冒険者ギルドの受付嬢と女性冒険者を愉しむ異世界奇行

鎔ゆう

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Sid.31 捕縛作戦開始と結果

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 作戦実行日明け方。
 前日に現場を見て見取り図では得られない情報を確認。
 全員が音を立てず建物周囲に散らばり、それぞれ事前に定めた位置で待機する。突入班の五人は正面出入り口に三人。裏口からは二人が入り俺が頭目、他は幹部を押さえる。
 頭目は剣の腕もあり魔法も使う実力者だそうだ。冒険者ランクで言えば、中級一等以上あるかもしれないと。

「でも、トールの方が常識外れだし」

 などとテレーサは言っていたが、油断大敵ってのもあるからな。
 その点では盗賊団もまた、急襲されるとは思っていないだろう。事前に情報が漏れていなければ、の話だが。ギルドで話をしていたから、もしかしたら漏れている可能性も考慮しておく。
 一応、中に入る前に様子を窺っておくことも忘れない。
 エディは建物から離れた位置で待機している。万が一、幹部や頭目が逃げた際に、行方を追ってもらうためだ。
 制圧するための頭数が減ってしまうが已む無しだな。

 静まり返る周囲と建物内。確実に寝ているであろうと思われる。
 五人が同じタイミングで行動することから、俺の挙手を見た仲間が伝令方式で、裏口から侵入する仲間へと伝える手はずだ。
 若干のタイムラグもあることから、挙手して三つ数えて突入する。
 俺と一緒に行動するのはオリヤンになる。リーダーのヨアキムは元令嬢の兵士と。

 空が白み始めるタイミングで挙手すると、次々伝令方式で正面出入り口に伝わった、であろう。
 三、二、一。

 ドアを蹴破り雪崩れ込む。
 建物の反対側でも同じように音がして、まずは突入したようだ。
 オリヤンには幹部の部屋を急襲してもらい、俺は頭目の部屋へと突き進む。

 ドアを蹴破ると薄暗い室内で、ベッドに腰掛ける頭目が居る。情報が漏れていたのか? それともドアの破壊音で迎え撃つ準備を、一瞬で整えたのだろうか。

「よう。誰だか知らんが、礼儀がなってないな」

 建物内から派手な戦闘音が響き渡ると、盗賊連中の「賊が侵入した」などと言ったものも。賊はお前らだっての。
 一瞬の隙に剣を持った頭目が斬り付けてきた。すんでのところで躱すが、二の太刀、三の太刀と立て続けに攻撃してくる。かなりの使い手であることは理解した。
 防戦一方になったが、木剣で応戦する体勢を整えると、距離を取り魔法を発動させてきた。

「イスノール!」

 細かい氷の針が無数に飛んでくるのを、木剣で叩き落とすと即座に剣で攻撃される。
 手慣れ過ぎている。対人戦に関しては、頭目の方が一枚上手のようだ。こっちは魔法を使う暇もない。ヒットアンドアウェイで上手く距離を取ると、魔法を使いの繰り返しだ。
 決して広くはない頭目の部屋だが、その面積を有効に使ってくるな。
 一瞬の気も抜けない相手だ。

「フランマ!」

 今度は火の魔法だし。木剣で薙ぎ払うと頭目の剣が、喉元目指して突進してくる。躱すと魔法が飛んできて、こっちからの攻撃が上手くできない。
 更には椅子を蹴り上げて飛ばしてくる。これは避けた先で攻撃を受けるな。
 飛んできた椅子を蹴り返すと、今度は頭目が避けることで、一瞬だが隙が生まれた。
 この隙を生かすしかない。

 木剣を首元にぶち当てると「がっ」と聞こえた。上手く当たったようだ。
 壁に寄り掛かったようで、蹲る体勢になっている。勝負あったか、と思った瞬間「ヴィルヴェルヴィンド!」の声とともに、旋風が吹き荒れ体が浮きあがった。
 ヤバい。この体勢はヤバい。
 鈍い光を放つ剣が迫るのが見える。このままだと大怪我を負いかねない。已む無し。

