冒険者ギルドの受付嬢と女性冒険者を愉しむ異世界奇行

鎔ゆう

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Sid.102 空を飛ぶモンスター

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 総数二十八羽。羽と言えばいいのか匹と言えばいいのか。とにかく少々数が多いのと、上から滑空して攻撃してこようとするわけで。
 顔が残念なことで遠慮なく叩けそうな雰囲気ではあるが。胸さえ見なければな。羽ばたくと胸がプルンプルンとよく揺れるんだよ。人間と同じなのは人魚もそうだったな。

 奇声を発し攻撃態勢を取るハーピーだが、少々警戒しているのか、鋭い鉤爪を備えた足を持ちながらも近寄って来ない。顔が人間のような感じだから、嘴は無いんだよな。
 どうにも飛んでいることで攻撃し辛い。

「フランマ!」

 クリスタが痺れを切らしたのか、炎の魔法を放つが距離があると避けられる。
 ハーピーの飛行速度は速い。対して炎の魔法は打ち上げる必要があるからな。どうしても速度が落ちてくるわけだ。
 こういう時は。

「ヴィルヴェルヴィンド!」

 俺が使おうと思った魔法をクリスタが先に発動させてる。風の魔法は以前に原理を教えたからか、相当強力な風を巻き起こし、巻き込まれたハーピーが煽られて姿勢を崩してるようだ。
 もうひとつ工夫が必要かもしれない。
 クリスタにアドバイスをすることに。

「急激な下降気流を発生させれば、あいつらを落とすこともできるかも」
「なんですか、それ」
「冷たい空気は下に降りてくる」

 その逆が上昇気流。冷えれば勝手に落ちてくるもので。冷える、温まるってのは分子の動きだから止めれば冷えた、となる。原理的には。
 と、説明しても無理だった。そりゃそうだ。俺だって理解して無いのだから。それでも使えるんだよ。どうなってるのか?
 そう言えば元の世界ではレーザー冷却、なんてのができたとか話があったな。

「ニエドラグ」

 手を上にかざし唱えると、強烈なダウンバースト現象が発生し、飛び回るハーピーが次々巻き込まれ地面に落ちてくる。当然だが地面付近は猛烈な荒れ模様になるが。
 それでも踏ん張って耐えるソーニャとミリヤムが居て、テレーサとクリスタは壁を背に、辛うじて暴風に耐えているようだ。
 さて、落ちて来ればこっちのもので。叩きつけられて、フラフラになってるハーピーが居る。
 暴風が収まり始めると片っ端からソーニャが斬りつけ、剣が駄目になると予備をミリヤムが渡し、また攻撃を繰り返す。
 落ちて来ればフランマも有効で、クリスタも魔法で対処してる。まあ、羽は良く燃える。火達磨になるハーピーが居るわけで。

 暫くすると全て退治し終えたようだ。

「トールさん。あとで分かるように説明してください」

 クリスタはそう言いながら魔石を取りに向かう。テレーサもミリヤムもせっせと、ハーピーの胸元を切り開き、魔石を取り出してるようだ。数が多いからな。
 ハーピーは見た目とは裏腹に、体重が軽く骨は鳥と同じようだ。骨端はトラス構造を持つ繊維質なのだな。結果、骨は軽く大胸筋が良く発達しているようだ。道理で胸が大きく見えるわけで。
 せっせと魔石を取り出す三人だが、俺はと言えば見てるだけ。ソーニャは刃毀れした剣の手入れ中。

 作業を終えたら再び潜るのだが、どうやら深部に到達したようだ。
 ぽっかり空いた穴。その縁に立ち見下ろす。立っている場所は断崖絶壁。深さは不明で途中までは仄かに光があるが、底は見ることができず。

