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遅延新入生勧誘編
決別②
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次の日、教室に行くと弥守の席は無くなっていた。
「あれ? 鷺宮の席無くね?」
弥守の席が無いことに誰も気が付いていないようだったが、新之助だけがポロリと口にした。
「なぁ」と俺に聞こうとしたところで宇佐木先生がホームルームのために入ってきて、弥守のことを説明し始めた。
「突然だが、鷺宮は家庭の都合により転校することになった」
教室がザワザワと騒がしくなる。
初めて弥守がいないことに気が付いたみたいだ。
男子はともかくとして、女子の中には弥守のことを良く思わない奴らもいただろう。
嫌味のような言葉もチラホラと聞こえる。
「急なことで挨拶もできないということだが、『お世話になりました』という言伝だけ預かっている。短い間しかクラスにいなかったが、仲良くしていた奴は連絡の一つでもしてやれ」
宇佐木先生と目が合った。
仲良くしていた奴の筆頭に俺が挙がっているのだろう。
そう思っているのはどうやら先生だけではないようだ。
多くのクラスメイトが俺の方を見てくる。
「高坂以外に仲良くしてた人なんている……?」
「仲良くしようとする気無かったよね……」
ヒソヒソとそんな言葉が聞こえてくる。
「随分と冷たい奴が多いみたいだな。わざわざ修斗に聞こえるように言うなっての。仲良くしてた相手の陰口なんて聞こえたら嫌な気持ちになるよな」
「まぁ…………そうだな」
「んん??」
昨日までの俺なら腹を立てて何かしら言い返していたのかもしれない。
だが、俺は弥守と決別した。
今の俺は弥守をフォローする気にはなれなかった。
「なんかあったのか? 鷺宮と」
「何も無いぞ」
「何でだよ心配になるだろ」
「大したことじゃないから心配すんな」
「バッカお前の心配なんてしてねーよ! 鷺宮の心配してんだよ!」
「お前はほんとブレねぇな」
察しの良さは相変わらず。
こいつなりに話を聞いてくれようとしたんだろう。
お節介な世話焼きだぜ。
だけどこういう奴が身近にいるというのは、俺にとって幸運なことなのかもしれない。
サッカーだけを続けていたらこんな奴とも出会うことはなかったんだろうな。
放課後、俺と梨音は生徒会室に集まり生徒会新聞の完成に立ち会った。
「そしてこれが…………キイがスキャナーでリオのイラストを取り込んだ新聞である!」
ばばん! と効果音が聞こえてきそうなほど大々的に、神奈月先輩が出来上がった新聞を広げた。
見出しにデカデカと『3年連続生徒会長 神奈月未来』と書かれ、周りには二頭身に上手いこと落とし込められた生徒会役員の面々が描かれている。
内容は①役員紹介②今後取り組んでいく政策、要望③体育祭に向けて④今後の学校行事、の4項目に分けられ、それぞれに関連する梨音の華やかなイラストが描かれている。
通行人の目に付きやすさを主軸にしたため、比較的見やすいほうだと思う。
うむ、我ながら完璧だ。
「良いですね!」
「でっしょー! 良いものを作ったよ君達は! これは生徒会長権限により、一番目につきやすい正面玄関入ってすぐの掲示板に貼らせてもらおう」
「いいんですか? そんな権利濫用して」
「1年生トリオの初仕事だよ!? ここで濫用しないでいつ濫用すると言うんだね!」
「濫用してる自覚はあるんですね……」
「これで来年の生徒会も安泰だ! 大鳥君を会長に添えれば盤石間違いないよ!」
「ちょっ、ほんとに僕がやるんですか!?」
「当たり前じゃないかー。逆に2年間も続けて最後やらないなんて選択肢、ないだろう? それにこの三人が下にいれば君の胃に穴が開くこともあるまい!」
