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囚われて
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始まった本大会前のカスタム練習。5日間に渡って行われる中で本格的にチームは仕上がっていくが、これは予想外だ。
ゆさこも例に漏れず今年もチームコーチとして参加している。
ウィンターブライトというルクレーヌよりも大手の事務所。そこのライバー達で出場したチームのコーチを引き受けたようだが、そのチームが隣接するランドマークになるなど誰が予想しただろう。
初動で降りるランドマークはランダムに割り振られるが、20あるランドマークが隣合うなんてどんな確率だ。意識するなと言う方が無理だ。
心の中で悪態をつきながらもプレーに集中するが、隣接しているとなるとどうしても接敵しやすい。
早く移動し始めないと、と焦る気持ちで柧木澤と狼谷に声をかけ移動し始める。
「まだ漁れる物資あるよ。移動早いのもいいけど、ちゃんと物資漁ってからじゃないと接敵した時負けるから」
「はい!ごめん、移動意識しすぎた。2人とも大丈夫?」
「俺は大丈夫です。移動しながらでも漁れるんで」
「オレも大丈夫よー。あんま使いたい武器湧いてないっぽいしー、P20あったら教えてー」
「了解」
移動を開始してしばらくすると、敵が視界に入る。
「まっずい!」
視界に入った敵に気を取られている隙に、岩影に隠れていた敵に撃たれてしまった。
「やば、激ロー!」
「カバーします」
「ありがと!」
狼谷のカバーで敵を弾くことが出来たが、こっちの体力が減ってるとわかって詰めてくる可能性が高い。
「一旦下がって迂回しよう」
「右空いてる」
[ゆさこさんとこのチームだったな]
柧木澤の声掛けで体力を回復しながら右へ迂回するが、チラリと入ったコメントに思考が散乱する。
1人がベイトをかってその隙に2人で詰めてくるなんて、ゆさこらしい作戦だ。ゆさこならこのまま見逃すことなく体力が削れてるうちに一気に詰めてくるだろう。
「そこで一旦回復拾おうか」
「そらさん回復何個あります?」
「あー、バッテ2」
兎に角早く漁ってこの場を離れないと。
聞こえる銃声に敵の足音が迫る。
確か相手のチームに長距離射撃が得意な人がいたはずだ。ならどこから狙う?去年ゆさこは何て言ってた?
全く思考が纏まらない。頭の隅でゆさこの声がチラチラ揺さぶってくる。何、あの告白も動揺を誘うための布石だったわけ?
余計なことまで思い出し集中力も散漫だ。
落ち着け落ち着け、と必死に自分に言い聞かせる。
確かゆさこは崖上が――。
「そらさん!」
ドスッ!
視線を向けた時には弾が頭部に命中。アーマーは一気に削れ、2射め3射も当てられてしまう。
「ごめーんっ!」
更なる乱撃に気づけばボックスにされてしまった。
余計なことを考えてたせいだ。
謝りながら頭の中は猛省しかない。
ああすればこうすればといったプレーの問題じゃない。試合中にそれ以外のとこを考えてしまったのが問題だ。
「そらくんのバナー取った。狼谷くん先行こ」
せめて索敵くらいは、と2人の視点を交互に見るが、頭の中はさっきの失態でいっぱいだ。
「ホントごめん…」
「大丈夫よー」
「そらさん前線走ってたんでしょうがないです」
「切り替え切り替え」
みんなのフォローが優しすぎて申し訳なさが増す。
配信者としては1番先輩なはずなのに、この中でいちばんメンタルがガタついてると、琥陽は情けなくも自認した。
時々脳裏を過ぎるゆさこに頭を振りながらも、大会では3位の成績を収めた。因みにゆさこのチームは僅差で2位。
悔しさに唇を噛んだが、チームの仕上がりは良かったし、序盤崩壊しかけたメンタルもコーチであるJoxの「前のコーチがゆさこさんならしょうがない」という言葉で救われた。どうやら選手としても凄かったらしい。
現役プロらしく、今の流行りのムーブや構成を教えてくれたり、それをチームに合うよう組み直してくれたりと個性にあったコーチングをしてくれた。
大会を控えているのに引き受けてくれたことも感謝しない。
二次会は残念ながらコーチ不参加で行われたが、3人の仲は深まったと思う。
「俺、そらさんが個人勢の時よく配信見てました」
個人時代から知っていてくれていたという嬉しい話も聞け、全く面識がないのに狼谷が誘いを受けてくれたのも納得出来た。
毎回思うことだが、今回はこのメンバーで参加出来たことを本当に嬉しく思う。
「オレもー。そらくんがルクレーヌに入ったって聞いて即応募したもん」
「そうなの!?」
「エンさんガチじゃん」
「そうよー。そらくんの叫び声好きー」
同じ好きでも、柧木澤に言われると純粋に慕ってくれているんだなと分かる。同時に、ゆさこの言葉を今だ引き摺る自分に嫌気がさした。
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