神獣は瀕死の致命傷を負った。魔獣の経験値にならないようギリギリのところで収納することができたが、15年経った今でも神獣の傷は癒えていない。もし顕現した場合は私の心の力を食い尽くし、最悪私は死に至るだろう。だから実際には顕現することはできなかったんだ」
だからあながち嘘ではなかったと。
俺は父さんにカードを見せてもらった。
───────────────
【雷帝龍王】☆☆☆☆☆ Lv55
○攻撃力4600
○防御力4200
○素早さ5000
○特殊能力4000
スキル:電光石火、雷崩、発光、超新星電磁波
───────────────
見たことがないステータスだった。
五ツ星のレアリティにロートルおじさんに次ぐレベルの高さ。
15年間顕現させていないということは、15年前からこのレベルだったということだ。
父さんが神獣について詳しかったのも頷ける強さだ。
「これが父さんの相棒のエレクだ。とても優秀な、誇らしい相棒だ」
そりゃ五ツ星の神獣なんて誇らしいに決まってるさ。
「でも結局のところ、父さんに魔獣と戦う力は無いじゃないか。いくら剣が使えると言っても片手だし、生きている神獣も顕現できないんじゃ……」
父さんは少し悲しそうに笑った。
それで俺は察した。
察してしまった。
国が父さんに何をさせるのかを。
あの黒ずくめの男は何を要請しにきたのかを。
「父さん……まさか……!」
「ああ。国王は私に命を賭して魔獣と戦えと言っているんだ」
「ダメだ!」
反射的に俺は答えてしまっていた。
「父さんが死ぬなんて、俺は嫌だ!」
「仕方がないんだアル。力があるものには相応の重責が担う。それはアルにも分かるだろう?」
「なんで父さんじゃないとダメなんだ!?他にも戦える人はたくさんいるはずだろ!?」
「いないんだよ。魔獣を倒せるような人は、限られてくる」
「でもっ…………数で囲ったりすれば……!」
「それこそいけない。ロートル並みの神獣で囲えば話は変わるが、中途半端な実力では魔獣の餌になってしまうだけだ」
父さんの言うことは頭で全て理解できる。
それでも納得がいかなかった。
どうして死ぬと分かってる父親を送り出すことができようか。
「他国の魔獣掃除人が到着するのも時間がかかるだろう。戦えるのは、父さんしかいないんだ」
「だけどっ……!」
その時勢いよく家の扉が開き、外にいた黒ずくめの男が入ってきた。
「連絡が来ました!魔人は一直線にこちらへ向かってきていると……!ルーカス殿、準備はよろしいか?」
「ああ、私が行こう」
「父さん!!」
父さんは俺の言葉では止まることなく、支度を整えながら穏やかに俺に笑いかけた。
「アル、父さんは再び魔獣掃除人として仕事ができることを誇りに思っている。だから、彼や国王陛下に対して恨むようなことは思わないでくれ」
「…………っ!」
「彼の仕事もまた、苦しく辛いものでもあるんだ」
なぜ父さんが庇うような発言をするのか分からなかった。
俺からしたら「死ね」と言いにきたようなものだ。
決して許すことはできなかった。
「なら俺も一緒に戦う!神獣……はダメだけど、父さんから教わった剣術がある!」
俺は父さんから授かった剣を突き出した。
しかし、父さんは静かに首を横に振った。
「魔獣は既に人智を越えた力を有している。一人の剣術だけでどうにかなるレベルじゃない」
「でもっ!」
「魔獣掃除人としての仕事としてと言ったが、それ以前に私はアルやこの国の人を守りたいんだよ。アルと過ごした15年間は、楽しかった」
父さんがそっと俺の肩に手を置く。
俺は目に涙を浮かべた。
まるで遺言のように話す父を止めることができなかった。
「片腕と片目を失い、実質相棒も失った私は生きる目標を無くしてしまったが、アルを託されたことで世界が変わって見えた」
「俺は…………!」
