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第四話
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第二回幹部会議は、前回から一週間経った頃に開かれた。
その間、自律式移動城である常世はその機能を発揮することもなく、地下で動きを止めたままであった。
「外部探索や回収サンプルの調査の結果が明らかになりました」
小モニター越しに史生が報告を始める。
「まず外部について該当する地域、国家を明らかにすることはかないませんでしたが、少なくとも生息する動植物から見て、日本国内ではないであろうと考えられます」
「あんなに攻撃的な土人が、日本の森で屯ってるなんて事態になってなくて、安心したわ」
頭の後ろで腕を組み、椅子の背もたれに寄り掛かってゆらゆらと揺れながら、佐官は言った。
「森林の広さは約三十平方キロメートル程度と考えられ、徒歩でも数日で抜けることが出来ると思われますね。今回は安全性と征服計画の秘匿のため森の外までは調査は行ってませんけども……」
会議室の巨大モニターには、偵察機から得た森全体の想定図や偵察からの写真などが映されていた。
「ただ……」
と、ここまで饒舌だった史生が、何かもごもごと言い淀む。
「ただ……今回得た敵対的な土人のサンプルを含め、この森の生物を正確な意味で動植物と言えるのかは疑問です」
「どういうことですか?」
やや身を乗り出すようにして次官は史生へと問う。それまで興味なさそうに体を揺らしていた佐官も、今ばかりは小モニター先の史生の答えに注意を払っているようだった。
「……『最終普遍共通祖先』、つまり『LUCA』は、その名の通りあらゆる生物の共通祖先とされていますが、この森の植物らしき生物や土人サンプルは『LUCA』を祖先に持たない生命体であるという結果が得られました」
「……ほう」
誰からともなく、感嘆のため息を吐く。
「じゃあなんだ。あの妙な連中は宇宙人でこの森は地球外生命体の巣だってことか?」
「地球に潜伏中の宇宙生命体……あるいは、私達自体が地球外に迷い込んだということも考えられますが」
次官と佐官はお互いに顔を見合わせた。
「いやいやいや。いつから常世は宇宙戦艦になったんだよ。ないないない。地下からいきなり宇宙とか、そんな瞬間移動とかワープみたいな機能なかったろ」
「そ、そういえば……前に日本の大深度地下の熱源域から、宇宙誕生前の揺らぎにも似た性質を持つ『原初の液滴』を得たという報告がありましたね。あれならば液状粒子から発生した原始生物を生み出すこともあるのではないでしょうか」
「つまりあれか、『LUCA』を祖先に持たないのは、私らの管理する『原初の液滴』から生み出された実験生物が由来になってるってことか? まあ、判官の野郎が外に出た時に一緒になって抜け出したって考えるのは自然ではあるよな……」
次官の言葉で、未だ連絡のつかない判官を思い出した佐官は、面倒ごとの責任を判官に押し付けることを思い付いたらしかった。
「それなら、宇宙人だの何だのって頓珍漢な話にはならないし……判官と連絡取れないのも、実はあいつが裏切り者で『原初の液滴』や実験生物を持って行っちまったとか」
「ですが、『原初の液滴』は厳重に管理されているはずです。外部に漏れるということはないですし、判官殿でも勝手な持ち出しは出来ないはずですが……」
ただそんな佐官の思い付きに、史生は首を傾げて疑問を述べる。
長官も史生に同意のようで、判官が裏切り者とは思っていないようだった。
「あれは、我らが御祖の大神による御働きの一端でもある。もともと気軽に持ち運べるものではない」
「……となると、私達は全く未知の生物や環境と出会ったことになるのでしょうか。長官殿」
次官は、無表情であるとはいえ何も感じていないというわけではない。置かれた現状に憂慮を覚えているのであろう。世界征服計画の第一段階での躓き、未知なる森と奇怪な生物との遭遇。災難続きと言っても過言ではないだろう。
長官は聞く者を安心させるように落ち着いた調子で語る。
「そう悲観的になる必要はない。今回我々は珍しい実験試料を手に入れたとも考えられるだろう」
世界征服計画の実行に際し、これらの試料を用いて兵器データの収集を行うことによりカムロキの戦力が高まるのは喜ばしいことに違いなかった。
(これで、私のかわいい生物兵器達も活躍の機会が増えるぞ……むふふっ)
内心では極めて楽観的な長官は、しかしそれを全く表に出すことなく神妙な面持ちでもって、幹部会議の話し合いを行っていく。
