推しを殴るなんてできません!

いんこ

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第八話 推しだけじゃなくて推しの要素を構成する周りのキャラだいたい皆好きになるから結局箱推しになる その3

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 家の近くの人気のない公園で変身を解く。
 そのまま通学鞄をポラルンに持たせ、ミーティアちゃんを背負って急いで家の中に入った。
 アニメでは、あかりちゃんの両親は共働きで、昼間は家にいない設定だったけど、それはこの世界でもきちんと適用されている。勝手に他人ん家の幼女を連れ込むことに罪悪感はあるけれど、背に腹には変えられない。
 ミーティアちゃんを自分の部屋に運び込んで、ひとまずポラルンに床に敷いてもらったバスタオルの上に横たえる。
 それから、小学校に行っているほむらちゃんの部屋に押し入り、タンスの中を家探しして、下着とパジャマを取り出した。
 ……、うん、ほむらちゃんとミーティアちゃんが似たような背丈で本当に良かった。
 とりあえず、ミーティアちゃんの汚れたドレスを脱がせて、ほむらちゃんの下着とパジャマを着せる。
 それから、私のベッドの上にミーティアちゃんを寝かせた。
 本当はお風呂に入ってもらいたいところだけど、今は眠って体力を回復してもらうことが先だろう。

「ふぅ……、こんなところかな……」

 額の汗を拭う。なんだか、どっと疲れてしまった。

「お疲れポラ」

 ポラルンが労ってくれた。

「今日はありがとね。私のわがままに付き合ってくれて」
「これくらいなら大丈夫ポラ!……、でも、メテオリトのことは、大丈夫ポラ?」
「……、まだ心配だけど、今はミーティアちゃんを見ている方が大事だよ」

 私達と戦っている時のミーティアちゃんは、こんなにボロボロじゃなかった。
 こんな状態になるまで、いったい何があったのだろう。
 もしかしたら、メテオくんの身にも、何か――。

「……、わたくしを助けて……、いったいどうしようと言うのです……?」

 うめくような声と共に、ベッドに横たわったミーティアちゃんが、私を睨みつけていた。

「ミーティアちゃん!」

 嬉しくて、思わず抱き着いてしまった。
 本当によかった。意識が戻らなかったら、どうしようかと思った。

「大丈夫?どこか痛いところはない?雨で泥だらけだったから、服変えちゃったんだけど――」
「この!泥棒猫ぉっ!」

 バシッ、と、私の頭から、それはそれは気持ちのいい音が響いた。
 慌ててポラルンが私の頭を守るようにしがみつく。

「あ、あかりに何するポラぁ!あかりはミーティアのことを助けたポラよ?!」
「頼んでおりませんわよ!それに!もとはと言えば、全部この女のせいでしてよ!」

 ミーティアちゃんは、先ほどまで気を失っていたとは思えないほどの声を張り上げて、ポラルンの上から両の拳を振り上げる。

「こんな田舎娘のくせに、メテオリトお兄様をたぶらかして!その上、アステルお兄様まで!許せませんわ!許せませんわ!」

 振り降ろされた両の拳は、空を切ってベッドに沈む。
 それでも収まらずに、ポカポカとベッドを殴りつける。

「お、落ち着いて、ミーティアちゃん……!」
「うるさいですわ!」

 不意に、顔面に枕まで飛んできた。その上から、ミーティアちゃんに掛けていた掛け布団が降り注ぐ。
 その上から、それなりに重みのある衝撃が。

「うぎゃ」
「そうやって!優しくして!お兄様をたぶらかして!わたくしは絶対騙されませんわ!」

 馬乗りになってポカポカ殴られている。
 布団で視界が遮られて、ミーティアちゃんのことが見えない。
 いくらロリと言っても、相手は小学四年生のほむらちゃんと同じくらいの女の子だ。それなりに力はある。ましてや、本気を出されたら、こっちが変身をして、やっと相手が出来るぐらいになってしまうのだ。
 これは……、変身するしかないのだろうか。

「本当にお兄様が好きだというのなら!どうしてあなたは戦うの!」

 ミーティアちゃんは容赦がない。
 殴り殺されるまではいかないかもしれないけれど、それなりに痛い。
 ポラルンを抱き締めて、なんとかうずくまって背中を向ける。

「どうせ!金銀財宝も!宝石も!一国の王子にふさわしいものすら贈ることが出来ないのならば!」

 その一瞬は、普通に感じるよりはずいぶんと長かった気がした。
 ミーティアちゃんが言おうとしているその先の言葉が、直感でわかってしまった。
 それを、言わせるわけにはいかない。
 だって、私はその道を絶対に選ばないと決めているから。