「アルには父さんの知っている戦い方の全てを教えた。必ず父さんがこの国を守る。だからアル、自分の相棒を大事にし、強く生きろ」
そう言って、父さんは家を出た。
「アルバス君、君は国内へと逃げなさい。しかし、魔獣のことは誰にも話してはいけない。ルーカス殿が何故ここまで秘密にしていたか分かるだろう」
魔獣の存在は国家機密。
世界を破滅に導くかもしれない可能性。
「行くぞヴァリアス。魔獣のところまで案内しろ」
「はい」
「父さん!」
すぐにでも向かおうとする父さんを呼び止めた。
最後にこれは、これだけは言っておかなければならない。
「俺も!!父さんの息子で良かった!!!」
涙を溢しながらの言葉に父さんは少し驚いていたがすぐに穏やかに微笑み、そして走り出した。
木々がザワザワと騒ぎ出し、風が強くなる。
上空には暗雲が立ち込め、まるで嵐が来る前兆のようだ。
結局、父さんが戦うところは一度も見ることができなかった。
学園でダントツの剣術を持つ俺でさえ、隻腕の父さんに一度も勝てなかった。
きっと神獣を顕現できなくなってからさらに修練を積んだんだろう。
きっとこの国でもトップクラスの戦闘能力があるに違いない。
そんな父さんに俺は一度でもまともに親孝行できたのだろうか?
父さんは俺がいてくれたから生きる目標ができたと言っていた。
神獣の扱い方を教わり、剣術を教わり、生きていく上での処世術のようなものも教わった。
しかし、一度でも形にして恩返しできたのか?
父さんがいなくなってから初めて伝えたいことが止まらなくなった。
なぜさっきは一言しか話せなかったのか。
もっと他にも伝えなければいけないことがあったんじゃないだろうか。
そうだ。
一度だってちゃんとお礼も言えてなかったじゃないか。
それなのに…………あんな別れの仕方はあんまりじゃないか。
父さんは来るなと言っていたが……俺にも何かできることがあるんじゃないのか?
父さんが命を賭して立ち向かうというのに、その息子である俺だけが逃げるわけにはいかないじゃないか。
「俺も……戦う準備をしないと……!」
冒険者の生業としては様々な業種が存在する。
薬品や武器や防具を作成するために必要な素材を収集する者。
居住区や郊外に出現する魔物を狩る仕事をする者。
秘宝が眠るダンジョンや未開の地を踏破し、開拓の先駆けを作る者。
この他にもいくつか冒険者と呼ばれる業種があるが、そのどれもが確定した身分を持つわけではない。
冒険者と呼ばれることはあるが、定職として冒険者という身分が存在するわけではないのだ。
その代わりとして冒険者は登録行為などの手順は存在せず、誰でも自由に行うことができるのが利点である。
それを管理しているのは国によって様々だが、ここアトラス王国及び管轄の周辺町村では派遣型傭兵団『ディスパーズ』が依頼の仲介を管理している。
ここへ行けば素材や秘宝といったものの取り引きも行なってもらえるというわけだ。
そしてこの国にいる冒険者の多くは傭兵団に所属しているケースが多い。
今でこそ戦争はあまり起きていないが、少し前には近隣諸国との領土問題で幾度か小競り合いが起きていた。
その際に駆り出されるのは国の治安を維持するための憲兵と選りすぐりのエリート集団である騎士団は当然だが、それだけでは人が足りない。
本国の守りや治安を維持するためにも必要最低限の人数は残して置かなければならない。
そこで必要とされたのが傭兵の存在だ。
国からの要請で支援を受け、登録している傭兵に募集を掛けて戦地に赴かせるというものである。
国としても本国の守りを手厚くし、裏切る恐れのある傭兵を戦地で戦わせることで寝首を掻かれる心配もない。
さらに傭兵は冒険者と違い身分がしっかりとしている。仕事の無い人はとりあえず傭兵に登録しておき、戦争が無い時には冒険者として稼ぎをする。
なのでこの国にいるいわゆる冒険者と呼ばれる人の多くは傭兵団に所属している人が多いのだ。
しかしながらもちろんデメリットはある。
傭兵団から招集がかかった時は必ず参加しなければならない。
もしも招集に応じなかった場合は傭兵としての身分を剥奪され、それどころか傭兵団の管理する建物の出入りを禁止される。
つまり事実上この国での冒険者活動も出来なくなるということだ。
万が一、長期間国から離れる場合は事前に申請をしておかなければならない。
中々に面倒くさいのである。
そんなわけで俺は冒険者として活動はするが、傭兵として登録するつもりはない。
生活できるかどうかは自分次第になるが自分の選んだ道だ、後悔はするまい。
買い出しで露店街を散策していると偶然にもリオナに出会った。
それに嫌な奴も。
「おや?おやおやおや?そこにいるのは落ちこぼれが確定してしまったトリガー君じゃないか!調子はどうだい!?」
「お前に会うまでは最高だったよ」
ウザさに拍車が掛かったエルロンドだ。
正直会いたくはなかったな。
「アルも買い物?」
「まぁな。そっちは二人で何を……」
「僕達はホラ、騎士団入団前だからぁ?色々揃えるものがあるんだよなぁ。セオフィリオ学園からは僕達しか入団しないわけだし、せっかくということで」
そう言ってリオナの肩を引き寄せるエルロンドを見て、心の底からムカムカとした感情が上がってくるようだった。
「やめてよエルロンド。あなたが勝手に付いてきただけでしょ」
そう言ってリオナは肩に置かれていたエルロンドの手をはたいた。
「ふっ、照れ隠しする必要なんかないのにな」
「はぁ……。アルはいつ頃出て行く予定なの?」
「早くても来週には」
「行く前、必ず私に連絡してね。お見送りしたいから」
「ああ」
「お前に行くところなんてあるのか?トリガー。家畜小屋とかがお似合いなんじゃないか?」
「そういうことならお前の屋敷に行かせてもらうよ」
「どういう意味だ!!」
どういう意味も何もそういう意味だ。
「僕は騎士団で神獣を最強になるまでレベルアップさせてやる。いくらトリガーが僕より剣術が出来るからといっても、神獣一つで状況は一変するんだよ」
「はいはい、分かった分かった」
「適当に流してんじゃねーよ!!」
とはいえエルロンドの言うことは正しい。
この世界では神獣が全て。
その点で言えば騎士団は神獣を育てるのに最も適した環境だ。
憲兵も騎士団と同じ国に仕える兵士という区分だが、国内の治安を守るために活動するため神獣の出番はさほど多くはない。
その点騎士団は神獣に選ばれしエリート集団で、国の最強の矛でもあり盾でもある。
なので有事の際に備えて普段から神獣をレベルアップさせるための活動を行う。
時には魔物狩りに、時には団員同士での模擬戦、時には遠征。
神獣を主軸に置いた生活が始まる。
「エルロンド、お前も騎士の一員になったならそれに見合った言動をしろよ」
「それはお前もだろトリガー。騎士の僕にタメ口か?」
「はいはいすいませんでしたー」
そう言って俺はこれ以上絡まれるのも面倒なので引き返すことにした。
「絶対連絡してねアル!」
リオナの声にひらひらと手を振りながら俺は家へと帰ることにした。
本来であれば、隣に立っていたのは俺のはずなのに。
あんな奴に隣を取られるなんて、見てらんないよ。
家に帰った俺は来訪している人がいることに気が付いた。
きっと父さんに用事があって来たのだろう。
なにやら深刻な声色で話をしている。
俺は聞き耳を立てるようにそっと部屋に近づいた。
部屋の中を覗くと全身を黒ずくめに着込んでいる男の姿が見えた。
「───という事情のため国王陛下から出動要請が発令されました。現在、事態は急を要する状況となっています」
国王陛下から直接父さんに要請?
