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Ⅰ ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
【第89話:内心ちょっと凹みながら】
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どこからどう見ても幼女にしか見えない。
頭にこそ羊のような曲がった角が見えるが、クリっとした癖の強い緑の髪に幼い瞳。
大人が着れば艶めかしいであろう赤と黒のドレスだが、着ているものが幼女だと何か演劇会の衣装のようにしか見えない。
そんな女の子がこう言うのだ。
「さぁ! これからこの世の地獄を味わせてくれよう! この魔王『てとらぽっど』に命乞いでもしてみるが良い!」
こういう場合、どのように対応するのが正解なのだろうか……?
オレが……いや、オレたちが呆気に取られていると、それを恐怖で固まっていると勘違いした幼女は、
「はははははははっ! 妾から溢れ出す魔力に恐れをなしたか! 今からでも遅くない。ひれ伏すが良いぞ?」
と、ふんぞり返りながらのたまってくださる。
「えっと……本当に魔王?」
オレたちがようやく正気に戻り、竜人の誰かがそう呟くのが聞こえた時、少し呆れかかっているオレたちに嘘ではないと物言いが入る。
「ま、魔ぼうざま!? どうじでごのような場所に!?」
「本当でございます! なぜこのような場においでになられているのですか!?」
アスタロトやビフロンスがあわてて幼女を守るように位置を移す。
二人の慌てようと心の底から心配して敬っている姿を見れば、あながち嘘でもないように見えた。
「な、何か信じられないけど、本当に魔王なのか……?」
オレがちょっと脱力気味にそう問いかける。
おかしいな……今竜気功で力が漲っているはずなのに。
「人族風情が無礼な!! この強大な力もわからぬとは!? これだから人族は……」
ビフロンスが次々と周りにアンデッドどもを召喚して陣を築きながらため息をこぼす。
その対応に満足そうに魔王?『てとらぽっど』は首を何度もうんうんと縦にふり、そしてこう呟いた。
「まぁ良いぞ。妾は久しぶりの外遊で気分が良い。殺す時は苦しまぬようにしてあげよう」
その容姿は可憐で可愛らしく楽しそうに笑みを浮かべているが、なるほどその発言は物騒極まりない。
しかし、そこへヴィーヴルが抗議の声をあげる。
「ちょっと信じられない話だけど、魔王だと言うならそれでも良いわ! でも……それならここで見逃す手はないわね!!」
そう言っていきなり自身最強の竜言語魔法を唱える。
「この場に現れた事をあの世で後悔するのね!!」
≪塵と化せ! 【煉獄の裁き】!≫
正面に魔法陣が現れたかと思うと、守りを固めようとしていたアンデッドたちを薙ぎ払うように圧倒的な火力が放たれる。
並のドラゴンブレスより遥かに強力なそのブレスは一瞬でアンデッドたちを消し炭に変え、そのままの威力で魔王を包み込んだ。
「やったわ! どれだけ強いか知らないけど油断しすぎよ!」
そう言って得意げにこちらを見たヴィーヴルだったが、何かがおかしい。
さっきのアスタロトの邪神のギフトのように無効化されたようには見えない。
高熱によってガラス化した地面から立ち昇る煙と陽炎。そしてここまで届く熱風。
ヴィーヴルの魔法の威力そのものはジルほどではないにしろ、【煉獄の裁き】は竜言語魔法の中でも強力な部類に入る。
その魔法の一撃をまともに受けて死から逃れれるはずがない。
伊達に『竜昇る日』に生まれた古代竜ヴィーヴルの生まれ変わりではない……はずだ。
しかし、そこへビフロンスとアスタロトが無傷で現れたのに気づく。
「まさか……ヴィーヴル! 油断するな!!」
胸騒ぎのままに視線を陽炎の奥に送ると、そこに小さな影が現れる。
