呪いの子と公爵令息

ゆら

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ストーリー開始

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 冬が終わり春秋期と呼ばれる季節。
 学年が変わり、新たな新入生を迎えた。
 稀有な癒しの力を持つラミアの噂はアロイスの耳にも届き、とうとうシナリオが始まったのだと割り切れない気持ちを置いたまま日々が過ぎていく。

「ご存知?ラミア嬢の噂」
「魔力鑑定の儀で、癒しの力があると言われた方でしょう」

 教室や廊下、食堂に中庭。ありとあらゆる場所でラミアの噂が飛び交っている。
 特に噂好きの令嬢たちにはいい話のタネになっているようだ。

「愛らしい髪色に品のある立ち振る舞い。男爵家のご令嬢にしては所作が綺麗だって、伯爵家の男性陣が褒めてらしたわ」

 同じ令嬢から見ても元市井出身とは思えない程きちんとした礼儀作法を身につけたらしい。
 そんな噂話を今日もアロイスは中庭で呆けた顔をして聞いていた。
 中庭と言っても噴水があり、囲むようにベンチが並んでいる。ランチや放課後になるとそれなりに生徒たちが集まり、情報交換という名の噂話を楽しんでいる。
 学年が上がり生徒会に入ったヴィルフレドとは時間が合わない日も増えていた。
 呪いの事を話してからはルーベントの警戒も解け、友人として一緒にランチを楽しんでいたが、今日に限って一人とは。

「はぁ……失敗した」

 アロイスは思わず溜息を漏らした。
 ちなみに中庭に居るがベンチに座すことなく、ランチボックスを片手に茂みに身を隠している。それを今更ながら後悔することになろうとは思いもしなかったのだ。

「サクラーティ男爵家といえば、ご子息もいらしたわよね?」
「ご卒業されたサクラーティ卿と第二学年に在籍中のアロイス卿でしょ?隻眼の君って言われてるけれど、私そんな雄々しい別名好きではないわ。あの透き通るような髪色を見ると薄明って感じよね」
「わかるわ。ご入学された時から病弱と噂もあったし、あの儚げな感じが薄明って感じよね。学内でもお二人で話す姿を見かけるし、兄妹仲がよろしいのね」

 そんな言葉が耳に入り、ビクッと肩を竦ませた。
 決してアロイスに気付いたわけではない。でなければ本人の前でこんな話は出来ないだろう。

(儚げって……ただ痩せ細ってるだけなんだけど)

 学内に溢れかえる噂のひとつに、令嬢たちが話すようにサクラーティ家の兄妹がある。何故か仲がいいという体になっているが、周りがそう思うのも分からなくもない。
 ラミアは入学してしばらく経った頃、突然アロイスに話しかけてきたのだ。
 二人の間にある接点はサクラーティ家というだけで、今まで一度たりとも言葉を交わしたことなど無かったのに、突然の事に驚く間もなくラミアはアロイスの腕を握った。
 まるで周囲に見せつけるようなその行動にゾッとしたことを覚えている。
 側にいたヴィルフレドがはしたないと窘めればすぐに腕は離れたが、「兄妹ですので許してください」と甘えたような口調に閉口してしまった。所作は身に付いたようだが、中身は初めて見た時と変わってないらしい。



 その後も積極的にアロイスに話しかけてくるラミアだが、それは徐々にヴィルフレドと一緒にいる時になり、ランチ中も話しかけてくるようになっていった。

「また君か」

 久しぶりに一緒にランチを楽しめると思ったが、邪魔が入ったとヴィルフレドの表情が険しくなる。
 普段からニコニコしているわけではないので、周囲から見ればそう変わりないかもしれないが、それに気づいたアロイスは苦笑いを漏らした。

「兄やリオルディ卿とこうしてお話できることが嬉しくて」
「発言には気を付けないと……あなたも婚約者に勘違いされては困るでしょう」
「私はまだ決まった方がいませんので大丈夫です。家にいる時は話せなかったので、こうして兄と話せることが嬉しいですし」

 警告の意を込めての発言だろうが、ヴィルフレドの言葉にもめげず、ラミアは笑みを浮かべる。

「…兄妹水入らずを邪魔してしまって申し訳ない」

 そう言うとヴィルフレドが席を立った。
 その行動に目を潤ませると、ラミアは立ち上がる。

「いいえ、兄もリオルディ卿が一緒に居る方が楽しそうなので……私がお暇いたします。」

 ヴィルフレドに嫌われないよう一線を引いているのか、健気さをアピールしているのか、ラミアはペコリと頭を下げ去っていった。
 良いも悪いも言っていないが、ラミアの行動を傍から見ていた生徒たちは不審な目を向けている。
 涙を浮かべた少女が去っていけば、何かあったと勘ぐるのは仕方ないことだろう。
 すっかり置いてけぼりを食らってしまったが、事の終わりにアロイスは頭を抱えた。
 この先起こることを考えるとラミアの行動を止めることは出来ないし、嫌悪感を露わにするヴィルフレドのことを考えると、距離を置いた方がいいのではとも思う。
 完全に板挟みの日々に音を上げそうになった。


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