46 / 109
父からの呼び出し
しおりを挟む兄の誕生日が終わって、来月の俺の誕生日までは何事もなく、平穏に学園生活を送りながら日々を過ごす……はずだったのだが…………。
ある夜、俺は父から呼び出しをくらったので、父の書斎を訪ねた。
いつも父の側には母がいて、俺の側には兄がいて、部屋の中には執事やらお付きやらがいるので、父と二人きりの今の状況は非常に稀だ。
何があったのかなと考えながら、父が口を開くのを待つ。
長い沈黙の後、父は重い口を開いた。
「え?………今なんとおっしゃいました?」
父の告げた言葉が理解し難くて、思わず聞き返した。
「だからな、ビアトゥール大神官から、婚約申し込みの打診があったのだが」
どうやら聞き間違えではなかったようだ。
「確か神官の息子はキャシーの一つ上だったな。
何か交流があるのかい?」
「先日お兄様へのプレゼントに付与をするため、神殿を訪ねた時にお世話になりましたけれど、学園ではすれ違うくらいですわ」
神殿に行った時の記憶から消した会話が蘇る……。
「なぜここまでしてくださるの?」
「それはですね、貴女に婚約を申し込もうかと思いまして」
いきなりの発言に、思わず「は~~⁉︎」と口から出そうになったのを、なんとか堪える。
「私もそろそろ伴侶を見つけるようにと周りから言われているのです。
けれどなかなか条件を満たす方はいないのですよ」
「条件…ですか?」
「ええ」
ベルアルムが言うには、卒業後は正規の神官として、そしてゆくゆくは大神官の跡を継ぐ者として、結婚相手はバカはダメなんだと。
知識があり、頭の回転が早く、かと言って神職なので優しさもないと困る。
自分の意志はちゃんと持ちつつ、周りの人のために動けて、他人を尊重できる相手………ってそんな奴おるかい!
周りのご令嬢達は、頭が悪いか、察しが悪いか、意地が悪いんだと。
『私が私が』ばかりで人より自分優先、他人の揚げ足を取るのと、噂話を広げるのが生き甲斐。
都合が悪くなると涙を浮かべたら男の子なんてイチコロよ~♪なんて思っている人ばかりなんだって。
いや~、それはあんたの周りにたまたまそんな人が集まってるだけでしよ?
クリスティーナもスカーレットもそんな人じゃないよ。
二人とも優しいし、思いやりあるし、自分をしっかり持ちつつも、正義感もあってもちろん成績優秀。
あれ?二人とも条件に当てはまるんじゃないの?
あ、だからパーティーの時に俺に探りを入れにきたのか。
ん?それじゃあなんで俺に申し込むの?
スカーレットは王子と婚約したからダメだとしても、クリスティーナは?
ヒロインとくっ付けよ、脇役に来るなよ。
「お父様…私はこのお話を受けた方がよろしいのでしょうか?」
「家の事や私達の事を考えることはないよ。
キャシーが嫌なら断ってもいいんだからね」
この国は貴族でも王族であっても、恋愛結婚を推奨している。
政略結婚も無いとは言えないけど、政略結婚は色々不幸を呼ぶからね。
(お互いに不倫したり、婚外子ができて跡取りなどで揉めたり、色々ね)
本人達だけじゃなく、一家一族巻き込んだゴタゴタや、国を挙げてのゴタゴタになるくらいなら、好きな相手とくっ付けよ、って感じ。
ただ、やはり本当に『誰とでも』でなく、ある程度家柄に釣り合いが取れていることが前提だけどね。
だって、育ってきた環境が違うと価値観の差は否めないからね。
例えば、伯爵家の跡取りである兄の相手が八百屋の娘とかだったら……もうその字面だけでアウトじゃん。
マナーや貴族間の付き合い、しきたりや親戚付き合い、仕事の補佐に、後継が生まれたときの教育。
一から覚えてなんて無理だよ。
これがまあ、格下でも同じ貴族なら、基礎はできてるだろうから何とかなるだろう。
でもうちより上位の貴族になると、更に他国との付き合いやその家の歴史やら何やかやが上乗せされる。
マナーやしきたりも変わってくるから、あまり差があると結婚後が厳しいことになる。
だから、家柄的に釣り合う範囲で「さあ、この中からなら好きな相手選んで良いからね」って感じになっている。
大神官の相手なら、貴族位なら下位でもギリOKって感じかな。
伯爵位なら問題ナッシングだろう。
だからと言って、だからと言ってなぜ俺に白羽の矢が刺さる?
「お父様がよろしいのなら、このお話はお断りさせていただきたいのですが」
「そうか、わかった。
キャシーにはまだ早いからな」
いや、早くは無い。
結婚ではなく婚約なら、それこそ10歳くらいで結んでいる人もいる。
初恋の人とってやつだね。
そのまま成人と同時に結婚する人もいるし、当然ダメになる事もある。
結婚でもこの国の女性の適齢期は18~20歳なんだから、17になる俺に婚約話は決して早いとは言えない。
だいたい成人前後に婚約して、卒業後に結婚って感じかな。
卒業前に結婚するのも珍しいわけではないけど、それは庶民の話かな。
貴族は卒業まで待つ。
体面を気にするからね。
恋愛結婚を推奨していても、惚れた腫れたですぐに結婚、とはいかない。
最低でも婚約期間を一年は取ると決まっている。
ガッと盛り上がった感情だけでなく、生活習慣を擦り合わせたり、性格を見極めたり、まぁ夜の相性もね。
一年以上の婚約期間を置いて、この人となら大丈夫となれば、晴れて結婚への運びとなる。
これは貴族も庶民も一緒だ。
うちの国は結婚より離婚の方が難しいんだよね。
死別とか、相手が何か犯罪を犯したとか、よほどのことがない限り、離婚は認められない。
だからこそ、婚約期間にしっかり見定めるのだ。
なので、俺の年で婚約者がいるのはさして珍しいことでも無いんだけど、それとこれとは話は別だ。
「ではこの話は断っておこう。
………それで、キャシーには婚約したいような好きな相手はいるのかい?」
おいおいおいおい、今早いって自分が言ってただろう?
なにフラグを立てようとしてんだよ、オヤジ!
「例えば、その……リ」
「いえ、お父様!
私はまだまだお父様と一緒が一番です!」
言わせないよ!
外堀埋めるの勘弁してくれよ!
「そうか!そうだよな!
うんうん、キャシーはまだまだお父様と一緒がいいんだよな!
そうだよ、まだ16歳なんだし、婚約なんて早い話だな。
なんなら結婚などせず、ずっとお父様と一緒でもいいんだぞ?」
いや、それはどうよ……。
15
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる