恋を知らない私たち

淀峰うい

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触れ合うだけのこの恋は、、、

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まだ17の時、年上のとても格好がいいお兄さんがいた。血は繋がってないけど面倒見がよく、私の頭を撫でる手はとても優しかった。

月明かりがこの闇に包まれてた6畳の角部屋に光を指す。
「たけるー」
眠い声と共に細くて白く大きい手が私の体を抱き寄せる。
「んー、、、」
19になった私は当時お兄ちゃんだと呼んでいた厚木たけるの家に泊まっている。
「もうすぐ13時になっちゃうよー」
軽く結ばれたたけるの腕を掴んだ。
「んー、、、もうちょい寝てよう」
たけるは今年で24になるという。
私たちの関係はあの日から変わってしまった。もうあれから3ヶ月も経つのだ、、、

まだ寒い冬のこと。1年半付き合ってた彼女に振られたと電話があって呼ばれたいつもの公園。2人がけのベンチと滑り台だけのちっこい公園。たけるはベンチにも滑り台にも腰をかけずにただただうずくまっていた。その姿はもうお兄ちゃんでも年上の先輩でもなく、大切な人を失って悲しむただ1人の人間だった。
私は何も言わずにたけるの頭を抱きしめた。たけるは泣いていなかった。きっと泣けなかったんだと思う。人はあまりにも辛い時涙さえ出ないでただ何者かが自分の感情を奪ってしまったような感覚に襲われる。
たけるは言った。
「、、、キスしてくれ」
驚きはしなかった。私はたけるとキスを交わしてそのままホテルへ行った。
頭を撫でてくれたそのやさしい手は私の体をも優しく愛でて、たけるの辛い感情や寂しさを私にうつした。たけるから交わされる会話はひとつもなく、私から口を開くこともなかった。ただ甘い吐息とたけるの涙、汗が私の体をむしばんでいった。
私はそれを受け止めて、抱きしめた。
それからたけるとは週に一回程度会うようになった。
多分、こうなる運命だったような気がする。たけるは私で寂しさを埋め、私もたけるとの時間を過ごし、たけるの傍に居られる。そうやっていいとこ取りの触れるだけの愛を続ける。

「たけるはまた誰かと付き合おうと思わないの?」
たけるは眠い目をこすりながらただ笑うだけだった。
「たける、、すき」
その言葉はたけるの心をズタズタにしただろう。
世にいうセフレ。そんなのきっと避けられるわけが無いもの。好きな人と体の関係を持ちたいと思って何がいけないのだろう。きっとこの考えさえが歪んでしまって、私たちをおかしくしてしまった。もうそれが次に発展しなくても、触れ合うだけの関係でも、体を好きでいてくれるなら私はそれを恋だと呼びたい。
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