「まだ空いたことはないんですが…………確かに去年に比べると天国みたいな環境だと思います」
「どんな環境だったんですか……」
梨音が若干引いたように聞いた。
どうやら神奈月先輩の中では俺達三人が来年も生徒会に入ることは決定しているようだ。
今年が始まったばかりだというのに、気の早い人だ。
確かに、神奈月先輩がいなくなってしまうとはいえ、きっと来年も刺激的な生徒会生活を送れるのは間違いないだろう。
魅力的な話だ。
だけど申し訳ないと思う。
俺はこの会話に水を差すことになる。
「…………すいません、一つだけ」
「どうしたんだいシュート」
「俺は…………来年は生徒会に入るつもりはありません」
「ほう……?」
「「「えっ!?」」」
「はにゃ?」
俺の発言に神奈月先輩は意外そうな表情を浮かべ、大鳥先輩と梨音と前橋が驚き、新波先輩はいまいち状況が理解出来ていなかった。
「あまり生徒会が気に入らなかったかい?」
「いえ、決してそんなことはありません。生徒会で過ごす毎日が楽しく感じているのは嘘偽りないことです」
「ならなぜ?」
「…………見返さなければいけない奴がいるからです」
「見返す……?」
昨日の関係で、俺は既にライフプランを組み立ててきた。
今年はリハビリに専念しつつ、普通の高校生としての生活を楽しむ。
来年に向けてボールを蹴れるところまで持っていき、サッカーに対するインテリジェンスを失わないようにイメトレは今まで通り欠かさない。
そして来年、どんなに遅くても来年の冬。
俺は瑞都高校の部活、あるいはヴァリアブル以外のクラブチームのセレクションを受け、3年時の大会においてヴァリアブルを倒す。
俺を見限ったクラブ関係者、終わった選手だと決めつけた優夜、そして俺をここまで奮起させた鷺宮=アーデルハイト=弥守に対して、今ここで俺は宣言する。
「来年…………俺は再び、サッカーを始めます」
逃げることは許されない。
これが俺の組み立てた道標、目標だ。
「あれ? 鷺宮の席無くね?」
弥守の席が無いことに誰も気が付いていないようだったが、新之助だけがポロリと口にした。
「なぁ」と俺に聞こうとしたところで宇佐木先生がホームルームのために入ってきて、弥守のことを説明し始めた。
「突然だが、鷺宮は家庭の都合により転校することになった」
教室がザワザワと騒がしくなる。
初めて弥守がいないことに気が付いたみたいだ。
男子はともかくとして、女子の中には弥守のことを良く思わない奴らもいただろう。
嫌味のような言葉もチラホラと聞こえる。
「急なことで挨拶もできないということだが、『お世話になりました』という言伝だけ預かっている。短い間しかクラスにいなかったが、仲良くしていた奴は連絡の一つでもしてやれ」
宇佐木先生と目が合った。
仲良くしていた奴の筆頭に俺が挙がっているのだろう。
そう思っているのはどうやら先生だけではないようだ。
多くのクラスメイトが俺の方を見てくる。
「高坂以外に仲良くしてた人なんている……?」
「仲良くしようとする気無かったよね……」
ヒソヒソとそんな言葉が聞こえてくる。
「随分と冷たい奴が多いみたいだな。わざわざ修斗に聞こえるように言うなっての。仲良くしてた相手の陰口なんて聞こえたら嫌な気持ちになるよな」
「まぁ…………そうだな」
「んん??」
昨日までの俺なら腹を立てて何かしら言い返していたのかもしれない。
だが、俺は弥守と決別した。
今の俺は弥守をフォローする気にはなれなかった。
「なんかあったのか? 鷺宮と」
「何も無いぞ」
「何でだよ心配になるだろ」
「大したことじゃないから心配すんな」
「バッカお前の心配なんてしてねーよ! 鷺宮の心配してんだよ!」
「お前はほんとブレねぇな」
察しの良さは相変わらず。
