10 / 27
第五話 推しとつながれ!ドーナツの輪! その3
しおりを挟む「おい!起きろ!おい!」
一番に目に飛び込んできたのは、壊れた天井と、突き抜けるような青い空。
そして、こちらを覗き込むメテオくんである。
その瞬間に、こうなるまでに何が起きたのかを思い出した。
「メテオくん……」
「やっと起きたか、この野郎」
減らず口を叩ける、ということは、元気な証拠だ。見た目にも何処にも怪我らしいものは見当たらなかった。
どうやら、私は、無事に最推しを守れたらしい。
「へへっ……、眼福ですな……」
なにせ、メテオくんは上から私の顔を覗き込んでいる。それも、どこか心配そうに。
このアングルの推しは、なかなか拝めるものではない。
我々の業界では、文字通り、ご褒美である。
「は、はぁ!?お前、このっ」
「怪我はないみたいだね。よかったよかった。うへへ」
メテオくんを抱き締めて、守りながら落下とか。
我ながら、とても役得だった。
私はヒーローか。ヒーローなのか。
いや、ヒーローだった。ぐふふ。
「……、よくないだろ。お前、サイヤクダーに潰されそうになったオレを庇って、落ちたんだぞ」
メテオくん、ものすごい顔で私を見ている。
具体的に言うと、今にも泣きそうなぐらい、力いっぱい睨んでくる。
「よかったんだよ。私はメテオくんのヲタクなんだから」
可愛い。私の推し、超可愛い。
コンクリートに打ち付けられて背中が痛いとか、なんか一瞬気を失ってたとか、それを引き換えにしても、この表情と言葉だけでお釣りが来る。
メテオくん推しで本当によかった。生きててよかった。神様ありがとう。本当にありがとう。
「でも、オレは、お前の敵だ」
私の顔の横に手を付いて、覆い被さってくる。
……、え、なにこれ。壁ドン?じゃなくて、床ドン?
「この世界を全て潰して、乗っ取る。お前がどう足掻こうとも」
……、眼福過ぎる。
重ね重ね、眼福過ぎる。
全メテオくんヲタクが発狂しそうな絵面だ。ヤバい。
私でいいんだろうか。刺されないかこれ。
いや、でも、せっかくのこの瞬間を堪能しないと、それこそメテオくんヲタクの名折れになる。
ちゃんと堪能しよう。そうしよう。
あぁ、最推しがメテオくんでよかった……。
「聞いてるのか」
「え?」
「『え?』じゃねぇよ!オレはこの世界を潰して乗っ取るって言ってんだ!そんな腑抜けた顔しているんじゃねぇ!」
「あぁ……、なんだ、そんなこと」
「『そんなこと』って……!」
メテオくん、なんだかプルプル震えている。
心なしか、こめかみがピクピク動いているような気さえする。
これは怒られるな、と思ったら、案の定、怒鳴られた。
「もっとちゃんと考えろよ!オレは、お前の大切な人やモノを、全部潰してやるって言っているんだぞ!?そんな奴を、どうして庇ったりなんかしたんだ!」
――、メテオくんは、真面目だ。
誠実で、真面目で、責任感が強くて、一人で全部抱え込んで。
挙句の果てに、私のことまでこうして心配してくれる。
全部わかってるよ。ちゃんと見ていたよ。
だから、私は君が、大好きなんだよ。
覚悟なんか、とっくのとうに出来ている。
「そんなの、決まっているでしょう」
メテオくんに手を伸ばして、その頭をわしわしと撫でる。
跳ね除けられると思ったのに、メテオくんはされるがままで、私をじっと見ている。
はぁー……、君、そういうところだよ。どこまで私を萌えさせれば気が済むんだ……。
「全部守るって決めたからだよ。この世界も、皆も、メテオくんも」
このぬくもりも、感触も、絶対に失わせはしない。
メテオくんが消える悲しみなんて、アニメの中だけでいいんだ。
メテオくんがそうやって頑張ってコメット王国のために尽くしたことも、本物のあかりちゃん達がこの世界のために戦ったことも、どっちも、悲しいことが起こる結果にはしたくない。
私が『星見台あかり』のガワを被って転生した意味なんて、きっとそれぐらいしかないはずだ。
