槍使いのドラゴンテイマー

こげ丸

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Ⅱ ~勇者が暴走したので邪竜で蹴散らしておこうと思う~

【第23話:一つしかないのね】

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 オレたちは領主館を後にすると、さっそくセイルから受けた情報にあった街の南にある小さな村に向かっていた。

コウガ使徒様~! あれあれ! あの先にある森を超えた所に村があるよ~≫

 そして呼んでもないのに現れて楽しそうに飛び回るセイル。

「他国の村も同じような感じなのかしら?……にゃ」

「ヴィーヴル様のところほど田舎じゃないと思うな~」

「失礼ね! 私のところにだって店の一つぐらいあるんだから!」

「一つしかないのね……にゃ」

 そんな他愛のない会話をしながら歩いて3刻。

≪あ。コウガ使徒様~! もう村に着いたから隠れておくね~。何かあったら呼んでくださ~い≫

 またも何も呼んでないのだがスルーしておこう。
 そして、特に事件などもなく村に無事到着する事が出来たのだが、そこでちょっとした問題が起こる。

「あっ! ヴィーヴルあれ見て! 店が二つ並んでるよ!」

「うっ!?」

 そう。ヴィーヴルたち竜人ドラゴニュートたちが住んでいた村より店の数が多かったのだ……じゃなかった。

「お疲れ様です。ご主人様。そろそろ起こしになると思い、お待ちしておりました」

 そう。二軒ならんだ店の横にテトラが待っていたのだ。
 今日は呼んでない奴がよく現れるな……。

「待たせたな……って、そうじゃなくて! なんでここにいるんだよ!? 留守を頼んだって言って出てきただろ?」

「ご主人様がいるところが私のいる所ですので?」

 首を傾げてそう応える仕草は、美少女具合とあわさって可愛いのだが話が通じていない。
 オレの周りには普通に話が通じない奴が多すぎる気がするんだ。うん。

 しかし忠誠を誓ってくれているのは嬉しいしありがたいのだが、振り向けばいつのまにか後ろに控えていたりして、心臓に悪い時があるのは勘弁して欲しい。
 下手に実力が飛び抜けているから、今のオレでも気配に気付かない事があるのだ……。まぁ実力というか正体が元々邪神で魔王だから当たり前なのだけれど。

「そ、そうか。それで何か報告とかがあるのかな?」

「はい。ジル様より嫌な予感がするからご主人様についておくように仰せつかりました。ですので、今回の依頼が終わるまではお側につかせて頂きます」

 ジルが嫌な予感がするとか、不吉を通り越して予知レベルな気がするのだがいったい何だって言うんだ?

「ジルは具体的に何かは言ってなかったのか?」

 何か聞いているかと尋ねてみるが、返ってきたのは丁寧な謝罪の言葉だった。

「申し訳ございません。かくなる上は私の命を以って償いとさせ……」

「うおぉい!? 待て待て待て!? その伸びた爪を引っ込めろ!?」

 オレは【月歩】を使ってテトラの懐に飛び込むと、慌てて喉に突きつけた爪を掌打ではじく。

「あ、相変わらずうちは常識が欠落している人が多すぎる気がするの……にゃ」

「本当に、本当にリリーに同感なの……にゃ」

 リリーとルルーが若干頬を引き攣らせているが、まぁ平常運転なので取り乱すほどではない。
 うん。日常風景だからな。

「そんな事より、そこで命を断ったらオレの命は誰が守ってくれるんだ? テトラが守ってくれるんじゃないのか?」

 そう言うと、今気づいたかのようなハッとした顔を見せると、

「かくなる上は私の命を以って……はっ!? 命を断ってしまうとご主人様が守れないっ!?」

 と言って苦悩し始めるので、ちょっとしばらく放置しておこう……苦悩している間は大丈夫だ。たぶん。

「さて……それより、どうするかな? ジルのいう事だからちょっと不安ではあるけど」

 オレは振り返って皆に尋ねるが、

「あのねぇ……コウガさん。確かにジルさんのいう事は気になりますけど、この戦力をどうにか出来る者なんてこの世界にそうそういないと思うの。油断しないようにするだけで十分なんじゃないかしら?」

 確かに、リリーとルルーはS級冒険者としても上位に入りそうな実力を身に着けているし、リルラに至っては恐らくS級の枠にも収まらないほどの実力を秘めている。
 それにヴィーヴルも、以前のような高い身体能力と竜言語魔法に頼り切った戦いではなく、まだ粗削りながらも戦う技を身に着けた事で数段階強くなっている。
 そして神獣のセツナは、他の者たちと違ってジルの加護の力を最大で受けいるおかげで同じくSランクを遥かに上回る強さだ。

 もちろんオレも……認めたくはないのだが、今では人を超えた存在としての強さを備えてしまった自覚もある。

 そして極めつけが元邪神で魔王のテトラが付いている。

「あれ? 普通の魔王が束になって不意打ちしてかかってきても負けない気がしてきたな……」

 一人そうやって納得しかけていると、そこでまた声をかけられる。

「あの~もしかして高名な冒険者様でしょうか?」

 声のする方に振り向くと、そこには壮年の少し人の好さそうな男性が立っていた。
 オレたちが目立つのは理解しているし、ただ珍しく思ってこちらを見ているだけだと思ったのだが、何かあるのだろうか?

「高名かどうかはわからないが、一応高ランク冒険者です。何かありましたか?」

 そうこたえると、何故か急にそわそわとして言いにくそうにもじもじしだす。

 え? おじさんのもじもじとか誰得……?

 そんな風に微妙に内心ひいていると、ようやく言葉を発する。

「じじ、実はですね! この村は一見どこにでもあるような何の変哲もない村なんですが、歴史だけは物凄く古くてですね」

「へぇ~そうなんですか。街以上に村と言うのは存続させるのは難しいと聞きますし、それは凄い事ですね」

 オレも最近、まがいなりにも領主をやるようになって色々勉強したのだ。
 家庭教師のイザベルさんは、綺麗な顔して凄い怖いからな……。

「あれ……? そう言えばこの村の名前ってゾルデイムでしたっけ?」

 そんな話をしていると、リルラが何かを思い出したのか小さな指を顎にあてて「う~ん?」と悩みだした。

「リルラは何か知っているの?」

「う~ん? 前にお婆ちゃんが話してくれた気がするのですが思い出せないのです。何か大事な事を言っていた気がするのですが……う~ん?」

「それはこんな話では無かったですか?」

 そしてそのもじもじした壮年の男性は、驚く内容を語り始めるのだった。
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