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「ひぇっ」
男の子から突然悲鳴が上がった。まあそれも当然だろう。春作があったばかりの何も知らない男の子を突然抱きしめたのだ。男の子は顔を真っ赤にさせながら突然のことにまたもや固まってしまった。



「ここで僕を働かせてください!!」
春作が男の子を抱きしめた時はいつあの時が終わるのか心配だったが、意外にもその時は早くきた。男の子のお腹が鳴ったのだ。それからは早かった。関わる人間が極端に少なかった春作が世話焼きなのかどうかはわからないが、そういうところがあるのかもしれない。男の子をそのまま抱き上げ、家の中に連れ込んだ。はたから見れば誘拐だなんだといわれてしまうような光景だったが運良く、あまり人がこないような場所に立っている屋敷だったので、誰も目撃者はいなかった。男の子も特に暴れることなく大人しくしていたので、春作はこの子は軽いなーなどとのんきに考えていたが、抱きかかえられている当人は咄嗟のことで声がでていないだけであった。
 そんなこんなで男の子は抱きかかえられたまま4人ほどが囲んで座れるようなテーブルがある、居間に連れてこられた。
 座布団に座らせられた直後は呆然としていた男の子であったが、春作が何か食べられるものを、と席を立った瞬間、先程の言葉を叫んだ。
 
「え?」
春作は何のことを言われたのか一瞬理解ができなかった。その時は、初めて来てくれたお客人をもてなすことで頭がいっぱいだったのだ。だがそれも一瞬のうち。すぐにこの男の子は、あのアルバイト募集の貼り紙を見て来てくれたのだと理解した。しかし、目の前に座っている男の子はお腹を空かせているだろう。アルバイトのことはご飯を食べさせてからでもいいだろうと考え、
「すこし待っていて」
とだけ言い残しご飯の支度をしに、台所へと向かうのだった。
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