「飛べればなあ」
「飛ばないのですか?」
「飛べないなあ」

 飛ぶ、という動作は推進器を用いるか、グライダーの如く揚力を得るか。背中に羽を付けたところで飛行など不可能だし。勿論、人間が羽ばたいた程度で、飛べるわけもなく。
 この巨大な穴に上昇気流でもあれば、ああ、自分で発生させればいいのか。
 ただ、翼のサイズもまた無駄にでかくなるし。滑空するだけならハンググライダー程度でもなあ。底に辿り着いても上昇できないし。

「引き返すか」
「降りるのって無理?」
「無理だな。底が見えん」

 もしかしたら、常識に囚われているせいで飛べないだけかもしれないが、ここで試す勇気は無いな。平坦な場所で浮上テストでもして、飛べると判断してからだ。
 ただ、どう飛ぶのかのイメージは必須だろう。
 あ、気球に錘を付けて下降し、上昇時に外せば戻ることも可能か。熱気球程度なら製造もできそうだし。元の世界では十八世紀になってからだったが。
 深さが分かればリフトを作って、降りることもできそうだな。
 まあ、今は何も無いから今後の課題にしておこう。

 已む無く引き返すことにして地上を目指す。

 来た道をひたすら戻り、途中の広間で何度か化け物に遭遇し、その度に倒して魔石を回収しながら、地上へと帰還することができた。

 すっかり日が傾いて、そろそろ扉を閉じる頃だったようだな。

「遅かったな。戻らないのかと思ったぞ」

 守衛にそう言われたが、ミリヤムが自慢げに魔石を見せると、少し驚いた感じだ。

「狩り場としては都合がいいのか」
「そこまで強いモンスターは居ないから」

 ソーニャたちが口を揃えてそう言う。
 移動に手間取っただけだからな。

「また来るのか?」
「最深部が未確認だからな。いずれ」
「そうか。まあ頑張ってくれ」

 守衛に見送られレッティアをあとにした。
 ギルドに寄って報告と、リスベツとの約束があるんだよなあ。断れば良かったと今は思う。
 冒険者ギルドに着き中へ入ると、リスベツがすぐ気づいたようで、期待するような目付きで見てるし。
 傍に行き「報告と魔石の買い取りを」と言うと、リスベツが「今夜」と口にする。潤んだ目付きに頬を赤く染め、これはまじで期待してるな。もう已む無しだ。後ろに控える四人も今夜は貸すとしてるわけで。

 一旦カウンターを離れリッカルドを呼びに行くリスベツだ。

「ねえトール」
「なんだ?」

 テレーサが話し掛けてくるが、どうやらたぎってるようで「抱いて欲しいなあ」と抜かす。今夜はリスベツを相手にしなければならん。それで納得したはずと言うと。

「疼いてる」
「知らんぞ」
「ケチ」
「ケチじゃない」

 二人も三人も一緒だとか抜かすし、いつもやってるとも言う。けどな、それは馴染んだ仲間同士だからで、急に三人四人とかリスベツがびっくりするぞ。
 とにかく明日以降相手すると言っておいた。ソーニャやミリヤムが「毎日やると倦怠期が来るよ」と言ってるが「あたしには来ない」と。倦怠期か。来る可能性はあるよなあ。毎日だもの。

 少ししてリッカルドとリスベツが揃って出てきて、レッティアの状況をリッカルドに報告し、その間リスベツが魔石の査定を済ませる。

「鉱物鉱石資源は無しか」

 ただ、化け物が強過ぎないのであれば、中級二等以上で途中まで開放してもいいか、と。

「検討してみる」
「頭数は揃えた方がいい。化け物どもの数が多い」
「ならば六人以上とかで限定するか」

 ダンジョンを利用できれば、町がさらに潤うわけで、遊ばせておくのは勿体無いと思っていたそうだ。領主からも開放しろと圧があったらしい。人命が掛かっているから、そう簡単に開放できないと食い下がったそうだが。しかし、領主にとって冒険者なんてのは、勝手に湧いてくる程度の存在。死のうが生きようが関係無いわけで。

「開放するしか無さそうだけどな」
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