「エルホック!」

 一瞬の閃光とパンと言う派手な破裂音がして、頭目に命中すると、もんどり打って倒れ込んだ。
 身動ぎひとつしないようだが死んだか? いや、ブリクストと違い威力は弱いはず。
 手をかざし「フォンニャ」と唱えると、白く光る縄が頭目を縛り上げ、とりあえず捕縛は完了した。
 頭目の喉元に手を当てると脈が止まってるし。これ死んでるのか? まずは蘇生させるべく心臓マッサージをすると、げほげほ言ってる。どうやら蘇生できた。結果、生け捕りとなったようだな。死んだら困るんだよ。

 さて、そうなると他の賊連中も捕まえなければ。
 頭目の部屋を出ると、見事に乱戦模様のようだ。至る所で剣戟やら魔法が飛び交い、建物にも火が付いて中に居たら、丸焦げになるだろうに。
 目の前の敵に気を取られている賊を背後から殴り、気絶させを繰り返し小一時間ほどで粗方戦闘は終了したようだ。

 火が回り始めた建物から、頭目以下幹部や賊どもを担ぎ出す。
 室内は制圧できたが、外はまだ混戦中だった。

 テレーサに襲い掛かる賊に対して、魔法で牽制するクリスタが居る。駆けつけて斬り付けるのはソーニャだ。かなりヤバい状況なのは確かなようで、賊相手に善戦しているのは、やはり兵士連中のようだ。片っ端から制圧してる。あれは実戦経験もあるな。
 兵士に手助けの必要は無いだろう。ソーニャたちの加勢に回った方がいい。

 女子に群がる変態盗賊野郎どもを、片っ端から木剣で昏倒させると、泣きそうな表情の三人が居て俺を見ると抱き着いてきた。

「怖かった!」
「死ぬかと思ったよ」
「もう駄目かと」

 対人戦だからか、やはり怖かったのだろう。かなり無理をしていたと思われる。

「ここからは参加しなくていい。隠蔽魔法で隠れて待っててくれ」
「あ、うん」

 三人を一か所に纏め隠蔽魔法を使ってもらう。
 さて、残党狩りだ。

 冒険者に加勢し敵を次々昏倒させていく。屋外に逃げ出した奴らの数足るや、八十人は下らないようだ。
 強い相手からは逃げ、対等か以下と判断すると向かってくるようだな。
 女性とは言え兵士相手で分が悪いと逃げ出すわけで。冒険者相手だと攻撃も遠慮が無いようだ。

 冒険者の何人かは負傷しているものも居る。さすがに命を落とした人は居なさそうだが、どうにも慣れていないせいで守勢に回っているな。
 追い詰めようとする盗賊の背後から、木剣で殴り倒し昏倒させを繰り返し、更に一時間程で戦闘は終了したようだが。

 何をしているのやら。あの元令嬢は。

「人質とは卑怯な」
「うるせえ、こいつを殺されたくなければ武器を捨てろ。魔法は使うなよ」

 羽交い締めにされ喉元に剣を突き付けられ、身動きが取れない元令嬢が居る。
 その周りには盗賊が五人。一歩でも動けば命が無くなるな。狼狽え泣き出しそうなガブリエッラだ。じりじりと詰め寄る兵士だが、剣を捨てる選択肢は無いのか。まあ、捨てたところでガブリエッラが助かるわけじゃない。どうせ殺されるのだろう。ついでに武器を捨てれば奴らの思う壺だし。
 そうなるとにじり寄って、隙を窺うしか無いのだろう。

 記憶を辿り都合の良い魔法は無いか探る。
 ああ、やはりご都合主義は健在だ。ぼそっと「フィエルコントロル」と口にすると、人質を取る奴の感覚がこっちに伝わってくる。喉元に突き付けられる手を、そっと下ろすように操作すると、盗賊の手も同じように動く。まあ相手の体を乗っ取り遠隔操作する魔法だ。

「おい、てめえ何してる」
「わ、わかんねえ」

 慌てる盗賊連中だったが、隙ができたことで瞬時に兵士に制圧された。
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