「メテオくんは、メテオくんなりに頑張ればいい。私は、私のために頑張るよ」
よしよし、と頭を撫で続けると、さすがに手を払われた。
「……、勝手なことを言うな」
内容に反して、弱くて、低い、震えた声だった。
「そんなことが本当に出来たら、苦労しない!」
メテオくんは、私の顔の横の地面を、殴り付けて来る。
そして、もう用はないとばかりに立ち上がり、また私を睨み付けた。
「お前は、そうやってお綺麗ぶって、何もかも失えばいいんだ!そしたら、そんなことも言えなくなる!」
私も立ち上がって、背を向けて去ろうとしたメテオくんの腕を捕まえる。
「待って!メテオくん!」
――、いやぁ、星の戦士っていうのも、便利なものですなぁ。
ステラ・ミラーの中に、お土産をしまっておけるなんて。
コンパクトの中から、光に包まれていきなりドーナツの箱が出てくるのは、視覚的にかなり異様な光景ではあるのだけれども。
「はい、これ」
メテオくんの手を取って、無理矢理取っ手を握らせる。
「こんなの……!」
振り払って落とそうとしたって、そうはいかない。
押し付けがましくてもいい。最悪、嫌われてもいい。
これは私の意志だ。覚悟だ。
どんなことがあっても、メテオくんのことは大好きだし、守ってみせるって覚悟だ。
「ほら、さっき言ったお菓子!せめて持って帰ってよ~!投げ付けたりしたらもったいないよ?お菓子に罪はないでしょ?」
「…………、こんなことをされても、俺は」
「知ってる。メテオくんにはメテオくんの守りたいものがあって、背負っているものがあるんでしょ。これからも、何度だって、この世界を潰しに来ればいいよ」
ドーナツの箱を押し付けながら、ぎゅっと抱き締める。
「私は、メテオくんに会えて、とっても嬉しかった。大好きだよ」
ありったけの愛を。
きっと、全メテオくんヲタクが想っていることを。
おこがましくも、私が代弁させていただく。
「……うるさい!」
また振り払われたけれど、ドーナツの箱の取っ手は、しっかり掴まれていた。
「今日は、ここで退いてやる。覚えていろよ」
背中を向けられていたから、メテオくんがどんな顔をしてワープホールをくぐったのかはわからない。
だけど、ドーナツの白い箱は、しっかりと握られていた。
今は、それで充分だ。
「ドーナツ、あいつに渡しちゃったの?」
後ろから、ムッと顔をしかめたシリウス……、もとい、変身を解いていたので、あおいちゃん、が話しかけてくる。
その横には、ベガ……、ことねちゃんが、にやにやしていた。
「なかなか熱い告白だったじゃん!ウチ、ちょっとキュンキュンしちゃった!」
「ほんと?よかった!」
「いいのかよ……」
ことねちゃんと笑い合うと、あおいちゃんが呆れてこちらを見てくる。
だけど、そんな顔をしていられるのも、今のうちだけだぞ?
「いいんだよ!……、というわけで、もう一回、ステラドーナツ買いに行かないと」
「え?……、えぇ!?」
「だって、家族の分、なくなっちゃったもん。……、付き合ってくれるよね、あおいちゃん?」
「ちょ、ちょっ……!あ、あたしは……!」
あおいちゃん、案の定、赤面しまくって動揺しまくっている。
ことねちゃんと顔を合わせて、もう一度笑った。多分、私もことねちゃんも、さっきより悪い顔をしていると思うけど。
「よし、行こー!すぐ行こー!今度はあおちーの番だよ!頑張ってアスカさんに話しかけてみよー!」
ことねちゃんがあおいちゃんの肩に腕を回す。
「あ、私も肩組む!……、あおいちゃんは、せめて、アスカさんに挨拶ぐらいは出来るようにならないとね!」
「よし!これで行くぞー!」
「ちょっと……!は、恥ずかしいよ……!」
あおいちゃんを真ん中にして、三人で一緒に歩く。
この手のアニメのお約束通り、ひとりでに修復されたショッピングモールは、徐々に活気が戻っていっていた。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる