怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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部活勧誘編

部活紹介④

 しばらくすると女子マネージャーらしき人達も現れた。
 5人……結構いるほうじゃないのか?

「良かったな、マネージャーも結構いるみたいじゃん」

「別に数は重要視してないよ~。あ、あの人、部活紹介でリフティングしてた人じゃない?」

 桜川が指差した先には、リフティングで一際目立っていた人がいた。
 俺の見立てでこのチームのエースではないかと思った人だ。

 練習が進むにつれ、気が付けば俺と桜川以外にも部活を見に来ている生徒が多くいた。
 全員がサッカー部を見に来ているわけではないと思うが、見た目でおおよそは検討がつく。
 さすが強豪と呼ばれている学校、多くの入部希望者がいるようだ。

 練習内容がミニゲーム形式となったところで、このチームの戦術がどのようなものなのかすぐに分かった。
 前線からハイプレスをかけ、ボールを失ってもすぐさま数人で取り囲んで取り返す攻守の一体化を目指したゲーゲンプレッシング。
 かつて、ドイツの有名な監督が取り組み、世界にその戦術の脅威さを知らしめたものだ。

 そして、俺がいた東京Vヴァリアブルのジュニアユース、ユースでも実践されていた戦術だ。

 実際にはさらに現代化された5レーンというものを用いたものに変化しているが、基本的な戦術は変わらない。
 高校の部活でも行われているのは知らなかった。

「やっぱりあの人がゲームメイクしてるな。攻撃のスイッチが入る時に必ずあの人に一度預けてリズムを作っている。ストライカータイプというよりも、視野の広さを活かして周りを使うタイプか……。それにしても周りの動き方に躊躇いが無いな。戦術理解度が高い証拠か……」

「……にやにや」

「……何だよ」

「部活に入らないとか言ってるくせに、楽しそうに解説するんだなーって」

「ぐっ……」

 桜川が意地悪く笑った。
 相手のプレーの質を研究するのは昔から続けてきていたことで、対戦相手の得意なプレー、苦手な攻められ方、選手一人一人がどっち利きかまで把握していた。
 その癖がまだ抜けていないんだ。

「言っただろ、見るのは好きなんだって」

「やったらもっと楽しいと思うのになぁー」

 どうしてもそっちの話題に振られるな……。
 見たいものも見れたわけだし、長居しすぎる前にそろそろ帰るか。

「じゃ、俺はこれで失礼するよ」

「え~まだミニゲーム少し見ただけじゃん」

「充分楽しめたよ。それに、これ以上いたら桜川から同じ話を何度も聞かされる羽目になりそうだからな」

「明日も明後日もするよ!」

「勘弁してくれ……」

 桜川はまだ少し見て行くということなので、俺は先に一人で帰ることにした。
 まだ時間は午後5時。
 この季節では夕方というには明るすぎる時間帯。
 坂をくだりながら、自分の右足を気にする。

 痛みは歩いているだけでは既に感じない。
 下り坂で少し足に負担はかかるが、これぐらいでは平気ということだ。

 部活を見たせいで少し足が疼く。

 ボールを蹴りたいと心が疼く。

 少し駆け足でくだってみた。
 ズキリと右膝に鈍い痛みを感じた。
 鋭い痛みではない。
 我慢すれば走れる痛みだ。
 だけど脳がブレーキを自然に掛けた。
 怪我をした時の状況がフラッシュバックし、再び怪我するのではないかと錯覚させられてしまう。

「はは、情けないな……」

 何故か笑いが口からこぼれた。
 自分の体の不甲斐なさに呆れてしまう。
 怪我だけはするまいと注意していたのに、人生で初めての怪我が選手生命を絶たれるほどのものだなんて。

 サッカーを見るのは好きだ。
 これだけは嘘じゃない。
 だけど見た後に気持ちが沈んでしまう。
 この矛盾が俺を苦しめる。

「……やっぱりボールを触らないと落ち着かないな」

 恥ずかしい話、梨音の家に来てからも部屋でずっとボールを触っている。
 梨音には、もう吹っ切れて新しい部活を探すなんて虚勢を張ってみせたが、実際のところ未練タラタラだ。
 出来ることならサッカーを続けたい。

 プロを目指したい。

 でもそれは叶わない。
 いい加減現実を見なければならない。
 そのためにもサッカー以外に夢中になれるものを見つけなければならない。
 それに、早いとこ見つけないと桜川の誘いを断るのにも骨が折れそうだ。

「あ、梨音にケーキでも買っていってやるか……」

 何気なく思い出した俺は、帰り道のケーキ屋に寄って詫びケーキを買って帰った。
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