70 / 203
遅延新入生勧誘編
再会微毒①
「久しぶりじゃないか! 実際に会うのは半年振りか?」
「そう……だな」
涼介が満面の笑みで駆け寄ってくるのとは対照的に、俺の表情には後ろめたいものがあった。
クラブを辞めてからの半年、近況報告程度の連絡はしていたものの、俺は意図的に涼介達と会うのを避けていた。
サッカーを諦めた俺を涼介達がどう思っているのか考えると、とてもじゃないが会う気にはなれなかった。
涼介が着ているチームカラーでもある緑色のジャージには東京Vのロゴと文字が刻まれており、視界に映るたびに俺の心をこれでもかというほど嬲ってくる。
「まさかこんなところで会えるとは思わなかった。もしかしてここが修斗の通っている高校なのか?」
「俺の家から一番近いのがここの高校なんだよ。そっちは練習試合だよな」
「ああ。今年の瑞都高校は強豪だと聞いたからな、プリンスリーグでは当たらないが調整試合として監督同士で話をまとめたらしい。なんでも瑞都高校には狩野隼人がいるらしいじゃないか」
「みたいだな」
「修斗は…………サッカー部じゃないのか?」
遠慮と期待が入り混じった質問。
制服のままの俺がサッカー部ではないと思いつつも、グラウンドに来ていることに一縷の望みを懸けているような質問だった。
「サッカー部だったら今頃お前らの前に敵として立っているさ」
俺は冗談混じりにハハと笑いながら無理に答えてみせた。
その冗談で俺が吹っ切れていると安堵したのか「そうだよな。だが少し残念だ」と笑った。
どうやら誤魔化すことができたみたいだ、今にも涼介の前から逃げ出したくなっているこの感情を。
「ユースに昇格してから1ヶ月、俺や光や賢治、それに優夜は間もなくAチームに昇格することが確定している。Bチームでの試合ではジュニアとユースの環境の違いを知るために残っていたが、俺達なら充分に通用するという判断が下されたみたいだ」
「当たり前だ。お前達は俺が認める最高のサッカープレイヤー達だからな。プロに行ってからがスタートラインだろ」
「今の東京Vユースは俺達だけじゃなく先輩達も優秀だ。3冠も当然視野にいれられるだろう。だが…………本当はここにお前がいるのが理想だったんだ、修斗」
苦々しい表情の涼介の言葉に、くしゃりと心が捻じ曲がる。
既にユースサッカー情報誌でも幾度と無く紹介され、『ヴァリアブル世代』の筆頭として話題になっている涼介が未だに俺のことを必要としている。
そんな期待に応えることができない自分に対する不甲斐なさと、未だサッカーに全てを捧ぐことができる涼介に対する嫉妬心が胸の内をかき混ぜ染め上げて、心の中を蹂躙していく。
「俺なんかがいなくても『ヴァリアブル世代』なんて呼ばれているじゃないか」
わざとらしく皮肉を込めたような言葉がおもわず口を突いて出た。
「そんな呼び名、今は虚しいだけだ。知っていたか? 修斗がいた時には既に『高坂世代』なんて呼んでいる人達もいたんだ。俺達の中心であった修斗がいなくなったから、統一して纏めたような呼び方をしているに過ぎない」
「それでも俺は、お前が羨ましいよ」
「修斗…………」
こんな卑屈な事を言いたいわけではなかった。
涼介は俺よりも人間が出来ている。
今だって俺に気を遣って言葉を選びながら話しているのがよく分かるのに、俺は自分を知らず知らずのうちに下に置いて会話をしている。
当時の話し方が、思い出せない。
「何してんねん涼介」
懐かしい関西弁が耳に飛び込んできた。
競争心を剥き出しに、何度も張り合い声を荒げていた聞き慣れた方言。
涼介の後ろから来たのは、同じく東京Vのジャージを着込み、当時よりも身長が伸びてガタイが良くなっている男。
「優夜……!」
「なんやまさか…………修斗か?」
「懐かしいだろ優夜。お前達は修斗とあまり連絡を取っていないと言っていたからな」
優夜は俺がいることに一瞬驚きの表情を見せるも、嬉しそうに話す涼介に対してすぐさま呆れたようにハァとため息をついた。
「あんなぁ涼介、終わってもーた奴にそない構うなや。時間の無駄」
「…………なんだと?」
優夜の一言に空気がピリつく。
