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本編
そして二人は末永く※
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屋敷にもどってきて一週間。サラは侍女の仕事に復帰し、半年前と変わらぬ生活を送っていた。……そう、変態が視界の隅にいるそれなりに穏やかな生活だ。
ガールデンの屋敷に帰った当日は実に大変だった。何せ、あの変態マクシムの『半年分蓄えた性欲』が大爆発したのだ。正常位で一回交わった後、久々の快感で朦朧とするサラを上に乗せ「貴女は乗馬も得意なんでしょう?」とサラ自ら腰を振るよう強要されさんざっぱら啼かされた。
「あっやぁ!うごかない、れぇえッふぁ!アぁんッふか、い……あんっあ、あ!!」
「嗚呼、サラ……もっとしっかり乗りこなさない、とッ!……馬に良いように、振り回されてしまいますよ!ほら!」
「ア、ぁあんッマクシムさん、らめ、腰……動かないぃ……ひぃん!」
「はぁ、あぁ、サラの涎が私の顔に滴っていますよ、はぁ!何という甘露なのでしょう!!サラ!!貴女の口から直接味わう唾液も最高ですが、こうして口から滴ってくるのを受け止めて味わうのもまた素晴らしい!サラ、貴女の恵みで私の愚息はさらに大きくなりましたよ。感じるでしょう?………は、今なら子宮までねじ込めそうです」
「やぁ、らめぇ!!それ以上されたらこわれりゅ……も、こわれちゃう…ァあぁン!!!」
「ああ、ハハ!!貴女の子宮と私の愚息がキスしていますよ。こんなに必死に吸いついてきて、内臓まで可愛い……サラ……可愛いサラ……半年分たっぷりと種付けしてさしあげますからね!!!!」
「あっやらぁ!!らめ、もぅらめぇ!!あッあぁあぁあぁあ!!!!!!」
………………そんな具合で、実に半年ぶりの変態は絶好調であった。むしろ半年分以上ではないのか?というくらい、サラの体の至る所を貪り尽くし、シーツもそのままで寝られないくらい、色んなものでグショグショに汚れてしまったのだった。
因みにそのシーツは、襲い来る眠気と痛む体に鞭打ってサラ直々に洗濯した。…職場復帰して最初の仕事が汚したシーツの洗濯とは……あまりの恥ずかしさに、サラの目頭は熱くなった。
その後は、主人であるリリアーヌやライルに挨拶したり、侍女仲間の引継ぎを受けたりと目の回るような忙しさ。一方のマクシムも『特別な夜会の準備』とやらで忙しく、その夜から後はゆっくり話をする時間も取れなかった。……そんなに忙しいなら手伝おうかとサラも申し出たのだが、「貴女の手を煩わすほどのことではありませんよ」と濃厚なキスで誤魔化された。いや、むしろ煩わせてほしい。それがサラの仕事なのだが……彼女の抗議は全てマクシムの舌に絡めとられ有耶無耶になる。誠に遺憾である。
結局そんな感じで、サラは未だにマクシムと『話し合い』することが出来ていない。
――――そして、ついに『特別な夜会』の日がやってきた。
しかし奇妙なことに、その日は使用人も主人のリリアーヌも特に忙しそうには見えない。いや、何だか皆そわそわしているし、リリアーヌに至っては時折サラをチラチラ窺っているのだが、表面上はいつもの変わらぬ業務内容であった。念の為「何か手伝うことない?」と仕事仲間に聞いてみても、皆「特に無いから、サラの仕事をしていてね」の一点張り。サラは首を傾げつつも、仕方無いので自分の仕事に勤しんだ。
その日の昼休憩に、珍しくマクシムがサラの元を訪ねてきた。忙しい彼が、自分の為に時間を作ってくれたことが嬉しくてサラは満面の笑みを浮かべた。ついでに、「マクシムさぁーん!」と甘えた声で手も振る。これは恋する乙女なりのサービスだ…………すると、マクシムは両膝をついて蹲ってしまった。慌ててサラが駆け寄ると、何だか顔を抑えて小刻みに震えている。
