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第一章

4.ユーリスとの和解①

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久しぶりに学園に登校する当日、私は姿見の前に立ち、自分の姿を確認して満足げに頷く。髪型、制服、問題なく地味で目立たない。どこにでもいる普通の生徒だ。と言っても貴族や王族関係者が通う学園であり、私の身分は公爵令嬢とかなり高い物であったから本当に普通の生徒とは言えないのだけれど、それでも、今の格好は他の貴族令嬢や子息達よりも地味で目立たないものである。
制服を新しく普通のものに新調したいって言った時のお父様達の複雑そうな顔はあったけれども。今までは派手で目立つものを好んでいたのだから仕方ないのかもしれない。屋敷の使用人達にも、お嬢様は頭を打たれてから性格が変わられた。なんて噂もされていた。まあ、確かに今までは自分が一番で世界は自分中心の回っているなんて思ってて、我が儘言いたい放題のし放題の派手好き。使用人の事なんてカリーナは別として便利な道具みたいにしか思ってなかったご令嬢が急に、正反対な性格になってしまったのだから。
でも、前世の記憶が戻ったせいか、性格はどうにもそっちに引っ張られてしまうのだから仕方ない。それに、最推しや推し達とマリアンヌちゃんの恋愛イベントを生でみるためには、こちらの性格の方が都合が良いのだ。

(まあ、自分の目的の為には利用できるものは利用するっていうところは、ミュゼリアとしての性格が出ている気もするのよね。前世の私はもっと臆病で、話も上手くなかったし、行動力があるのも彼女の性格のおかげな気がする)

なんて考えていると、扉を数度ノックする音が聞こえてカリーナが中へと入ってくる。

「お嬢様。馬車の準備が整いました。いつでも出発できます」
「有り難う。カリーナ。さっそく向かうわ」
「それにしても…お嬢様、本当に雰囲気がお代わりになられましたね」
「そう?似合わないかしら、この格好?」
「いいえ。お嬢様はどのようなお姿でもお美しくてお可愛らしいですわ」

問いかければ、即答するカリーナに思わず苦笑する。彼女は本当にミュゼリアを大切に思っている。ミュゼリア馬鹿だと言えるぐらいに。というか、彼女が忠誠を誓うのは当主ではなくミュゼリアだけなのだ。その為か、グレイアス王子ルートをプレイしていると、ミュゼリアも他の使用人達とは別格としてカリーナの事を見ており、彼女にだけは心を開いていることが分かるシーンが何度か見られた。二人が何故ここまで強い信頼関係で結ばれているのか、グレイアス王子ルートコンプすると特典でおまけでみられる小話の一つに二人の物語も描かれているのだけれど、長くなるのでいずれ話す機会があればと言うことで。

「有り難う。それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はい。お荷物お持ちいたします」

カリーナは一礼して私の鞄を持ってくれる。本当なら自分で持てるけれど、これも彼女達の仕事だから邪魔をしてはいけない。今の私は地味にと言っても一般市民ではなくれっきとした貴族であるのだから。
カリーナを伴って一回の玄関ホールへと降りて行った直後。

「あ…」

私はある人物の姿を見つけて足を止める。視線の先に立っていたのは、輝かんばかりの銀色の髪にアイスブルーの瞳を持つ、知的で整い過ぎるほどに整った美貌を持った青年だった。彼の名前は、ユーリス・レーヴァイン。ミュゼリアの一つ年上の兄であり、攻略対象の一人でもある。そして、十二の宝石の一つ、氷の宝石の守護者。また私の最推しはグレイアス王子だけれど、彼に次ぐ推しでもある人物だ。ただ、兄と言っても、ミュゼリアとは血の繋がりはなくて、ユーリスは没落貴族の出で孤児院で育った孤児なんだ。娘しか生まれなかったお父様、アルゼス公爵は、とある事情で孤児院に立ち寄った際に、ユーリスの存在を知り、彼が自分の親友であった男の息子である事を確認するとどうしても放っておけなくて、妻ソフィアと相談の元自分達の養子として引き取る事にするんだ。レーヴァイン夫妻は元々身分を気にするような性格ではなかったから、直ぐにユーリスの優秀さを認めて、次期当主として育てる事にするんだけれど、ミュゼリアはそれが気に入らなくてね。どこの馬の骨ともわからぬものを兄だなんて認めないって言いきって、ユーリスに強く当たり散らしてきつい態度で接するんだよね。ユーリスルートではユーリスが妹との関係にも悩んでいるイベントもあるから、実はそこでもミュゼリアは少し登場するんだけれど、ここではライバルキャラではないから直接虐めたりすることはないけれど。ただ、二人が一緒なのを見てどこの馬の骨かもわからぬ同士お似合いだなんて馬鹿にして笑ったりはしてたけれど。
まあ、そんな関係だから家の中でも当然冷え切った関係で、というかミュゼリアが一方的に突っかかっていき散々言ってただけだけれど、ユーリスの方も当然ミュゼリアとは関わらないようにしてたりする。いや、それもミュゼリアが気安く話しかけるななんて言い放ってたせいだけれど。だから、今も私の姿を一度だけ見た途端、直ぐに去ろうとしていたりする。
けれど、私のゆっくりと向けられた彼の背に向かって、言葉を放っていた。

「お待ちになってください。ユーリスお兄様!」
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