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第一章 旅立ち
【第34話:闇の尖兵 その4】
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ゴブリンの大群が跋扈する森の中、似つかわしくない声が響き渡る。
リリルは辺りの気配を探ってみるが居場所までは特定できない。
「その子はあの坊やの従魔よね?どうしてこんな所にいるのかしら~?」
そして再び紡がれるその言葉は、やはり知っている人物の声だった。
「あ、あなたはドリスさんですよね?どうして受付嬢のあなたがこんな危険な森の中にいるんですか?」
と、不審に思いつつも理由を尋ねるリリル。
「あらぁ~。まだわからないのですか?加護持ちのあなたを始末する為に決まっているじゃないですか~」
と、恐ろしい言葉を口にする。
「え…?」
何かおかしいとは思いつつもギルド職員だという先入観のせいで、自分が騙されたことに理解がおよばなかった。
それに兄しか知らないはずの事実。
自分が女神様の加護を受けているということを指摘されて言葉に詰まる。
「な、なんで知って…。あ…、それじゃぁユウトさんをうまくギルドで利用しようとしてたんじゃない…の…?」
リリルはユウトの情報を掴んだ冒険者ギルドの上層部あたりが、実力を確認する為に少し難易度の高い依頼を斡旋してきたのかと考えていた。
だから自分がメンターとして守らなければと必死だったのに、実際にはリリル自身が命を狙われており、逆にそれに巻き込んでしまっていたという事実に、少なからずのショックを受ける。
「お姉さんはちょっと強い程度の新人君には興味ないわ~。だけど~、あなたがこんなに頑張るなんて思いもよらなかった。さすがはジェネラルの変異種を葬っただけはあるわね~。でも~、そろそろ一思いに楽にさせてあげるわ」
そう言うと辺りの森一面に闇が発生し、次々とゴブリンが形作られていくのだった。
しかし、この時点でドリスは大きな誤解をしていた。
確かにキラーアントジェネラルの変異種を倒すのにリリルも一役買っていたが、それを成したのはユウトであり、止めを刺したのはパズであったのだから。
~
次々生み出されるゴブリン。
その数は既に千を超えていた。
そしてそのゴブリンの大群により、あっという間にリリルを飲み込み始末できるはずだった。
「どういう事よ…」
思わず漏れ出た言葉はドリスの心境を物語っていた。
だが、、ドリスは嫌な汗が止まらない状況になっていた。
本来ならテリトンの街に9割ほどを向かわせて、加護持ちの始末には1割もいれば十分だと踏んでいた。
しかし、生み出したゴブリンの半数を当てているのにも関わらず、まったく倒せそうにない。
生み出したそばから、あの小さな小さな魔物たった一匹によって次々と葬られていくのだ。
それが光魔法によって討ち取られるならまだわかる。
霧の魔物の最大の弱点なのだから。
加護持ちのリリルを警戒していたのもそのためだ。
ところが、特に弱点属性でもなんでもない氷属性や土属性の魔法で蹂躙されているのだ。
それでも最初はこのペースで魔法を使い続ければすぐに魔力切れを起こすと高を括っていたのだが、もう20分以上平気な顔で魔法を放ち続ける姿をみては、その余裕の笑みも顔から消え去るのだった。
そして狙ったかのようにあくびをするパズ…。
「ハ、ハ、ハハ…。なに!?いったいアレは何なの!?」
そしてとうとう絶叫するドリス。
「もういいわ!ここでその従魔を足止めしている間にテリトンの街を攻め落としてあげる!」
そう言うとドリスは待機させておいた三千五百からなるゴブリンの大軍を街に向けて進軍させ始める。
ゴブリンの大軍以外にもキラーアントの変異種の部隊が控えており、今テリトンの街にいる戦力では半分の数でも問題ないだろうという判断だった。
ドリスの目的は元々テリトンの街を攻め落とすことであった。
闇の眷属を崇拝するある組織に所属しているドリスは、上からの命令でこの作戦を任されていた。
その任務を遂行する為、7千のゴブリンを封じ込めている古代の魔具と、闇の眷属のみが使えるいくつかの支配魔法、変異種を生み出す力を授かった。
そして大半の準備が整い、いざ実行に移そうとした時に調査部からある報告が届いたのだ。
女神の加護を持っている人間が街に入ったと。
作戦に影響しないように先に始末しろという内容だった。
その時ドリスは大規模召喚儀式魔法の準備を進めていた。
変異種化させたキラーアントを使い、北の森から目を逸らすよう画策する為、既に冒険者ギルドに潜入していた。
そして都合よく依頼の斡旋にきたリリルをキラーアント討伐に向かわせ、ジェネラルの変異種をぶつけて始末する算段だった。
しかし、リリルたちは予想に反してジェネラルの変異種に率いられたソルジャーの集団ごと返り討ちにしてしまう。
そこで次は個別依頼でゴブリン召喚を進めていた森にリリルを単身おびき出したのだが、
「まさかたかが加護持ち一人を始末するのに、こんなに梃子摺るとは思わなかったわ~。まぁ少し悔しいけど先に大事な用事を済ませに行ってくるわね~」
そう言ってドリスはその場を後にしたのだった。
リリルはその声を聞いてはいたがドリスの居場所さえつかめず、何も打つ手がうてなかった。
「どうしたらいいの…。パズくんはまだ余裕はあるみたいだけど、取り囲まれているこの状況では身動きできないし、私も少しは魔力が回復したけど、こんな大軍はとても…」
そう呟いた時、どこからか音が聞こえてきた。
