冒険者ギルドの受付嬢と女性冒険者を愉しむ異世界奇行

鎔ゆう

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Sid.143 貪婪の道化師らしい

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 前腕のあった場所が激痛と言うか熱い。血も流れ出ているようで、止血しないと今度は失血死するかもしれない。
 仰向けに倒れると空が見える。魔石は俺の右手に握られていて、青い光を放っていた。
 胸元にも血が滲んでいるのだろう。少し寒気がしたが、暫くすると勝手に血が止まったようだ。ゆっくりだが回復していると見た。
 そう言えば、腕は無くなっても生えてくる、などと言っていたな。

 起き上がると仰向けに倒れる奴が居た。身動ぎひとつしない。魔石。いや、コアとか言っていたな。この手にあるのだから、動くはずも無いとは思うが。
 暫く見ていると、やはり出てきた。人型の光だ。

「奇抜な戦い方をするのですね」
「賭けに出ただけだ」
「あの時、横に薙いでいれば、あなたも終わっていましたよ」
「だと思ったからな」

 だから手刀で抉った。

「で、こいつはなんだ?」
貪婪どんらんの道化師とでも」

 見た目ピエロみたいだと思ったら、やっぱりそうなのか。

「腕がもげた」
「生えます」
「一か月くらいか?」
「そうですね」

 暫くは不便だろうが、いずれ生えるから気にするなと。痛みが激しいのも我慢しろ、だそうだ。

「当面、幻肢痛はあると思います」
「要らないんだが」
「仕方ありません。再生力はあっても基本は人の体です」

 既に傷は塞がっているが、激痛はあり耐えているに過ぎない。できることなら気を失ってしまえば楽だが。こんな場所で意識を失っているわけにも行かない。
 こんなのがまだ続くのか知らんが、いい加減終わりにして欲しいぞ。

「半分を超えました」
「え」
「残り三回」

 まだあるのか。

「面白いことをなさっているようですね」
「面白い?」
「従えるつもりですか?」
「ああ、卵」

 可能であれば冒険者が駆り出されることは無いだろう。今のままでは戦争になれば、確実に冒険者も駆り出される。そうなった場合にソーニャたちが心配だ。戦死する可能性も高い。死なれるのは嫌だからな。

「亨さん。あなたならばできるでしょう」

 最初は失敗しても繰り返すことで、光明が見えるはずだと言う。
 ただ、戦端が開かれるまで時間はあまり無いらしい。そんなことも分かるのか。

「コアはまだ宛がわれていないのですね」
「分からんからな」
「いいえ。身の回りに居る人に宛がえば良いだけです」
「だから、誰に?」

 己の信ずるままに、と繰り返された。
 そこは教える気は無いようだ。信ずるままに、と言ってもな。もしクリスタに使って能力が飛躍的に上がるなら、それはそれで良いかもしれない。また、アデラに使って知識チートがしやすくなるなら、それもいいとは思う。
 だが、何も起こらないことも考えてしまうわけで。

「信じることです」

 ここまで試練を四回乗り越えた。最初の試練が一番厳しかったはずで、二回目以降は楽ではないかと言う。楽、と言う感じではないが、確かに死を意識することは減った。今回は悩んでしまったが。

「そこの躯が持つ力は変わりありません」
「つまり」
「亨さん。あなたが成長しているのです」

 戦闘に慣れたのもある。考えた上での行動が増えて、結果、楽になってきているらしい。

「話が長くなりました」
「で、次もあるんだよな」
「そうですね。またお会いしましょう」
「いや、会いたくない」

 揺らぐと光が弱まり徐々に消えていく。

「従えるつもりであれば、急いだ方が良いですよ」

 そう言って消えてしまった。
 こいつの言い分では、化け物も卵からなら従えられる、と言っているのと同義か。失敗はあっても繰り返せば、何かしら発見し術が見つかると。
 ならばやるしかあるまい。
 それにしても。