「え?……うそ……」
魔王?『てとらぽっど』の姿に、ダメージの色は見えない。
それどころか衣服も全くの無傷で焦げもない。
そして次の瞬間に てとらぽっど の姿が掻き消える。
オレはその動きに反応して月歩で追従するのだが……。
「くっ!? 間に合わない!!」
そして後方から聞こえた響き渡る轟音に振り返ると、そこには迷宮の壁を破壊して倒れ伏したヴィーヴルの姿があった。
「ヴィーヴル!!」
しかし、そこで終わりではなかった。
次々と響き渡る轟音。
その轟音は立て続けに更に5つを数えた。
あの強靭な肉体を持つ竜人達は、皆この数秒の間に一瞬で倒されていた。
今の皆は竜化しており、ドラゴンの攻撃ですら受け切れる肉体を持っている。
その皆が一撃で竜化を解かれて戦闘不能になってしまっていた。
「こ、ここまで凄いのは想定外だな……」
皆がまだ息があることに内心ほっとしながらそう呟くが、今のオレでも勝てる気が全くしない。
「脆いのです。呆気ないのです。レアな竜人との戦闘だと言うからわざわざ出向いてきたのに、ちょっと本気だしたら終わってしまったのだ」
こちらを振り返ってそう呟く魔王確定を見て苦笑したり呆れる余裕は消し飛んでいた。
オレは魔王に向けて警戒を最高レベルまであげて話しかける。
「魔王てとらぽっどか……凄いね。オレじゃ勝てないだろう……でも……」
ヴィーヴルたちの命がかかっている。
いや、世界の命運がかかっているかもしれない。
オレのちっぽけなプライドにこだわっている場合じゃない。
母さんから授かった黒闇穿天流槍術と様々な戦い方。
ジルから授かったギフトとサポートしてもらった竜気功。
それら全てを駆使して魔王てとらぽっどに挑む。
「おぉ!! おぬし凄いではないか! これは竜人より楽しめそうだ!」
次々に繰り出すオレの全てをかけた攻撃は、てとらぽっどにまるで児戯のようにあしらわれる。
「それでも……時間稼ぎぐらいはしてみせるさ!!」
オレって時間稼ぎばっかしているよな……と内心ちょっと凹みながらもこう叫ぶのだ。
「ジル!! 契約の絆により命じる! 時空を超えてやってこい!」
頭にこそ羊のような曲がった角が見えるが、クリっとした癖の強い緑の髪に幼い瞳。
大人が着れば艶めかしいであろう赤と黒のドレスだが、着ているものが幼女だと何か演劇会の衣装のようにしか見えない。
そんな女の子がこう言うのだ。
「さぁ! これからこの世の地獄を味わせてくれよう! この魔王『てとらぽっど』に命乞いでもしてみるが良い!」
こういう場合、どのように対応するのが正解なのだろうか……?
オレが……いや、オレたちが呆気に取られていると、それを恐怖で固まっていると勘違いした幼女は、
「はははははははっ! 妾から溢れ出す魔力に恐れをなしたか! 今からでも遅くない。ひれ伏すが良いぞ?」
と、ふんぞり返りながらのたまってくださる。
「えっと……本当に魔王?」
オレたちがようやく正気に戻り、竜人の誰かがそう呟くのが聞こえた時、少し呆れかかっているオレたちに嘘ではないと物言いが入る。
「ま、魔ぼうざま!? どうじでごのような場所に!?」
「本当でございます! なぜこのような場においでになられているのですか!?」
アスタロトやビフロンスがあわてて幼女を守るように位置を移す。
二人の慌てようと心の底から心配して敬っている姿を見れば、あながち嘘でもないように見えた。
「な、何か信じられないけど、本当に魔王なのか……?」
オレがちょっと脱力気味にそう問いかける。
おかしいな……今竜気功で力が漲っているはずなのに。
「人族風情が無礼な!! この強大な力もわからぬとは!? これだから人族は……」
ビフロンスが次々と周りにアンデッドどもを召喚して陣を築きながらため息をこぼす。
その対応に満足そうに魔王?『てとらぽっど』は首を何度もうんうんと縦にふり、そしてこう呟いた。
