人気者の彼と僕

かのあ

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はじまり

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 僕は、他人と話すのがとても苦手だ。
 教室の隅の方で、目立たず好きな本を読んでいる時は、周りの騒がしい声が遮断されて僕だけの世界で僕一人だけになれる。読んでいる本は、アニメ化されたラノベから、母が読んでいるような本までその時の僕の気分で決まる。 

 学校は、やけに人とのコミュニケーションに長けている従兄弟と、部活で活躍している幼なじみ以外に気軽に話せる友達もいないので放課後のチャイムが鳴ったら帰宅部の僕はすぐに教室から出て家路へと急ぐ。 

 家に帰ってきてすぐにダボダボのTシャツと使い古した感じの分かる短パンに着替える。そのままベッドへとダイブし、スマホへと手をかける。最近はピアス穴を開ける動画を延々と見ている。 

 学校のクラスメイトのいる前では絶対に目立ちたくは無いが、休みの日にちょっと派手な格好をして出掛けるのが、最近の楽しみになってきている。
 僕はクラスの中で、1番と言っていいほど地味なので僕の髪の下ににピアス穴が隠れていようが、制服のカッターシャツの中にシルバーのネックレスをしていようが、誰も気付かないし気にも留めない。そのお陰で僕は放課後や休みの日にonedayのもので自分で髪の一部を染めたりして、カラコンを入れて、メイクもして、自分の好きな格好で外に出ることが出来る。 

 最初はネットで男性がメイクしているのを見て、元々自分の容姿が気になってメイクに興味のあった僕は、好きなメイクの道具ややり方を真似たりして、そこから本格的にのめり込んでいくようになった。 

 最近は、僕の好きなことを知ってくれている従兄弟の和久田翔英わくだしょうえいと、時々翔瑛の彼氏さんとも出かけたりして、今が僕の中で最高に輝いているように感じる。 

 僕は片親で家族はお母さんと弟と僕を含めて3人だけど、お母さんも弟も僕にやりたいことが出来たら全力で応援してくれる人なので、僕は幸せだな、と改めて思う。



 今日は放課後に翔瑛と家で遊ぶ約束をしているので、少し休んだら部屋の掃除を始める。ただ、僕は部屋を片付けるほうなのであまり片付けることも無い。 

 そうこうしている間に、リビングの方からインターフォンのチャイムが鳴る。僕はインターフォンに「はーい」と返事をして、玄関に向かった。



■■■



 今日もまた一日が始まる。なかなか動けない体を起こして、ずっと鳴っていた目覚ましをやっと止める。僕は朝がとても苦手で、起きるのにも一苦労だ。
 顔を洗ってからダイニングの方へ行き、家族に「おはよう」と言ってお母さんの作ってくれた朝ごはんを食べる。
食べ終わったら制服へと着替えて、カバンの中を確認してから外へ出る。
 いつも一緒に行ってくれる幼なじみの家まで迎えに行くため、少し駆け足で家まで向かう。 

 登校中にたまたま従兄弟とその彼氏さんに出会ったけど、今日は約束してる訳では無いので邪魔かなと思い、「翔ちゃんおはよう」と挨拶をしてそのまま幼なじみの家までひとりで迎えに行った。


その後そのまま幼なじみの和希かずきと合流して、一緒に学校まで行く。和希とはクラスが離れているのでクラスにはひとりで入り、窓側の1番後ろという僕のお気に入りの席に座る。
学校の中で気兼ねなく話せるのは、違うクラスの和希と年上の翔ちゃんくらいなので、基本的にクラスでは一人でいることがほとんどだ。自分で誰かに話しに行く勇気もないし、今は友達が沢山欲しいという訳でも、恋人が欲しいという訳でもないので僕も1人で読書を楽しんでいる。 

 本を読んでいると担任の声がした。
「今日は席替えをするぞ~」
 クラスメイトは皆喜んでいたが、僕はとてもガッカリした気持ちになる。お気に入りの席では無くなるし、周りの席の人との関係もゼロからのスタートになってしまう。席は担任が作った簡易なくじで決めることになり、生徒たちが順に引いていく。
 僕は相変わらず窓際だったけど、以前より少し前の席になった。斜め後ろの席はクラスでいつも目立っている人気者の長谷川君だったため、これから近くに人が集まってきそうで嫌だな、と思いながら僕は小さなため息をついた。



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「優斗、おはよ」 

席が近くなってから、長谷川君が毎朝挨拶をしてくれる。 

「......おはよう」 

 いつも下の名前を読んで挨拶して来るのと、クラスメイトに朝挨拶をするということをした事がなかったせいで、僕はいつも少し反応が遅れてしまう。だというのにいつも長谷川君はいつもの穏やかな笑顔を崩さずに僕が挨拶を返すのを待ってくれる。目立っている奴にはあまり近付きたくなかったけど、長谷川君は良い奴なので僕は最近彼に絆されかけている。
僕が挨拶を返すと満足したのか長谷川君はいつも話している仲間の所へ行き、穏やかな笑顔で歓談している。
僕は1人になったことに少しほっとしながら、読書を再開させた。

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