一体なんのことだ?
「私は見ての通り、既に引退した身だ。数年前にヴァイパーが死んだと聞いたが、現職の魔獣掃除人はいるのだろう?」
「…………既に魔獣掃除人トウゴウは返り討ちに遭い、殺されました」
「馬鹿な」
……魔獣掃除人?
聞いたことのない名前だ。
それに殺されただって?なんて物騒な話をしているんだ。
「確認していた者の連絡によれば、かなりの善戦を繰り広げていたものの、あと一歩のところ及ばず神獣を殺され、使い手であるトウゴウ殿もその後…………」
「……魔獣のレアリティは?」
「二ツ星です。しかし、トウゴウ殿が殺されたことによりレベルが上がり、さらにステータスも脅威的な数値となっています」
父さんは唸るようにしてしばらく言葉を発さなかった。
これはきっと俺の知らない父さんの過去の仕事に影響していることだ。
俺が聞いていいような話ではないのかもしれない。
「魔獣相手に半端な数で対抗するのも愚策……それはルーカス殿も良く理解しているかと」
「ああ、良く分かっているよ」
「トウゴウ殿が亡くなった今、ロートル騎士団長が唯一勝てる見込みのある人物となります」
「だが国力の象徴とも言えるロートルは下手に動けず、万が一敗北した場合は……」
「国が滅びることを意味します」
国が……滅びる?
魔獣っていうのはそれほどまでに危険なものなのか?
なんでそんな大事なことをみんなに知らせないんだ?
「ルーカス殿の神獣がどんな状態であるかは聞き及んでいます。しかし、それでも国王陛下はルーカス殿の働きに期待しています。もしも今回の件を見事処理できたのであれば…………息子であるアルバス君の配属先にも一考すると」
「アルをダシにする気か?」
父さんの声に少し怒気が混ざった。
「まさか。正当な報酬としての話です。アルバス君の神獣の結果については、国王陛下の耳にも聞き及んでいるゆえ。もちろん希望するならば別の報酬でも構いません」
「…………」
俺の…………配属先?
それはつまり、俺が希望する騎士団への道ということか?
それを国王陛下が直々に話を通してくれると?
……なんだその都合のいい話は。
そりゃ騎士団に入れるなんて聞いたら、今までの俺なら跳んで喜んだだろうよ。
でも話を聞く限り、ロートルおじさんの次に強かった人を殺した相手を父さんがするってことだろ?
父さんにそんな危険なことをさせてまで、俺は騎士団に入りたいわけじゃない。
俺の相棒が0ツ星だからって馬鹿にするなよ。
「……父さん」
「っ!アル、帰っていたのか!?」
「おっと……良くない話を聞かれましたかね」
「俺のためなんかに危険を犯す必要は無いよ。俺は自分の意思で進路を決めたんだ」
黒服の男に一瞥をくれるようにして俺は父さんに話した。
「俺の神獣じゃ騎士団に入れてもらえたとしてもお荷物になるだけさ。みんながご存知の通りにね」
「騎士団とは言っていないのだがね。それに君は少し勘違いをしている。出動要請と言っているが、これは国王陛下からの実質的な勅命だ。ルーカス殿は既に組織の枠からは抜けているため要請という体を取ってはいるが。元々ルーカス殿に拒否権はないのさ」
「父さんの姿を見て本当にそんなこと言っているのか!?左目と左腕だけじゃなく、神獣も失っているんだぞ!?それなのにそんな危険な奴と戦わせるなんてどうかしている!!」
「君は事の重大さを認識していない。それにルーカス殿の神獣は──────」
「少し息子と話す時間をくれないか。ここまで知ってしまった以上、私の知っていることを話す必要がある」
父さんが黒服の話を遮った。
父さんの知っていることというのは昔の仕事のことだろうか。
「……あまり時間はありませんが、まだ連絡が来ないようですから大丈夫でしょう。万が一ということもありますからね、伝えることは伝えておいた方がいいと私も思います。しかしアルバス君、一度話を聞いてしまった以上、後には引けなくなるよ」
