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生徒会勧誘編

前橋きい③

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「はぁ…………」

 家に帰り、湯船に浸かりながら今日の試合の事を思い出していた。
 中学時代に見ていた高坂は、司令塔として走り回り敵の間を切り裂くようなパスを見せていた。
 普通はそこに出さないだろうという所でも、よりチャンスに繋がるところであれば自分で持ち込みパスを通す。
 それが高坂修斗の強み。

 そして今日、1年ぶりに見た高坂の足技は全くと言っていいほど衰えてはいなかった。
 もちろん相手に初心者が多いということと、走ることができないという部分はあったけど、味方の動きに合わせたドンピシャのパスはまるでイニエスタを彷彿とさせていた。
 当時、私が目を奪われたプレーは健在だった。

 でもだからこそ、怪我さえなければ高坂が1ということはあり得なかったはずだ。
 きっと、さらに多くの人の目を奪うようなプレーを重ねて、順調な人生を歩んでいたんだと思う。
 私は今も高坂のファンとして……活躍する彼を追っていたはず。

 …………一緒にプレーしたりすることなんてあるわけもなく、同じ学校で生徒会として一緒にやることもなく、友達になることもなかった。

 それが今は友達として、一緒にプレーをして。

 高坂が怪我をしたから。

「…………自分が嫌になる」

 ブクブクと口まで湯船に浸かった。
 少しでも高坂が怪我したことを喜んでしまった自分に腹が立った。
 確かに憧れだった高坂と一緒になれて嬉しい。
 それはたぶん…………間違いないと思う。
 元々口下手な方だけど、高坂と一緒にいるとドキドキして余計に緊張する。

 異性としてとかじゃなくて、テレビのアイドルを間近で見たような、ファンとして追っていたからこそのドキドキだとは思うけど……。

『つまり今の前橋は普段よりむしろエロいということに』

「ん~~~!!」

 ザブンと頭まで湯船に浸かった。

(きっとそう…………これはファンとしてのドキドキだ)

 湯船の熱さも相まって、熱くなった私の顔を冷ますのに時間がかかった。



 お風呂から上がると、お兄ちゃんが部活から帰ってきていて、リビングでくつろいでいた。

「……おかえり」

「おお、あがった? じゃあ次は俺が入るわ」

 お風呂の順番待ちしてたんだ。
 少し長風呂しすぎたかな。

 お兄ちゃんもFC横浜レグノスでサッカーをやっていて、ユースに上がることは出来ず瑞都高校にスポーツ推薦で入った。
 ユースに上がれなかった時はやっぱり落ち込んでいたけど、それでも腐ることなく瑞都高校のサッカー部で毎日練習に励み、今ではキャプテンを務めている。

「あ、そういえば今日フットサルやってきたんだろ?」

「……なんで知ってるの?」

「神奈月が言ってた。高坂修斗、どうだった?」

 お兄ちゃんが興味津々に聞いてきた。

「相変わらず上手かった」

「じゃあフットサルはやれたんだな!?」

 ……ああ、お兄ちゃんも高坂がサッカーをやれるのであれば部活に誘いたいんだ。
 今年最後だし、あと一歩という実力のところに高坂が入れば全国は間違いないよね。

「でも走れないよ」

「怪我か?」

「うん」

「か~そっかぁ」

 最後に全力で走っているところは見たけど、そのせいで痛めているようだった。
 だからサッカーをするのはやっぱり無理なんだと思う。

「まぁ怪我人に頼っていても仕方ないよな。キイとしては一緒にプレーできただけでも嬉しそうだけど」

「そ、そんなことない」

「の割には、機嫌良さそうだけどな」

 思わず顔をペタペタと触って確認する。
 お兄ちゃんは結構そういうところが目敏いから嫌だ。
 人の機微を見るのが得意なのかな。

「キイは本当分かりやすいよな。素直っつーか、顔に出るっつーか。素のテンションが低めだから機嫌良いときは声が跳ねてる」

「う……うるさい」

「その調子じゃ高坂の前だと緊張してそうだな」

「そんなことない! もうお風呂行って!」

「はいはい」

 お兄ちゃんがリビングから出て行った。

 …………そんなに顔に出てるわけない。
 ちゃんと高坂と顔を見て話せてる………………顔を見て…………?
 今思い返してみると、高坂と話す時はだいたい目線を逸らして話している気がする。
 高坂の身長が高いから上を向かないといけないっていうのもあるけど…………。

 でも試合の時はアイコンタクト出来てたし。
 アイコンタクトで意思疎通のパスを………………。

「………………うう」

 その時のことを考えたら高坂の顔がずっと浮かんできて、無性に恥ずかしくなった。
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