黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜

風来ほっけ

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33・お前らみんな死ね108歳で(意味不明

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※注:皇帝の名前の法則。
 皇帝として即位した際、元の名前の下に前皇帝の名をつける。
 二代目皇帝のクレスが、割といきなり舞い込んできた帝位に軽くビビって、せめて偉大な父の名を名乗った事によるが、それがなんか知らんけど続いたものらしい(爆

 ☆☆☆

 宴は終わりを迎えようとしていた。
 ここで士気を高めて、近衛騎士団はこれより先、帝国との戦いに臨む事となる。
 神聖騎士団は主に街全体を守るのが仕事だが、特に乞われた人材が近衛騎士に混じって戦地に赴く事になり、ゲームのダイダリオンはこの立場だった。
 また王宮預かりとなっていたゲーム中の勇者ファルコとマリエルは、当然のように近衛騎士たちと共に戦地に赴いていたわけだが、一応は私が戦果?を上げはしたもののファルコが勇者としての立場をまだ確立させていない状況では、恐らく私たちは神殿所属の立場として、神聖騎士団を補佐していく事になるだろうと思う。
 まあ、戦争とはいっても、王城を奪還した今の段階で、いきなりこのライブラ王国全体が戦禍に見舞われる事はない。
 帝国との国境の街エリーモアにはディーゼル辺境伯家の抱える国境警備隊があり、これは騎士団の名こそ与えられていないが、事実上はライブラ王国が誇る第三の騎士団であると言われている。
 ここを突破されなければ、まず一般庶民の生活が脅かされる事はない。
 アンダリアスの軍が王城を奇襲できたのは、バルゴ王国側からライブラ領土を走りホークス海へと流れるイシカリオ河を、ギリギリでバレない最小限の部隊で夜のうちに下ってきたからだと、将軍アンダリアス以下、捕虜として捕らえた兵たちの証言が取れている。
 この戦争にバルゴ王国との同盟が必要だったのはその為だ。
 この侵入ルートを監視する為には、どうしたってかの国の協力が必要になる。
 勿論、亡くなった王女婿がかの国の第三王子であった事も理由のひとつではあるけど。
 ちなみにこちらの世界には空を飛んで移動するという概念がそもそもないので、空路ルートの心配はしなくていい。
 一応浮遊魔法と呼ばれるものはあるけど、風話板同様、媒体となる道具が必要になる。
 というか、この媒体自体が今は『浮遊魔法』という名で呼ばれているが、それだって高いところまで浮き上がらせる事も、長距離移動も不可能なものでしかない。
 基本的には重いものを持ち上げる為に使われるもので、前世にあった油圧ジャッキのような感覚かも。
 まあ連続使用すればひと1人くらいなら、地面から10センチ程度浮かせた状態で最大400メートル移動できるが、それ以上は媒体にかかる負荷が大きい為強制的にシャットダウンし、その後クールダウンの為の時間を30時間は必要とするのであまり現実的ではないのだ。
 どれほど改良を重ねてもその距離が伸びる事はなかった為、この方法での空中移動は限界だと言われているし、そもそも必要がない為、それ以上の研究もされていない。
 ちなみにファルコの生みの親であるトーヤ・ヴァレンアレンが彼を神殿前に遺棄した際、荷車の跡が残らないよう、それを使っていたそうだが、それだって研究所からそのまま来たわけではなく、神殿の手前の裏路地から使い始めたものであるとの本人の自供が取れている……と、話が逸れた。
 なので、少なくともゲームのシナリオでの1年半で、この後大きな戦闘に至るのは、国境と河を突破してこようとする敵の進軍を止める為の2回の防衛戦と、バルゴ王国からの要請による援軍としての出撃、帝国に拐われるマリエルの奪還劇(この戦いの直前に皇帝ランス・クレスが崩御し、無駄にイケメンだが攻略不可の皇太子ジェノスが新皇帝ジェノス・ランスとして即位する)、遂に防衛を破り乗り込んできた新皇帝ジェノス・ランスと、ファルコが一騎討ちとなる最後の決戦の計5回。
 それ以外の期間はゲームでは勇者育成とデートに使われ、一般市民も割と普通に皆、平和な日常生活を送っており、基本的に王都内の非戦闘員である一般庶民は、最後まで戦争に巻き込まれずに終わる事となる。
(前世のバレンタインやクリスマスにあたる日もちゃんとあり、各キャラクターとのイベントも用意されている。一応シナリオの時間枠としては真ん中ら辺の期間だが、この後からストーリーイベントが続き、日常パートで愛情値を稼ぐ事が難しくなる為、ここでイベントが発生した相手がエンディングの相手となる事がほぼ決定している)
 身も蓋もない言い方をすれば、この世界では戦争など、ヒロインと攻略対象の仲を深める舞台装置に過ぎないのだ。
 その物語自体がヒロインの離脱で破綻した以上、これからどうなるか判らないけど。
 そもそもこれが、今の私たちにとっては避けようのない現実だし。

 …事態が動いたのは、私がちょっと打ちひしがれた、そんなタイミングだった。
 グラスの山が倒れる音と同時に、王宮メイドの悲鳴が会場に響き渡り、反射的にそちらを振り返ったバアル様が身体全体に緊張の氣を纏う。
 …いや、本当は私にそんなの感じ取れないけど、なんか雰囲気的に。
 そしてその瞬間…バアル様の目が私から離れた、本当にその一瞬の隙をついて、私の腕が何かに引かれて、バランスを崩した私の身体が、気がつけば誰かの腕に囲い込まれていた。

「全員、動くなッ!!
 聖女の生命が惜しければ、すぐにアンダリアス将軍を解放しろ!!」
 ……………………………は?
 ええと、ひょっとして今私、人質になってます?
 ほんの一瞬、そんな緊張感のない事を考えた時、

「うちの娘に何すんじゃゴルアアァあ────ッ!!!!」
 声だけ聞けば天上の歌声のようだが、内容がどう聞いてもそれにそぐわない叫び声と同時に、賊の頭に凄まじい勢いで何かが当たり、落ちた。
 私がそれを、女性用のハイヒールであると認識した瞬間、賊の股間に母の、白いガーターストッキングに覆われた爪先が突き刺さっていた。

「らぼあじぇっ!!!」
 直撃したそれの威力をまともに受けて、質量保存の法則みたいな悲鳴を上げながらその場に崩折れた賊は、よくよく見れば件の怪しい給仕の顔だ。
 瞬時に無力化された賊が騎士達に捕縛される様子を、睨みつけるように見据えながら、私をしっかりと抱きしめた母が、鼻息も荒く言うのが聞こえた。

「…おおかた帝国の敗走兵ってとこなんだろうけど、三下がアタシの目の前で、うちの娘に危害加えようなんざ、命要らないって言ってるようなモンだわ!
 王都下町のカスミイラクサと呼ばれた、テレサ・ネイサンを舐めんじゃないわよ!!」
 ……解説すると、カスミイラクサというのはこの世界にある、細かい毛のような毒のトゲをもつ植物の名前で、かすみ草に似た可憐な花に騙されて触れると、激しい痛みと腫れを生ずる事から、たびたび男に手痛い仕打ちをする女性に喩えられる。
 手痛い仕打ち(物理)ですねわかりません。
 あとネイサンは母の旧姓だが、この場面でそう名乗られると、『テレサ姐さん』に聞こえる。

「違うよテレサ。君は私の奥さんなんだから『ネイサン』じゃなくて『シュヴァリエ』だろ?」
「てへ♪」
 …父さん、つっこむところおかしいです。
 あと母さん、『てへ♪』じゃない。
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