「くっ。まじで痛過ぎる」

 暫くは激痛に悩まされるのか。片腕を失ったことで、不便さも暫くは我慢する必要がある。
 驚くだろうな。腕が無くなってるのだから。
 まあ生えて来るとは言っていたし、生えたら生えたで、また驚かれるのだろう。クリスタならきっと「人じゃないです」なんて言うんだ。

 立ち上がり周囲を見回すと、すっかり静けさを取り戻したようだ。
 ただ、被害は大きいな。内壁もかなり損傷してるし、外壁は一部破られているし。修復作業でここも通行税が上がるのだろう。
 さて、ここで立ち尽くしていても仕方ない。
 一度、フルトグレンに戻ろう。

 馬が欲しい。痛む腕を抱えながら歩くのもしんどい。
 城壁の上を見ると人が数人。戦況確認だろう。化け物が居なくなったことで、そろそろ人が町から出てきそうだ。
 俺がやった、なんて思われると面倒だからな、離れた方がいい。

 町の外に出て少し歩くが、一歩踏み出す度に痛みが走る。
 無くなった左腕を見ると、まだ生えるわけもないな。血は止まっているし、傷口も塞がってはいるが、ああそうだ。

 義手とかあればなあ。砲を仕込んだ義手とか。銃を仕込んでみたり。あればだけどな。どうせだからサ〇コガンがいいな。普通に腕にしか見えず、しかし義手を外せば強力な武器が露になる。しかも義手は飛ぶし戻る。
 いや、寄生する生物でも。自ら考えて動いてくれるからな。硬質化するし動きは速いし、人程度ならば軽く骨ごと薙いでくれる。同時に複数を相手にするにも役立つ。
 ちょっとだけ楽しくなったが。

 ああ、中二病だ、俺も。
 痛い。中二病で痛い、ではなく失った腕が痛む。

 歩いていても野宿するしか無くなる。已む無し。
 勢い走り出すが、腕が痛むんだよな。それでも速度を上げ過ぎず、時速四十キロくらいで走れば、まだ振動も抑えられて多少はましだ。
 因みにギガントソードは背負えない。左腕が無いからな。固定できないんだよ。
 結局、右手に持ち走っているわけで。

 そう言えば往来の一切が無いな。応援要請が伝わって無いのか。
 前後の町に伝令が行っているのかもしれない。フルトグレンには来た。ならば他の町にも伝わっているだろう。夜が明けたら一斉に動き出すのかもな。
 軍隊は派遣されるのか?
 もっとも、既にケリは付いてるし無駄足だけどな。

 痛む腕を気にしつつ、手に剣を持ちながらと言うことで、走り辛いが一時間半程度でフルトグレンに着いた。
 日が昇り始める頃だが門衛が気付いたようで、俺の左腕が無いことで驚いてる。
 町の外に出てきて「おい、大丈夫なのか?」と、多少でも心配してくれているのか。

「人を呼ぶが?」
「いや、問題無い」
「だが、腕」
「そのうち何とかなる」

 それよりもギガントソードを背負わせてくれ、と言って手伝ってもらうことに。
 背中に宛がうからロックだけして欲しいわけで。保持させるのは無理があるからな。
 何とかセットしたら町に入りギルドに向かう。

 まだ開いてないかもしれないが、とりあえず向かうと中が騒々しいな。つまり営業中だ。
 扉を開けると一斉に視線が集中した。

「トール!」
「トールさ……う、え?」
「う、腕」
「と、トール様?」

 ソーニャたちが既に居て俺を見るなり、悲鳴を上げるし卒倒したのはガビィだ。少々刺激的な格好になっているからな。
 リッカルドも居るし受付嬢も全員揃ってる。
 まあ驚愕の表情を浮かべ「何が?」となってるわけで。

 側に来るも泣き出し情けない声を漏らしてる。

「腕?」
「落とされた」
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