槍使いのドラゴンテイマー

Ⅰ ～邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う～

【第75話：油断してても当たらない？】

　オレはドラゴンゾンビの目前まで月歩で一瞬で移動すると、次々と奥義を繰り出していく。

　まずは槍術での真っ向勝負だ！

「とりあえずは～！　【鹿威し】！　そして……【閃光】！　【雷鳴】！」

　最初に【月歩】を使った時点でドラゴンゾンビはオレを見失っていたようで、頭上に振り上げた槍をそのまま振り下ろした【鹿威し】はドラゴンゾンビの右前足を直撃した。

　声にならない悲鳴をあげたドラゴンゾンビは、そこでようやくオレの存在に気付き、死してなお鋭いその牙をオレに向けてくる。

　しかし、オレは下を向いたその顔にめがけて【雷鳴】でもって極太の雷を叩き込み仰け反らせると、

「黒闇穿天こくあんせんてん流槍術りゅうそうじゅつ、【雷樹らいじゅ】！」

　頭上の敵を稲妻となって貫く。

　この【雷樹】は、月歩と雷鳴の合わせ技に近いのだが、月歩をその場で頭上に飛びあがるように繰り出し、それと同時に雷鳴の雷いかずちを槍に纏わりつかせながら天に上る雷となって頭上の敵を貫く突進技だ。

　そしてこの技でようやくドラゴンゾンビの瘴気の壁を突破するのに成功する。

「良し！　やったか！？」

　言った瞬間、フラグ作ってしまったと思ったが、どうやら杞憂に終わったようだ。

　完全な不意打ちとなった【雷鳴】により、ドラゴンゾンビのその頭は爆ぜていたのだ。

「嘘だろ！？　あいつ一瞬でドラゴンゾンビ奴の頭を砕いちまったぞ！？」

「信じられんな……。これならいくらドラゴンゾンビが高い再生能力を誇ると言っても……やったか！？」

　あ。フラグ被せて立てるなよ……。

　そう思った瞬間だった。
　まるで動画の逆回しのようにドラゴンゾンビの頭が再生される。

「そんな気がしました……っよっと！」

　その瞬間放たれた毒っぽいブレスを、オレは【月歩】で大きく後ろにさがって避ける。

「しかしこれは参ったな……頭吹っ飛ばして復活するのはちょっと予想外だ」

　そうなるとあまり使いたくなかったが……やっぱり【竜を従えし者ギフト】を試してみるしかないか……。
　ただ、もしドラゴンゾンビを従える事が出来たとしても、瘴気は普通の人にとって猛毒なため、従えた後に抵抗をやめさせて倒す事になる。正直言うとかなり抵抗があるのだが、贅沢は言っていられない。

　せめて『竜気功ドラゴニックオーラ』をマスターしていれば力業ちからわざで何とかなったと思うのだが、今はまだジルのサポートがないと『竜気功ドラゴニックオーラ』は発動できない。

　不本意ながらもギフトを試してみる事にしたオレは、【月歩】でドラゴンゾンビの周りを飛び回りつつ、全方位から次々と【雷鳴】を放ってチャンスを窺うかがう。

　ドラゴンゾンビも牙や爪、尻尾で反撃してくるが、スピードが遅くて油断してても当たらない自信があるレベルだ。

　オレの強力になった【雷鳴】でも一撃では瘴気を突破する事は出来なかったが、全方位から次々と放たれる雷に大きく隙を見せはじめる。

「そろそろ……オレに従えー！！」

　以前使用した時と同じようにオレの体が薄っすらと光を発する。

　そして伸ばした左腕から放たれた螺旋状の光がドラゴンゾンビに向かって行き……瘴気に阻まれた……。

「え……？……あれ？」

　あまりにあっけなくギフトが防がれた事にオレが一瞬呆けてしまっていると、ドラゴンゾンビの巨大な尻尾の横なぎがオレに直撃する。

「ぐはぁ！？」

　咄嗟に槍で防いだが、オレは地面と水平に数十メートル吹き飛ばされ、そのまま迷宮の壁に激突する。

　ドゴォォン！！

「おい！？　大丈夫か！？」

　オレがノーバウンドで壁に叩きつけられたのを見て、竜人ドラゴニュートのリーダーと思われるゼトラが駆けつけてくる。

「あぁ。大丈夫だ。油断したよ」

「へ……？」

　まいったまいったと言いながら埃を払いながら立ち上がったオレを見てちょっと驚いているようだ。

「あぁ……えっとですね。オレには強力な加護が付いていて、これぐらいの攻撃で死ぬような事はないんだ」

「こ、これぐらいって……あんな攻撃喰らったら俺ですら……」

　まぁそういう訳だからと言って、オレは勝ったつもりでいるドラゴンゾンビの側まで【月歩】で移動して戦いを再開する。

　しかし……決着は中々つかなかった。

　ドラゴンゾンビの攻撃は正直そこまで脅威じゃないのがわかった。
　スピードが遅く、油断しても当たらない程……いや、さっきギフト使った後に油断して直撃くらってるな……。
　まぁそれでも油断しなければ当たらないし、当たっても致命傷にはなりえない程度の威力だ。

　それに対して、こちらの攻撃は当たるのだが……。
　ドラゴンゾンビが身に纏った瘴気が尋常じゃない程の厚さを誇り、しかも【鹿威し】などで穴をあけても一瞬で塞がってしまうので、発動の遅いギフトを使っている間に塞がってしまうのだ。

「参ったな……こいつにソロでギフトを当てるって、どうすればいいんだ……」

　オレが戦いながらも何か良い方法がないか悩んでいると、竜人ドラゴニュートたちが話しかけてくる。

「そこの冒険者！　コウガだったか？　お前の強さはよくわかった。俺たちに負けない強さを持っているのは認めよう！　しかしそれでも一人で倒すのは無理なのじゃないか？　どうだ？　俺たちと協力しないか？」

「そうだぜ！　お前のお陰で十分回復できたし、オレ達はそいつさえ倒せればそれで良いんだ！」

　凄くありがたいお誘いなのだが、そうなると依頼は達成できるがS級の試験は不合格となってしまう。

「個人的には凄くありがたいお誘いなんだけど……もう少しだけ時間を！！」

　オレのその返事にゼトラは渋々ではあるが

「わかった！　しかし後１０分だ！」

　そう言ってもう１０分だけ待ってくれると約束してくれる。

　オレは軽く礼を言うと最後のチャンスだと気合いを入れて怒涛の攻撃を仕掛けていくのだった。

　～

　ドラゴンゾンビの周りを【月歩】で移動しながら、無数の【雷樹】を放って瘴気に大きな穴をあけていく。

「良し！　これなら！！」

　もうあれから５分以上経過している。
　ようやく回ってきた絶好のチャンスだ。これを失敗するわけにはいかない。

　オレは体を薄っすらと発光させると、左腕から螺旋状の光を放つ。

　今度こそ！！　そう思ってギフトを放った時だった。

「ゼトラ！　人族に任せて何をしているの！！　絶好のチャンスではないですか！！」

　そう言って６・人目の竜人ドラゴニュートが飛び込んでくるのだった。