言っていることが分からないが、とりあえず俺は頷いておいた。
黒服の男は家から一度出て行った。
残された俺は父さんと目が合い、促されるようにして父さんの前に座った。
父さんは一息つくと、重々しく口を開いた。
「まず…………アルには謝っておかなければならないことがある」
「謝ること?」
「ああ。父さんはアルに秘密にしていたこと、それに嘘をついていたことがある」
秘密……にしていたことはなんとなく分かる。
だけど嘘をついていたことというのはどういうことだろうか。
「一つずつ順を追って話していく。まず魔人と魔獣の存在についてだ。これらは重要秘匿事項として隠匿され続けているものになる」
「うん、俺も聞いたことがないよ」
「魔人の存在…………これは端的に話すと魔獣を使役する心の壊れた人間のことを指す。そして魔獣とは…………人の心が長期間に渡って負荷をかけられた結果、憎悪が神獣に流れ込み、神から授けられた獣が悪魔に憑かれた獣へと変わったものを差す」
悪魔に憑かれた獣……故に魔獣。
「どうしてそれが秘密にされるのさ」
「…………危険だからだよ。魔獣は通常の神獣よりも遥かにステータスが高く、そして魔人の命令通りに無作為に人を殺す。アルも聞いたことがあるんじゃないか?『突発的に発生した災害によって町一つが無くなった』話とか」
「あるよ。確か数年前に他国で発生したとかなんとか…………まさか」
「魔獣のせいだ」
嘘だろ……。
聞いた話だと約300人以上が死んだって聞いたけど、それがまさか人災だったって言うのか……。
「もしも魔獣の存在を世間に公表した場合のメリットデメリットを考えた場合、意図的に魔獣を生み出そうとする輩が出てこないとも限らない」
「そんなことができるの?」
「不可能ではないだろう。人の心を壊すほどの負荷を与え続ければ、生まれる確率は高くなる。だからこそ情報統制を取らなければならない」
「でも俺達の国だけでそんなことをしても意味ないじゃないか」
「信じ難いかもしれないが……これは100年近く前から続く全世界共通事項だ」
「うっそだぁ!」
そんな完璧に封じ込めるわけないじゃないか。
だって十数年前まで近隣諸国とも戦争を繰り広げていたんだぜ?
そんな戦争中の最中に魔獣が生まれでもしたら、相手国が助けてくれるわけがない。
「そもそも他の国が相手国に送り込むために魔獣を生み出そうとしててもおかしくないじゃんか!」
「そういう国も過去にはあっただろうな。しかし、結局のところ魔獣を制御することはできなかったのだろう。国一つが滅んだそうだ」
「そんな国一つ滅ぼすような奴をどうやって止めるっていうんだ」
「そこで父さんの過去の仕事に繋がる。神獣が神獣を殺すと大幅な経験値が手に入ることは知っているな」
当然。
そしてそれは殺人と同じぐらい厳罰化されている。
「魔獣を止めるために低レアリティ、低レベルの神獣をぶつけても魔獣の餌になるだけだ。そこで各国は国の最高戦力に近いものをそれぞれ〝魔獣掃除人〟として指定し、魔人と魔獣が出現した時には、連携してこれに対処すると条約にて締結している」
「裏切る国は出てこないの?」
「ほぼないだろう。万が一近隣諸国が魔獣に滅ぼされたとなれば、次に狙われるのは自分達の国だからな。それに国一つを滅ぼした魔獣のレベルは凄まじいものになるはず。だから早いうちに叩く必要がある」
なるほど…………。
他の国で発生した場合でも対岸の火事とは思えないということか。
野放しにすればするほど魔獣は人や神獣を殺し、レベルを上げて手が付けられなくなってしまう。
だから他国と連携してでも魔獣を殺す。
各国の最高戦力と言うと、ウチで言うとロートルおじさんのことか?