リンリンリンリン…
そしてその何か厳かな音とともに、南の空に光の柱が立ち昇るのを目にするのだった。
リリルは辺りの気配を探ってみるが居場所までは特定できない。
「その子はあの坊やの従魔よね?どうしてこんな所にいるのかしら~?」
そして再び紡がれるその言葉は、やはり知っている人物の声だった。
「あ、あなたはドリスさんですよね?どうして受付嬢のあなたがこんな危険な森の中にいるんですか?」
と、不審に思いつつも理由を尋ねるリリル。
「あらぁ~。まだわからないのですか?加護持ちのあなたを始末する為に決まっているじゃないですか~」
と、恐ろしい言葉を口にする。
「え…?」
何かおかしいとは思いつつもギルド職員だという先入観のせいで、自分が騙されたことに理解がおよばなかった。
それに兄しか知らないはずの事実。
自分が女神様の加護を受けているということを指摘されて言葉に詰まる。
「な、なんで知って…。あ…、それじゃぁユウトさんをうまくギルドで利用しようとしてたんじゃない…の…?」
リリルはユウトの情報を掴んだ冒険者ギルドの上層部あたりが、実力を確認する為に少し難易度の高い依頼を斡旋してきたのかと考えていた。
だから自分がメンターとして守らなければと必死だったのに、実際にはリリル自身が命を狙われており、逆にそれに巻き込んでしまっていたという事実に、少なからずのショックを受ける。
「お姉さんはちょっと強い程度の新人君には興味ないわ~。だけど~、あなたがこんなに頑張るなんて思いもよらなかった。さすがはジェネラルの変異種を葬っただけはあるわね~。でも~、そろそろ一思いに楽にさせてあげるわ」
そう言うと辺りの森一面に闇が発生し、次々とゴブリンが形作られていくのだった。
しかし、この時点でドリスは大きな誤解をしていた。
確かにキラーアントジェネラルの変異種を倒すのにリリルも一役買っていたが、それを成したのはユウトであり、止めを刺したのはパズであったのだから。
~
次々生み出されるゴブリン。
その数は既に千を超えていた。
そしてそのゴブリンの大群により、あっという間にリリルを飲み込み始末できるはずだった。
「どういう事よ…」
思わず漏れ出た言葉はドリスの心境を物語っていた。
だが、、ドリスは嫌な汗が止まらない状況になっていた。
本来ならテリトンの街に9割ほどを向かわせて、加護持ちの始末には1割もいれば十分だと踏んでいた。
しかし、生み出したゴブリンの半数を当てているのにも関わらず、まったく倒せそうにない。
生み出したそばから、あの小さな小さな魔物たった一匹によって次々と葬られていくのだ。
それが光魔法によって討ち取られるならまだわかる。
霧の魔物の最大の弱点なのだから。
加護持ちのリリルを警戒していたのもそのためだ。
ところが、特に弱点属性でもなんでもない氷属性や土属性の魔法で蹂躙されているのだ。
それでも最初はこのペースで魔法を使い続ければすぐに魔力切れを起こすと高を括っていたのだが、もう20分以上平気な顔で魔法を放ち続ける姿をみては、その余裕の笑みも顔から消え去るのだった。
そして狙ったかのようにあくびをするパズ…。
「ハ、ハ、ハハ…。なに!?いったいアレは何なの!?」
そしてとうとう絶叫するドリス。
「もういいわ!ここでその従魔を足止めしている間にテリトンの街を攻め落としてあげる!」
そう言うとドリスは待機させておいた三千五百からなるゴブリンの大軍を街に向けて進軍させ始める。
ゴブリンの大軍以外にもキラーアントの変異種の部隊が控えており、今テリトンの街にいる戦力では半分の数でも問題ないだろうという判断だった。
ドリスの目的は元々テリトンの街を攻め落とすことであった。
闇の眷属を崇拝するある組織に所属しているドリスは、上からの命令でこの作戦を任されていた。
その任務を遂行する為、7千のゴブリンを封じ込めている古代の魔具と、闇の眷属のみが使えるいくつかの支配魔法、変異種を生み出す力を授かった。
そして大半の準備が整い、いざ実行に移そうとした時に調査部からある報告が届いたのだ。
女神の加護を持っている人間が街に入ったと。
作戦に影響しないように先に始末しろという内容だった。
その時ドリスは大規模召喚儀式魔法の準備を進めていた。
変異種化させたキラーアントを使い、北の森から目を逸らすよう画策する為、既に冒険者ギルドに潜入していた。
そして都合よく依頼の斡旋にきたリリルをキラーアント討伐に向かわせ、ジェネラルの変異種をぶつけて始末する算段だった。
しかし、リリルたちは予想に反してジェネラルの変異種に率いられたソルジャーの集団ごと返り討ちにしてしまう。
そこで次は個別依頼でゴブリン召喚を進めていた森にリリルを単身おびき出したのだが、
「まさかたかが加護持ち一人を始末するのに、こんなに梃子摺るとは思わなかったわ~。まぁ少し悔しいけど先に大事な用事を済ませに行ってくるわね~」
そう言ってドリスはその場を後にしたのだった。
リリルはその声を聞いてはいたがドリスの居場所さえつかめず、何も打つ手がうてなかった。
「どうしたらいいの…。パズくんはまだ余裕はあるみたいだけど、取り囲まれているこの状況では身動きできないし、私も少しは魔力が回復したけど、こんな大軍はとても…」
そう呟いた時、どこからか音が聞こえてきた。
リンリンリンリン…
そしてその何か厳かな音とともに、南の空に光の柱が立ち昇るのを目にするのだった。
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