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部活勧誘編

登校初日③

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 俺達はトイレから出て教室へと戻った。

「とりあえず俺から離れて歩いてくれるか?」

「なんでだよ?」

「そんなびしょびしょの奴と一緒に歩いてたら俺まで変に思われるだろ」

「お前が濡らしたんじゃねーか!」

 教室に入ると、クラスメイトはほとんど集まっており、やはり多くの目が新之助へと向けられた。
 俺はそのまま自分の席へと着こうとしたが、新之助が俺の肩に手を掛けてきた。

「どうしたんだい佐川君。何でそんなに濡れてるんだい?」

「こ、こいつマジで他人のフリを……!!」

 だって関わりたくないし。
 バチバチの髪型ではなくなったけど、さっきまでお前は痛い意味で注目の的だったんだからな。

「タオルとかで拭かないと風邪引くぞ?」

「…………っ! ついさっき大親友になった高坂修斗君、タオル借りてもいいかなぁ!?」

 ちょ……こいつ! 
 クラスの全員に聞こえるくらい大きな声で……!
 やりやがったな!

「俺達親友だからもちろんいいよな!?」

「残念ながら親友になった覚えはないから貸せないなぁ!」

「そんな冷たいこと言うなよ高坂修斗君!」

「ここぞとばかりに覚えたてのフルネームを連呼すんな! お前はオウムか!?」

 その時、校内に鳴り響いた予鈴と共に一人の女性が教室に入って来た。

「なんだなんだ、初日から元気な奴らがいるな。中学の頃からの仲良しとかか?」

「「違います!」」

「どっちでもいいけど席つけ。最初のホームルームを始める」

 俺と新之助は素直に席に着いた。
 恐らくこの人が俺達の担任なのだろう。
 まだ若く美人に見えるが、トゲがありそうなのは口調からも伺える。
 あまり怒らせてはいけない類の人か。

「私がこのクラスの担任を受け持つことになった宇佐木うさぎゆきだ」

 そう言って黒板に自分の名前を書き連ねた。

「見ての通りまだ20代で、優しい先生だとみんなからも評判だ。よろしく頼む」

「雪うさぎぃ? どう見ても人を殺してそうな雪女───」

 俺の頬を何かが掠めていったとともに、すぐ後ろでパガァンと何かが新之助のデコにヒットした。

「おっと、チョークがカタパルト射出してしまった。びしょ濡れの少年、何か言ったかな?」

「な…………何も言ってないです」

「うむ。ならよし」

 いや良くねーわ。
 とんでもないコントロールと威力だよ今のチョーク投げ。
 この人投げ慣れてんな絶対。
 クラス内が引きまくってんじゃねーか。

 でもまぁ、今のは新之助が悪い。

「私は一応現代文を担当しているから、そっち方面で分からないことがあったら聞きに来るように。後は…………特に自己紹介することもないし、全員に自己紹介してもらう時間も無いから、入学式始まるまで待機な」

 そう言って宇佐木先生は教壇の席に着いた。

「とんでもない先生だな」

 おでこをさすりながら新之助がヒソヒソと話しかけてきた。

「自業自得だろ」

「でも綺麗な先生だから俺はアリ」

 コイツも大概だな……。

 しばらく待機していると、放送によって体育館に集まるよう指示が流れた。
 それに合わせて宇佐木先生が俺達を名前順に並ばせ、体育館へと移動した。

 一クラス約40人が7クラス体育館に集まると300人弱。
 中々に人数が多い。

 入学式と言ってもほとんど話の内容は聞き流していたのであまり覚えていない。
 校長の長々と続く校風や豆知識のようなお話に始まり、新入生代表のあいさつ。
 生徒会会長による校内の規則等についての説明など、特段面白みのない恒例行事だ。

 一通り終えた後クラスへと戻され、明日から使う教科書だの何だのを渡されて、気付けばお昼前になっていた。

「今日はこれで終了になる。明日から授業は開始になるし、午後には部活紹介もあるからな。部活が決まってる奴は今日から見に行ってもいいぞ。今日から活動してるかは知らんが。じゃあとりあえず……逢坂あいさか、掛け声」

「あ、はい。起立とかでいいですか?」

「構わない」

「起立。礼」

 その挨拶により本日は解散となった。
 まあ初日はこんなもんだろう。

「帰るか……」

 チラリと梨音の方に目をやると、丁度目が合った。
 梨音は小さく頷くと、こちらへ近付いてきた。

「なぁ修斗ー、暇ならこの後どっかで暇潰さねぇ?」

「いや、遠慮しとく」

 新之助の誘いは即断で断った。
 別にヒマじゃないし。

「なんか用事でもあんのか?」

「用事ってほどでもないけど」

「修斗、もしかしてどこか寄って帰るの?」

 新之助に絡まれている間に梨音が来てしまった。
 できればデビューマンとは絡ませたくなかったんだが。

「寄って帰るなら、私先に行ってるよ」

「断ったから大丈夫」

「え? え? ちょっ、修斗、いつの間に仲良くなったんだよこんな可愛い子と」

「あ? 15年前だよ」

「何だその嘘」

 嘘は付いてねーよ。
 誇張はあるかもしれないけど事実なのは間違いない。

「えっと……ごめんなさい、名前がまだ分からなくて……」

「そ、そりゃそうだよね! 自己紹介もしてないからね! 俺、佐川新之助! 修斗の親友!」

「ふざけんな小判鮫」

「誰が小判鮫だ」

「若元梨音って言います。よろしくね佐川君」

「よ、よろしく!」

「私と修斗は幼馴染だから高校入る前から知り合いなんだ」

「…………え?」

 フリーズすんな。
 ゆっくりこっちを見るな。
 お前が思っているような関係じゃねーから。

「だから15年前って言っただろ」

「お前は…………裏切り者だああああ!!」

 そう言ってそのまま新之助は教室から出て行ってしまった。
 感情が表によく出る奴だな。

「なんか面白い人だね」

「冗談。面倒臭い奴の近くになっただけだよ」

「おい修斗~。この人がお前に用があるんだって」

「戻ってくんのかよ!!」

 走り去ったと思った新之助が教室に戻ってきた。
 そんなパターンは予想してなかった。
 というか、俺に用って誰だ?

 新之助の後ろにいたのは一人の女子。
 長い黒髪をツーサイドアップにしており、スタイルのいい長身からは凛とした雰囲気を漂わせている。
 リボンの色が梨音とは違うから上級生か?
 上級生に知り合いなんて俺はいないが。

「君が高坂修斗くん?」

「そうですけど……怒られるようなことしましたっけ?」

「まず怒られるかもしれないという発想が出てくるのか……うん、面白い」

 そんなことで褒められても。
 マジで何しに来たんだこの人。

「あっ!」

「どうした梨音」

「修斗、この人生徒会長だよ。入学式の時に前に立って話してた」

 あ…………あ~。
 言われてみればこんな人だったかもしれない。
 でも何で生徒会長?
 ますます怒られる何かとしか思えないんだけど。

「生徒会長が何の用でしょうか」

「高坂修斗くん、君を生徒会に勧誘しにきた!」

 ………………なぜに?
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