怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

文字の大きさ
79 / 203
遅延新入生勧誘編

新聞作成③

しおりを挟む
 次の日の放課後、俺はさっそく生徒会室へと向かい、会計専用部屋をノックした。

「…………どうぞ」

 少し間を置いた後、小さな声で返事があった。
 既に前橋は来ていたようだ。

「お邪魔します」

 まるで家に入るかのような挨拶をしながらガチャリと扉を開けて中に入った。
 部屋の中は相変わらず6畳一間の小部屋にパソコンやらモニターやらが置かれて、なおかつ横になれるベッドまである狭い空間だが、心なしか以前部屋を覗いた時よりも整理整頓されている気がする。

「なんか本当にプライベート空間って感じだな。前はもっとグチャッとした感じだった気もするが」

「ま、前からこんな感じだったし……」

「そうか? まぁとにかくよろしく頼むよ」

「そこに椅子あるから」

 俺はパイプ椅子に腰掛け、前橋は背もたれのついた高級感溢れるビジネスチェアに座った。
 既に生徒会内で庶務と会計の力関係の格差を感じる。
 それはそれとして、さっそく生徒会新聞の作成に取り掛かるとするか。

「最近はアプリでもツールでも色んなものが出てるからどれ使ってもいいんだけど……」

「よく分からんから前橋のオススメの奴でいいよ」

「じゃあ昔のデータが少し残ってるこれで……」

 前橋がパソコンを操作して画面に映し出されたのは、2年前の生徒会新聞だった。
 図書室で見たのと同じになる。

「……これを元にしてレイアウトをいじったりすれば楽だと思う」

「おお! データとか保存されてんのな! パソコンスゲェ!」

「……本当に現代の人?」

「しょうがねーだろ。パソコンなんて中学の授業でしか使ったことねーんだから」

 その時ですら何やってるか分からなかったし、何一つとして記憶に残ってねぇ。

「……マウスの使い方とか分かる?」

「馬鹿にすんなよな。それぐらい分かるって」

 前橋と位置を交換し、俺がモニターの前に座ってマウスを動かした。
 俺が動かした方向と同じように画面の矢印が動く、なるほどなるほどそういうことね思った通りだ余裕。

「よし! まずはこの新聞の文字を全部消していくぜ!」

 そのままフリーズする俺。
 …………消すのどうやるんだ?

「助けてキイえも~ん!」

「……SOSはや」

 再び前橋と位置を交換し、前橋がカーソルを合わせてキーボードをカチャリと押すと文字がパッパと消えていった。

「やっぱ天才だわ前橋」

「猿でもできるよ」

「遠回しに俺が猿以下って言ってる?」

 唐突なディスりにも負けずに頑張れ俺。
 イラストを梨音に任せている以上、文章を作成するのは俺の仕事だ。

「全部消えたよ」

「助かる」

 三度みたび前橋と位置を交換し、モニター前に座る俺。

「……文字打てる?」

「ナメんなって、ローマ字入力だろ? それぐらい分かるっての」

 将来を見据えて英語は真剣に取り組んでいたからな、それに比べたらローマ字なんて楽勝だぜ。

「え~っと……エス……エス……あった。エー……エー……これか、『さ』。エヌ……エヌ……これを4回押して『ん』。エヌとイー……イー……」

「…………日が暮れるよ」

「助けてキイえも~ん!」

「言うと思った……」

 ローマ字の打ち込む文字は分かるんだが、キーボードのどこに何があるのかさっぱり分からん!
 一文字打つのに10秒ぐらいかかったわ。

「……なんて打つの?」

「3年連続生徒会長、でスペース空けて神奈月未来」

「ん」

 カタカタカタと目にも止まらぬ速さで前橋がキーボードを叩き、一瞬にして画面上に文字が打ち込まれた。
 というかキーボードすら見てなかったよな今。

「マジで天才かよ!」

 思わず身を乗り出して画面を見てしまった。

「お、大袈裟……。練習すれば誰でもできるよ」

「いやいや本当に凄いって、俺には想像付かない世界だから。しかもキーボード見てなかったよな? どこに何があるか把握してるってことか?」

「ま、まぁ……。癖みたいな感じ……?」

「へぇ~」

「私が代わりに打つから高坂は内容を教えて」

「いいのか?」

「そっちの方が効率良い」

「じゃあ……」

 俺は文言を紙に書き起こし、前橋はそれを見て次々に打ち込んでいく。
 俺が紙にまとめて書き起こした時間よりも早く打ち込んでいくので常に驚かされ、俺はジロジロと前橋がキーボードで打ち込んでいくのを眺めていた。

「…………あまり見ないで」

「なんか手の動き面白くて」

「は……恥ずかしいから」

「まぁ気になるっていうなら……」

 俺は改めて部屋の中を見回すと、隅っこのところに隠されるようにして雑誌が重ねて置いてあるのを発見した。
 前橋が集中して打ち込んでいるようなので、俺は暇潰しがてらしれっと移動して雑誌を開いて読んだ。
 結構古いサッカー雑誌だな。
 1年前か2年前ぐらいの、しかもマイナーなジュニアユースの紹介がされてる雑誌だ。
 ペラペラとめくっていってる途中でなんとなく記憶が蘇る、これ確か俺がインタビュー受けたやつだ。
 確か真ん中あたりに東京Vの取材が───。

「高坂、これ打ち終わっ──────きゃあああ!」

「うわビックリした!」

「なななななんでそれ読んでるの!?」

 珍しく前橋が声を荒げて動揺している。
 そんな読んじゃダメなやつなのか?

「いや隅っこに置いてあったから……。というかこれって俺が前にインタビュー受けてたやつの……」

「ち、違うの! たまたま! たまたま買ったやつだから!」

「にしても何でこんなところに。というかよく見たら他の雑誌も昔に見覚えあるような───」

「読んじゃだめ!」

「うわっ! 待っ───」

 前橋が席から立ち上がって無理矢理雑誌を取り返そうと突っ込んできたので、思わず俺も避けようとしてバランスを崩し、そのまま前橋が俺にもたれるようにしてドタバタと凄い音を立てて転んだ。

「うう……」

「いってて……! すまん支えられなかった。前橋、大丈夫か?」

「……大丈夫、高坂がクッションに───」

 前橋と顔の距離がとてつもなく近い。
 俺の胸元に倒れ込むように乗っかっているから当然だ。
 冷静になればなるほど、前橋の女の子らしい体の柔らかさを直に感じてさらに動転してしまいそうになる。

「あっ…………」

「いや、その……」

 お互いに顔を見合わせたまま固まってしまっている。
 その時、ガチャリと扉が開いた。

「大丈夫!? なんか凄い音がしたんだけど──────修斗、何してるの?」

「り、梨音!?」

 この状況はヤバすぎる!
 言い逃れする文言を探せ俺!

「きいに変なことしないって言ってたよね?」

「…………事故だって言ったら信じてもらえるか?」

「宇宙人の存在と同じくらいには」

 ほぼ信じてもらえないやつ……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...