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第九話 推しは甘やかして愛したい! その1
しおりを挟む「もう!昨日は本当に心配したんだからね!」
「そうだよ!追いかけて行こうにもどこにもいなかったし!先生に説明するのだって大変だったんだから!」
ミーティアちゃんが来た、次の日。
朝一番で、あおいちゃんとことねちゃんに怒られた。
そりゃ、あんな形で事情も話さず急に早退なんかしたんだから、怒るに決まっている。
「ごめんね、二人とも。突然早退なんかしちゃって」
「……、もしかして、天手くんのこと?」
じっと顔を近づけてきたのは、ことねちゃんだった。
あおいちゃんも、眉をしかめてこちらを見てくる。
……、これはマズいぞ。
この二人、もしかしたら、何か勘付いているかもしれない。
天手くんがメテオくんだということだけは、なんとかバレないようにしなければ。
「な、なんで、そう思ったの?」
「だって、天手くんが休んだって話になった瞬間に飛び出して行ったじゃん」
冷やりとした感覚が首筋から腰まで降りてくる。
思わず一歩後ずさりをしてしまったが、ことねちゃんは逃がしてくれなかった。
一歩下がると、ことねちゃんも一歩踏み込んでくる。
「ねぇ、あかりん。もしかして、何か隠してない?」
ことねちゃんの顔が、近い。
あおいちゃんも、何も言わずにこちらを見ている。
……、この二人、アニメの「マジカル☆ポラリス」でも、主人公のあかりちゃんのことはよく観察しているんだよなぁ……。
あおいちゃんは世話焼き幼馴染属性だし、ことねちゃんもあかりちゃんのフォローに回る役回りが多かったし。
まぁね、わかるよ。あかりちゃん、正義感が強くて優しい子だけど、基本的に天然ドジっ子属性だったからね……。危なっかしくて目が離せないよね……。
いや、でも、ここで私が二人に天手くん……、というかメテオくんの秘密を暴露してしまうわけにもいかない。
本人の学校での生活を引き続き守りたいし、一応学校で「マジカル・ステラ」の正体がバレていないのもメテオくんが黙っていてくれたおかげだと考えれば、ここで私が天手くんの正体を隠すことにも釣り合いは取れる、ハズだ。
覚悟を決めよう。
ごめん、二人とも。ここでは推しを優先させていただく……!
「や、やだなぁ。何も隠してなんかいないよ……。あの時は、本当に具合が悪くて……。」
あぁ、これは信じてもらえていないだろうな。
二人とも、当然のように、そろってうろんげな眼差しを向けてくる。
二人に対して嘘をつくのは心が痛い。だけど、ここで天手くんの正体を少しでも匂わせるようなことを言ったら、どんな方向に話が変わるのか、わからないからなぁ……。現に、私が必殺技を変えただけでここまで変わってしまっているんだし……。
明らかに不自然に、「何かを隠しているんだろうな」と疑われても、ここはしかたがないだろう。
信じてもらえないとしても、私から本当のことを漏らさなければいいだけの話だ。
「ねぇ、あかりん……、もしかして」
ことねちゃんがじりじりと詰め寄ってくる。
じりじりと後ずさる。
それでもじりじりと詰め寄ってくる。
負けじとじりじりと後ずさる。
どん、と後ろの人にぶつかった。
「あ、ごめんなさ……!」
「星見台さん、おはよう」
振り向くと、そこには、いつも通り、キラキラな優等生スマイルを浮かべたメテオく……ではなく、天手くんが立っていた。
「あ、天手くん……」
よかった。本当に何もなかったようだ。
ミーティアちゃんからは聞いていたけれど、やっぱり、実際に見て確認出来るとそれ以上にホッとする。
無事でよかった……。
「やっぱり」
振り返ると、ことねちゃんが、意味ありげに笑っていた。
「え?」
「なるほどそういうことね。ふーん」
「ど、どうしたのことねちゃん?……、って、あおいちゃん?!」
にやにやと笑うことねちゃんの後ろで、あおいちゃんは顔だけじゃなくて耳まで真っ赤にして私を見詰めている。というか、なんか、泣きそうになっていないか?