「ま、まままマクシムさん!?どうしました大丈夫ですかぁ!?」
「全く大丈夫ではありません。貴女の凶悪な可愛らしさに鼻の粘膜をやられました」
見ると、鼻を押さえている白手袋の隙間から血が垂れていた。息も荒い。その様子にドン引きしつつ、サラはそっとハンカチを差し出して鼻血を拭き取り、鼻の根本を押さえてやった。……この変態は、鼻血を出していても美しい。サラが鼻血を出そうものなら、それはもう不細工に変身するだろうに……神様は実に不平等である。
「で、何の用ですか?」
「あ、ああ。はい。ちょっとここでは言えないことなので……庭に出ませんか?」
事前に許可もとってあるというので、サラはその申し出に素直に頷いた。――――サラも、マクシムと『話し合い』がしたいので丁度いい。彼の鼻血が止まったのを見計らい、二人は寄り添って庭の方に歩いていく。
ガールデン家の庭は、暖かい陽気の中で色とりどりの花が咲き誇っていた。日差しも柔らかく、絶好の散策日和だ。主のリリアーヌは特に薔薇がお気に入りなので、後で綺麗に咲いた薔薇を一本庭師に見繕ってもらおう。…………そんなことを考えていると、サラはいつの間にか白薔薇が咲き乱れるアーチの前に立っていた。
「サラ、お話があります。聞いていただけますか?」
目の前で、マクシムが徐に跪いた。咲き誇る白薔薇を背景に、琥珀色の瞳を柔らかく細めて跪く美青年…………見かけだけみれば、まるで物語の一場面のようだ。サラは相手が変態である事実を一瞬忘れて見惚れてしまった。
「…………はっ!ま、待ってください。その前に私も話したいことがあるんですよぅ」
「ふふ、前もこんな事がありましたね。良いですよ、幾らでもお聞きします。私は『待て』ができる男ですから」
マクシムの言葉に、ひとまず胸を撫で下ろした。この甘やかな変態野郎と何だか擽ったい雰囲気に流されて、『話し合い』の機を逃してしまってはいけない。サラは腹を括るべく、大きく深呼吸をした。
「マクシムさん」
「はい」
意を決してサラが両手を差し出すと、当然のようにマクシムが握ってくれる。白手袋ごしに伝わる体温が、サラの緊張を少しだけ解してくれた。……手袋に鼻血さえついていなければさらに良かったのだが、贅沢はいえない。何故ならマクシムは変態なのだから。
「サラは、貴方が好きです。人として、異性として……貴方を誰よりも愛してる」
これは、サラの最後の『恋』だった。苦しくとも美しい、最後の想い出になるはずだった。それを抱き込んで丸呑みにしたのは目の前のこの男。
サラの『恋』を、『愛』に変えたのは……他ならぬこの変態野郎だ。
「マクシムさん、貴方は私を……どう思っていますか?貴方は私と、どうなりたい?」
彼女は自分の心臓の鼓動を感じながら、マクシムの瞳をじっと見つめた。陽光に照らされ、彼の瞳は琥珀色から金色に変わっていく。陶器のようだった肌に赤みがさし、そして花が綻ぶように――――――笑った。
「可愛いサラ、私もそれに応える前に、貴女に……渡すものがあります」
そっとサラの手を放し、彼は執事服のポケットに手を入れた。そして、小さな箱を取り出す。小箱には焦茶色のベルベットが貼られていて、明らかに高そうだ。その箱を手の平に乗せた美貌の変態は、ゆっくりと蓋を開いた。
「サラ、これは、私の想いの形です」
小箱の中には、銀色の指輪が鎮座していた。その台座には金色の金剛石が据えられている。奥にいくにつれて、深い橙色の光を含んだその石は、まるでマクシムの瞳のように煌めいていた。
「私の体も心も魂も人生も、全て貴女に捧げます。髪の先から足の爪まで、貴女の全てを愛すると誓います。だから、サラ―――貴女の全てを、私に下さい」
