転生王女の破滅回避プラン90! ~無自覚人たらし王女、アリスが来るまでに美形側近を溺愛モードにしていました~

とびぃ

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第8章:母(女王)の軟禁と側近の完璧なサポート(残り30日)

8-1:最後にして最大の危機

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『お菓子法』の施行という甘美な行政革命から、十日が経過した。王宮内の空気は、かつてないほどの安寧と秩序に包まれていた。それは、長年この国を覆っていたヒステリーの重圧が、ようやく解き放たれた証拠だった。女王レジーナの癇癪は劇的に減少し、行政官たちは業務に集中し、ハートの騎士団は活気に満ちている。アリス来訪までのカウントダウンは、残りわずか三十日を切っていた。リリアの破滅回避リアルタイムアタック(RTA)は、最終チェックポイントを目前に控え、成功率九十九パーセントという、経営者としてこの上ない最高の数値を弾き出していた。
王女宮の執務室は、もはや優雅な生活空間ではない。大理石の床は磨き上げられ、窓から差し込む午後の光は、彼女の背後に立つ巨大な本棚に並んだ行政書類の背表紙を照らしている。この一室は、リリアの『経営哲学』と『生存戦略』を具現化した、冷徹な戦略司令室へと変貌していた。
机の上には、ラビ宰相と共に進めている『王室財政の健全化』という最終タスクの資料が広げられている。リリアが淹れたローズマリーのハーブティーの香りが、二人の間の知的な空気を清浄に保っていた。
「リリア様。このペースならば、アリス嬢の来訪までに、王室の赤字を完全に解消できます」
ラビの赤い瞳には、リリアへの知的な崇拝が宿っている。過労の影は完全に消え去り、彼のウサ耳は、緊張ではなく、主君の完璧な計画が結実する喜びでぴんと立っていた。彼は羽ペンを手に、財務資料の最終行に力強く円滑化を示すチェックマークを書き込んだ。
「行政の秩序は、もはや鉄壁です。女王陛下という最大のノイズは、貴女様の『お菓子法』という甘い鎖によって繋がれている。このまま九十日目を迎えれば、アリス嬢のタルト裁判など、行政上の瑕疵を指摘できず、不発に終わるでしょう」
リリアは、その言葉に深く頷いた。彼女の脳裏でも、ラビの分析と全く同じ結論が導き出されていた。女王の癇癪さえなければ、ゲームの強制力は王宮という名の行政システムの前で、その威力を発揮できないはずだ。
「ええ、ラビ宰相。私たちが目指すのは、女王の気まぐれに左右されない、最強の『経営国家』の構築です。あとは、アリス嬢を迎える九十日目の『タルト裁判』というゲームの強制力を乗り切るだけ。女王陛下の癇癪さえなければ、私たちの計画は不発に終わるはずです」
彼女は自信に満ちた笑みを浮かべた。その笑顔は、前世で新作コンペを成功させた時の、純粋な達成感に満ちたものだった。
その、完璧な安寧と、確固たる自信が満ちた瞬間だった。
遠く、女王宮の方角から、城の分厚い石壁と、堅固なガラス窓を突き破るような、甲高く、ヒステリックな絶叫が響き渡った。
「――リリアを! 今すぐ、この城から引きずり出せ! 首を、はねよ!」
それは、音波というよりも、心臓を直接、鉄の拳で掴まれるような、激しい恐怖の波長だった。城全体が、女王の感情の爆発によって、物理的に震動したように感じられた。リリアの体の芯が、ゾワリと粟立つのを感じた。過労死した瞬間の胸の痛みと、九十日後に待つ断頭台の冷たい刃のイメージが、一瞬で彼女の脳裏に蘇る。
(まさか! 『お菓子法』が、効力を失った!? なぜ、今、このタイミングで)
リリアの脳内の『リスク管理システム』が、けたたましい緊急アラートを発し、最高レベルの危険信号を示す赤い光を点滅させた。女王の癇窾は、リリアが想定していた『リスク要因』の中でも、最も予測不能で、最も危険な『バグ』だ。アリス来訪という予言の強制力が、女王という最大のフラグ製造機を再び起動させたのか。
ラビの顔色が一瞬で血の気を失った。彼の純白のウサ耳は、恐怖で力なくぺしょりと垂れ下がり、羽ペンを持った手が、激しく痙攣し始めた。書類の文字が、彼の瞳の中で意味を失い、ただのインクの染みに見えた。
「女王陛下。信じられない、なぜこのタイミングで」