さっきまでのあの緊迫した雰囲気はどこへ行ったんだろうか……。
「普段は全然そんな風に見えなかったけど、『何かあった』って思ったら、直接家に行っちゃうぐらいは心配だったんだね?」
「えっと、ことねちゃん。それ、何の話……?」
恐々聞いても、ことねちゃんは答えず、代わりにうんうん、と一人で頷いていて満足そうに笑っている。
とりあえず、深刻そうにはしていないから、天手くんがメテオくんだってことはバレてはいないと思っていいのかな。
それにしても、いったいどうしたんだろう。
「よかったね、天手くん。ちょっとは脈ありそーじゃん」
「え?星野さん、それ、どういうこと?」
「天手くんにはもうちょっと頑張って欲しいって話かな」
ことねちゃんはメテオくん……、もとい、天手くんにもニヤリと笑いかけると、「後はお若い二人でごゆっくり~」と手を振ってあおいちゃんと席を離れようと背を向ける。
急いでメテオくんから離れて、二人の傍に駆け寄った。
「ことねちゃん、あおいちゃん、待って!」
「いやいや、天手くんと話して来なよ?どうせ、昨日は天手くんが心配で、お見舞いに行ってたんでしょ?」
「え?」
全く予想の範囲外のことを言われて、一瞬頭がフリーズした。
……、天手くんが心配で、お見舞いに行っていた?
あぁ、いや、確かに、天手くんはメテオくんだし、そういうことになるのかな……?
ことねちゃんもあおいちゃんも、天手くんの正体は知らないハズだけど……。
「あれ?違ったの?」
「……あ、ううん。違わないよ、多分……」
「多分って。照れちゃって、このこの~」
よくわからないけれど、ことねちゃんから小突かれる。
あおいちゃんは、それはそれは深い溜め息を吐いて、「青春だぁ……」とかなんとか呟いていた。
さっきから一体なんなんだろう……。
でも、この様子だと本当にバレてはいないみたいだし、ここは深く聞かないでおいた方がいいのかもしれない。
「あのさ、そんなことより、昨日、ミーティアちゃんに会ったんだよ」
声を潜めて、本題に入る。
すると、二人とも、すぐに顔を引き締めた。
そうそう。天手くんの話題からは、この際離れてもらおう。とりあえず、無事がわかったのだから。
「そ、『そんなことより』……?」
おかしい。
二人そろって同じセリフを同時に呟き、なおかつ目を見開いてこちらを見てくる。
それから、ものすごく深い溜め息を吐かれた。
重ね重ね、意味がわからない。
「ちょっとちょっと、あかりん……。あかりんの青春以上に大切なことってある?」
「その話、今じゃなくていいんじゃないかな……?せっかくのチャンスなんだし、天手くんと話してくればいいのに」
「え?いや、別に、天手くんに用はないよ?」
「いやいやいや!用はなくても話題はあるでしょ!『昨日大丈夫だった?』とかさ!」
「もしかして、照れてたりする?メテオリトにはあんなんだけど、いざそう思うと照れるとか?」
何言ってんだ、二人とも?
ここでどうしてメテオくんの話が出てくる?
……、もしかして、これは盛大に誤解されている、とか?
私が、天手くんのことが好きだと思われているのだろうか?
いや、天手くんはメテオくんだから、どっちが好きとか言われてもどっちも好きなんだけど……。
「えっと……、とにかく!色々わかったことがあるから、今日の放課後、話したくて。二人とも、今日は部活ないでしょ?だから」
ここで、朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。
二人とも、どこか不満そうな視線を向けながら、渋々それぞれの席に着く。
私も、いつものようにメテオくん……、もとい、天手くんの隣の席に戻る。
座ろうとした瞬間、天手くんと、目が合った。
「っ……!」
天手くんは、どこか気まずそうに視線を逸らして前を向く。
声は小さくしていたけれど、もしかしたら、さっきまでの話が聞こえていたのかもしれない。
まぁ、中学生だもんな……。そりゃ、クラスの女子が、それも宿敵だってわかってる、なんかいつも抱き着いてくるヲタクが、自分の噂なんかしてたら気まずくってしょうがないよね……。
ちょっと申し訳なく思いながらも、私も早退した不良中学生から普通の中学生に戻るために、大人しくホームルームに向き合うことにした。
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