遠慮を知らないその発言に俺自信も苛立ちを隠せなかった。
「しばらく見ない間に言うようになったな優夜」
「俺達は今も激しい競争の中で戦っとる。当時のお前は確かに嫉妬するほどに上手く、才能に溢れていた。せやけどな、相手にコカされて怪我をして、ユースにも上がれんかったお前にもう価値はない。こんなところでのうのうとしとるのがええ証拠や」
「てめぇ──────」
「優夜ぁ!!」
俺が掴みかかるよりも早く、涼介が優夜に掴みかかった。
相手に削られた時ですら怒りを表に出さない涼介の憤激した表情を、俺は初めて見た。
「これ以上俺の親友を侮辱することは許さん!!」
涼介の〝親友〟という言葉に、不思議と霞がかっていた頭の中がクリアになっていく。
ハッキリと口にされることで俺は自分の立場を明確に認識することができた。
サッカーができなくとも、過去に積み上げてきたものは崩れない。
しかし、なおも優夜が引き下がることはなかった。
「理解しとるやろ涼介! 俺達はユースで満足してる場合ちゃう! プロだけやなく、海外進出も既に視野に入れている! 終わった選手に構っとるヒマなんかないんや!」
「それを決めるのは俺自身だ! お前じゃない! それに修斗は終わった選手なんかじゃない! 必ず怪我を完治させ、戻ってくると信じている!」
「1年近く球を蹴れてない奴を必要としとる奴なんかおらんわ! 誰も、高坂修斗を求めてなんかおらん!」
涼介の言葉と、優夜の言葉が同時に胸に突き刺さる。
期待と落胆、そのどちらもがナイフとなって俺を襲う。
「貴様……!」
「そんなことないわよ」
予想外の人物が否定した。
涼介と優夜の掴み合いを遮るように言葉を投げかけたのは弥守だった。
肩幅に足を開き腰に両手を当て、凛とした立ち振る舞いで優夜を見据えていた。
思いもよらない乱入者に、思わず俺達も固まる。
「弥守……?」
弥守は俺の方をチラリと見ると、ニッコリと笑った。
アイコンタクトだけで、俺のことを必要としているのよと語りかけてきたのが伝わる。
そして彼女は再び、優夜を睨みつけた。
「そう……だな」
涼介が満面の笑みで駆け寄ってくるのとは対照的に、俺の表情には後ろめたいものがあった。
クラブを辞めてからの半年、近況報告程度の連絡はしていたものの、俺は意図的に涼介達と会うのを避けていた。
サッカーを諦めた俺を涼介達がどう思っているのか考えると、とてもじゃないが会う気にはなれなかった。
涼介が着ているチームカラーでもある緑色のジャージには東京Vのロゴと文字が刻まれており、視界に映るたびに俺の心をこれでもかというほど嬲ってくる。
「まさかこんなところで会えるとは思わなかった。もしかしてここが修斗の通っている高校なのか?」
「俺の家から一番近いのがここの高校なんだよ。そっちは練習試合だよな」
「ああ。今年の瑞都高校は強豪だと聞いたからな、プリンスリーグでは当たらないが調整試合として監督同士で話をまとめたらしい。なんでも瑞都高校には狩野隼人がいるらしいじゃないか」
「みたいだな」
「修斗は…………サッカー部じゃないのか?」
遠慮と期待が入り混じった質問。
制服のままの俺がサッカー部ではないと思いつつも、グラウンドに来ていることに一縷の望みを懸けているような質問だった。
「サッカー部だったら今頃お前らの前に敵として立っているさ」
俺は冗談混じりにハハと笑いながら無理に答えてみせた。
その冗談で俺が吹っ切れていると安堵したのか「そうだよな。だが少し残念だ」と笑った。
どうやら誤魔化すことができたみたいだ、今にも涼介の前から逃げ出したくなっているこの感情を。
「ユースに昇格してから1ヶ月、俺や光や賢治、それに優夜は間もなくAチームに昇格することが確定している。Bチームでの試合ではジュニアとユースの環境の違いを知るために残っていたが、俺達なら充分に通用するという判断が下されたみたいだ」
「当たり前だ。お前達は俺が認める最高のサッカープレイヤー達だからな。プロに行ってからがスタートラインだろ」
「今の東京Vユースは俺達だけじゃなく先輩達も優秀だ。3冠も当然視野にいれられるだろう。だが…………本当はここにお前がいるのが理想だったんだ、修斗」