こいつなりに話を聞いてくれようとしたんだろう。
お節介な世話焼きだぜ。
だけどこういう奴が身近にいるというのは、俺にとって幸運なことなのかもしれない。
サッカーだけを続けていたらこんな奴とも出会うことはなかったんだろうな。
放課後、俺と梨音は生徒会室に集まり生徒会新聞の完成に立ち会った。
「そしてこれが…………キイがスキャナーでリオのイラストを取り込んだ新聞である!」
ばばん! と効果音が聞こえてきそうなほど大々的に、神奈月先輩が出来上がった新聞を広げた。
見出しにデカデカと『3年連続生徒会長 神奈月未来』と書かれ、周りには二頭身に上手いこと落とし込められた生徒会役員の面々が描かれている。
内容は①役員紹介②今後取り組んでいく政策、要望③体育祭に向けて④今後の学校行事、の4項目に分けられ、それぞれに関連する梨音の華やかなイラストが描かれている。
通行人の目に付きやすさを主軸にしたため、比較的見やすいほうだと思う。
うむ、我ながら完璧だ。
「良いですね!」
「でっしょー! 良いものを作ったよ君達は! これは生徒会長権限により、一番目につきやすい正面玄関入ってすぐの掲示板に貼らせてもらおう」
「いいんですか? そんな権利濫用して」
「1年生トリオの初仕事だよ!? ここで濫用しないでいつ濫用すると言うんだね!」
「濫用してる自覚はあるんですね……」
「これで来年の生徒会も安泰だ! 大鳥君を会長に添えれば盤石間違いないよ!」
「ちょっ、ほんとに僕がやるんですか!?」
「当たり前じゃないかー。逆に2年間も続けて最後やらないなんて選択肢、ないだろう? それにこの三人が下にいれば君の胃に穴が開くこともあるまい!」
「まだ空いたことはないんですが…………確かに去年に比べると天国みたいな環境だと思います」
「どんな環境だったんですか……」
梨音が若干引いたように聞いた。
どうやら神奈月先輩の中では俺達三人が来年も生徒会に入ることは決定しているようだ。
今年が始まったばかりだというのに、気の早い人だ。
確かに、神奈月先輩がいなくなってしまうとはいえ、きっと来年も刺激的な生徒会生活を送れるのは間違いないだろう。
魅力的な話だ。
だけど申し訳ないと思う。
俺はこの会話に水を差すことになる。
「…………すいません、一つだけ」
「どうしたんだいシュート」
「俺は…………来年は生徒会に入るつもりはありません」
「ほう……?」
「「「えっ!?」」」
「はにゃ?」
俺の発言に神奈月先輩は意外そうな表情を浮かべ、大鳥先輩と梨音と前橋が驚き、新波先輩はいまいち状況が理解出来ていなかった。
「あまり生徒会が気に入らなかったかい?」
「いえ、決してそんなことはありません。生徒会で過ごす毎日が楽しく感じているのは嘘偽りないことです」
「ならなぜ?」
「…………見返さなければいけない奴がいるからです」
「見返す……?」
昨日の関係で、俺は既にライフプランを組み立ててきた。
今年はリハビリに専念しつつ、普通の高校生としての生活を楽しむ。
来年に向けてボールを蹴れるところまで持っていき、サッカーに対するインテリジェンスを失わないようにイメトレは今まで通り欠かさない。
そして来年、どんなに遅くても来年の冬。
俺は瑞都高校の部活、あるいはヴァリアブル以外のクラブチームのセレクションを受け、3年時の大会においてヴァリアブルを倒す。
俺を見限ったクラブ関係者、終わった選手だと決めつけた優夜、そして俺をここまで奮起させた鷺宮=アーデルハイト=弥守に対して、今ここで俺は宣言する。
「来年…………俺は再び、サッカーを始めます」
逃げることは許されない。
これが俺の組み立てた道標、目標だ。
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