それを聞いた途端、サラの焦茶色の瞳から大粒の涙が溢れだした。喉もひくついて、答えなければと思うのに上手く声が出せない。せめて、答えの代わりに何度も頷く。嬉しそうに微笑んだマクシムは小箱から指輪を抜き取り、そっとサラの指に嵌めた。
その瞬間、ワッと周囲に歓声が湧き上がった。
吃驚したサラが周囲を見回すと、茂みやら木の影やら花壇のあたりから屋敷の仕事仲間たちが顔をだして拍手している。因みに、その中にはもちろん『侍女の会』の面々や主人のリリアーヌとその夫ライルの姿まであった。夫婦揃って何て所に隠れているのだ。ガールデン家は暇なのか?場違いにも、サラはこの家の将来が不安になった。
「おめでとうサラ!あとマクシム!夜会の準備が無駄にならなくてよかったわ!!」
「ありがとうございます。奥様直々に証人になって頂けて、サラも喜んでいますよ」
「……………………しょ、証人?」
「そうですよ、プロポーズの証人です……まぁ、これだけの人間に見られていては、流石のサラも逃げられませんよね」
サラの涙をハンカチで拭いながら、マクシムは実に幸せそうに微笑んだ。因みに、そのハンカチは先程サラが鼻血を拭くときに貸したものである。何だろう、一生に一度の幸せな瞬間かもしれない時に、この喜びきれない感じは………何とも不思議な気持ちになったせいで、サラの涙はひっこんだ。ついでに言えば、リリアーヌの言葉で何ともアレな事に気付いてしまった。
「…………あの、『特別な夜会』って、もしかして……………」
「ええ、私とサラの『婚約お披露目会』ですよ。といっても、屋敷の皆とご主人様方だけの夜会ですがね。肩肘張らない身内の飲み会みたいなものですよ………皆様それぞれ出し物まで考えているらしいので、サラも楽しみにしていてください」
なるほどそれならサラに手伝わせたくないのも納得だ。所謂、不意打ちのお祝い会みたいなものではないか。だから最近皆、サラを窺ってソワソワしていたのだ。
がっくりと肩を落としたサラを抱き寄せ、世界で一番幸せそうな顔をしたマクシムがその唇にそっとキスをする。
すると、周囲でさらに歓声が湧き上がった。口笛を吹いてはやし立てる者までいる。そして調子に乗った変態野郎がディープキスに移行しようとしたものだから、サラは反射的に思い切りマクシムの足を踏んづけてしまった。
「ぐぁっサラ!やはり流されてはくれませんか…………ッ!!ああ、でも屋敷中の人々に見られながらサラに愛の折檻を受けるなんて最高に興奮しますね、ハァッ、サラ!!!本当に貴女は最高の伴侶です!!お嫁に来なさい!!!」
痛みに身悶えしながら頬を赤らめて息を荒らげる美貌の変態。その姿と言動に、屋敷中の面々が改めてドン引きした。………そうして、静まり返ったガールデン家の庭に、サラの小さなリップ音が響き渡る。
「行きますよぅ!お嫁にいきますから!!人前でセクハラ発言はやめろ変態野郎ぉおおおう!!!!!!」
そんなサラの絶叫を合図に、再び二人は大きな歓声に包まれた。
空は青く澄み渡り、爽やかな風にのって白薔薇の花びらが舞い上がる。柔らかな日差しが、まるで彼らの新たな門出を祝福しているかのように降り注いでいた―――――
こうして、恋に溺れる愚かで、残り滓で、さみしんぼのサラ・ノールは―――変態に頭から食べられてしまった。
そして新しく生まれたのは、恋した男を愛して愛されたサラ・ノール。さみしんぼだけれど、寂しくない、幸福に満ちみちた只一人の為の女だ。
「サラ!!愛しいサラ!!貴女は幾つになっても最高です!また一層蹴りが冴えましたか!!そんな貴女を子宮から皮膚から侵したい!まだまだ侵したりない!!貴女の底しれない魅力にゾクゾクしますよサラ!!あぁあ必ず一緒の墓に入りましょう!貴女と骨から混じり合いたい!サラ!サラぁあぁあ!!!!!」
