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二章

七、若き日のゼウス 後編

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「二十年前のあの日、初めての勇者が思いの外、上手く創れたんで浮かれていてな。本当にすまない」

 若き日の自分のミスに今になって気が付くなんて。 
――うっかりしていた。


「村中をさがしたと言っていたが……何の手掛かりもなくて当然だ。他の者には何も見えない。だが、あの子が強く望んだのなら魔界の入口が現れる可能性がある」

  
ガチャン!
 

何かが割れる音に、女性はハッとすると、急いで台所へけつけた。

「やっぱり!!  私の湯呑みじゃない! ひどい!」
 
 村長がよりによって、娘のお気に入りの湯呑みを割ったようだが全く目に入っておらず、あんぐりと口を開けたまま固まっている。

 
――女の勘もよく当たるのだ。  
  
 
  
「そ、それで……孫は……」

「恐らく、見つけてしまったんだろう」


「だけど、一体どうやって?」

 
「本当に何の変哲もない場所なのだ。だが、私たちの怒りが一定を超たとき扉があらわれ、トンネルがあちら側に通じる」

 もし、その時が来た場合は何人か仲間を呼び寄せ、勇者と共に行かせるつもりだったのだ。

勇者とはいえひとりで行かせるつもりなどなかった。





ーー正義感も増し増し、初回限定の特別仕様だ!


勢いづいてしまったあの日の自分が、情けないやら、悔しいやら。



 マガドや城に住む魔物達とドンチャン騒ぎで祝った日から今まで、約束が破られた様子はない。

 
 それでも、正義感を必要以上に強く与えられた勇者にとって、日々、耐え難い悪があふれていたのだろう。


その事に気付いていなかった、私の責任だ。









 

   
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