「まぁ良いぞ。妾は久しぶりの外遊で気分が良い。殺す時は苦しまぬようにしてあげよう」
その容姿は可憐で可愛らしく楽しそうに笑みを浮かべているが、なるほどその発言は物騒極まりない。
しかし、そこへヴィーヴルが抗議の声をあげる。
「ちょっと信じられない話だけど、魔王だと言うならそれでも良いわ! でも……それならここで見逃す手はないわね!!」
そう言っていきなり自身最強の竜言語魔法を唱える。
「この場に現れた事をあの世で後悔するのね!!」
≪塵と化せ! 【煉獄の裁き】!≫
正面に魔法陣が現れたかと思うと、守りを固めようとしていたアンデッドたちを薙ぎ払うように圧倒的な火力が放たれる。
並のドラゴンブレスより遥かに強力なそのブレスは一瞬でアンデッドたちを消し炭に変え、そのままの威力で魔王を包み込んだ。
「やったわ! どれだけ強いか知らないけど油断しすぎよ!」
そう言って得意げにこちらを見たヴィーヴルだったが、何かがおかしい。
さっきのアスタロトの邪神のギフトのように無効化されたようには見えない。
高熱によってガラス化した地面から立ち昇る煙と陽炎。そしてここまで届く熱風。
ヴィーヴルの魔法の威力そのものはジルほどではないにしろ、【煉獄の裁き】は竜言語魔法の中でも強力な部類に入る。
その魔法の一撃をまともに受けて死から逃れれるはずがない。
伊達に『竜昇る日』に生まれた古代竜ヴィーヴルの生まれ変わりではない……はずだ。
しかし、そこへビフロンスとアスタロトが無傷で現れたのに気づく。
「まさか……ヴィーヴル! 油断するな!!」
胸騒ぎのままに視線を陽炎の奥に送ると、そこに小さな影が現れる。
「え?……うそ……」
魔王?『てとらぽっど』の姿に、ダメージの色は見えない。
それどころか衣服も全くの無傷で焦げもない。
そして次の瞬間に てとらぽっど の姿が掻き消える。
オレはその動きに反応して月歩で追従するのだが……。
「くっ!? 間に合わない!!」
そして後方から聞こえた響き渡る轟音に振り返ると、そこには迷宮の壁を破壊して倒れ伏したヴィーヴルの姿があった。
「ヴィーヴル!!」
しかし、そこで終わりではなかった。
次々と響き渡る轟音。
その轟音は立て続けに更に5つを数えた。
あの強靭な肉体を持つ竜人達は、皆この数秒の間に一瞬で倒されていた。
今の皆は竜化しており、ドラゴンの攻撃ですら受け切れる肉体を持っている。
その皆が一撃で竜化を解かれて戦闘不能になってしまっていた。
「こ、ここまで凄いのは想定外だな……」
皆がまだ息があることに内心ほっとしながらそう呟くが、今のオレでも勝てる気が全くしない。
「脆いのです。呆気ないのです。レアな竜人との戦闘だと言うからわざわざ出向いてきたのに、ちょっと本気だしたら終わってしまったのだ」
こちらを振り返ってそう呟く魔王確定を見て苦笑したり呆れる余裕は消し飛んでいた。
オレは魔王に向けて警戒を最高レベルまであげて話しかける。
「魔王てとらぽっどか……凄いね。オレじゃ勝てないだろう……でも……」
ヴィーヴルたちの命がかかっている。
いや、世界の命運がかかっているかもしれない。
オレのちっぽけなプライドにこだわっている場合じゃない。
母さんから授かった黒闇穿天流槍術と様々な戦い方。
ジルから授かったギフトとサポートしてもらった竜気功。
それら全てを駆使して魔王てとらぽっどに挑む。
「おぉ!! おぬし凄いではないか! これは竜人より楽しめそうだ!」
次々に繰り出すオレの全てをかけた攻撃は、てとらぽっどにまるで児戯のようにあしらわれる。
「それでも……時間稼ぎぐらいはしてみせるさ!!」
オレって時間稼ぎばっかしているよな……と内心ちょっと凹みながらもこう叫ぶのだ。
「ジル!! 契約の絆により命じる! 時空を超えてやってこい!」
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