古兵エルフの奴隷

うろうろ

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序章 奴隷の半獣人

02滑り台もお漏らしも嫌だ

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 長耳の男は最初はオレを抱き抱えてたが、途中から「邪魔だな」と言うと荷袋にズボッと入れられた。
 真っ暗な袋のなか、空気穴として緩く開けられた縛り口から、小さな眺めと音が色々聞こえてくる。
 夜空だったり、木だったり、いっぱいのひととウマの気配だったり。

 時々縛り口を開けて、無表情の男が覗き込むと、今度はりんごやパンを入れてくる。腹ぺこだったから、ムシャムシャ食べて、小さな穴から見える景色を眺めて揺られていたら、いつの間にか寝てしまっていた。

「おかえりなさいませ、御主人様」

 着いた先は凄く大きな建物で、ピカピカ綺麗で匂いがうるさくない所だった。大勢の大人の声が揃って同じことを言ってるのが袋越しに聞こえて、ドキッとした。

 大きな寝床がある部屋で袋から出されたオレは、ずっと我慢してたしっこをまた漏らしてしまった。でも袋に入れられたときからもう下はズボンも何も履いてなかったので、汚す服もない。

「滑り台じゃなくてお漏らしに名前を変えようか」

 無表情に言ってきた長耳の男と、全く知らない場所に連れてこられて急に心細くなったオレは、とうとう泣いてしまった。滑り台も、お漏らしも、どっちも嫌だ。

 尻尾で涙と鼻水をぐしゅぐしゅ拭いていると「便利だな」と呟かれてなんだか嫌だった。でも怖くて何も言えない。
 長耳がベルを鳴らすと、すぐに知らない人間の女の人達がやってきて、オレを怖い目で見ながら漏らした床を拭いて綺麗に掃除して立ち去って行く。

「トイレはここだ、滑り台。便座に座ってしろ……なんださっそくか」

 通された部屋に入って、男の指し示すトイレに駆け寄ったが座る場所が高くて、よじ登れなくて、結局抱き上げてもらう。でも穴が大きすぎて、座ると尻が落ちて身体がすっぽりはまりそうだったから、結局縁に足を掛けてしゃがんで踏ん張って出した。

「ほう。上手にウンチ出せたな。尻尾も汚さない様に立てて偉いじゃないか。ちゃんと尻も拭けるのか?綺麗に拭けたか見せてみろ」

 ずっと見ていた長耳の男が尻尾を掴んで尻を上げさせて覗き込んでくるので、やっぱりなんだか嫌だった。でもやっぱり怖くて言えない。

「小さなふぐりだ。ああそうだ、ついでに風呂に入れておこう。ノミやシラミがいるとも限らん」

 覗き込んでいた長耳男は尻尾を離してくれないままそのまま奥の大きな白い器にオレを入れると、またベルを鳴らした。
 さっき掃除をしにきた人間の女の人達がまたやってきて、オレをザバザバ洗い始める。痛いくらいの手つきで頭をゴシゴシ洗われて、身体を擦られて全身真っ赤になって、オレはふらふらになりながら全裸でその部屋を出された。

「いいか滑り台。今日からここがお前の家だ。ハウスと言われたら、すぐにそこに入れ。分かったな?ハウスだ、滑り台」

 部屋には大きくて高い寝床があったが、その隣の床にさっきまでなかった小さな寝床がある。

 長耳男が指し示す小さい寝床に座りこんだら、ビックリした。すごく気持ちよくて。
 大きなふかふかクッションが二つ並んでる上に手触りのいいタオルケットがかけられていて、思わずふみふみと手で押して揉んで楽しんでたら、いつの間にか眠っていたらしい。

「虫下しを飲ませておかないとね」

 頬を叩かれて起こされたオレは白くて丸い玉を飲めと言われたけど、怖くて飲み込めなくて噛んだらすごく苦くて泣いた。
 水をたくさん飲んだけど、それでも苦くてすごく最悪な気分のまま寝ろと言われて、泣きながら寝た。

 その日からオレはこの長耳の男に「飼われる」ことになったらしい。

 この長耳男はエルフという種族だという。

 時々遊び場を眺めにくる知らない人達の中にも長耳はいたけど、初めて種族の名前を知った。
 でも遊び場に来るエルフと、このエルフは顔付きも雰囲気も全然違う。とにかく無表情でとにかく大きくて怖かった。

「良いか滑り台。今日からお前を猟犬に特訓する。危険で死にそうになるだろうが、ついてこれないと本当に死ぬだけだからな。死にたくなければ死ぬ気でついて来い。ああ、服は脱いでおけ。どうせまた漏らす」

 言われたことが最初はさっぱり意味が分からなかったが、それもすぐに理解した。オレは何度も何度も何度も何度も、死にかけたから。

 このエルフ男は、毎日森の中や山奥で死にそうなサバイバルをさせては魔物を狩る訓練だと言って、オレを魔物の前に放り込むのだ。

 必死に逃げ回って、それも無理だと分かったら泣きながら攻撃した。何度も痛い怪我をしてしっこもうんちも漏らした。

 前までは貰ったご飯食べて、物の名前を先生に教えてもらって、後は遊び場で草を千切るだけだったのに、いまは魔物を探しては倒して、その肉を食い千切る毎日に変わった。
 いっぱい死に掛けたけど、その度にいっぱい覚えて、同じ失敗はしないように頑張った。必死な毎日だったけど、強い魔物に勝てたときは、それが凄く嬉しくて。
 しかも肉も美味しいから、更に嬉しくて。オレは夢中になって、毎日を過ごした。


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