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12【魔法学園1年生 11】

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 初めは授業をサボってでも完遂すべきと考えていたシャロンだが、昨日の話から任務達成のために日常生活を崩すのは良くない動きと取られるのがわかった。そんな訳でシャロンは今朝からしっかり教室で授業を受けているわけだ。

しかし、明日までに全て見つけられるのか不安で、なんとも気持ちが落ち着かない。

シャロンはついついリリーの試験のことばかり考えていた。


早朝4時に学園へ行ってみるとすでに鍵が空いていたので、勝手に忍び込みすべての階にある廊下、外へ繋がる扉、更衣室、職員室、保健室、教室、講堂を調べ終わり55個の映像魔石を見つけた。これで残り5個。出来れば今日の放課後だけですべてを見つけ、明日は提出前の確認日に回したい。


 慣れない早起きに欠伸あくびが止まらない。シャロンは口元を教科書で隠しながら教壇きょうだんに立つ先生の話に耳を傾ける。



「はい注目、本日は基礎魔法を使って料理を作ります。卒業後、魔法使いとして任務をこなす際にはどんな状況に陥るかわかりません。今日は新人魔法使いが社会に出て困ることナンバーワン、任務遂行中の食事準備!先輩達の食事を作るのも新人さんのお仕事です。今日は調理器具がないところから魔法だけでのクッキング練習です!」


生徒達の座喚き声など気にも留めず基礎魔法担当のガブリエラ・ギャルソン先生は大きな声で説明を続けている。彼女の頭には三角の耳と長いローブの裾を持ち上げるように白い尾がある。ギャルソン先生は猫の獣人なのだ。

獣人は本来東の大陸に住む部族で魔法は使えない。しかしギャルソン先生は幼い頃からこの国に住み、シャロン達と同じ生活を送っている。魔法は使えなくとも勉学に励み魔法学園の料理教師という職を手に入れた努力家だ。


「さてさてさて、それでは2人1組のペアになってください!ペアが出来たところから食材を取りに来てね!」


ギャルソン先生の言葉にシャロンは落胆した。友達が1人もいない……。

周りを見渡すがすでにほとんどがペアとなって余っている人は居なさそうだった。

困った、これは仮病でも使ってサボろうか。とシャロンはそろりと身を低くし出入口に足を向けた。


「何逃げようとしてるのよ。」


がしっと力強く肩を掴まれ、振り返る。座席に引き戻され隣の席に勢いよく座ったのは、アスティ・クラウンだった。


「ほら、早く食材取りに行きなさいよ。」


「えっと、なんで……?」


「授業サボりはリリーに一発で試験落とされるわよ。これは、その……これでこの間の借りは返したわよ。ほら早く材料取ってきなさい。」


まさかアスティがこんな行動に出るとは、エリザベスに何か言われたのだろうか。


「…ありがとう。」


シャロンはお礼を言い席を立つ。


「私の試験はリリー以上に厳しいから。」


ふんっと顔を背けるが耳が少し赤い。彼女なりに頑張って話しかけてくれたのだろうことがわかる。


「食材はペアで取りに来てくださいねぇー!」


ギャルソン先生の声にアスティは「ちっ。」と舌打ちすると、立ち上がり「行くわよ。」と先生が待つ教壇へ向かう。

仲間になればいい奴のようだ、敵にまわしたら面倒臭そう。シャロンはアスティの後に続きながら思ったが、今はアスティの気遣いに感謝である。



「それでは、まず直径30センチ程の水の玉を1人の方が作ってください!」

全員が材料を受け取り席に着いたのを確認するとギャルソン先生が口を開いた。


「余裕がある時は魔法使いのみなさんなら道具を魔法で作ることも出来るかと思います。しかし今回は道具無しでの調理法です。ちなみに実際任務中、楽しいクッキングをする余裕はほぼないですよ!では黒板に書いた1~5までの過程を行ってください。」

にこりと笑うギャルソン先生に生徒達は無言だ。なんせ道具なし料理とは魔法を常に発動させ空中で調理するという方法なのだ。ほとんどの生徒は水の玉を維持するだけで悲鳴を上げていた。



「まず、あんたが水の玉を作って。」

シャロンはポケットから指輪を9つ取り出すと、元々はめていた左の人差し指以外全ての指に付けた。これが無ければ放出魔法が使えないからだ。

そして言われた通り水の玉を作ると、アスティは浮遊魔法で野菜を次々と水に潜らせていく。器用に水中で野菜をくるりと何度か回転させ表面を洗っていく。

アスティは洗い終わった野菜を空中で器用に皮を剥き細かく刻んでいく。


その間にシャロンは黒板に書かれた過程3の準備をするため、汚れの浮かんだ水を指定のバケツへ捨て、新たに新しい水の玉を作ると火魔法で熱し沸騰ふっとうさせた。


「ちょっと、絶対にこぼさないでよ。」


「大丈夫。」


「野菜は出来た。こっちでパンの温め準備をするわ。」


アスティは左手で切り終えた野菜の浮遊を維持し、右手で薄いシャボン玉のような膜状の火の玉を作った。

シャロンはチラリとアスティの刺繍に目を向ける。流石炎属性これは基礎魔法レベルではとてもじゃないが真似出来ない。


「パンを浮遊させてこの中に入れなさい。」

「無理。」


シャロンの左手は沸騰した水の玉を維持し、右手でそれを熱していた。これ以上は手がもう1本必要だ。何かいい方法はないか辺りを見回すと丁度アスティの胸ポケットからウサギのキーホルダーが顔を出しているのが目についた。

「これ、借りる。」

シャロンはアスティの胸元に顔を近づけウサギの耳を咥え抜き取る。アスティが慌てているのを他所に机の上に置いたウサギの額に口付け、そっと呟く。


「炎・水・風に耐久あり、アスティ・クラウンの命ずる事に必ず従い美味しい料理を作る事。」


ウサギはシャロンの言葉に答えるように一瞬青く光ったかと思うと、ガタガタと小刻みに震え出し、次の瞬間にはその場に立ち上がりアスティの方へ顔を向けた。


「ちょっと!?私のウサギに何をしたのよ!!これはエリザベス様にもらったウサギなのに!!」

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