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遅延新入生勧誘編

代表選抜①

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 中学2年の冬、東京Vヴァリアブルに所属していた俺はそれまでの活躍が認められUー15の日本代表に選ばれた。
 とはいえ日本代表自体は中学1年の頃から毎回呼ばれており、周りのメンツは見知った顔が多く、俺としてはあまり新鮮味は感じられなかった。
 ところが、今回はなんと海外遠征。
 ドイツ代表と戦うため、ドイツへと向かうことになった。
 両親は普段から仕事で家を空けることが多いため、海外に行くという話を聞いても不安に思ったりせず、アレよアレよという間にパスポートの手続きを終えて送り出してくれた。
 ……たまに俺に対する興味が薄いんじゃないかと思う時もあるが、変に行かせないと言われるよりも良いから気にしないことにした。
 既にその時の日本代表には俺以外に神上しんじょう涼介りょうすけ荒井あらいひかる城ヶ崎じょうがさき優夜ゆうや台徳丸だいとくまる賢治けんじが東京Vから選出されており、正に一時代を築いていた。


「日本代表合宿inドイツ! 雰囲気がまるで日本と違う!」

「そないはしゃぐなや。田舎者やと思われるやろ」

「田舎者どころか国が違ぇよ」

 ドイツへと降り立った俺達は宿泊するホテルへと向かい、その日は半日掛けて来た疲れもあるということで休息込みの集団行動を取りながらミュンヘンの街並みを観光していた。
 建物の造りもまるで日本とは違い、なによりも教会の大きさに驚かされた。
 俺らで言うところの神社仏閣と同じものなんだろう。

「おい修斗食ってみぃ! めっちゃ美味いでこのソーセージ!」

 優夜に言われて食べたソーセージは確かに美味かった。
 これが本場の味と言うやつか。

「飯に気を遣う修斗もソーセージは食べるんだな」

「当たり前だろ。俺を何だと思ってるんだ」

「ストイックマン」

「ストレッチマンみたいに言うな」

 独特な世界観を味わいつつも、俺は明日からの練習なら思いを馳せていた。
 ドイツ代表…………ブンデスリーガは5大リーグの一つとしても有名で、中でもバイエルンミュンヘンは世界的に見てもトップクラスのチームだ。
 そんなチームの下部組織からも選出されているドイツ代表が弱い訳がない。
 しっかりとした準備を行わなければ勝てないだろう。

「涼介、お前の個人技が世界に通用するか知るチャンスだな。自信はあるか?」

「当たり前さ。ドリブルこそが俺の代名詞、それが通用しなくなれば俺はお払い箱になってしまうからな、役目は果たすよ。それよりも修斗は自分の心配をしなよ」

「俺は問題ない。いつも通り敵の動きを見て崩せるところから崩していく。自分のプレーができるよう心掛けていくだけだ」

「相変わらずの鬼メンタルですこと」

「戦術は監督やコーチが考えてくれる。俺達はそれを実践して、試合の中で自分達の形にしていくことが大事だ」

「そうだな」

「何の話ー? もしかして明日からの?」

 俺と涼介が話しているところへ、両手に棒に刺さったソーセージを持っている光がやってきた。
 それに続き、優夜と賢治も来た。

「ああ、ドイツ代表をどうやって倒そうかって話」

「ええー? 今からそんなこと考えてるなんて真面目すぎじゃない?」

「光……お前はもう少しサッカーに熱心になれれば唯一無二になれるのに」

「いいのいいの。オフの時はオフ、試合の時は試合ってちゃんと使い分けてるんだから。修斗みたいに四六時中サッカーのことを考えてる方がおかしいよ。このサッカーオタク」

「誰がサッカーオタクだ」

「足が速いっちゅーだけで代表まで来とるわけやからな、大したもんやで光は」

「ちょいちょい、足が速いだけとは失礼な」

 光の足の速さは他の誰にも真似出来ない。
 足元の技術はここにいる皆んなよりも一段劣るが、陸上競技をやっている人でさえも類を見ないほどの足の速さを持っている。
 将来的にオリンピックを目指せるだったり、そもそも競技を間違えているんじゃないかと言われることもあるが、日本代表に選ばれている時点でサッカーという競技にも適正があるのは間違いないだろう。

「ま、なんにせよドイツ代表は俺がぶっ叩いたる。修斗が活躍する場面なんてあらへんから覚悟しぃや」

「フォワードとして頼もしい限りだ。期待してるぜ優夜」

「…………なんや冷めるやっちゃな。もうちょい言い返してこいや」

「俺はチームが勝てればそれでいい。代表として求められるのは必ず結果だ。内容が良くて負けていいのは練習試合まで。それ以外は全て勝たなくちゃいけない」

「へーへー、真面目なこって。賢治もなんか言うたれや」

「……………………」

「なんか言えや!」

 賢治は話すのが苦手だからしょうがないだろ。
 それでも試合中は豹変したかのように誰よりも指示を出すのに声を張り続ける。
 賢治がいるからこそ、俺達は安心して前を向いて戦えるんだ。

「確か、明日からもう試合はするんだろ?」

「らしいな。その後に合同練習だってよ」

「腕が鳴るぜ。明日からの練習が楽しみだ、早く明日にならねーかな」


 そして次の日の朝、俺は迷子になった。
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