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部活勧誘編

部屋突入②

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「そういや梨音は部活とか入るのか?」

「まだ特に決めてないけど」

「なんか見たそうにしてたの一個あったろ。それはどうなんだよ」

「そんなのないけど……」

 そう言って目を明後日の方向に逸らす梨音。
 嘘をつくのが下手くそすぎて分かりやすい。

「俺が聞いた時に濁してたじゃん。気になる部活があるんだろ?」

「あったとしても修斗には言わないし」

「何でそんな冷たいこと言うんだよ。ほら、ケーキ食べて心をあったかくしな」

「失礼過ぎない? この人」

 とか言いつつも俺が買ってきたチョコレートケーキを取り出し、付属してきたプラスチックのフォークを使って頬張り始めた。
 甘いものを食べて仏頂面になる人なんていない。
 見ろよこの笑顔。
 頬が緩み切ってる。

「……何でニヤニヤしてるのよ」

「ニヤニヤなんてしてないよ。どう、美味い?」

「不本意ながら」

「何で不本意なんだよ。そこは本意であれよ」

「修斗も一口いる?」

「久しぶりに少し食べるか」

「はい」

「ん」

 フォークに乗っかったケーキを梨音に差し出され、そのままパクリと頂いた。
 チョコレート特有の甘味と大人の苦味が口の中に広がる。
 ケーキなんて小学生振りかもしれない。

「どう? 美味しいよね」

「うん。美味いな」

「あむっ」

 梨音が最後の一口を食べたところでふと気が付いた。

「そういや…………当たり前過ぎて何とも思わんかったが、今のも間接キスになるんだな」

「!!」

「なんつって。いやマジ今さら過ぎるな」

「~~~~!!」

「……………梨音? なんでそんな顔真っ赤に───」

「修斗が変なこと言うからじゃん!」

「えっ!? 俺変なこと言った!?」

 そんな変なこと言った覚えないんだけど!
 当たり前の事実を述べただけでは?

「もしかして俺の知らない内に間接キスの定義変わったとか?」

「変わってないよ!」

「あ、間接キスを気にしてんの? 何言ってんだお前それぐらい! 昔から食べ物のわけっこぐらいやってるじゃねーか!」

「そうだけど改めて言われると恥ずかしいの!」

「そんなん下着姿を見られたことに比べれば全然大したことねーだ……からテーブルはダメだって!!」

 再びテーブルを構えられる。
 しかも今度は向きが角を向いている。
 殺傷力3割増しだこれ。

「命を置いていきなさい……!」

「もはや選択肢すらくれないただの殺害予告! 落ち着いて良く考えろ梨音。さっきの俺の回答を良く思い出して欲しい……! あの時俺はお前の体を見て90点と言ったんだ。それは俺を含めた男子から見た女子の理想のプロポーションとも言えるし、ぶっちゃけ褒め言葉100%だ!」

「……………確かに……?」

「痩せ過ぎているわけでもなく、太っているわけでもない……! 梨音は運動をあまりしていないはずなのに、そこまで整った容姿をキープできるのは素直に誇れることだと思う!」

「うんうん」

 よし!
 テーブルの高さが徐々に下がってきた。
 後一押しで機嫌が良くなるはずだ!

「つまり! 最終的に何が言いたいのかと言うと!」

「うん」

「梨音の体は大変エロいということで─────」

 ゴッ!!

 何か鈍い音がしたかと思ったら目の前が真っ暗になった。

 誰だ電源落としたやつ。
 何も見えなくて困ってんだけど。
 つーか体も動かねーしよ、どうなってんだ一体。

 すると、正面に梨音が立っているのが見えた。
 仁王立ちしている。
 仁王様か。
 その前にはボールがいくつも転がっていた。
 何だこれ、どういう状況?

「梨音ー。これなんなん──────ってなんじゃこりゃあ!」

 俺はゴールネットの真ん中に括り付けられ動けなくされていた。
 動けない俺の目の前にボールがセットされ、立っている梨音。
 考えられるシナリオは一つ。

「や、やめろ……無限にボールを蹴り当ててこようとするのは……や、やめろぉ!!」

 梨音が蹴り飛ばしたボールが豪速球のごとく顔面へと迫ってくる。

「うぉああああ!!」

 飛び起きた。
 もちろんのことながら夢。
 とんでもない悪夢だ。
 現実で起きてもおかしくない悪夢。

「び、びっくりした……。急に飛び起きないでよ」

 起きあがった目の前に梨音がいた。
 どうやら俺は梨音のベッドの上で寝ていたらしい。
 なんでだ?

「ん? なんだこれ……」

 額の部分に濡れたタオルがのっていた。
 どうやら小さなコブが出来ており、それを冷やすために置かれていたもののようだ。

「い、いや……まさか気絶までするなんて思ってなかったから……」

 梨音が申し訳なさそうにオドオドしながら話した。
 俺はどうやらホントにテーブルでいかれたらしい。
 とんでもない衝撃だったのは覚えているが、まさか気絶したとは。

「その……大丈夫?」

「…………ぷっ……くっくっ……」

「な、何で笑うのよー。ホントに心配したんだからー」

「いや、ちょっと昔を思い出して……ははっ」

「なにそれ……」

 小さい頃は殴り合いのケンカもしてた。
 男女という壁は無く、幼馴染という枠組みでいたからだ。
 途中から俺はサッカーに夢中になり、一緒に遊んだり喧嘩したりすることは少なくなったが、梨音には応援してもらったり飯を食わせてもらったりしていた。
 サッカーという縛りがなくなった今、改めてくだらない喧嘩をしていると思うと、なんだか笑いが込み上げてきてくる。
 裸を見たから何だ。
 結局、今も昔も俺と梨音の関係性は何も変わらない。
 仲のいい、幼馴染ってことさ。 
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