「五月蝿い変態野郎!まだ枯れないんですか!!もういい加減落ち着…………ちょ、こっち来ないで下さいよぅ!わっ……ひぎゃぁあぁあ!!!!!」
―――――――その男が生涯変態だったということが、たまに傷だが。
ガールデンの屋敷に帰った当日は実に大変だった。何せ、あの変態マクシムの『半年分蓄えた性欲』が大爆発したのだ。正常位で一回交わった後、久々の快感で朦朧とするサラを上に乗せ「貴女は乗馬も得意なんでしょう?」とサラ自ら腰を振るよう強要されさんざっぱら啼かされた。
「あっやぁ!うごかない、れぇえッふぁ!アぁんッふか、い……あんっあ、あ!!」
「嗚呼、サラ……もっとしっかり乗りこなさない、とッ!……馬に良いように、振り回されてしまいますよ!ほら!」
「ア、ぁあんッマクシムさん、らめ、腰……動かないぃ……ひぃん!」
「はぁ、あぁ、サラの涎が私の顔に滴っていますよ、はぁ!何という甘露なのでしょう!!サラ!!貴女の口から直接味わう唾液も最高ですが、こうして口から滴ってくるのを受け止めて味わうのもまた素晴らしい!サラ、貴女の恵みで私の愚息はさらに大きくなりましたよ。感じるでしょう?………は、今なら子宮までねじ込めそうです」
「やぁ、らめぇ!!それ以上されたらこわれりゅ……も、こわれちゃう…ァあぁン!!!」
「ああ、ハハ!!貴女の子宮と私の愚息がキスしていますよ。こんなに必死に吸いついてきて、内臓まで可愛い……サラ……可愛いサラ……半年分たっぷりと種付けしてさしあげますからね!!!!」
「あっやらぁ!!らめ、もぅらめぇ!!あッあぁあぁあぁあ!!!!!!」
………………そんな具合で、実に半年ぶりの変態は絶好調であった。むしろ半年分以上ではないのか?というくらい、サラの体の至る所を貪り尽くし、シーツもそのままで寝られないくらい、色んなものでグショグショに汚れてしまったのだった。
因みにそのシーツは、襲い来る眠気と痛む体に鞭打ってサラ直々に洗濯した。…職場復帰して最初の仕事が汚したシーツの洗濯とは……あまりの恥ずかしさに、サラの目頭は熱くなった。
その後は、主人であるリリアーヌやライルに挨拶したり、侍女仲間の引継ぎを受けたりと目の回るような忙しさ。一方のマクシムも『特別な夜会の準備』とやらで忙しく、その夜から後はゆっくり話をする時間も取れなかった。……そんなに忙しいなら手伝おうかとサラも申し出たのだが、「貴女の手を煩わすほどのことではありませんよ」と濃厚なキスで誤魔化された。いや、むしろ煩わせてほしい。それがサラの仕事なのだが……彼女の抗議は全てマクシムの舌に絡めとられ有耶無耶になる。誠に遺憾である。
結局そんな感じで、サラは未だにマクシムと『話し合い』することが出来ていない。
――――そして、ついに『特別な夜会』の日がやってきた。
しかし奇妙なことに、その日は使用人も主人のリリアーヌも特に忙しそうには見えない。いや、何だか皆そわそわしているし、リリアーヌに至っては時折サラをチラチラ窺っているのだが、表面上はいつもの変わらぬ業務内容であった。念の為「何か手伝うことない?」と仕事仲間に聞いてみても、皆「特に無いから、サラの仕事をしていてね」の一点張り。サラは首を傾げつつも、仕方無いので自分の仕事に勤しんだ。
その日の昼休憩に、珍しくマクシムがサラの元を訪ねてきた。忙しい彼が、自分の為に時間を作ってくれたことが嬉しくてサラは満面の笑みを浮かべた。ついでに、「マクシムさぁーん!」と甘えた声で手も振る。これは恋する乙女なりのサービスだ…………すると、マクシムは両膝をついて蹲ってしまった。慌ててサラが駆け寄ると、何だか顔を抑えて小刻みに震えている。
「ま、まままマクシムさん!?どうしました大丈夫ですかぁ!?」
