星屑のアリュール

祝サバト

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旅立ち編

私のお気に入り

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それから12年の歳月が過ぎた。

「ただいまー」

「おけーりー」

バケツいっぱいの水を溢さないよう慎重に運んできた少女を、魔女は横目で見ながら労う。

「おしごとおーわりっと。ねぇ、今日のご飯何?」

「今日はお仕事いっぱい手伝ってくれたご褒美に、アリュールのだーい好きなシチューを作ってあげよう。シチュー食べたい人は手を挙げてー。」

「ハーイ!」

「よしよしいーこ。じゃあ早速準備しちゃお!」

私は料理はそれほど好きではなかったが、この子と一緒に暮らし始めてからは、料理をするのがとても楽しくなった。やはり調理技術を高める術式を開発しておいて正解だった。
そうこうしている間に鍋からは湯気が立ち、食欲をそそる香りを辺りに漂わせていた。

「「いっただっきまーす!」」

美味い。ニンジンやじゃがいもはトロトロになっているし、それでいて鶏肉は硬くなっていない。
出来立てほやほやのシチューを2人揃って冷ましながら食べている。
こうしてみると子供の成長というのは早いものだ。10年なんて瞬く間に過ぎていってしまう。もっとも、この私にとっては50年さえも刹那に過ぎないが。
思えば12年前の今日、秋の森でこの子を拾ってこなければ、こんな幸せには巡り会えなかっただろう。人としての生を諦めかけていた私にとって、この子は嵐の空に光る星のような存在であった。
そして今日、私にとってもアリュールにとっても大事な日となる。

「アリュール、今日はお母さんから大事な話があります。」

「ん?なぁに、お母さん。」

突然の話に理解が追いついていないのか、キョトンとした顔をしながらこちらを向いている。

「今日はアリュールの12歳のお誕生日です。」

「うん。しってるよ?…あっ!もしかして!」

「そう、明日からお母さんが魔術について教えてあげます。」

「やったぁ!やっと魔術のお勉強できるねっ!」

「そうだね、ずっといいこにしてたもんね。長かったよね。」

アリュールがこんなにも大喜びするのには理由がある。
この子はずっと私の役に立ちたいと思っていたが、力が弱く無力感を味わっていたからだ。
だが12歳になるまでアリュールに魔術を教えなかったのにも理由がある。
第一に基礎体力の向上。魔術や魔法に幼い頃から頼りきってしまうと、基礎体力が向上しない。基礎体力は術者の魔力伝達にも影響を与える。
第二に自然と触れ合わせることで、自身の根源を理解させるため。
そして最後は、私が幼い頃にその素質ゆえに苦労したという過去があるからだ。
しかしそんな私の心配をよそに、アリュールは明日から始まる授業に胸をときめかせている。

「よし、じゃあ食べ終わったらすぐお風呂入っちゃおうね。」

「ハーイ」

こうして、キルケーの家の灯りに霞がかかった。






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