苦々しい表情の涼介の言葉に、くしゃりと心が捻じ曲がる。
既にユースサッカー情報誌でも幾度と無く紹介され、『ヴァリアブル世代』の筆頭として話題になっている涼介が未だに俺のことを必要としている。
そんな期待に応えることができない自分に対する不甲斐なさと、未だサッカーに全てを捧ぐことができる涼介に対する嫉妬心が胸の内をかき混ぜ染め上げて、心の中を蹂躙していく。
「俺なんかがいなくても『ヴァリアブル世代』なんて呼ばれているじゃないか」
わざとらしく皮肉を込めたような言葉がおもわず口を突いて出た。
「そんな呼び名、今は虚しいだけだ。知っていたか? 修斗がいた時には既に『高坂世代』なんて呼んでいる人達もいたんだ。俺達の中心であった修斗がいなくなったから、統一して纏めたような呼び方をしているに過ぎない」
「それでも俺は、お前が羨ましいよ」
「修斗…………」
こんな卑屈な事を言いたいわけではなかった。
涼介は俺よりも人間が出来ている。
今だって俺に気を遣って言葉を選びながら話しているのがよく分かるのに、俺は自分を知らず知らずのうちに下に置いて会話をしている。
当時の話し方が、思い出せない。
「何してんねん涼介」
懐かしい関西弁が耳に飛び込んできた。
競争心を剥き出しに、何度も張り合い声を荒げていた聞き慣れた方言。
涼介の後ろから来たのは、同じく東京Vのジャージを着込み、当時よりも身長が伸びてガタイが良くなっている男。
「優夜……!」
「なんやまさか…………修斗か?」
「懐かしいだろ優夜。お前達は修斗とあまり連絡を取っていないと言っていたからな」
優夜は俺がいることに一瞬驚きの表情を見せるも、嬉しそうに話す涼介に対してすぐさま呆れたようにハァとため息をついた。
「あんなぁ涼介、終わってもーた奴にそない構うなや。時間の無駄」
「…………なんだと?」
優夜の一言に空気がピリつく。
遠慮を知らないその発言に俺自信も苛立ちを隠せなかった。
「しばらく見ない間に言うようになったな優夜」
「俺達は今も激しい競争の中で戦っとる。当時のお前は確かに嫉妬するほどに上手く、才能に溢れていた。せやけどな、相手にコカされて怪我をして、ユースにも上がれんかったお前にもう価値はない。こんなところでのうのうとしとるのがええ証拠や」
「てめぇ──────」
「優夜ぁ!!」
俺が掴みかかるよりも早く、涼介が優夜に掴みかかった。
相手に削られた時ですら怒りを表に出さない涼介の憤激した表情を、俺は初めて見た。
「これ以上俺の親友を侮辱することは許さん!!」
涼介の〝親友〟という言葉に、不思議と霞がかっていた頭の中がクリアになっていく。
ハッキリと口にされることで俺は自分の立場を明確に認識することができた。
サッカーができなくとも、過去に積み上げてきたものは崩れない。
しかし、なおも優夜が引き下がることはなかった。
「理解しとるやろ涼介! 俺達はユースで満足してる場合ちゃう! プロだけやなく、海外進出も既に視野に入れている! 終わった選手に構っとるヒマなんかないんや!」
「それを決めるのは俺自身だ! お前じゃない! それに修斗は終わった選手なんかじゃない! 必ず怪我を完治させ、戻ってくると信じている!」
「1年近く球を蹴れてない奴を必要としとる奴なんかおらんわ! 誰も、高坂修斗を求めてなんかおらん!」
涼介の言葉と、優夜の言葉が同時に胸に突き刺さる。
期待と落胆、そのどちらもがナイフとなって俺を襲う。
「貴様……!」
「そんなことないわよ」
予想外の人物が否定した。
涼介と優夜の掴み合いを遮るように言葉を投げかけたのは弥守だった。
肩幅に足を開き腰に両手を当て、凛とした立ち振る舞いで優夜を見据えていた。
思いもよらない乱入者に、思わず俺達も固まる。
「弥守……?」
弥守は俺の方をチラリと見ると、ニッコリと笑った。
アイコンタクトだけで、俺のことを必要としているのよと語りかけてきたのが伝わる。
そして彼女は再び、優夜を睨みつけた。
あなたにおすすめの小説
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。