「この世界にリボンをかけて、お兄様にプレゼントしたって――!」
「やらないよ」

 私に覆いかぶさっていた布団が吹っ飛んだ。
 マジカル・ミラーが私に応えて光ったのだ。
 こんなダジャレ通りの光景なんて、もう二度とないだろう。

「マジカル・ポラリス……!」

 形成逆転。殴る代わりに、ミーティアちゃんを組み敷いた。

「私は、メテオくんも、この世界も守るって決めたんだから」

 ――、「マジカル☆ステラ」では、あかりちゃん達「マジカル・ステラ」が、並行世界のコメット王国に乗り込んで、王様と王妃様との戦いに勝って、めでたしめでたし、で終わる。
 メテオくんは消えたまま、それ以外は全て元通りになって、あかりちゃん達は日常に戻っていく。
 そんなシナリオにはさせない。
 かと言って、あかりちゃんにとっても、私にとっても、そして、「天手オリト」に扮するメテオくんにとっても、大切なこの世界が滅ぶことは絶対にさせない。
 中身はどうであれ、私は、メテオくんのヲタクで、星見台あかりで、マジカル・ポラリスだから。

「じゃあ聞くけど、あなた達はこの世界を見下しているくせに、どうして侵略してまで手に入れようとしているの?自分達の世界だけじゃ、満足出来ないの?」

 ずっと疑問に思っていたことだ。メテオくんが消失して、コメット王国の王様と王妃様を倒して、改心させて、それで「マジカル☆ステラ」は終わりだった。
 要するに、どうしてあかりちゃん達が住んでいる世界に侵略してきたのかについては、何も語られていなかったのだ。
 だから、コメット王国は、あかりちゃん達の世界にとっては絶対悪で、どうしても倒されるべき敵でしかなかったし、メテオくんは、間違った両親に利用されて、その咎を一手に引き受けた悲しい王子様だった。

「そんなの、決まっているではありませんか!」

 形成が不利になっても、ミーティアちゃんは私を睨みつけ続ける。
 それは、王女としての矜持なのか、それとも、王女のワガママなのか。
 しかし、次に紡がれた言葉は、私の予想を超えたものだった。

「そうしなければ、わたくし達の世界が滅んでしまうからですわ!」

 しばらく、言葉を言葉として認識出来なかった。
 ミーティアちゃんの叫びが、私達以外誰もいない家の静寂に慣れていた耳を打つ。
 お陰で、無理矢理喉から絞り出した自分の声が、どこか他人のもののように聞こえた。

「……、えっと……、それ、どういうこと?」

 ミーティアちゃんは、「しまった」というように息を呑む。
 私は、その華奢な肩を掴んだ。……、それですら気が引けるけれど。

「お願い、ちゃんと話して。事情があるなら、きちんと知りたいの」
「……、それで、どうすると言うのです。わたくし達の弱みを掴んで、わたくし達の世界を滅ぼすのですか」
「そんなことしないよ。メテオくんの世界だから」
「はっ!それはどうだか!あなたは、お兄様だけこの世界に連れて来れれば、満足なのではないのですか?」
「そんなことない!」

 先ほどのミーティアちゃんの叫びと同じだけ、私の声が響いた。
 ミーティアちゃんはびくっと怯えて目を閉じる。

「あ、いや、ごめん……。そんなつもりは……」
「な、なんでいきなり謝ってくるんですの……!」

 むっと膨れっ面をして、こちらを睨みつけてくる。
 よしよし。怯えた顔より、こっちの顔の方がまだいい。
 どうせなら、笑顔だって見てみたい。

「だって、ミーティアちゃんはメテオくんの妹だから」
「え?」

 一瞬、睨みつけられた目が見開かれて、視線の鋭さが丸くなる。
 この方が、まだいい。

「私は、そのままのメテオくんが好きだから、メテオくんの妹のミーティアちゃんも好きだし、王様や王妃様も更生はしてもらうけど好きだし、メテオくんの世界だって好きだよ」
「は……?はぁ?わけがわかりませんわ……」

 ミーティアちゃんは、ぽかんと口を開く。
 ふふふ……。この年頃の子には、まだ理解出来ないだろうな。ヲタクの気持ちは……。

「メテオくんが好きだから、基本的に、メテオくんに関わる全てのものが好きなんだよ、私は」
「ま、ますます意味がわかりませんわ……!というか、それは浮気ではないのですか!?」
「メテオくんが一番好きだし、メテオくんに関わらなければ興味ないから、浮気じゃないよ?」
「は、はぁ……!?」
「ふっふーん。好きは、一つだけじゃないってことさ!」

 ぱちん、とウインクをして見せる。決まっただろうか。

「……、というわけで、教えてくれないかな。メテオくんの世界のことを」

 顔を近づけると、ミーティアちゃんは思い切りそっぽを向く。
 しかし、再びこちらを睨みつけると、意を決したように口を開いた。
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