でもさっき話していたのはトウゴウという人だったよな。
そんな人、俺は聞いたことないけど。
というか父さんの過去の仕事って…………。
「もしかして父さんの仕事ってその…………」
「魔獣掃除人だ」
やっぱり。
つまり……父さんは国の最高戦力の一人だった……ということか?
冒険者と傭兵のような仕事、騎士団団長であるロートルおじさんと知り合い。
なるほど辻褄が合う。
そういうことだったのか……。
「これがアルに秘密にしていたことだ。魔獣掃除人という役職もまた秘匿事項だったから話すことができなかった」
「じゃあ父さんのその怪我は……」
「……15年前、魔獣との戦いで失ったものだ」
15年前……。
俺が戦争孤児として父さんに拾われた時。
嫌でも理解してしまう。
俺の本当の両親が死んだのは戦争のせいじゃない。
魔獣に殺されたんだ。
「嘘をついていたっていうのは、そのこと?」
「そのこともあるが、もう一つはコレだ」
父さんは手元にカードを召喚させた。
ありえない。
神獣が死んだらカードも召喚させることはできなくなるはずだ。
なのに父さんの手元にはカードがある。
それはつまり。
「私の神獣は死んではいない」
「…………そんなことまで秘密にする必要なんてあるの」
俺は自分でもビックリするぐらい冷たい声が出た。
父さんの神獣が生きていたことぐらい「へーそうなんだ」ぐらいで済ませることができるのに、ずっと嘘をつかれていたことが思った以上にショックだったみたいだ。
「いや……生きているといったが、実際には顕現することは難しい」
「それはどういう……?」
「15年前の戦いで父さんの神獣は瀕死の致命傷を負った。魔獣の経験値にならないようギリギリのところで収納することができたが、15年経った今でも神獣の傷は癒えていない。もし顕現した場合は私の心の力を食い尽くし、最悪私は死に至るだろう。だから実際には顕現することはできなかったんだ」
だからあながち嘘ではなかったと。
俺は父さんにカードを見せてもらった。
───────────────
【雷帝龍王】☆☆☆☆☆ Lv55
○攻撃力4600
○防御力4200
○素早さ5000
○特殊能力4000
スキル:電光石火、雷崩、発光、超新星電磁波
───────────────
見たことがないステータスだった。
五ツ星のレアリティにロートルおじさんに次ぐレベルの高さ。
15年間顕現させていないということは、15年前からこのレベルだったということだ。
父さんが神獣について詳しかったのも頷ける強さだ。
「これが父さんの相棒のエレクだ。とても優秀な、誇らしい相棒だ」
そりゃ五ツ星の神獣なんて誇らしいに決まってるさ。
「でも結局のところ、父さんに魔獣と戦う力は無いじゃないか。いくら剣が使えると言っても片手だし、生きている神獣も顕現できないんじゃ……」
父さんは少し悲しそうに笑った。
それで俺は察した。
察してしまった。
国が父さんに何をさせるのかを。
あの黒ずくめの男は何を要請しにきたのかを。
「父さん……まさか……!」
「ああ。国王は私に命を賭して魔獣と戦えと言っているんだ」
「ダメだ!」
反射的に俺は答えてしまっていた。
「父さんが死ぬなんて、俺は嫌だ!」
「仕方がないんだアル。力があるものには相応の重責が担う。それはアルにも分かるだろう?」
「なんで父さんじゃないとダメなんだ!?他にも戦える人はたくさんいるはずだろ!?」
「いないんだよ。魔獣を倒せるような人は、限られてくる」
「でもっ…………数で囲ったりすれば……!」
「それこそいけない。ロートル並みの神獣で囲えば話は変わるが、中途半端な実力では魔獣の餌になってしまうだけだ」
父さんの言うことは頭で全て理解できる。
それでも納得がいかなかった。
どうして死ぬと分かってる父親を送り出すことができようか。
「他国の魔獣掃除人が到着するのも時間がかかるだろう。戦えるのは、父さんしかいないんだ」
「だけどっ……!」
その時勢いよく家の扉が開き、外にいた黒ずくめの男が入ってきた。
「連絡が来ました!魔人は一直線にこちらへ向かってきていると……!ルーカス殿、準備はよろしいか?」
「ああ、私が行こう」
「父さん!!」
父さんは俺の言葉では止まることなく、支度を整えながら穏やかに俺に笑いかけた。
「アル、父さんは再び魔獣掃除人として仕事ができることを誇りに思っている。だから、彼や国王陛下に対して恨むようなことは思わないでくれ」
「…………っ!」
「彼の仕事もまた、苦しく辛いものでもあるんだ」
なぜ父さんが庇うような発言をするのか分からなかった。
俺からしたら「死ね」と言いにきたようなものだ。
決して許すことはできなかった。
「なら俺も一緒に戦う!神獣……はダメだけど、父さんから教わった剣術がある!」
俺は父さんから授かった剣を突き出した。
しかし、父さんは静かに首を横に振った。
「魔獣は既に人智を越えた力を有している。一人の剣術だけでどうにかなるレベルじゃない」
「でもっ!」
「魔獣掃除人としての仕事としてと言ったが、それ以前に私はアルやこの国の人を守りたいんだよ。アルと過ごした15年間は、楽しかった」
父さんがそっと俺の肩に手を置く。
俺は目に涙を浮かべた。
まるで遺言のように話す父を止めることができなかった。
「片腕と片目を失い、実質相棒も失った私は生きる目標を無くしてしまったが、アルを託されたことで世界が変わって見えた」
「俺は…………!」
「アルには父さんの知っている戦い方の全てを教えた。必ず父さんがこの国を守る。だからアル、自分の相棒を大事にし、強く生きろ」
そう言って、父さんは家を出た。
「アルバス君、君は国内へと逃げなさい。しかし、魔獣のことは誰にも話してはいけない。ルーカス殿が何故ここまで秘密にしていたか分かるだろう」
魔獣の存在は国家機密。
世界を破滅に導くかもしれない可能性。
「行くぞヴァリアス。魔獣のところまで案内しろ」
「はい」
「父さん!」
すぐにでも向かおうとする父さんを呼び止めた。
最後にこれは、これだけは言っておかなければならない。
「俺も!!父さんの息子で良かった!!!」
涙を溢しながらの言葉に父さんは少し驚いていたがすぐに穏やかに微笑み、そして走り出した。
木々がザワザワと騒ぎ出し、風が強くなる。
上空には暗雲が立ち込め、まるで嵐が来る前兆のようだ。
結局、父さんが戦うところは一度も見ることができなかった。
学園でダントツの剣術を持つ俺でさえ、隻腕の父さんに一度も勝てなかった。
きっと神獣を顕現できなくなってからさらに修練を積んだんだろう。
きっとこの国でもトップクラスの戦闘能力があるに違いない。
そんな父さんに俺は一度でもまともに親孝行できたのだろうか?
父さんは俺がいてくれたから生きる目標ができたと言っていた。
神獣の扱い方を教わり、剣術を教わり、生きていく上での処世術のようなものも教わった。
しかし、一度でも形にして恩返しできたのか?
父さんがいなくなってから初めて伝えたいことが止まらなくなった。
なぜさっきは一言しか話せなかったのか。
もっと他にも伝えなければいけないことがあったんじゃないだろうか。
そうだ。
一度だってちゃんとお礼も言えてなかったじゃないか。
それなのに…………あんな別れの仕方はあんまりじゃないか。
父さんは来るなと言っていたが……俺にも何かできることがあるんじゃないのか?
父さんが命を賭して立ち向かうというのに、その息子である俺だけが逃げるわけにはいかないじゃないか。
「俺も……戦う準備をしないと……!」
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