倉庫に眠る、彼女お気に入りの生物兵器達は、まだまだ数があるのだった。
その間、自律式移動城である常世はその機能を発揮することもなく、地下で動きを止めたままであった。
「外部探索や回収サンプルの調査の結果が明らかになりました」
小モニター越しに史生が報告を始める。
「まず外部について該当する地域、国家を明らかにすることはかないませんでしたが、少なくとも生息する動植物から見て、日本国内ではないであろうと考えられます」
「あんなに攻撃的な土人が、日本の森で屯ってるなんて事態になってなくて、安心したわ」
頭の後ろで腕を組み、椅子の背もたれに寄り掛かってゆらゆらと揺れながら、佐官は言った。
「森林の広さは約三十平方キロメートル程度と考えられ、徒歩でも数日で抜けることが出来ると思われますね。今回は安全性と征服計画の秘匿のため森の外までは調査は行ってませんけども……」
会議室の巨大モニターには、偵察機から得た森全体の想定図や偵察からの写真などが映されていた。
「ただ……」
と、ここまで饒舌だった史生が、何かもごもごと言い淀む。
「ただ……今回得た敵対的な土人のサンプルを含め、この森の生物を正確な意味で動植物と言えるのかは疑問です」
「どういうことですか?」
やや身を乗り出すようにして次官は史生へと問う。それまで興味なさそうに体を揺らしていた佐官も、今ばかりは小モニター先の史生の答えに注意を払っているようだった。
「……『最終普遍共通祖先』、つまり『LUCA』は、その名の通りあらゆる生物の共通祖先とされていますが、この森の植物らしき生物や土人サンプルは『LUCA』を祖先に持たない生命体であるという結果が得られました」
「……ほう」
誰からともなく、感嘆のため息を吐く。
「じゃあなんだ。あの妙な連中は宇宙人でこの森は地球外生命体の巣だってことか?」
「地球に潜伏中の宇宙生命体……あるいは、私達自体が地球外に迷い込んだということも考えられますが」
次官と佐官はお互いに顔を見合わせた。
「いやいやいや。いつから常世は宇宙戦艦になったんだよ。ないないない。地下からいきなり宇宙とか、そんな瞬間移動とかワープみたいな機能なかったろ」
「そ、そういえば……前に日本の大深度地下の熱源域から、宇宙誕生前の揺らぎにも似た性質を持つ『原初の液滴』を得たという報告がありましたね。あれならば液状粒子から発生した原始生物を生み出すこともあるのではないでしょうか」
「つまりあれか、『LUCA』を祖先に持たないのは、私らの管理する『原初の液滴』から生み出された実験生物が由来になってるってことか? まあ、判官の野郎が外に出た時に一緒になって抜け出したって考えるのは自然ではあるよな……」
次官の言葉で、未だ連絡のつかない判官を思い出した佐官は、面倒ごとの責任を判官に押し付けることを思い付いたらしかった。
「それなら、宇宙人だの何だのって頓珍漢な話にはならないし……判官と連絡取れないのも、実はあいつが裏切り者で『原初の液滴』や実験生物を持って行っちまったとか」
「ですが、『原初の液滴』は厳重に管理されているはずです。外部に漏れるということはないですし、判官殿でも勝手な持ち出しは出来ないはずですが……」
ただそんな佐官の思い付きに、史生は首を傾げて疑問を述べる。
長官も史生に同意のようで、判官が裏切り者とは思っていないようだった。
「あれは、我らが御祖の大神による御働きの一端でもある。もともと気軽に持ち運べるものではない」
「……となると、私達は全く未知の生物や環境と出会ったことになるのでしょうか。長官殿」
次官は、無表情であるとはいえ何も感じていないというわけではない。置かれた現状に憂慮を覚えているのであろう。世界征服計画の第一段階での躓き、未知なる森と奇怪な生物との遭遇。災難続きと言っても過言ではないだろう。
長官は聞く者を安心させるように落ち着いた調子で語る。
「そう悲観的になる必要はない。今回我々は珍しい実験試料を手に入れたとも考えられるだろう」
世界征服計画の実行に際し、これらの試料を用いて兵器データの収集を行うことによりカムロキの戦力が高まるのは喜ばしいことに違いなかった。
(これで、私のかわいい生物兵器達も活躍の機会が増えるぞ……むふふっ)
内心では極めて楽観的な長官は、しかしそれを全く表に出すことなく神妙な面持ちでもって、幹部会議の話し合いを行っていく。
倉庫に眠る、彼女お気に入りの生物兵器達は、まだまだ数があるのだった。
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