ラビの声は、嗚咽で掠れている。長年、女王の暴政の裏工作を続けてきた彼にとって、この絶叫は、過去の地獄の日々への逆戻りを意味していた。彼の知性をもってしても、この事態の『論理的な破綻』を理解し、受け入れることができなかった。
その時、執務室の重厚な木の扉が、外側から厳しく、そして激しい力で叩かれた。ドンドンドン、という荒々しい音は、この部屋の安寧を乱す、武力的な介入の予兆だった。
「リリア様! 何かありましたか! 今すぐそちらへ!」
真紅の騎士服を纏ったジャックが、扉の向こうで声を荒げている。彼の声は、騎士団長としての厳格な規律を打ち破り、リリアの命の危機を察した、激しい怒りと焦燥に完全に支配されていた。女王の絶叫は、ジャックの騎士としての忠誠心を、一気に『暴走』という名の最高潮へと駆り立てる。扉の木材が、彼の武力的な怒りの圧力に、わずかに軋む音が聞こえた。
リリアは、この場の混乱と、三人の側近の過剰な熱量を、一瞬で『タスク』として切り分けた。彼女は、羽ペンを静かに置き、優雅な椅子からゆっくりと立ち上がった。その顔は、恐怖に歪んでいるわけではない。むしろ、極限の危機に晒されたことで、前世のオーナーパティシエとしての、冷徹な『経営者の顔』を取り戻していた。
(『お菓子法』は対症療法に過ぎなかった。予言の強制力か、あるいは女王自身の潜在的な反発が、私のシステムを一時的に無効化した。このリスクを完全に排除するには、もはや『一時的な排除(軟禁)』という、最終手段をとるしかない)
彼女は、扉の向こうにいるジャックに、一切の感情を排した、しかし冷徹な力に満ちた声で指示を出した。
「ジャック団長。落ち着いてください。扉を開けず、そのまま待機を。ラビ宰相。女王陛下のヒステリーの原因を、今すぐ特定してください。この発作が、次のタルト裁判という『ゲームの強制力』と連動しているのかを。私たちは、このバグの『根』を、突き止めなければなりません」
リリアの冷静で、的確な指示は、ラビの痙攣していた手を、わずかに収めた。ジャックは、扉の向こうで剣の柄を強く握りしめながら、リリアの命令に従い、武力的な排除の欲求を抑え込み、静かに待機した。
その瞬間、窓の桟から、猫の喉鳴りのような、楽しげな声が響いた。音もなく、光と影のコントラストの中に姿を現したのは、情報屋チェシャ猫だ。彼の金色の瞳は、この『最悪の舞台』の展開に、歓喜に満ちて細められている。彼の黒いマントが、風もない室内の空気に、優雅な弧を描いた。
「おやおや、リリア。実に面白いことになったね。君の『お菓子法』という甘い罠も、女王という『最高の破滅フラグ製造機』の前では、対症療法にしかならないようだ」
チェシャ猫は、リリアの顔を見上げ、その歪んだ笑みを向けた。彼の声には、リリアの動揺を期待する、悪戯な響きが含まれている。
「女王は今、君の『レシピ』が、自分自身の『美しさ』と『威厳』を損なっていると、思い込んでいる。美の追求は、彼女にとって絶対の正義。その正義が、君という『娘の策略』によって脅かされている。このヒステリーは、君という『異物』を、城というシステムが拒絶し始めた、最高の『免疫反応』だ」
チェシャ猫の情報は、この危機の『本質』を、リリアの冷静な分析と完全に一致させる、最高のパスだった。リリアの心に、この事態を乗り切るための、新たな『シナリオ』の骨子が明確に結びついていく。このバグは、武力や法で解決できない。女王の『美の追求』という、彼女の最も深い欲望を、リリアの『管理下』に置くという、究極の『サービス』を提供しなければならない。
「ラビ宰相。チェシャ猫。すぐに緊急家族会議を開きます。そして、ジャック団長を会議室へ招集してください。今から、私たちは、この『最大のバグ』を、城というシステムから『一時的かつ平和的に排除』するための、プランBを発動する」
リリアの瞳には、一切の迷いがない。彼女の『生存』という利己的な目的のため、女王という『リスク要因』を、この城から切り離すという、冷徹な『経営判断』が、今、下されたのだ。彼女の周りを取り囲む三人の男たちの熱い視線は、この冷徹な判断の背後にある『主君の覚悟』を、熱狂的な溺愛と共に受け止めていた。
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