「全く大丈夫ではありません。貴女の凶悪な可愛らしさに鼻の粘膜をやられました」
見ると、鼻を押さえている白手袋の隙間から血が垂れていた。息も荒い。その様子にドン引きしつつ、サラはそっとハンカチを差し出して鼻血を拭き取り、鼻の根本を押さえてやった。……この変態は、鼻血を出していても美しい。サラが鼻血を出そうものなら、それはもう不細工に変身するだろうに……神様は実に不平等である。
「で、何の用ですか?」
「あ、ああ。はい。ちょっとここでは言えないことなので……庭に出ませんか?」
事前に許可もとってあるというので、サラはその申し出に素直に頷いた。――――サラも、マクシムと『話し合い』がしたいので丁度いい。彼の鼻血が止まったのを見計らい、二人は寄り添って庭の方に歩いていく。
ガールデン家の庭は、暖かい陽気の中で色とりどりの花が咲き誇っていた。日差しも柔らかく、絶好の散策日和だ。主のリリアーヌは特に薔薇がお気に入りなので、後で綺麗に咲いた薔薇を一本庭師に見繕ってもらおう。…………そんなことを考えていると、サラはいつの間にか白薔薇が咲き乱れるアーチの前に立っていた。
「サラ、お話があります。聞いていただけますか?」
目の前で、マクシムが徐に跪いた。咲き誇る白薔薇を背景に、琥珀色の瞳を柔らかく細めて跪く美青年…………見かけだけみれば、まるで物語の一場面のようだ。サラは相手が変態である事実を一瞬忘れて見惚れてしまった。
「…………はっ!ま、待ってください。その前に私も話したいことがあるんですよぅ」
「ふふ、前もこんな事がありましたね。良いですよ、幾らでもお聞きします。私は『待て』ができる男ですから」
マクシムの言葉に、ひとまず胸を撫で下ろした。この甘やかな変態野郎と何だか擽ったい雰囲気に流されて、『話し合い』の機を逃してしまってはいけない。サラは腹を括るべく、大きく深呼吸をした。
「マクシムさん」
「はい」
意を決してサラが両手を差し出すと、当然のようにマクシムが握ってくれる。白手袋ごしに伝わる体温が、サラの緊張を少しだけ解してくれた。……手袋に鼻血さえついていなければさらに良かったのだが、贅沢はいえない。何故ならマクシムは変態なのだから。
「サラは、貴方が好きです。人として、異性として……貴方を誰よりも愛してる」
これは、サラの最後の『恋』だった。苦しくとも美しい、最後の想い出になるはずだった。それを抱き込んで丸呑みにしたのは目の前のこの男。
サラの『恋』を、『愛』に変えたのは……他ならぬこの変態野郎だ。
「マクシムさん、貴方は私を……どう思っていますか?貴方は私と、どうなりたい?」
彼女は自分の心臓の鼓動を感じながら、マクシムの瞳をじっと見つめた。陽光に照らされ、彼の瞳は琥珀色から金色に変わっていく。陶器のようだった肌に赤みがさし、そして花が綻ぶように――――――笑った。
「可愛いサラ、私もそれに応える前に、貴女に……渡すものがあります」
そっとサラの手を放し、彼は執事服のポケットに手を入れた。そして、小さな箱を取り出す。小箱には焦茶色のベルベットが貼られていて、明らかに高そうだ。その箱を手の平に乗せた美貌の変態は、ゆっくりと蓋を開いた。
「サラ、これは、私の想いの形です」
小箱の中には、銀色の指輪が鎮座していた。その台座には金色の金剛石が据えられている。奥にいくにつれて、深い橙色の光を含んだその石は、まるでマクシムの瞳のように煌めいていた。
「私の体も心も魂も人生も、全て貴女に捧げます。髪の先から足の爪まで、貴女の全てを愛すると誓います。だから、サラ―――貴女の全てを、私に下さい」
それを聞いた途端、サラの焦茶色の瞳から大粒の涙が溢れだした。喉もひくついて、答えなければと思うのに上手く声が出せない。せめて、答えの代わりに何度も頷く。嬉しそうに微笑んだマクシムは小箱から指輪を抜き取り、そっとサラの指に嵌めた。
