怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

文字の大きさ
118 / 203
アルバイト勧誘編

大城国紗凪④

しおりを挟む
 個人のレベルで言えば桐谷が今日戦った中ではトップだ。
 だが、この人達は全員が一定以上の基礎レベルに達しており、何よりもフットサルの戦い方というものに精通している。
 細かいパス回し、動き出しとパスを受ける位置の正確性。
 言ってみれば全員が山田の上位互換のようなものだ。

 相手のコーナーはショートパスですぐに始まった。
 俺がプレッシングをかけにいくが、ペナルティエリアライン中央に素早くパスを出される。
 ゴール前はしっかり固めており、シュートコースは塞いでいた。
 ワンツーパスで無理矢理シュートを撃ってこようとしたが、山田が上手くそれをカットする。

「やーまだ!」

 俺の要求にすぐさま山田が前へボールを蹴った。
 俺へのパスには若干ズレたが、なんとかキープすることができた。が、そのズレの一瞬にディフェンスが戻ってきており、俺は前に進むことができなかった。
 自慢じゃないが俺はボールキープや競り合いは大の得意だが、ドリブルで持ち運ぶのはクソミソの下手糞だ。
 カウンターの好機ではあったが、俺はボールを失わないように一旦落ち着かせるので精一杯だった。

「充分だ紗凪。組み立て直そう」

 相手は全員自陣へと戻ってしまったため、俺は一度高坂へとボールを戻した。

 そうだぜ、俺達には組み立てのプロがいるからな。アイツに任せておけばモーマンタイよ。

 高坂を起点に再びYの陣形を取る。
 俺と山田弟が前線へと進むが、ガッチリとマンマークが付く。俺ならこのマークがあろうともパスを受けることはできる。だが山田弟はパスを出されたら恐らく狙われるだろう。
 なので実質高坂の選択肢は、俺か山田に一度預けるか、ドリブルで突破するしかない。

「ちっ、こいつぁいけねぇな」

「なるほど相手のレベルが上がるとこうなるのか……」

 高坂が1対1を仕掛ける。
 サッカーとは違い、両足の足裏を使って細かくボールを動かし、さらに体重移動を加えることでディフェンダーを翻弄する。
 そして、右へ仕掛けると見せかけて左へカットインをし、相手の股を通してかわしてみせた。
 スピードの無い、瞬間的なキレだけで1人をかわした。

「うおっ! うっま!」

「さすが高坂っちー!」

 アイツ、今までの試合を通してフットサルでの個人技っつーのを学びおったな。
 たった数試合でどんな学習能力してやがる。

 1人かわしたはいいが数的不利は以前変わらない。
 俺と山田弟には変わらずマークがついており、突破した高坂は前後からディフェンスに挟撃される形になる。

「一度預けろ高坂!」

 右サイドにいる俺の要求に高坂が一度目線を寄越す。
 俺のマークについている人がカットをしようと足を伸ばして身体を寄せてきた。
 この程度の障壁は俺にとって問題にならない。必ずボールはキープできる。

 しかし、高坂は俺にボールを出さなかった。
 かと言って山田弟にも出さない。

 2人のディフェンスに挟まれてボールを失うと思った瞬間、ボールは高坂の背面から浮き上がり、高坂とディフェンスの頭をふわりと越えて、前へと落ちた。

 試合中の実践で使って成功する奴を俺は初めて見た。
 いわゆるドリブルしながら両足でボールを挟み込み、かかとを使って背後からボールを前に飛ばす技。それは……。

「ヒ、ヒールリフト!?」

「マジかよ!」

 技の難度としては高くはないが、刺さる場面というのも滅多に見ない。
 大抵はディフェンスに防がれたり、身体を入れられる。
 ただ今のタイミングは完璧だった。ディフェンスがボールをカットできると判断して前から詰めてきたのを確認してからのヒールリフト。
 前から詰めてきたディフェンスが待ち構えるようなスタンスだったらヒールリフトは成功しなかった。

 どんだけ技のバリエーションがあるんだよ。

「ふっ!」

 すぐさま高坂がダイレクトでシュートを放った。
 ペナルティエリアに少し入ったところからの位置からだったが、キーパーが上手く手で弾いた。
 ボールはそのままタッチラインを割る。

「クソっ」

「あ~おしい……!」

「コーナーあるぞコーナー! 俺に合わせい高坂!」

 高坂のコーナーは俺の頭へとドンピシャで飛んできたが、ヘディングシュートはまたしてもキーパーに止められた。

「ぐぬぬ」

「切り替えよう。守備だ」

 高坂と共に自陣へと戻る。
 現役のユース生として、ここまで全試合であまり活躍できていない。
 良くて並みの印象と言ったところだ。
 高坂が活躍することに抵抗など全くないが、自分に不甲斐なさを感じることぐらいはある。
 〝フットサルだから〟などという言い訳など、高坂が活躍している時点で通用しない。

 …………日本代表に選ばれたことで少々天狗になっていたのやもしれんな。自分でも無意識のうちに。

 はっ、まさか高坂に2度も自分の実力の劣りを実感させられるとは思わなんだ。
 今一度、自分の立ち位置を改めるべきか。

 2年前のあの時を思い出せ。
 自身の自尊心プライドをズタズタに切り裂かれたあの時を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...