その瞬間、ワッと周囲に歓声が湧き上がった。
吃驚したサラが周囲を見回すと、茂みやら木の影やら花壇のあたりから屋敷の仕事仲間たちが顔をだして拍手している。因みに、その中にはもちろん『侍女の会』の面々や主人のリリアーヌとその夫ライルの姿まであった。夫婦揃って何て所に隠れているのだ。ガールデン家は暇なのか?場違いにも、サラはこの家の将来が不安になった。
「おめでとうサラ!あとマクシム!夜会の準備が無駄にならなくてよかったわ!!」
「ありがとうございます。奥様直々に証人になって頂けて、サラも喜んでいますよ」
「……………………しょ、証人?」
「そうですよ、プロポーズの証人です……まぁ、これだけの人間に見られていては、流石のサラも逃げられませんよね」
サラの涙をハンカチで拭いながら、マクシムは実に幸せそうに微笑んだ。因みに、そのハンカチは先程サラが鼻血を拭くときに貸したものである。何だろう、一生に一度の幸せな瞬間かもしれない時に、この喜びきれない感じは………何とも不思議な気持ちになったせいで、サラの涙はひっこんだ。ついでに言えば、リリアーヌの言葉で何ともアレな事に気付いてしまった。
「…………あの、『特別な夜会』って、もしかして……………」
「ええ、私とサラの『婚約お披露目会』ですよ。といっても、屋敷の皆とご主人様方だけの夜会ですがね。肩肘張らない身内の飲み会みたいなものですよ………皆様それぞれ出し物まで考えているらしいので、サラも楽しみにしていてください」
なるほどそれならサラに手伝わせたくないのも納得だ。所謂、不意打ちのお祝い会みたいなものではないか。だから最近皆、サラを窺ってソワソワしていたのだ。
がっくりと肩を落としたサラを抱き寄せ、世界で一番幸せそうな顔をしたマクシムがその唇にそっとキスをする。
すると、周囲でさらに歓声が湧き上がった。口笛を吹いてはやし立てる者までいる。そして調子に乗った変態野郎がディープキスに移行しようとしたものだから、サラは反射的に思い切りマクシムの足を踏んづけてしまった。
「ぐぁっサラ!やはり流されてはくれませんか…………ッ!!ああ、でも屋敷中の人々に見られながらサラに愛の折檻を受けるなんて最高に興奮しますね、ハァッ、サラ!!!本当に貴女は最高の伴侶です!!お嫁に来なさい!!!」
痛みに身悶えしながら頬を赤らめて息を荒らげる美貌の変態。その姿と言動に、屋敷中の面々が改めてドン引きした。………そうして、静まり返ったガールデン家の庭に、サラの小さなリップ音が響き渡る。
「行きますよぅ!お嫁にいきますから!!人前でセクハラ発言はやめろ変態野郎ぉおおおう!!!!!!」
そんなサラの絶叫を合図に、再び二人は大きな歓声に包まれた。
空は青く澄み渡り、爽やかな風にのって白薔薇の花びらが舞い上がる。柔らかな日差しが、まるで彼らの新たな門出を祝福しているかのように降り注いでいた―――――
こうして、恋に溺れる愚かで、残り滓で、さみしんぼのサラ・ノールは―――変態に頭から食べられてしまった。
そして新しく生まれたのは、恋した男を愛して愛されたサラ・ノール。さみしんぼだけれど、寂しくない、幸福に満ちみちた只一人の為の女だ。
「サラ!!愛しいサラ!!貴女は幾つになっても最高です!また一層蹴りが冴えましたか!!そんな貴女を子宮から皮膚から侵したい!まだまだ侵したりない!!貴女の底しれない魅力にゾクゾクしますよサラ!!あぁあ必ず一緒の墓に入りましょう!貴女と骨から混じり合いたい!サラ!サラぁあぁあ!!!!!」
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